見出し画像

コメ兵が考えるリアル店舗のあり方。リユースとサステナブルを共存させた「体験型」の場に込めた思い

フィットネスクラブを中心としたリアル店舗の顧客管理、予約、決済を行うSaaSサービス「hacomono」を提供する弊社。Withコロナ、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代における店舗ビジネスのネクストスタンダードをつくるという言葉を掲げて、日々チャレンジをしています。このオウンドメディアでは、hacomonoの機能やスタッフの紹介に限らず、リアル店舗に関わるニュース記事やコラムもお届けしていきます。

コロナ禍を契機に、小売業界には大きな変革が訪れています。リアル店舗で行われてきた消費は、その多くがECへと移行。感染防止のため、対面での購入が敬遠される傾向が続いています。そのような中で、リアル店舗はどのような価値を提示できるのか――。

2021年2月26日、株式会社コメ兵(以下、コメ兵)は「KOMEHYO青山店」を移転し、「KOMEHYO AOYAMA」としてリニューアルしました。リユースとサステナブルの共存を目指した店舗なのに加えて、“商品の在庫を店内に置いていない”ことが特徴です。

商品を置かない店舗とは、どのような中身となっているのでしょうか。また、同社がその先に見据えるリアル店舗の在り方とは。今回は、KOMEHYO AOYAMAについて紹介します。

画像1

リユースとサステナブルの共存をテーマにした新たな店舗

コメ兵は、「世の中の良質を永遠につなげていく」をミッションに掲げる、国内最大級のリユースデパートを展開する企業です。本社を置く愛知県名古屋市のほか、都内や大阪市といった主要都市に、買取と販売を行うリユースデパートを展開しています。

同社は、戦後まもない時期に衣類の行商から事業をスタート。70年以上の長い歴史の中で、宝飾品や貴金属、カメラ、時計、ブランドバッグ、着物、楽器と、取り扱い品目を拡大してきました。2020年3月期のグループ売上高は、約575億円となっています。

画像2

今回リニューアルされたKOMEHYO AOYAMAでは、1Fに買取りと取り寄せ販売を行うフロア、2Fに長坂真護氏のサステナブルアートを取り扱うギャラリー「MAGO GALLERY AOYAMA」を設置。長坂氏は「サステナブル・キャピタリズム‐持続可能な資本主義‐※)」という言葉を掲げ、アートを通じた社会貢献に取り組むアーティストです。コメ兵はサステナブル・キャピタリズムの考えに共感し、今回の取り組みに至ったとしています。

※)サステナブル・キャピタリズム:作品が作られることで物質的に現地のゴミが減り、売れることで現地の社会貢献にもつながる。作品を所有することで文化に触れ、後に作品を価値の上昇につながる可能性に関わる。美術品を所有することで、文化・経済・社会貢献の全てに参加できる、一つひとつの作品に関わる全ての人が幸せになる仕組みとしています。

また、既設利用とスケルトン部分を除く内装面積の98%には、リユース建材や環境に配慮した素材が使用されました。リユースとサステナブルアートの共存を目指したそうです。

在庫を置かない店舗でも、大切にすることは変わらない

同店舗のもう一つの特徴は、店内にディスプレイ用商品以外の在庫を置いていないことです。顧客はタブレットからECサイトを見ながら、商品を探す形に。欲しい商品を決めたら、全国のコメ兵店舗から送料・手数料無料で取り寄せられるようになっています。

リニューアル前のKOMEHYO青山店は、約800~1,200点の商品が展示されていました。しかし、昨年から続く新型コロナ感染拡大の影響で、生活者の購買行動は変化。コメ兵でも、ECの需要が高まってきたとしています。実際に小売売上高におけるEC関与率(EC上で決済が完結した売上高+ECでの取り寄せから購入につながった売上高)を見ると、前期第3四半期の数字が27.9%だったのに対し、今期第3四半期では39.4%まで上昇しました。

そこでコメ兵は、あえて店舗に在庫を置かず、ECサイトをカタログ代わりに見てもらうことで、リアル店舗以上の商品の豊富さを実感してもらう方向へと舵を切りました。

画像3

▲コメ兵のECサイト

同店舗店長の青木さんは、こうした方向転換ができた理由の一つに「もともと“店頭での接客”に力を入れてきたこと」を挙げます。ニーズをもとに商品を徹底して調査し、お客様との対話を大事にする文化が以前から徹底されているそう。情報はノートやデータベースなどを通じてスタッフ間で共有されており、引き継ぎが発生しても接客の質に差が出ないようにしています。

青木さん「お客様が何を求めているのかをきちんと理解することで、比較・検討できるだけの情報や商品を準備することができます。たとえば、お客様への商品の見せ方も工夫のひとつですね。店舗内の照明ではなく、自然光の下でも商品の色を確認してもらいますし、こちらからお客様のニーズに応じて、別の色の提案をすることもあります。

大切なのは丁寧にコミュニケーションを取りしながら、『本当は何を求めているのか』に寄り添うこと。ご購入後、すぐに買取りに持ち込まれたときなど、それ以上にお客様と向き合えなかったという事実が私たちにとって悲しい出来事になります」

こうした接客への注力は、ECを経由した販売が台頭してからも続けられてきました。接客にLINEも活用し、リアル店舗での販売に近い個別のコミュニケーションを実現。同社広報によると、企業として「LTV(ライフ タイム バリュー)」を重要な指標としており、お客様との継続的なコミュニケーションを大切にする文化が徹底されてきたといいます。

一度の接点を継続的なものとして捉えてきたからこそ、一つひとつの体験に価値が生まれ、長い関係性へとつながっていく。そのようなアプローチが続けられたら、店舗でECを経由した販売に転換したとしても、価値は変わらない。そんな思いから、KOMEHYO AOYAMAは生まれました。今後は、在庫があったときと同等の売上高を目指すとしています。

変わるリアル店舗の価値。リユースの価値向上に向けて

小売の業界では近年、KOMEHYO AOYAMAのように、リアル店舗を単純に「売る場」として捉えない事例が増えてきています。たとえば、丸井グループはコロナ流行以前の2015年ごろより、体験の提供にフォーカスした店舗を徐々に拡大。D2Cやサブスクリプションモデルなどのサービスを提供する企業と連携し、新たな購買体験を提供しています。また、ビックカメラやイケアなどでも、「売らない店舗」を掲げた体験型店舗の展開が進んでいます。

画像4

▲廃棄物を再利用した素材(アコスターポリボード)からできたカウンター

コメ兵が今回の体験型店舗を通して実現したい未来について、同社広報は「リユース市場の価値向上に貢献すること」を強調します。お客様との継続的なコミュニケーションを大切にすること、感度の高い層が多くいる青山でアートとコラボした店舗にすることも、そうした未来に向けた行動の一つ。具体的な計画は決まっていないそうですが、今後もこれまで大事にしてきた接客の姿勢を守りつつ、エリアの特性にあった店舗展開を進める計画としました。

ある店舗ではリユースとアートが、またある店舗ではリユースと別の分野が共存する。そのような店舗ごとに生まれる個性は、リアル店舗の存在意義ともつながっていくでしょう。

最後に、今後のリアル店舗の在り方について、青木氏は次のように語ってくれました。

青木氏「リアル店舗にはECにない価値があります。直接店舗を訪れ、実際に商品を手に取り、顔見知りのスタッフと会話をする。フェイス・トゥ・フェイスでリアルタイムに得られる体験は、それ自体がサービスであり、リアル店舗だから提供できる価値だと考えています。ECやLINEなどのツールが存在する世にあっても、その機能を完全に代替されることがありません。世の中の状況によってリアルとオンラインの重きは変わると思いますが、購買体験の場としてのリアルの価値は今後も残っていくはずです」

執筆:結木千尋/編集:庄司智昭