新型コロナウイルス怯え日記

書いている人→東京都在住。41歳、漫画家、女性。夫と小学2年生で7歳の娘と2歳の息子との4人暮らし。

※この長めの日記は、一番下にある漫画の前書きである。

中国のなんて読むか分からない都市に関係ある人だけの感染症だった時期:2020年1月下旬

●1月20日頃● 初めて私が新型肺炎・コロナウイルスのニュースを見たのはテレビだった。中国のなんて読むか分からない都市に滞在してた人が日本で発症した、って話。
 「濃厚接触すると感染する」ってセックスのことだな。なら大丈夫か、と思った直後「濃厚接触とは、感染者と部屋で何時間か過ごすこと」とアナウンサーが言った。その発症者も、なんて読むか分からない都市にある実家か親戚の家で数時間過ごしたことで感染したらしかった。
 えーやばいじゃん、と思ったけど、そのなんて読むか分からない都市に関係ある人だけの感染症だ、という感じだったから、他人事だった。

●1月24日(金)●感染者を受け入れる1600台のベッドを収容できる仮設病院の突貫建設が武漢で始まったというニュース。(10日後の2月3日に完成)
 もう「武漢(ぶかん)」と読めるようになった。

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●1月28日(火)●朝、ワイドショーで「新型コロナウイルスにはアルコール消毒が有効」とやっていた。
 息子を保育園に預けたあと仕事場までの道にあるドラッグストアで「手ピカジェル(アルコールジェル)」を買おうと思った。
 この時期のドラッグストアの店頭にはたいていノロウイルス対策の消毒商品コーナーがある。ノロウイルスにはアルコール消毒はあまり効かないとされているので、アルコール系の消毒商品は脇のほうに置かれていることが多い。私が探している携帯用の小さな手ピカジェルは店に入ったところの棚にあった。カゴに入れる。社員証みたいに首から提げることによって自分の周りの空気を浄化するタイプのものあった。これはアルコールとかたぶん関係ないし、こんなカードみたいのを首から下げるだけで自分の周りの空間だけ空気浄化するなんて可能なのか分からないけどなんとなく一緒にカゴに入れた。散布できるスプレータイプの消毒用アルコールも欲しかったから、店員さんに聞くと「消毒用アルコールのスプレー…? ちょっと置いてませんねえ」と言う。「あ、じゃあいいです、ありがとうございます」と言ってレジに並んでいると、奥に引っ込んでいたさっきの店員さんが「お客様、これでいいですか?」と消毒用エタノールを渡してくれたのでそれも買った。
「新型コロナウイルスにはアルコール消毒」という情報はまだ認知されてないんだなと思った。

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 テレビではしつこいくらいに「新型肺炎を恐がりすぎないように」と言っている時期だった。そうなのか、でも予防はしっかりしよう、と思いながらYahooニュースについているコメントを見て一気に不安になった。
「もう新型コロナウイルスは日本にもたくさん入ってきているはずだ。帰ってきたら玄関で服を脱いでシャワーを浴びてから部屋に入ることにする」と書いている人がいた。そんな事態なのか、と恐くなった。発症者、陽性者は「武漢から来た中国人か、武漢に行っていた中国人」ばかりだけど、その人たちも日本中を旅行したり、日本在住で暮らしている人たちだ。東京なんかもうかなりの数の人が感染していると思った。自分もすでに感染している可能性もある。
 強烈に不安になり「このままじゃ2週間後に何千人もが一気に発症してもぜんぜんおかしくない。すぐに病室が埋まり、医療者も感染・発症して、そしたら自分の子どもが感染しても治療が受けられない。他の病気も診てもらえなくなって、家族も、友人知人も、近所の人たちも、どんどん死んでいく」と絶望的な気持ちになった。この日から2日間ほど、一人になると恐怖のあまり何も手が付かなくなった。
 でも、どんなに情報を得ても、どうせやること(手洗い、うがい、アルコール消毒)は同じで、それをしっかりやって普段の生活するしかない。そう思って気を取り直そうとするのだが、恐ろしくて気持ちがどんどん落ちていった。

 この日、国内で初の日本人感染者のニュースが流れた。武漢からのツアー客を乗せたバスの運転手で武漢への渡航歴はない。症状が出た14日から悪化し再度受診する22日まで、運転手として東京大阪間を移動していた。

「新型コロナウイルスを必要以上に恐れないで」な時期:2020年1月末

●1月29日● 昨日と同じドラッグストアの前を通ると、アルコール消毒の商品だけの棚からゴッソリなくなっていた。だけど街の雰囲気や景色は変わらない。
 この日は午後から上野で打ち合わせが入っていた。全員が集まる前に「新型肺炎がこわすぎる。みんな死ぬって思っちゃう」って本気だけど一応冗談ぽく言ったら「アハハ、死なないよ〜」って言われて「エッ!死なないんだ」と思った。一人でずーっとグルグル考えてるとなんかアブないなと思った。ていうかもうアブない奴になってた。服の中では首から訳わからん空気浄化するカード提げてるし。
 でもそこで会った人が帰り道に聞かせてくれた話に度肝を抜かれた。
「多摩(ここでは詳しい市名を出すことが目的ではないので伏せます)の病院で働いているママ友が言ってたんだけど、2~3日前に肺炎症状の人が診察に来たんだって。詳しく聞いたら『武漢に行ってた』って言うからうちでは診られませんってそのまま帰したんだって」
「ええ? 感染の専門のセンターを紹介したり別の病院へ救急車で連れて行ったりしないの?」
「しなかったらしいよ」
「なんで?」
「搬送先なんて無いから」
「診察もしないで帰した?」
「そう。受付で帰したって」
「その人は少なくとも成田空港から多摩まで東京を横断してるってことだよね。もしかしたら関西国際空港から新幹線に乗って多摩に帰ってきたのかもしれない」
「感染症で診察に来る人って、心当たりがあることは言いたがらないんだって。『武漢に行っていた』って言っちゃうと診察を断られるかもしれないから。だけど病院側は新型肺炎の可能性がある人だって分かったら隔離しなきゃいけないから、絶対にしつこく聞くんだって。その人もやっと言ってくれたんだって」
「せっかく勇気出して言ったのに追い返されるなんて…」

 感染の専門じゃない病院は対処できないから仕方ないのだろう。日本政府はどうして感染センターなどを設置しないのか。テレビでの報道が始まってすでに1週間は経っている。政府や厚生省が動かなかったら民間の病院は何もできないし、感染した一般市民は右往左往するしかない。個人が「絶対に感染しない」と気をつける以外の対策が何も用意されてない。
 日本で既に何人も発症者が出ている以上、収束させるまでにある程度の感染者数が出るのは前提として避けられない。だったら感染者の受け皿を国が用意しておいてくれないと、発症者が診察も受けられずに病院から追い出されて街にあふれる。こんな状況じゃ個人がどれだけ気を付けたって限界がある。テレビでは「必要以上に恐れないで」と言っている。そしたらみんな普段通りの生活をするのは当たり前だ。
 国がやるべき仕事は、「受け皿の用意」と、「感染者の入国の管理」と、「国民の行動についての指示」だ。その3つのどれもやっている気配がない。7月にオリンピックやる国なんでしょ? 今のうちに世界一の「新型肺炎対策」をはじめて「TOKYOには感染者一人もいません」ってところを見せなきゃいけないんじゃないの? 今こそみんなの絆と力を合わせて団結して日本を取り戻せよ。なんで何もしないの? マジで意味が分からない。

●1月31日~2月1日●夫が子どもを実家に連れて泊まりに行くことになっていた。私は夜、一人で遊べる日だった。数ヶ月に渡り、私はこの日をむちゃくちゃ楽しみに生きてきた。行きたいワークショップやライブ等、夜遊びルートをたくさんチェックしていた。だが、人がたくさん集まる場所に行くという気持ちにまったくなれない。

 この週はコロナウイルスノイローゼ(ずーっとニュースをチェックしてしまう以外、何も手がつかない)によって仕事も滞っていたから結局夜は仕事場で一人で仕事をした。この頃は、そんな風に行動を制限している人はあまりいなかった。私も対面する打ち合わせやインタビュー取材は予定通り受けていた。そのたび「心配しすぎキャラ」みたいな感じでマスクをしたまま喋り、バッグの中からエタノール消毒スプレーのでかいボトルを出して笑いを取ったりしていた。取れていたのか分からないが。首から提げるやつは恥ずかしくて見せなかった。
 そして実は、1月末から外食はやめ自炊にして、仕事場で食べる昼飯は弁当を持って行けない時はなるべくコンビニの工場から届いた真空パックなものを買うようになった。そして買ってきたものはぜんぶアルコールで拭いている。もし感染した時に「ここまでしてたけど感染したから仕方ない」と思うため。おまじないのような、儀式。これも誰にも言ってない。

●2月2日●首から提げるやつはおそらく完全に意味が無い(だってどういう原理? 服の中が滅菌されているのか? 前にぶら下げてるから背中はガラ空きじゃね?)と思ってやめた。

ダイヤモンド・プリンセスが毎日報道されていた時期:2020年2月前半

●2月3日●クルーズ客船ダイヤモンド・プリンセスが横浜港大黒埠頭で検疫体制に入るというニュース。

 この時期は、朝のワイドショーで中国の市民の様子が撮影された動画が毎日のように流れていた。武漢から帰った人が家から出てこられないように玄関のドアを近所の人たちが外からトンカチと釘で封鎖して閉じ込めていたり、武漢から帰省した親族を家に入れたくないと追い返している姿。必死さがすごい。新型コロナウイルスにはっきりと怯えている。
 私も同じくらい恐がっているのに「過剰に恐がっている姿を人に見せてはいけない」と思って「見せない」ことをがんばっているし、「こんなに恐がってる自分はおかしいんだな、気楽にならなきゃ」と常に気をつけている。
 中国人の人たちは過激さはあるけどちゃんと「恐い」という感情を表に出せていいな、と思った。だけどこれらの動画は「とくダネ!」でいつもやってる「中国人オモシロ動画」と同じテンションでお楽しみ的に流れていた。「相変わらずすごいですねえ(笑)」な感じ。
 でもそんなオモシロ映像を見たあとに「はい、新型コロナウイルス予防は…(恐がりすぎないで)」とつづく。その中国のウイルスと同じウイルスだからね?! なんで別物みたいになってんだよ! 

●2月7日●息子の保育園から発熱連絡。息が止まる。インフルエンザ検査は陰性。溶連菌は先月感染完治したから対象外。
 私は質問してないけどお医者さんの方から「普通に生活してたら新型コロナウイルスにはかからないからね」と言われた。
 私はこの時期毎日毎日、新型コロナウイルスに怯え、ドキドキドキドキしていた。だから先生のこの言葉にそんなはずないだろう、普通に生活してても感染する確率はあるだろう、と思いつつも、ホッとした。お医者さんも希望的観測として言ったのかもしれない。だけどこの時期は、世間的に「発熱=新型コロナを疑う」という雰囲気は薄かった。
 翌朝には息子の熱は下がっていた。

●2月8日~2月13日●あまりにも何もしない日本政府に対して怒りが噴出していた。個人で気をつけるのなんて限界がある。国とか大きい組織がわかりやすい対策をしてくれないと無理。自分だけ仕事休むとか学校休むとかできないから「恐がらない」っていう対策をとるしかなくなる。そんなの対策でもなんでもない。
 テレビでも池上彰が「必要以上に恐がらないで大丈夫」みたいなこと言っていた。池上彰の番組はなぜだか以前から好きじゃなくてすぐ替える。だから番組予告CMで見た。とにかくこの時期は「正しく知って正しく恐がる」「若い健康な人は過度に心配する必要はない」ということが繰り返しテレビから流れていた。
 肺炎って重い病気なのに、しかも薬が効かない肺炎ってすごいことだと思うんだけど、恐がらないって何? しかも「どんな風に変異するか分からない」って世界の専門家が言ってるウイルスなのに、対策が「恐がらない一択」って人類はどんだけ最強なんだよ。テレビが「正しく知って正しく恐がる」と繰り返すと、私みたいなのは「コロナ脳」みたいな感じで「正しく恐がってない」っていうことになる。この時期は孤独だった。
 どう考えても、日本全国にどんどん広がってるはずなのに、なんでこんなに普通に生活してんのか分からなかった。
 国が何も対策しないと、国民はどうしようもないから結果「感染しても死なないし」って楽観的方向に行くしかない。怯えても意味が無い。安心して怯えることができない。だから「怯えない」という選択を選ぶしかないんだ。
 ネットで「正常性バイアス」という言葉をよく目にするようになった。「正常性バイアスとは、認知バイアスの一種で、 社会心理学、災害心理学などで使用されている心理学用語で、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のこと」らしい。

●2月14日●新宿のらんぶるで打ち合わせ。この日以来、電車に乗らない、自宅~保育園~仕事場(自転車で移動)範囲内の生活を続けている。

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 この日の夜、子ども達が寝たあと。毎日流れるダイヤモンド・プリンセスのニュースに疲れ、コロナウイルスのことを忘れたくて、録ってあった「ザ・ノンフィクション」を再生した。婚活クルーズの回で、その船がダイヤモンド・プリンセスだった。

●2月15日●台湾に住んでいる友達とグループLINE。台湾では、マスクが足りないからという理由で公立小中高の10日までの旧正月の冬休みが2週間延長になったという。だけど一人1日2枚は特別な場所にいけばマスクを国から支給されるという。驚愕した。日本はマスク一枚、国民に配らない。配れない。手配して全国のドラッグストアに並べることもしない。そもそも、それをしなきゃいけない立場であるという自覚がないように見える。

 この日、ラジオ「ナイツのちゃきちゃき大放送」にミルクボーイがゲストで出ていた。ナイツの塙さんが「いまミルクボーイが新型コロナウイルスになっちゃたら、全国民にうつすことになっちゃうよ。東京大阪いろんなところに行ってるから」とミルクボーイの人気ぶりを表現していた。この時期はそんな感じだった。「お笑い無観客生配信」なんて言葉はなかった。

やっと国が何かを言った時期:2020年2月第3週

●2月16日●この日やっと政府が「不要不急の外出は控える・集会の自粛検討を」と言った。3週間遅い。3時間、3日じゃない。3週間。もうだいぶ感染が広がったよ。しかも「不要不急、控える、自粛検討」というのはなんの対策でもない。私たち国民の行動変容の話だけだ。びっくりした。
 手持ちのアルコール消毒ジェルもマスクも量が減ってきた。3大予防グッズ(石鹸、アルコール消毒、マスク)のうち2つが手に入らないのに、個人的に対策せよって謎すぎる。5ヶ月後にオリンピックが開催される国とは思えない。

 ワイドショーでマスク詰め放題に並んでる人についてやってた。渡されたポーチに詰めて、ポーチの口が閉めることができればOK。そのポーチがめっちゃくちゃ小さくてびっくりした。朝4時から待ったのに、可哀相すぎると思う。マスク一枚も国から配られない私たち可哀相すぎると思う。

●2月17日●厚生労働省はこの日、新型コロナウイルス感染症に関する「相談・受診の目安」を初めて公表。「風邪の症状や37・5度以上の熱が4日以上続くか、強いだるさや息苦しさがある場合」は各地の「帰国者・接触者相談センター」へ電話するよう求めた。

 結局まだ「武漢などの海外に関係がある人限定感」を出してる。

●2月18日●この日、神戸大学医学研究科感染症内科教授の岩田健太郎氏が「ダイヤモンドプリンセスはCOVID-19製造機 なぜ船に入って一日で追い出されたのか」という動画をyoutubeに投稿。

 この動画で一気に、「ヤバい事態なんじゃないか」的な怯えの爆発が起きたように見えた。当然、それまでもネット上では怯えている人や政府に怒ってる人はたくさんいたが、その数と意思表示がハッキリと爆発的に増えて濃くなったと感じた。

●2月20日●世間の危機感が高まってくるにつれ、私のノイローゼ気味なドキドキはだんだんおさまってきた。岩田氏の動画を見ても、「清潔ルート 不潔ルート」の画像を見ても驚かなかった。むしろ「知ってたよ」って思った。それで分かった。どうして自分が1月末にあんなに絶望したのか。前にも同じことがあったからだ。
 福島第一原発事故の時に放射能の知識がぜんぜんないおじさんが原発の偉い人として働いてることが分かったり、安倍首相がオリンピック招致で「The situation is under control」って言ったり、保育園が足りなくてママたちが悲鳴上げてるのに新しい競技場や選手村を作ったり、その度その度、絶望してたんだった。
 日本政府との信頼関係がそもそもないから、どうせろくな対策をしてくれないと私の心身は思っていて「みんな死ぬ」以外の未来が見えなかったんだ。1月末からずっと、日本は通常モードなのに自分だけ怯えてる感じが孤独だったけど、ここ数日で一気に私の危機感に世界が追いついたみたいな感覚になって、急に平らな場所に立てたような落ち着きを取り戻し、スッとした。
 これからは堂々と怯えることができる。新型コロナウイルスと日本政府に。

●2月21日●日本選手団が着用するオフィシャルスポーツウエアの発表会でオリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が発言。マスクを着用する報道陣や関係者を見渡し「私はマスクをしないで最後まで頑張ろうと思っているんですが、どうぞお帰りになったら手を洗うとか、特に選手は気をつけて風邪など引かないようにウイルスをもらわないように」と話していた。というニュース。

 私はこれを読んでピャーッ!っとなった。「特に選手の人は気をつけてウイルスをもらわないように」っていうところ。めっちゃビックリした。
 今の今まで、私は自分の身近な人しか心配してなくて、選手が感染したらオリンピックが大変とか1ミリも1秒も思わなかったから。身近な人は広域で言うと「オリンピック選手」も入ってる。だけどそれはその人そのものが心配なだけであって、オリンピックの心配じゃない。森さんが「特に選手は」と言うのが、立場的に当たり前のことなのかもしれないが、なんかカーッとして目が充血するような怒りを感じた。こんな時に「特に○○の人は」って言わないで欲しい。感染の危険はみんな平等にあるんだから。

 なんか、自分(孫)や自分の子ども(ひ孫)のことはぜんぜん心配してくれないおじいちゃんみたいな感じがした。おじいちゃんは、私たちのことよりも「お父さんの大事なお得意様を喜ばすイベントに出る演者さん」の体の心配をしている。その心配を子どもの私たちにも促してるような感じ。そのイベント、私は一度も楽しみって思ったことない。それよりもっと子育てしやすい環境を整えて欲しい。だけどおじいちゃんは上機嫌で、おじいちゃんのお客さんは家族全員で大切に敬わなきゃいけない空気って感じがウッ!ってなった。家父長臭がすごい!

●2月22日●この1週間、家と保育園と仕事場の往復だけしてた。だけど近所に住む友達の飲み会に誘われた。「コロナ恐い」と「みんなに会いたい」で後者が勝った。何かに触ったらその手で顔を触らないようにしよう。居酒屋はガラガラかと思ったら満席だった。いろいろな話をして楽しかった。
 帰る時、コロナの話になった。病院に勤めている友人が言った。新型コロナウイルス疑いのPCR検査の結果待ち患者が入院中だと言う。既に内科と消化器科はパニックで、どっちが診るかで押し付け合いになってる。感染専門の病院じゃないのに、保健所からは「お前のところで感染者を受け入れろ」と指示がきている。病院は陽性者が出たら外来閉鎖になるから困る。と言ってた。
 マジでよー、国は現場まかせにすんじゃねえよ。普通の病院なんていつもの外来で手一杯なのに未知なるウイルス患者なんてさばけるわけねえだろ! 

●2月23日●3月初旬に予定していた講演イベントを中止にしたほうがいいのではないか、と担当者に連絡。中止になった。楽しみにしてくださっていた方ごめんなさい。いつか絶対またやります。

デマが流れ、「基本方針」が発表された時期:2月第4週

●2月24日●70代の実母から「医療現場の中国人研究者から送られてきたメッセージです」とメールが送られてきた。内容はこれ。
「今回の武漢ウイルスは耐熱性がなく、26―27度の温度で死にます。そのため、お湯をたくさん飲む。親戚にお湯を飲ませれば予防できる。陽射しの下に行ってください。冷たい水、特に氷水を飲まないでください。お湯を飲むことはすべてのウイルスに効果的です」
とかそのあともズラーっと長く書いてある。「武漢ウイルス」って言葉は使っちゃいけないってさんざんネットで流れているので、中国人自ら書いちゃうのって変だなと思った。あと26~27度のお湯って何? それお湯なのか? そしてそれで死ぬなら新型コロナウイルスめっちゃ弱いやん。そして陽射し。2月15日にハワイ帰りの名古屋の夫婦の感染が報道されてる。ハワイでも感染するのに東京で陽射しを浴びても効果はあるのか。そして子ども達はあったかい飲み物は飲んでくれないので絶望的だなと思った。

 それを丁寧な文章でマジレスして母に返信した。
 その直後、「お湯メールはデマ、信じないで」とニュースが出て、ネット上ではお湯メールを信じる人をあざけ笑う流れになった。確かに私もこんなの信じるのさすが母、と思ったけど、高齢者はそれは必死だろう。お湯飲んで気持ちを落ち着かせられるならそれでいいじゃないかと思った。
※現在の私は、実母に対し優しく穏やかな気持ちを持っている。私の本を長く愛してくださっている読者の方の中には、その事実に混乱する方もいるだろう。これに関してはいつか、本にするかどこかで語るかしたいと希望している。なのでここでは省かせていただく。

●2月25日●この日「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を国が発表した。やっと。いま2月25日。私が手ピカジェル買ったの1月28日ですけど。1ヶ月前。信じられない。ほぼ30日経ってる。30時間じゃない。30日。ウソみたい。

 基本方針の中で「まさに今が、今後の国内での健康被害を最小限に抑える上で、極めて重要な時期である」とか言ってるけど、なんで今まで何にもしないで放置してきて感染者増えてるのに「まさに今」なの?? それを言うならもうバンバン報道が始まってた1月末じゃないのか。

 基本方針には、健康な成人や子どもは「風邪の症状や37.5°C以上の発熱が4日以上続いている」「強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある」じゃないと病院を診察してはいけない、というのがある。
 そして「症状がなくても感染している可能性がありますが、心配だからといって、すぐに医療機関を受診しないで下さい。医療従事者や患者に感染を拡大させないよう、また医療機関に過重な負担とならないよう、ご留意ください。」というのもある。
 すごく分かる。よく分かる。感染の可能性がある人が普通の病院にどんどん来ちゃったらそれだけで医療が崩壊してしまう。私もそれが1月からずっと不安だった。
 そうなるって素人の私でもわかってた。なのに、国が何か動いてる感じはまったくなくて、「病院がパンクするし、感染が広がるから、自宅で静養して」とか今週になって言い出した。気づく(?)のが3週間以上遅い上に、なんなんだその対応。怒りがすごく湧く。
 例えば中国のように突貫で病院を増やしたり、普通の病院ではない場所にコロナ外来窓口を設置するのは不可能なのだろうか。新国立競技場を検査センターにすればいいと思う。ちょうどいい。だけど絶対にそれだけはやらないな。とにかく無理だとしても「検討してるけど無理」と伝えて欲しい。と強く思った。
 「病院に来るな」は人類にとって未知なるウイルスの処理を各家庭に国が任せてるってことだ。家族1人かかったら全員かかってる可能性ある。家族4人で暮らしてる私たちは、私がかかったら夫がかかったらどこに隔離できるというのか。高齢者が危ないから子を親に預けられない。子どもがすぐ感染してしまう。つまりこれは国から「隔離病室は用意できないから、自宅を隔離病室代わりにして」と言われていることと同じだと思った。本来、防護服を着て看護しなければならない感染症にかかった家族を自宅で看護せよ、という〝基本方針〟が信じられなかった。看護している家族は、食料の調達などで外に出たり配達を玄関で受け取ったりなんらかで外部と接触しなければいけない。感染拡大させようとしているとしか思えない。
「多くの人の症状が風邪くらいのもの」という点で全ての理屈を立たせようとしていて、どれだけ国民と医療現場まかせなのか。怒りが湧き続けた。

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 買い物もお出かけも外食もしてない鬱憤が近所の文房具屋で爆発し爆買いした。

 この日の夜、北海道の鈴木直道知事が対策会議で、「休校を含めて検討すべき」と要請した。というニュース。

●2月26日●この日、香港政府が新型コロナの経済対策で国民1人に14万円の現金支給を発表。韓国はこれまでの簡易検査所だけでなくドライブスルー方式の検査所もこの日より実施した。というニュース。

この日私がFacebookに投稿してそのあと非公開にした日記より抜粋。

日本人はとにかくパニックを嫌う。だけど嫌いだから「パニック」そのものが起きないように対策するということはしない。とにかく「パニックにならない」と個人が耐えてやり過ごす、という特徴がある。何かを恐れ、怯え、パニックになって、暴れたためにそのまま別の件でさらに悪い状況になったり死んでしまう人を笑う傾向がある。だからそうならないように全力で気をつける。その特徴がいま、猛烈に発揮されている。私もその1人だ。
「風邪の症状と同じで、たいしたことないらしい。だからそんなに騒がなくていいらしい」という雰囲気のまま日本の世の中が1ヶ月経った。40代のバスガイドの女性は、陰性になったのにまた陽性になった。(※その後の経過を記していましたが、読んだ方からご指摘を受け、確認が取れないため修正しました3/31)
 最初から「変異する」っつってんのに。明日からでもいいから安倍首相が国民の命を第一に考える人物に生まれ変わって欲しい(謎の願い)。

 そしてこの日「TOKIO長瀬智也2021年にもジャニーズ事務所退所へ」のニュースの見出しを見た。「ああ、2021年って日本にも来るんだ…」とホッとした。2020年で日本終わりかと思った。

 この日の夜、大阪府は新型コロナウイルス感染症の対策本部会議を開き、広い地域から児童・生徒が通う府立高校や私立学校など2校以上で感染者が確認された場合、高校や特別支援学校など全府立学校を14日間休校とすることを決めた。というニュース。

全国休校の衝撃、な時期:2月27日

●2月27日●午後14時半。来年度のPTAの会議に参加するため小学校へ行った。そのあとクラスの保護者会。出席率は2分の1弱。コロナの配慮のため、対面にならないように席が配置されていた。全員マスク着用のまま進行した。
 担任の先生は育休明けの初めてもったクラスだったので、最後の挨拶で感極まって泣いていた。私ももらい泣きし、マスクの中に涙が流れた。本当にすてきな先生で、ありがたかった。来年も先生が担任だといいな。
「冬休みまであと3週間、よろしくお願いします」とみんなで挨拶して解散。

 そしてこの日の夜18時半。安倍晋三首相が全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請する考えを表明した。担任の先生が、私の子どものクラスで授業することは1日も無くなった。

 突然。突然やってきた、大ボス。今まで何にも言わなかったのに。
 家族が不安で必死にパニックを抑えているときに、家にも帰ってこず、連絡もよこさず、焼肉に行ったり会食したり25日には「杉田水脈を育てる会」に出席して、私たちの安全、安心には顧みなかったお父さんが、突然家に帰ってきてバカでかい案をブチ出してきた。「全国休校」。
 しかもそれ、私たちが私たちで回すだけの対策じゃん。

 この時、うわーー っとなって描いたのが下の漫画だ。

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 ●2月29日●首相の、新型コロナウイルスに関する初の記者会見。これに私は鉄の塊を脳天に振り落とされたような衝撃を受けた。
 「集団による感染をいかに防ぐかがきわめて重要」「スポーツジムやビュッフェスタイルの会食で感染の拡大が見られる事例がありました」「今回の急な対応に全力を尽くして下さっている自治体や、教育現場の皆さんにも感謝申し上げます」「各自治体における様々な取り組みを、国として全力で支援する考えです」
 ニュースで繰り返し流れ国民のほとんどが頭に叩き込んでいる情報、すでに日常としてこなしていること、を改めてゆっくり、話す。そんな人々にねぎらいの言葉を向け、励ます。応援します、な姿勢。
 このしゃべり方、どこかで見たことがある…と思ったら、天皇っぽいんだ、と思った。
 強烈な違和。そこで私は、自分の気持ち、「首相や政府に望んでいる態度、行動」がなんなのかが分かった。それは「国民の安全や命を第一に考えて行動する公僕的行動をしてほしい、するべきだ。それが政治家の仕事だ」ということだった。国民が不安を感じる前に政府が先回りして対策を講じ、災害大国として国民が陥りがちなデマや買い占めをデータ化して予測し、その予防につとめる、みたいなことを望んでいる。
 だけど実際の安倍首相の口調は天皇のそれに近く感じた。そして私がノイローゼ状態で政府に憤っていた2月中、彼らの主な仕事は貴族的行動(パーティーで来賓をもてなしたり忖度したり)だった。彼らは国民の公僕になるどころか、まず国民のほうに視線が向いていない。
 私の期待というか、「そうするべき」だという当然の前提が、現実とは真逆だから怒りが湧いていたことがこの時分かった。いや、薄々は分かっていたんだけど、こんなにハッキリと、自分と政府の希望と現実が違うとは思いたくなかったんだと思う。
 2月半ばから「首相は無能」というフレーズがネット上にあふれ出していた。そう言っている人たちは「政府はこういう仕事をするべき」という当然の前提が私と同じタイプの人だと思う。だけど、無能とかそういうことではなくて、こっちは事務アシスタントとして雇ってるつもりの人が、職種、業種を間違えてアイドルとして採用されたと思ってオフィスで歌い踊っているみたいなレベルのことなんじゃないかと思う。首相が無能というより「首相は不在」だったと思うほうがしっくりくる。

 この、「この立場の人はこうするべきなのに、やらない。そのことで私は腹が立つ、困る、怒る、悲しむ」という構図は、日常の至る所で目にする人間関係だ。
「親になったくせに育児をまったくする気がない夫にイライラする妻」「ろくに仕事をしないでこっちに面倒な作業ばかり指令してくる上司に怒る部下」などなど。
 そして、親子関係のしんどさをテーマに漫画を描くのが仕事である私にとって一番身近なのは「親なのに親として機能していない親を持つ、子ども」だ。
 親が働かず子どもに生活費を頼るので子どもが働かなければならずまともに教育を受けられないとか、親が抱えている問題に子どもが巻き込まれるとか、そういったことで子どもが子どもとして安全な環境で安心して暮らせないことがある。それを「機能不全家族」と呼ぶ。
 いまの日本は、私にとって、完全に機能不全国家だ。
 
 この機能不全な家庭(国家)から、「子ども(国民)」としてどのようにこの家庭(国家)を「機能」するように持っていくか。それを考えないといけないとこの日初めて思った。
 安倍さんを引きずり下ろすとか、安倍政権を終わらせる、それも一つの手だ。だけど、予想に反してこのあと安倍政権の支持率はアップする。
 「親から逃げ出して結婚や同棲を始めたが、配偶者や恋人が親と同じようなタイプの人で、また機能不全家族の『子ども役』になってしまう」というのは、機能不全家族で育った人あるあるである。
 貴族に政治をまかせちゃってる。貴族をボスにしちゃってる。どうしてこうなったのか、を考えたい。じゃないと選挙してもずっと、選ばれた人が貴族化するという現象は変わらない気がする。

 そんな感じで、3月に入る頃、私は政府と自分のパートナーシップを考え始めたのだった。つづく。

読んでくださってありがとうございました。 「サポート」とは、投げ銭的なシステムです。もしよければよろしくお願いします。