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【⑤ペナン島・ジョージタウン前編 ”におい”がする先にあったもの】

朝起きてホステルのテラスでタバコ吸ってたら隣に座ってた青年に話しかけられた。顔を見たときからそうだろうなって思ったが、やはりタイ人だった。

「俺もバンコクに住んでるよ」って言うと、彼も嬉しそうに驚いてた。その後も色々と喋ってると、彼は唐突にこう聞いてきた。

"Are you gay?" (あなたゲイですか?)

「違うよ」って普通に答えた。すごくナチュラルにブッこんできたから一瞬驚いたけど、タイだと別に悪気も他意もない質問なのかもな。

聞くと彼はタマサート大学の学生さんだそうな。タマサートと言えばタイでもトップクラスの名門校。タイのプーケットの話題になったら、「僕の家族はプーケットでホテル経営してるよ」とのこと。名前聞いてググってみたら四つ星ホテル。「今度プーケット来たら泊まってよ。ディスカウントするよ!」しかし1泊1万円近くするホテルだからな・・・多少割引してもらってもな・・・。

そんなホテル経営者のご子息がなんでこんな1泊600円の安宿に泊ってるのか(しかも1週間くらいいるらしい)、今何休みで何してんのか、ちょっと気になったけど逆に同じ質問されると苦しいのでぼちぼち会話を切り上げて出かける。


まず向かったのは宿のすぐ近くにあった観音寺。旧正月ということもあってか、沢山の参拝客が訪れていた。皆、線香をあげたり油を注いだり、跪いて頭を下げ熱心にお参りしていた。南無観世音菩薩が祭られてるようだ。よく分からないので俺は見学だけ。

次にセント・ジョージ教会を見学。この教会は、約200年前に東インド会社によって建てられた東南アジア初のイギリス国教会である。とは言っても、別に博物館じゃないので歴史的な展示物があるわけでもなく、いたって質素な普通の教会。200周年記念で贈呈された新品のパイプオルガンは立派だった。

これらお寺と教会、そして昨晩見たモスクは、同じ通り沿いの500m圏内に立ち並んでいる。180年ものイギリス植民地時代、その間島に入ってきた中国人、インド人、アラブ人、彼らが持ち込んだ文化と宗教ー、それらが今日まで混在し共生しているこの島の独特な個性を体感できる。ペナン島の歴史はなかなか面白いので、wikipediaちょっと読んでみると楽しいですよ。


宗教巡りはこの辺にして今日の最初の目的地を目指そう。それはコムタタワーである。

コムタタワーはペナンで一番高い(というか唯一の高層)ランドマーク的な建物である。ここへ向かう理由はただ一つ。明日のクアラルンプール行きバスのチケットを買うためである。ネットの事前情報によりここで買えることは分かっていたが、実際どこで売っててどこで乗れるのかわからない。あと明日当日行ってチケットあるかも不安なので、今日中に押さえておきたい。

ひと際高い建物が見えるので、あれがコムタタワーだろってことでそれを目指してひたすら歩く。

途中腹が減ってくる。時計を見るとそろそろ昼時だ。タワーのだいぶ近くまで来たが、ここらで昼飯にしよう。往来の多い通りは観光客向けのような小奇麗な店が多くて、つまんなそう・美味しくなさそう。なのでなるべく脇道っぽいところを探してると、うん、なかなか良さげなローカル食堂路地を発見。

その内の一軒、地元っぽい人たちが馴れた手つきでオカズとカレーをお皿に盛ってる。ショーケースの上にNasi Padangって書いてある。Nasi(ナシ)って確かマレー語でご飯って意味だったと思う。つまりPadangご飯・・・この地の名物だろうか?

ジッと見てると店のオヤジに声をかけられた。ダメもとで「Nasi Padangって何?」と英語で聞いてみると「イエス!Nasi Padang!」と笑顔で返ってきた。これは食べてみるしかなさそうである。

Nasi Padangを注文すると、ご飯だけ盛られた皿を渡される。そう、やはりここも自分でオカズとカレーをぶっかけるのである。

自己流Nasi Padangが完成した。果たしてこれがNasi Padangなのかは分からない。お値段6RM(約164円)ほど。以下、それぞれの味レビュー。

左上の緑:ウリと卵の炒め物+何かの茎
ほろ苦くてさっぱり。タイで食べる味に似てる。

その下の緑:何かの葉っぱ
思ったより苦くない。素朴な味。

一番上の赤丸:卵
しっかりと味付けされてて美味い。辛くない。

その隣の赤いの:ナス
とても柔らかくて甘い。これも辛くない。

ご飯に乗っかった赤いの:エビ
昨日食べたのと同じ料理だと思うけどここの方が美味い!トマト(?)の酸味がしっかりしていて、コクのある味付け。

ご飯に染み込んだ汁:魚のカレー
魚の旨味がしっかり染み込んだカレー。昨日のカレーと同じくしつこくなくて辛さも控えめ。

右下の赤・緑ツブツブ:唐辛子ペースト
これが一番のヒット。ほど良い旨味・塩味・辛味のバランスで、これだけでご飯食べれる。それぞれ赤唐・青唐ペーストで風味が違う。

(※ちなみにNasi Padangの正体については、インドネシアで気づいたのでそこでの話に書きます。)


お腹は美味しく膨れた。改めてコムタタワーを目指そう。しかし店を出て近くに気になるものを発見する。表通りに並んだ普通の乾物屋・お菓子屋さん、その間、というか裏に何かある。

におう。感じるのだ。この奥に、何かジメジメしてこそばゆいものが見れそうな空気を。

入ってみると一応入口にMARKETって書いてある。さらに奥へ進むと・・・

当たりだ。市場だ。

しかしご覧の通り、営業時間はとっくに過ぎてしまったようで何も売ってなかった。残り香から、肉や魚など幅広く取り扱った盛況なマーケットであったことが想像できる。

食べる用の鳥ショップの兄ちゃんもタバコ吸ってまったりしてる。時間が悪かったな残念・・・と思ったが、エスカレーターがあるので一応上も覗いてから戻ろう。


2階に上がると、服屋や靴屋が営業していた。しかしやはり客はほとんど全くいない。一応、個人的に日本に輸出してるガバガバ日本語Tシャツを普段から探しているので、店を覗いてみる。しかしそれらしきモノはない。

日の丸ワッペンが付いた珍しいPOLOシャツが気になったので何気なく手に取ると、店のオヤジ、三日ぶりの客とばかりにサイズやら色やらガンガン出して猛烈に営業してくる。

「ごめん、買わない」と断ると、「なぜ?あなた日本人でしょ?!」と激渋の表情で迫られる。

ガバガバ日本語Tシャツを愛する俺だが、世界で一番この日の丸POLOを着たがらないのは日本人だと思う。

寂れた雰囲気はなかなか良いがこんなものか、もう帰ろうと思ってると、服屋レーンの先にまだ何かあるのが見えた。

この先が面白かった。狭い店内にところせましと無造作に平置きされた本・本・本。古本屋コーナーだった。

英語の絵本からマレー語の小説、言語もジャンルもバラバラにとりあえず敷き詰められた本の数々。収まらない分は床に直に積まれている。↓のやつは特に面白かった。

コーランをタミル語に翻訳した古ーい解説本。すぐその上に積まれていたのは・・・

遊戯王である。

エジプト神話の独特な解説書ということで「宗教」カテゴリーに分けてあったのかもしれない。

もうひとつ気になる本を発見。

マレー・英語のポケット辞書だ。かなり小さいのでコレならポーチに入れられる。一応値段だけ聞いてみる。

店のオヤジ「5RMだ」
俺「高いよ。3RMにして」
店のオヤジ「じゃそれでいいよ」

値切った手前思わず買ってしまった。約82円。そこまですごく欲しかったわけじゃない、ってかそんなに使うのか自分が疑わしいが、まぁ持ってりゃ役に立つこともあるだろう。

そしてこの辞書、後でとんでもないことが発覚する。(それは後半に書きます。)


さてそろそろちゃんとコムタタワーに行くか。ふたたびランドマークに向かって歩き始める。しかしどうしても裏路地が気になって、見つけるとついつい入ってしまう。

そしてその先に・・・

また魔窟っぽい入口発見である。


しかし入ってみると中はいたって東南アジアでは普通のローカル市場だった。

衣類や靴やカバン、乾物に化粧品に家電など、色んなものがひしめき合ってゴチャゴチャ売られている。お土産とか探すならちょうど良い場所かもしれない。変な土産屋で買うより安いだろう。残念ながら俺は特に欲しいものも無かったので、軽く覗いて通り抜ける。

路地裏の隠れ市場を抜けると、これがまたさらに裏の裏だった。明らかにバックヤードだ。どこに入ればまた通りに戻れるのか分からない。


少しウロウロしてると、上裸のオッチャンに声をかけられる。You can go.(行っていいよ)って言ってる。指差す先はまた別の建屋。ここに入れば抜けられるのか?分からないが、「サンキュー」とおっちゃんに言いながら指された先に入ってみる。


入ってみるとこれがまた凄い。シャッター市場である。どれも閉まっている。人の気配が無い。しかし店先には中国語の屋号が掛けられており、それらには年期を感じさせる。

向こう側に外の光が見える。あそこが出口だろうか?もう少しここを探索したい気がするが、部外者がウロウロして良い場所なのか若干不安なのでまっすぐ抜けることにする。

光の先を覗くと・・・正解だ。ここから表通りに出られる。しかし出口よりも、そのすぐ手前にあったものに目を奪われた。

どこも閉まっている中唯一開いていたお店。お店と言えるのか、乱雑に積み上げられた段ボールとビニール袋の山の中で、もくもくと古いミシンを回すおばあちゃん。

まるでここだけ時が止まっていて、一枚の絵画のようだった。しかし実際は、今この市場でここだけが動いていて、仕事をし、何かを生み出しているのだ。

おばあちゃんは何を作ってるのだろう?作ったものは、どこへ行くのだろう?とても気になったが、仕事の邪魔をしてはいけないと思い、出口から表通りへ出た。コムタタワーが見える。今度こそまっすぐ向かって歩き始めた。

(後編へ続く)

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