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【羽衣プロジェクト】7月9日(日)

「羽衣プロジェクト」は、長野県上田市にある犀の角と南インドケーララ州にあるサヒヤンデ劇場が協働し、3年かけて「羽衣伝説」から着想を得て演劇作品を創作する企画です。
このnoteでは、その過程をお伝えしていきます。

初年度となる今年は7月に19日間にわたって、静岡県、山梨県そして長野県をリサーチして回りました。
創作のためのインスピレーションを探すこの旅のメンバーは、サヒヤンデ劇場を運営するシャンカル・ヴェンカーテシュワランさんを演出家として、静岡県芸術センターや国内外で活躍される俳優の美加理さんを出演者として迎え、制作・通訳としてシャンカルさんと共にサヒヤンデ劇場を運営する鶴留聡子さん、そして犀の角スタッフ2名の全部で5名で巡りました。

このnoteは、今後のクリエイションのための記録の意味もありますが、このリサーチ自体もとても意味のあるものであったため、この体験を多くの方と共有したいという私たちの思いから、道中で起こったこと、話したこと、感じたことなどをお伝えしていきます。


7月7日に日本に到着されたシャンカルさんは、鶴留さんとお2人で7月8日に東京の矢来能楽堂にて能楽師の観世喜正先生を訪ね、謡曲「羽衣」についてのお話を聞いてきています。
観世先生とはシャンカルさんがシンガポールで演劇学校に通われていた時からのご縁。
実は「羽衣」を知ったのは、演劇学校時代に観世先生から教わったのがはじめなのだそう。「羽衣」との出会いの原点です。

さて、全員揃ってのリサーチは7月9日から。
11時に静岡駅に集合しました。
梅雨明け前とはいえ、この日も35度を超える猛暑日。
あまりの暑さに数年ぶりの再会の感動もそこそこに、車内に逃げ込みます。

この日まずは、静岡県舞台芸術公園を見学します。
顔合わせと打ち合わせを兼ねて、休憩所「カチカチ山」で昼食を取りました。こちらには古今東西の劇場の歴史がわかるミュージアム「てあとろん」が併設されています。





待ち合わせの13時、SPAC制作部の成島洋子さんにご案内いただき、見学ツアーを開始。(成島さんは、SPACで働いていた経験のある犀の角荒井代表のかつての同僚でもあるのです)



静岡県舞台芸術公園は、東京ドーム4倍ほどの広さを持つ日本平北麓の緑濃い園内に、本部棟、野外劇場「有度」、屋内ホール「楕円堂」、稽古場や研修交流宿泊棟等が点在する静岡県舞台芸術センターの活動拠点です。
稽古場では近々ある公演のリハーサルが行われていたり、静岡県内在住の高校生を中心とするアカデミー生がワークショップを受けていました。

野外劇場の客席側から舞台を望む
半月間のリサーチ、どうぞよろしくお願いします。

海沿いはやはり湿度がとても高く、息苦しいほどの暑さでした。

楕円堂の外観。
ロビー。残念ながら目の前に広がるはずの富士山は見えませんでした・・。
お守りの木にご挨拶

成島さんと制作部の皆さんに別れを告げ、次の目的地へ向かいます。
16時ごろ、三保松原の御穂神社(みほじんじゃ)に到着しました。


お参りした後は各自写真を撮ったり、植物の観察をしたり。
シャンカルさんは周囲の音を録音していたようです。


頭の上を通過する、竜のような松。


神の道を通って防風林の松林のある海岸へ歩きます。
天女伝説の色濃く残る三保松原には、羽衣をかけたという松があります。

初代、2代目と衰弱が激しく、今は3代目の松に代替わりしています。
改めて、この地域に伝わる「羽衣伝説」をご紹介します。

その昔、白龍(はくりょう)という漁師が、三保の松原で釣りをしていたところ、一本の松に羽衣がかかっていました。
その羽衣の美しさを見てつい持ち帰ろうとしたところ、木陰で天女と出逢いました。
羽衣がないと天に帰れない天女は、返してほしいと白龍にお願いします。

白龍は、天上の舞を見せてもらう代わりにと天女に羽衣を返上しました。
そして天女は再び空へと帰って行きました。
これが、「三保の松原」に伝わる「羽衣伝説」です。

たくさんの案内看板が立っていましたが、ものによって「はくりゅう」と書かれているもの、「はくりょう」というもの、違う呼ばれ方があるようでした。

日が沈み、少しばかり暑さが和らいだ海岸でしばらく思いを馳せます。

美加理さんは裸足になり砂浜の感触を味わっていました。


謡曲「羽衣」には「疑いは人間にあり。天に偽りなきものを。」という言葉があります。
羽衣を返してほしいと頼む天女に、舞を舞ったら返すと約束する漁師。
天女は羽衣がないと舞を舞えないと再び頼みます。
羽衣を返したら、舞を舞わずに帰ってしまうだろう、と疑う漁師に対し天女がかける言葉です。

疑いを持つことは人間の所業なのです。
この美しい浜で、天女と出会い人間である漁師は何を感じ、何を得たのでしょうか。

シャンカルさんはこの場を訪れ、とてもインスピレーションを得ることができたと大変感動されていました。
「羽衣伝説」をめぐる旅の、重要なスタート地点となりました。

翌日も、周辺に伝わる天女に関する伝説を追いかけます。


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