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荻窪テーラー

去年の12月上旬頃、新宿伊勢丹に入っているとあるメーカーのウール・カシミヤ混の冬物のトラウザーズを購入した。ウール素材のトラウザーズを今まで持っていなくて、探しにさがしてここで買うことを決めた。古着屋さんも視野に入れて探したけど、なかなかうまい具合にタイミングよく見つけることができなくて、古着屋さんの方は出会えなかった。
最終的にそこで買うことを決めたのは、去年の夏に夏物のトラウザーズを購入してそれが凄くよかったからというポイントが大きい。今回もここにしようと思った。試着をしたらやっぱりシルエットとかもよかったから、値段はまあまあしたけど、これから大切にケアをしながら長く履いていくことを思えば、そんなに高い買い物ではないはずだよな、と思い少し奮発。帰りに伊勢丹と反対側にある東急ハンズに寄って、ウール素材の衣類に使うブラシを手に入れて、万全の状態で冬物のトラウザーズを迎え入れた。

仕事に行くときは基本的に憂鬱なのだが、じぶんが好きな大切にケアをしている靴やジャケットやトラウザーズを身につけていると少しだけ気分が穏やかになる瞬間がある。基本的に憂鬱なのだが。

2月末のある日、物凄く酷い雨が降った日があった。傘をさしていてもびしょ濡れになるくらいの雨だった。帰宅後にタオルでコートやトラウザーズを叩くように拭いたあと、ブラッシングをしているときに、トラウザーズの股の部分を見ると、股が擦れて生地が薄くなっていて、左右共に小さな穴があいていた。それを見つけたときのショックたるや。ちびまる子ちゃんでいうところの白目になって雷に打たれてる心象描写のアレになっていた。大切にケアをしていたつもりだったのに…ぜんぜん気がつかなかった。
近所にお直しができるところを検索したらいくつか出てきた。日頃お直し目線で町を歩かないから意識していないだけで、まあまあお直しできるところはいくつかあった。そのなかでなんとなく気になったのが荻窪テーラーというお店だった。なるほど、仕立て屋さんだったら直してもくれるのかとGoogleの口コミなどを覗いてみた。どうやらいまは仕立てはやっておらず、お直しだけ承っているとのことだ。創業はだいぶ古そうなのでウェブサイトもなければ料金表もネット上にはなかった。ただ、徒歩でいける気軽なお店よりも、距離は少し遠いけどなんとなく気になってしまったから荻窪テーラーで直してもらうことを決めた。

洋服をお直しをしてもらうことがはじめてだったからドキドキワクワクしながらお店の扉をあけた。女性店主さんに物を見せて説明した。そのときに、購入したお店で裾上げをしてもらったときの切れ端を持っていっていたのでそれがあることも話した。以前ネットで裾上げした際の切れ端はお直しのときに使えるからちゃんも保存しておくようにと書かれていたのを読んで以来ちゃんととっておくようにしている。まさか買って数ヶ月で使うことになるとは思っていなかったけども…。女性店主さんは今年88歳とのことだったが、見た目が若くかなりシャキッとしていて、ジブリの映画に出てきそうなご婦人、というかなりアバウトな紹介だけども、そんな感じだ。
「景気が悪いと使う生地も細く薄くなってしまいますからね…」
「こういうウールの生地は70年代の頃はしっかりしておりましたよ…」
とぼくのトラウザーズをみながらこんなことを話してくれた。

修理には二週間かかるとのことで、昨日やっと引き取りに行ってきた。裾上げの際の切れ端も使ってくれたみたいだった。綺麗に直してくれていてよかった。受け取ってから1時間くらい荻窪の歴史についていろいろとおしゃべりをしてくれた。

着たおしたり、穿きつぶしたりするよりも、一つのものをケアや修理をして使う方が愛着も湧くし、ぼくはその方が楽しくて性格に合っていることが最近わかった。それと、もう修理してほしい服がないから荻窪テーラーに行けないことが悲しい。また直してもらいたいのと、店主さんのお話しをまた聞きたい。近所にあったら最高なんだけどな。

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