眠々瀬未々

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コバルトブルー・カレーパンイエロー・ビジョンブラッド

 ぜぇんぶが宝物なんです! と彼女は、空に向かって述べました。  きちんと手は伸ばしましたか。透かしましたか。スカした顔で寒いことを言っていいのは、快速の京浜東北線に乗って、駅を通過する時だけだって知っていましたか。  死刑!  極刑!  あなたは今、副都心線のその先にいますッ!  では、囚われのルイージの為、真面目にクイズを考えましたか。そんな腑抜けものは、色塗りだって勝てませんよ。  ビジョンブラッド!  美しい紅色。私にも思い出をくれよ。  クレヨンの黒色ばかりすり減

    • 俺の名はセックス。苗字はもう射精る。

      (初出2016年)  俺の名はセックス。苗字はもう射精る。  ところで、昔々あるところに、自撮りが好きなおばあさんと、jkにリプライを送るのが好きなおじいさんがいた。つまり、第三世界において恥ずべき行為である。生きるに値しない命は畑から生えてくるのではない。地球が青いのだ。神は言った。神は死んだと。そうして人々は酒を禁じ、処女たちは私に愛を誓った。国宝はそこにあるアヴェンタドールである。ドゥーチェはそれ見たことかと言いながら3分を待たずしてカップ麺を食べ始めるのである。とこ

      • サンビタリア

         拝啓 父上 母上 夏というものは、もはや六月も八月も変わりません。須くクソ暑いという他ありませんが、いかがお過ごしでしょうか。私は、部屋のエアコンが壊れた為、ここに不快極まれりといったクソ暑い日々を過ごしています。  さて、畏まるような用事ではないのですが、一つ聞いてほしいことがあります。人の縁についてです。  三浦綾子という小説家を覚えていらっしゃるでしょうか。笑点の由来にもなった氷点を書いた、あの三浦綾子です。本題に入る前に、彼女の幼なじみである前川さんの話をさせてく

        • 猫になったので

          (2019年1月8日大学の児童文学課題として)  福岡先生が、国語の授業で言っていた。夢は宝物だよ、と。 先生の考えでは、面白いことを何回でも楽しめるように、私たちは夢を見るらしい。すると、佐々木くんが、「悪夢ばかり見るんだけど!」と言って、教室にいた私たちは大笑いをした。 福岡先生は、いかにも真面目そうな顔をしてうなずいてから、こう続けた。 「ぼくたちは、悪夢と向き合わないといけないんだ。だって人生は気まぐれなんだもの」、と。 福岡先生は、時々こういう意味の分からないこと

        コバルトブルー・カレーパンイエロー・ビジョンブラッド

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        • 2本
        • 小説
          19本

        記事

          進路

          (初出2017年)   問  最近、私はポニーテールにしている彼女の姿を見ていない。それは何故?  A.私のせい  B.あなたのせい   答  A.私のせい   前髪を二~三センチ短くして、   あの子はただ美しく笑ってた。   私もつられて笑うけどだから何。   あなたのあなたの後ろ髪。   重力引かれて落ちてった。 「ねぇ、あんたはもう決めた?」  友達の明が、私の前の空席―男子だったことは覚えているけど―に座って、後ろを向いて尋ねた。  まるで、とても高価なドー

          後ろ髪を切ったから

          (初出2017年)   問  最近、私はポニーテールにしている彼女の姿を見ていない。それは何故?  A.私のせい  B.彼女のせい  C.あなたのせい   答  C.あなたのせい  前髪を2~3センチ短くして、  あの子はただ美しく笑ってた。  私もつられて笑うけどだから何。  あなたのあなたの後ろ髪。  重力引かれて落ちてった。 「ねぇ、あんたはもう決めた?」  友達の明が、私の前の空席-男子だったことは覚えているけど-に座って後ろを向いた。  クリンとした大きな瞳

          後ろ髪を切ったから

          君のほうが

          (初出2016年)  まあ、美しいお花。  彼女は僕の用意した花を見て、そう言ってくれた。 「君のほうがこの花よりずっと綺麗だよ」  そう言って僕は花を握りつぶした。彼女はそのことにまゆ一つ動かすことなく、そのまま花があった方を見ている。僕が彼女が顔を向けている方に花を差し出したのだ。彼女は最初から僕の花を見てもいない。潰したことさえ、彼女は気付いているのだろうか。気が狂った女に、美なんて理解できるのか。花はパラパラと崩れ去り、欠片は緩やかに回転しながら落下していった。 「

          愚鈍

          (初出2016年)  愚鈍な彼にとって、クラス対抗リレーたるや恥であった。  運動の苦手な者なら存分に知っているであろう敗北感や劣等感、屈辱を、彼もまた味わっていた。クラス対抗リレーなんてものは、一握りの足に自信のあるもの達がその才覚を、人生の中では一瞬にすぎないその中で発揮するものである。駆動する足は地を蹴ってどこまでも行けそうに思うかもしれないが、その足取りは僅かな先の平凡な未来さえ見通せやしないほどの、とても小さく脆い足取りである。それでも彼らはその瞬間に絶えず輝くの

          ホッキチス症候群

          (初出2016年)  あなたの奥さんの症状は、ホッキチス症候群の方に見られるものです。ホッチキスではありません。ホッキチス症候群です。いえ、発見した人間の名前からではありません。最初の患者が確認された地名からきています。何故かといいますと、この症候群はその地域の方だけに見られるものだからであります。ええ、訪れた方も含まれます。残念ながら、治療法は確立されておりません。また、症状の進行を遅らせることのできる薬の認可はまだされておらず、現状進まないことを祈ることしかできないので

          ホッキチス症候群

          朝に弱い

          (初出2015年)  季節は夏。  外に出ると、溜息をこぼす前に汗が腕から滴り落ちた。次いで溜息をこぼす。  服装に問題はない。化粧も薄いし、髪型や髪の色にも問題はない。飲食店というと、むしろ明るい服装や髪型をしていた方が良いのかもしれないけれど、後からしていけばいい。清楚といえば聞こえは良いけれど、地味なだけだ。自分に自信がない。  額を覆う汗が時折目に入って染みた。これだから夏は嫌いだ。私は季節が変わる度に言っている。汗が入る度にハンカチで顔を拭いながら、私は暑さを助長

          眠る馬鹿

          各駅の電車で出荷する僕達の 心蝕む穏やかな朝 軽快なノイズ背中打たれているよ 布団にこびり付いたシミのような私を 引っぺがすオカルト歯車の大元 たまには快速気怠げな乗り換え エナドリの人とかあだ名が付いている 生き続けていればきっと もしかしなくてもきっと また巡り合う日々の中でそんな明日を願っている あなたの現実の私が輪郭を忘れていても 各駅の電車で帰宅する僕達の 心切り込む最後の電車 軽率な仮眠背中預けているよ 便座にこびり付いたクソのような私が 垂れ流す溜息ちり

          有料
          100

          嫉妬

           スマートフォンが圏外になって、通信が出来なくなった。私は、送信ボタンを押しかけていた指を止めて、テキストボックスに入力途中だった文章を全削除した。一時間は考えただろうか。それが数秒で無になってしまった。  乗っている電車がトンネルを抜け、窓外の陽の光が乱暴に車内を照らした。握っているスマートフォンが新しいメッセージの受信を告げるべく振動したため、私は、少しばかり鼓動を早めながら急いで送り主を確認した。  送り主は母だった。今晩、野菜炒めを作るから野菜を買って帰れとのこと。私

          こちらとそちら

           腕時計に目をやった。時刻は20時13分。彼はまだ来ないようだ。私は背後の壁画を見つめた。下半身が湾曲した男性が、胴体に対して明らかに太すぎて長い腕を空に向けて伸ばしている。空には、不気味な顔をした三日月が佇んでいて、男性を嘲笑うように見下している。空及び月は彩色豊かであり、美術に教養や関心の乏しい私でさえ、神聖なものを前にした時に感じる緊張があった。一方、男性は白と黒を基調として単純な彩色が施されており、縁取る輪郭は力なく辿々しい。  20時15分。彼はまだ来ない。私はスマ

          こちらとそちら

          でも変わらないでいいよ

          (初出2016年)  私はあなたのことが嫌い。  そう言って、彼が悲しそうに下を向くのを見つめている。そうやってすぐに悲しそうにするところが嫌い。どうしてあなたは私の言葉一つでそれほど悲しくなれるの? 私はあなたが一番じゃないの。あなたが冷たいことを言ったら悲しい気持ちになるけれど、何も手につかなくなるなんてことはないの。でもあなたは違うでしょう。私のために傷ついて、私のために何もできなくなってしまうでしょう。そういうところが、私は大嫌い。私はあなたの好きに見合わない。あな

          でも変わらないでいいよ

          Nonsense

          (初出CRUNCH MAGAZINE 2015年某月某日)  世の中には、どうにも悪意が蔓延りすぎている。そう思うのは、きっと私が人の善意の数々を見て見ぬふりをしているからなのだ。  世の中は愛に包まれている。そう思う人は、きっと愛に包まれて生きていて、愛とは当たり前のようにそこにあるからなのだ。  私は残酷な人間だと言う人がいる。普通の人に比べて、残酷な発想をすることが出来て、普通の人に比べて、残酷なことに対する耐性が強いのだ。でも、その残酷はどういう残酷なのだろうかと

          右腕

          (初出2015年)  私はメイドに右腕を差し出し、メイドの手袋をした手が、右腕の包帯を解いていくさまを眺める。私の右腕は物心が付いた頃からこうなっている。包帯が巻かれていて、肩から先の感触がなくて、体に付随しているだけの、役に立たない棒。毎日薬を患部に塗り、包帯を巻いてやっても、うんともすんとも言わない。治らない患部に薬を塗る意味はあるのだろうか。塗り薬で治るのだろうか。治すのではなく、症状を食い止めているのだろうか。何も分からないけれど、日課として既に定着しているし、健康