1990年代の友部正人

『ライオンのいる場所』(1991年リリース)

01. こわれてしまった一日
02. 少年とライオン
03. モンタハ
04. ラズガルのコーヒーカップ
05. 20世紀という芝居
06. おもしろい電車
07. 髪の長い魚
08. 屋上のブルース
09. アイシャルビーリリースト
10. 大道芸人

1990年代に突入。デビューから約20年が経ち、最早この時点でベテランの域に入ってきているのだが、そんなことはおかまいなしにどんどんと突き進んでいく。ここにきての大傑作がこの『ライオンのいる場所』で、「こわれてしまった一日」「少年とライオン」「大道芸人」など、現在でもライブのレパートリーに頻繁に加わっている楽曲が多く収録されている。BOB DYLANの曲を独自の日本語訳でカバーした「アイシャルビーリリースト」も収録されている。オリジナルアルバムにカバー曲が収録されるのは珍しく、他には『遠い国の日時計』(1992年リリース)で「ラブミーテンダー」を、『夢がかなう10月』(1996年リリース)で「CANDY MAN」をカバーしている。
2015年にリリースしたMIDI在籍時のオリジナルアルバムから友部正人本人が選曲した編集盤『MIDIの時代』にも「アイシャルビーリリースト」が収録されているので、本人もお気に入りの曲なのかと思う。


『遠い国の日時計』(1992年リリース)

01. 遠い国の日時計
02. 風のような声
03. さまよえる定住者
04. 銀の汽笛
05. イタリアの月
06. 七月の王様
07. 夜の登山家
08. すばらしいさよなら
09. ゴールデントライアングルのラブソング
10. 時刻表
11. ボート小屋便り
12. ラブミーテンダー

創作ペースは凄まじく、前作『ライオンのいる場所』の翌年にこのアルバムをリリースしている。オリジナルアルバムには含まれないので紹介からは省くけど、たまとユニットを組み『けらいのひとりもいない王様』も同じ年にリリースしている。どんどんと加速して突き進んでいる。おそろしい。
THE GROOVERSがほぼ全編を通して参加していて、シングル盤にもなった「すばらしいさよなら」ではTHE BOOMがバックをつとめている。友部正人に影響を受けた当時若手のバンドと一枚のアルバムを作っている。THE GROOVERSはこの年にデビュー20周年を迎えた記念コンサートにも参加していて、その模様は3枚組のライブ盤『ぼくの展覧会』に収められている。
ボーナストラック扱いでアルバムの最後に「ラブミーテンダー」が収録されていて、「ラブミーテンダー」「Don't think twice, It's alright」「Jersey Girl」のカバー3曲入りのシングル盤でもリリースしている。


『奇跡の果実』(1994年リリース)

01. 朝は詩人
02. 奇跡の果実
03. ボスニア・ヘルツェゴビナ
04. カルヴァドスのりんご
05. 夜は言葉
06. 終わり、はじまる
07. 私の踊り子
08. 夜よ、あけるな
09. 夜明けにいちばん近い旅人
10. 50歳になってから歌うラブソング
11. 黒い犬
12. 傘の行方


またここにきて大傑作が生まれる。
「朝は詩人」「夜は言葉」は近年のライブでもかなりの割合で歌われている曲で、代表作といっても差し支えないと思う。特に「夜は言葉」はぼくのお気に入りの曲で、リクエスト大会でも何度かこの曲を選んだことがある。
表題曲の「奇跡の果実」や「夜よ、あけるな」も人気の高い曲で、「私の踊り子」も見逃せないところだ。「私の踊り子」は、年に一度くらいの頻度でジャズピアニストの板橋文夫とのジョイントライブを横浜でやっているのだが、そのバージョンがとてつもなく好きだ。2人の交流は長いと思うのだが、まだ音源化されていないのが寂しいところ。いつか音源化をしてほしい。
実際に現物を見たことがないのでわからないのだが、このアルバムがリリースされた際に忌野清志郎がコメントしているとのことで、おそらく当時のチラシや雑誌に掲載されていたのだろうと推測する。梅津和時やMOJO CLUBが参加している繋がりからだろうか。ライブでも何度か友部正人が曲間で話していたのだが、忌野清志郎から12弦ギターを貰い、それを何度かライブで弾いているのを見たことがある。2人の交流はそんなになかったと思うので、この時期に貰ったのかどうかはわからないが、なぜ12弦ギターを譲り受けることになったのかとか、その辺りの詳細をご存知の方がいたら教えてほしい。


『夢がかなう10月』(1996年リリース)

01. 夢がかなう10月
02. ぼくが心に思っていたことは
03. 星の庭
04. ショウマン
05. 夜明けからいちばん遠い2月
06. 歌ってもしかたのない歌ばかり
07. 月の船
08. 部屋代
09. 虹の橋
10. She is a book
11. 公園の雨
12. 涙
13. 灯台
14. CANDY MAN

友部正人の全時代を通してぼくが最も好きなオリジナルアルバムがこの『夢がかなう10月』だ。『また見つけたよ』や『歯車とスモークド・サーモン』も好きなので、とてもいちばんは決められないのだが…、強いて挙げるとしたらこのアルバムだ。
帯の文言に“初のセルフプロデュース&ニューヨーク録音”とあるが、フランク・クリスチャンの功績が大きいのではないかと思う。現在でもライブで頻繁にレパートリーに加わっている曲はこのアルバムにはないのだが、どの曲も最高の演奏と軽快なアレンジで物凄く心地のよいアルバムになっている。アルバムの最後には「CANDY MAN」でデイヴ・ヴァン・ロンクとの共演を果たしている。
「夢がかなう10月」「ぼくが心に思っていたことは」「星の庭」「歌ってもしかたのない歌ばかり」「月の船」「涙」「灯台」あたりがとりわけぼくのお気に入り。ぜんぶいいんだけど。
「歌ってもしかたのない歌ばかり」は、1995年にあった震災のことを歌っていて、この曲の英題は「kobe」となっている。2011年に震災があった翌4月のライブでも、この曲を歌っていたことを覚えている。
これは余談ではあるが、以前双葉双一と友部正人のことを話した際に、双葉双一もこのアルバムをフェイバリットに挙げていて、なかでも「星の庭」が好きだと話していた。


『読みかけの本』(1999年リリース)

01. 愛はぼくのとっておきの色
02. サーカス
03. ジェリーガルシアの死んだ日
04. みんなこの街で恋をして
05. 月の光
06. 長井さん
07. いろんな人生
08. 君が旅から戻ってくると
09. 永遠の光
10. おしゃべりがたくさん聞こえる夜に
11. 小さな町で
12. 長崎で
13. 話し声

いよいよ1990年代最後のアルバムとなる『読みかけの本』。山川ノリオをプロデューサーに迎えて、エマーソン北村、バンバンバザールなどの面々がこのアルバムに参加している。
「愛はぼくのとっておきの色」「月の光」あたりは今でもライブのレパートリーに加わっていることが比較的多い。
このアルバムは購入当初は、再生回数があまり多くなく聴く頻度が少なかったのだが、ここ数年はお気に入りになって聴く頻度が高くなった。全編通して素晴らしいのだが、特にアルバム後半の「おしゃべりがたくさん聞こえる夜に」から「話し声」までの流れが好きだ。
とりわけ「話し声」は、アレンジも含めて最高の1曲なのではないかと思っている。友部正人のライブに何度も足を運んでいるが、この「話し声」はいまだに聴いたことのない曲のひとつだ。何度かリクエスト大会の際にこの曲を選んだことがあるのだが、くじが引かれたことはいままでない。なので、次回のリクエスト大会で投票するいまいちばんの最有力候補はこの「話し声」だ。歌詞もメロディーもアレンジも、最高。山川ノリオにありがとうと言いたい。



というわけで、【1990年代の友部正人】は以上です。
いよいよ次回は【2000年代の友部正人】です。

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