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お祭り

皆さんの地元って独特なお祭りってあります?

うちの地元もド田舎なんですがやっぱありますよ。毎年6月に「龍神祭り」っていうのやるんですよね。一応ジャンル的には雨ごいの祭りになるらしいんですよ。地元で祀ってる水神の龍神さまにお供えものして今年も雨よろしくオナシャス的な感じのやつです。神主さんがやる神事のターンが終わって夜になったら屋台とかもでてねー、子供にとってはそっちがメインですよ。たぶん皆さんが想像してる倍くらい田舎だからマジでクレープとか祭りのときしか食えないから大はしゃぎ。

まあ私は一回も行ったことないんですけどね!

うちの爺さんが生前まで頑なに「行くな」って言ってたんですよね。

爺さんは普段はむしろ、やれ葬式には炊き出しの手伝いにでなきゃなんねえとか、やれ墓場の掃除だとか、やれ稲荷様のお供えちゃんとやんなきゃなんねえとか地元の行事にはうるさいくらいだったんですが(まあそういうのサボると陰で色々言われるもんね)、龍神祭りだけは行くなよ、って毎年祭りの時期が近づくと何回も言われてました。

屋台がでるお祭りなんて年に何度も無いんだから行きたくて行きたくてたまらんかったんですけどね、爺さんがまたマジギレすると怖い人だったし、田舎だとやっぱ年寄りの発言力(田舎特有の、特に長男坊の)って強いし、実質のところ家主ポジションだったからまあ親に訴えたところで我慢しとけですよね。親もその日は普通に家で過ごしていました。

元々友達は少ないほうですが、学校のクラスメイトたちが、お祭り一緒に行こうーとか計画練ってるのを聞いてるのはほんと地獄でしたわ。

で、小さい頃から我慢し続けた龍神祭りですが、小学5年生くらいのときにもう我慢できなくなって、どうにか説得できないかと思って、爺さんに行っちゃいけない理由聞いたんですよ。内心めちゃくちゃビビってましたけども、もう高学年にもなったんだから多少狡猾になってますからね。まず行っちゃいけない理由を聞いてそっから説得の糸口を探ろうとしたわけです。

爺さんが比較的に機嫌が良くなる、テレビ見ながら晩酌のときに意を決して聞いてみました。

「爺ちゃんさぁー、なんでお祭り行っちゃダメなん?」

かるーく笑いながら聞いたつもりでした。あんまり不満っぽく言うとキレるからね。めんどい。ですが、その瞬間に爺さんは明らかに顔を曇らせました。
あっやべってなったんですが、なんかため息つかれました。とにかく行くなって例年通りの怒鳴り声がくるかと思ってたんで、逆にびっくりしましたわ。

「あんなもん龍神様じゃねえ」

ってぽつりと言ったんです。えっなに爺ちゃん龍神様マジで見たことあんの?って当時まだ小5にして中二病を患いはじめた私は興奮しましたね。自分ちのジジィがシェンロンでも呼び出したことがあったらことです。
あんなもんて?って続きを促したところ、酒がはいって眠いのか、それとも本当にあまり言いたくないのが、ぼそぼそ爺さんが話しはじめたんですわ。

「首みたいなもんが8つもある」

「ヤマタノオロチじゃん!」

思わず食い気味に言ってしまいました。当時中二病を(以下略)の私は日本神話などをウィキペディアで調べまくっていました。かの有名なヤマタノオロチが龍神をやっているなんて、めちゃくちゃカッコイイやんけ!と内心興奮していました。
ですが、ヤマタノオロチは八岐大蛇。蛇です。

「蛇が龍神様扱いされてるのが嫌なの?」

と私は爺さんに聞きました。
しかし爺さんはそんなに蛇嫌いだっただろうか?うっかり家の玄関に侵入してきたアオダイショウを平気でおさえて草むらへ捨てに行ったのも見たことがあったので、疑問でした。もしくは逆に、墓やら稲荷様やらを大事にしているからこそ、日本の昔話で退治されるような蛇を神様として祀り上げているのが嫌なのかと。やだそんな古事記レベルまで遡ってまで日本の心的なもの大事にされたら困るわ…と思っていたところ。

爺さんは、ちげぇ、と一言いいました。

「俺が子供のときから、昔から龍神様は祀ってるけどよ、首は1本だった」

ぼそぼそと、爺さんの声は本当に、知らない誰かに聞かれまいとするように小さくなってました。

「むかぁしのひどい台風のあと、何か変なもんと入れ替わった」

その言葉に、私もなんだか子供心にぞくっとしてしまい、怒られた後のように口をつぐんで詳細は聞けずじまいでした。爺さんもその後にすぐ、もう寝る、といって晩酌を終わらせて寝ちゃいましたからね。

爺さんの言っていた「ひどい台風」というのが一体いつのものかはわかりません。ただ、むかぁし、と言っていたので、確実に私が生まれるより前、下手したらうちの親が生まれるより前のことだったのかもしれません。

…で、実はその話を聞いたあと、どうしても気になってこっそりその年の龍神祭りに行っちゃったんですよ。行ったっていっても、子供にとってのメインイベントの屋台がでる夜じゃなくて、昼間の神社で行われる神事のときに。爺さんの話が気になって、チラッとだけ見に行ったんです。近所の大人たちは普通に見に行っているし、バレたらやだなぁとは思ってたんで、本当に遠目から少し覗いたら帰るつもりで山の中腹にある神社にいきました。

境内の真ん中で、結構な人数の大人たちが集まって神主が読み上げる祝詞?らしきものを聞いていました。こそこそと大人たちの人垣の隙間から覗くと、神主が祝詞らしきものが書いてある紙を読み上げているんですが、神主の前に、古い木板が立ってました。たぶんアレがご神体のようなものだったのでしょう。年季のはいったその木板に8つの首の龍が描かれていました。色が剥げているし遠目だったのでよくわかりませんでしたが、それでも胴らしきものから8つの長いものが生えていました。

うわほんとにヤマタノオロチだよ、と私は満足感に近いものをもってその場を離れて家へ戻りました。お祭り真っ最中の時間に家にいないとなったら怪しまれますし、怒られたくなかったので…。ただ、神社から走り帰っている最中にふとあの木板の絵を思い出し、違和感を覚えました。

あの絵で龍神様は、胴が上で、頭であるはずの8本の首らしきものが全部下を向いていました。

そういうもん、と言われてしまえばそれで終わりなのですが…。普通、生き物ならば首を上にするものじゃないのか?

爺さんの言っていた、「変なもんと入れ替わった」という言葉が妙に強く思い出されて、なんとなく不気味になり、家にはほとんど逃げるような感覚で帰ったのを覚えています。

その一件のせいで、あれから龍神祭りに行きたいとも自分でも思わなくなりましたし、結局「変なもん」の詳細を教えてくれないまま、爺さんも数年後には亡くなってしまいました。いまは地元を離れて暮らしているので龍神祭りが今でも行われているのかはわかりません。たまに実家と連絡をとっても話題にのぼることもありませんしね。

ただ、あれが本当に龍神様…ヤマタノオロチだったのか、それとも本当は別の何かだったのかと、6月になると時々思い出します。

っていう作り話です。

なんか高校生の頃にこんなん書いて、ホラー小説のコンテストに応募したかったなーっての思い出したので供養です。なんか似たような内容の小説あるって聞いたし…。あの頃はここまでクトゥルフネタが有名なんて知らなかったんだもの! 嘘だからね!こんな実体験ないからねー。

ちなみにクレープのくだりは本当なので、いまだに都会に行ったときにクレープ屋さんがあると大はしゃぎします。マボロシノクイモノ!そんなグレーさんでした。どうぞよろしくです。