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時空の狭間へ

 人にシャンプーしてもらうってのは実に心地良いですよねぇ。

 髪屋さんでなら尚更、本職ですからね。プレイヤー各々の頭皮への刺激が貴方を、都市部に程近い温泉観光地ライクな浮き世を忘れる別天地を堪能させてくれていると思います。

 ところがこの桃源郷から時空の狭間へ追い込まれてしまう瞬間が訪れます。

 「痒いところはございませんか?」

 え?あぁ痒みを感じるとこあります。

 でもその箇所を上手く伝える事が出来るのかしら?

 漠然とこの辺みたいなのでは伝わらず「そこではなくて…」みたいなやりとりをするのはお互いにキツい。
 俺の頭には生憎ピンスポットで伝える為の座標を図るスケールが刻まれている訳ではない。

 だからといって自分の認識を押し付けるように
 「東経○○度、北緯○○度」みたいな伝え方をしたところで
 「北はどちらになりますか?」
と聞かれかねないし俺には返す言葉が出て来ない。
 
 それでは「つむじのちょっと左…」とか言ってみたところで
 「お前のつむじ、わかりづれぇじゃん!」
とか思わせてしまうのも相手との距離を俺のせいで広げてしまいかねない。

 気が付けば先程から俺の頭の中ではキングクリムゾンの“Talking drum”がバンバンに流れている。ああぁ俺はこの不安定さをどうすればいいんだ?

 追い込まれた俺は巡るめく考えを終わらせる為にこう言ってやるんだ。

 「だいじょぶで~す!」

 この間は現世の人間にとってはほんのコンマ1~2秒なんだろうが、俺にとってはスターゲイトのように大きくのしかかってくる。

 次回こそ言ってみよう…

 「ちょっと考えさせてください…」と

 多分もの凄い空気が流れ“Talking drum”は終わり“太陽と戦慄part2”が流れ始めるに違いない。

 これを読んでしまった貴方にもきっと次回のシャンプー時に時空の狭間が訪れることだろう。

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