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さようならとはじめまして

きっと多くの人がそうであるように、私は自分の名前が好きではなかった。「かおり」はあまりにも平凡だし、あまりにも女の子らしい名前だから。身の丈に合っていないフリフリのピンクの服を着ているようで、どうにもむずがゆく居心地が悪かった。どうせ似合っていないでしょう、と穿った見方をしていた。

そのため学生時代は自己紹介時に「はぎって呼んでね」と率先して伝え、ほとんどの人から「はぎ」と呼ばれていた。「はぎわら」は居心地がよく、気に入っていた。

しかし、思春期以降は名前で呼ばれることが少しずつ増えた。実際に呼ばれてみると気恥ずかしいながらもうれしく、「かおりっぽくないから」と自虐する私に「そんなことないよ」と言ってくれる人に会うたび、胸元の氷がやわらかく溶けるような心地がした。私は「かおり」に対してコンプレックスを感じていたのだ。いわゆる女らしさに対して。

大学生になり色恋沙汰を重ねるにつれて女らしさを磨くことに抵抗を覚えなくなり、「女」の自分を丸ごと受け入れられるようになった。そのときようやく、「はぎわらかおり」を肯定できた気がする。私の名前は「かおり」なんだな、と思い、平凡な名前だけどシンプルでいいじゃん、と納得した。

そんな風に「かおり」を自分の中に迎い入れたのは最近のことだ。よかったよかったと胸をなでおろしていたら、今年のクリスマスに「はぎわら」からの卒業が決まった。プロポーズされたのだ。

思えば「お嫁さん」は生涯最長の夢だ。20年以上夢見てきたのに、いざ「お嫁さん」カードを渡されると現実味がなく、実感が全くわかない。しかし涙は次から次へ出てくるのだから不思議だ。

私が26年間居心地の良さを感じていた「はぎわら」はどこかへ巣立ち、手元には最近和解したばかりの「かおり」が残る。ずっとお気に入りだった「はぎわら」を手放すのが名残惜しいものの、今まで以上に自分の名前を好きになりたい。サンタにではなく、自分に願う。

#Xmas2016

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