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【通り魔の心理】なぜ男は独りで死ななかったのか

「自分ひとりで死ねばいいのに」
と祖父は言った。テレビにはたくさんの警察官と救急車が映っており、アナウンサーが被害の状況を繰り返し伝えている。
なぜ、男はひとりで死ななかったのか。

■通り魔が起こす「拡大自殺」

川崎市の路上で28日朝、子どもを含む18人が50代の男に刃物で刺された。このうち女児(12)と男性(39)が死亡した。男は警察に身柄を確保されたが、自分自身を切り付けて死亡した。
https://www.afpbb.com/articles/-/3227059

犯人が自ら命を絶ったことからわかるように、もともと明確な自殺願望があったと思われる。それでも犯人は自分ひとりでは死ななかった。自殺願望は他人を巻き込むことがあるのだ。

今回の犯人は50代男性だ。40~50代の自殺原因は、1位が健康問題、その次に経済・生活問題が入る。社会に絶望した自殺志願者のなかには、逆恨みによって「まわりを道連れにして死んでやる」と考える者もいる。これを拡大自殺と呼び、大量殺人を起こすこともある。

今回のような通り魔事件も拡大自殺によくみられるケースだ。人が集まる場所を狙い、不特定多数の人間を殺傷する。2008年に起きた秋葉原通り魔事件もそのひとつで、犯人は「だれでもいいから殺したい」という思いに駆られて犯行におよぶ。

ただ、今回は秋葉原通り魔事件とは異なり、犯行の対象を「自分より身体的に弱く、社会的に恵まれた者」に設定したように思われる。今回の事故現場は「カリタス学園」のスクールバス停留所だ。被害にあった児童は、カリタス小学校の女子児童らである。経済的余裕のある家庭で大切に育てられているだろう女子児童たち。犯人にとって、妬ましい対象だったのではないか。

■通り魔となって大量殺人を行う人物像とは

こうした拡大自殺を図る人物には、どのようなタイプが多いのか。どうやら、これまで生きてきた人生で多くの挫折を経験し、葛藤したのちに絶望した「孤独な男性」が多いようだ。

結婚しておらず、定職にもついておらず、親しい人間もいない。恋愛も仕事も友人関係もうまくいっていない。家族とも疎遠で、地域社会にもなじんでいない。現代社会で孤立した貧困層に忽然とあらわれるのが通り魔だ。生まれ育った家庭も機能不全に陥っており、他者から愛されることも愛することも知らないまま大人になったケースも多い。

こうした経緯から、本人のなかには巨大な劣等感が根付いており「自分は社会に受け入れられない存在だ」という認識がある。自分の人生がうまくいかないのは社会のせいだと考えており、社会に対して強い憎しみや怒りを抱き、社会に適応している人間を妬むのだ。

そして人目につく社会の大通りで、社会を行きかう人々を無差別に攻撃する。自分を受け入れない社会に未練など一切ない。凶行によってひとしきり社会を攻撃して鬱憤を晴らし、潮時を迎えると迷いなく自らの命を絶つ。

■目を背けずに「犯罪」の向こう側を見る意義

だったら、どうすればいいのだろう。
こうした通り魔の潜在層と積極的にコミュニケーションを図り、健全な人間関係を構築し、恨みの種を摘めばいいのだろうか。

私たちには人間関係を取捨選択する自由がある。だれだって話していて楽しい人と仲良くしたいし、気が合わない人とは無理に話したくない。コミュニケーション能力が著しく低い相手と、自ら積極的にかかわろうとする人間はどれくらいいるだろうか。ボランティアでも仕事でもあるまいし、そうそういないだろう。

しかし、こうした犯罪心理学を知ることで、多少なりとも事件の背景を推測したり理解したりすることはできる。「なぜそんなことを」で思考停止せずに済むし、どのような環境が人を犯罪へと導くのかわかるようになる。完全にゼロにはできなくとも、犯罪の発生率を下げる一助にはなるのではないか。

許されざる陰惨な事件だが、「目を背けずに考える」ことが私たち一人ひとりにできる唯一の行動なのである。

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