6月10日

人に絵のアドバイスを受けるのが苦手です。

本当にこれは悪い癖ですわ。「うわぁ」と思った方、その気持ちめちゃくちゃわかる。こんなこと言っている奴がいたらたぶん説教かますもの。ネットとかでよく見るイキり絵描きだもの。独学です(キリッ)。やめろ耳が痛い。胸も痛い。

特に「こういうことがあったから人からなにか言われるのがトラウマで…(泣)」というのもない。一番古い記憶としては幼稚園生の頃、お絵かきの時間に私はクレヨンで白いペガサスを描いていた。(なぜか昔はやたらファンタジーなものを描いていた。家にあった童話の絵本や、ディズニーのような絵柄のメルヘンな世界観のアニメを見ていたからか?)真っ白なペガサスというのがこだわりで、かつ当時は影なんて概念がなかったものだから、輪郭線しか存在しない絵だった。それを見ていた先生が、さすがにその色味のなさにアカンと思ったのか、

「色がさびしいから、ペガサスの羽に黄色で模様つけたらどうかしら~」

と言いながら、黄色いクレヨンでペガサスの羽の輪郭のなかに、うねうねと勝手に線を描いたのだ。

当時幼稚園生のグレーさん、内心マジギレである。

自分で言うのもなんだがおとなしい子供だったし、さすがに声を荒げたりした覚えはないが、あの不快感は間違いなくマジギレというものであった。もう少し小賢しかったら舌打ちぐらいしていた。

そんなわけで、とにかくもはや本能的に自分の描いたものにアドバイスをいただくという行為がダメらしい。…とかいうとそれっぽいが、単純につまらないプライドなのである。いやもうプライドですらない幼稚な部分だ。自分でわかっているのに、それが捨てられないから本当にいつまでもガキだなと思う。

けれど、絵を描くのは好きなので、もっとうまくなりたいという気持ちから自分でネットで描き方講座を探したり、練習したりする。自分から動くものならいいのだ。「ここがよくない、こうしたほうがいい」を自分で見つければ、スッと受け止められる。聞いてもいないのに他人から「もっとこうしたほうがいい」と言われると「あっハイ…」となる。文章にしてみると刺さるわ。ほんとクソだな自分!
(フォローいれておきますが、お仕事のイラストでの修正はさすがにそういうのないですよ!安心してね!自分の好きにやってる趣味の絵の話ですよ!!引かないで!これからもなにとぞよろしくお願いします!)

結局は恥をかきたくないのだ。相手からしたら恥をかかせるつもりなんてなくて、純粋にアドバイスを言ってくれているだけだと頭では理解していても、素直に受け止められない。二十年近くこんな感じで絵を描いてきた。幼稚園生の頃よりはもちろん技術は向上したが、いまだにボロがでそうになるのを誤魔化していることに気づくときがある。

ネットの海ではたまに、普段はふざけた絵ばかり描いているのに突然とんでもなく高度な絵を描いてみせる人とかいるが、ああいうのが私には全くないのだ。私はいつでもいつものまんまです。あれができたら、きっとすごくカッコイイぜ?と羨ましくなる。羨ましいのに学ぼうとしない。ああ!!

きちんと素直にアドバイスを受け止めていたら、もっと成長できていたのではないか?そんな疑念が確信に変わった恐ろしい案件がここ数年であった。

友人のなかの一人に、「趣味としてイラストはじめてみようかなあ」と言い出した奴がいた。大体4、5年前だ。彼は本当にいままでほぼイラストなど描いたことがなかったようだが、その一言からデジタルイラストを描き始めた。もちろん最初からうまい人間などいない。絵を描く人間が通る道で、みんな見てきたようなイラストだった。私だったら「いやぁまだ人に見せるのは恥ずかしいな…」と怖気づいていただろう。学生時代の、同い年の絵描き友達だけならまだしも、まわりには美麗なイラストが大量に飛び交っているインターネットの荒波に投げ込むのは勇気がいる。困ったことに人間はイラストの技術を身につけるのに時間はかかるのに、技術の差はド素人だろうが容赦なくわかってしまうのだ。

だが、彼はその初心者時代からイラストをニコニコ動画の生放送で公開しながら描き続けた。コメントから飛んでくるアドバイスや指摘をひろったりしながら描き続けたのである。そんな彼からある日スカイプが飛んできた。

「この絵見てくれる?なんか気づくことあったらアドバイスくれー」

お前マジか!!!
あの日彼に伝わったかわからないが、私はとんでもない衝撃を受けた。自らアドバイスを求めるだと!?しかもガンガン活躍してるプロ絵描きでもなく、趣味友達レベルの私に!?もはや完全に別人種に思えた。
彼は当時、他の絵描きにもアドバイスを積極的にもらって実践していたようだ。柔軟に、ありとあらゆる方面から見た言葉を吸収していたのだ。

ちなみにそのときに添えられていたイラストは、私から見ればもう十分ええやんというレベルに達していた。十分ええやんというか、すでに私が描ける人間のイラストより上だったのだ。もはや私ごときが口出しできるレベルではないのである。
なんかもういたたまれなくなって、いやぁ私ごときが…と伝えたが、それでも何かあれば!と彼は貪欲に学ぼうとした。たしか結局、ここのツヤは質感的にいらないんじゃないかしら…、みたいな無難なアドバイスで終わった気がする。

そんな彼も、いまやプロイラストレーターに…というオチではないが、絵を描き始めたのが4、5年前とは思えないようなレベルの絵を描くようになった。以前もビッグサイトでやっていたイラストのイベントに作品が展示されていたし、某有名ソシャゲの公式イラスト集に今度イラストが載るらしい。なんだお前。スゲーなおい。

臆することなく絵を見せ、つまらないプライドの壁もつくらずアドバイスや改善点を積極的に求め、素直に吸収して学習する。清濁飲みこんだ、努力の賜物とはこのことだ。意固地になって二十年近くコソコソと進化してきた道を、奴は自分自身の窓口を大きく開くことで、数年で飛び越えていった(もちろんその間に、いろいろと苦労やトラブルもあったようだが)。はたから見ていた身としては一周して恐ろしい、純粋なある種のバケモノだ。「そう思うならお前もやりゃあいいじゃん?」と言われそうだが、…それな。うん。

そういえば彼は東方Projectの「鵺(ぬえ)」というキャラクターが好きだそうな。今までも彼はその子のイラストを数多く描いている。それはもちろん東方作品の女の子のキャラクターなわけだが、元ネタである「鵺」は古くから日本で伝承されている、様々な動物の部位をあわせもった妖怪である。そしてその名前は場合によっては、得体の知れない人物、という意味も持つらしい。

「ぬえたんはいいぞぉ!」

そんなことを言いながら奴は楽しげに絵を描いていた。
こっちからしたらお前こそが「鵺」じゃ。