「世界一やる気がない日本人」論は誤り?

 かつて日本人は勤勉だという定評があった。しかし、近年はそれに疑いの目が向けられている。たしかに主要国のなかで突出して長い正社員の年間総労働時間、極端に低い有給休暇の取得率などをみれば相変わらず勤勉なようだが、仕事に対するほんとうの意欲は高いといえない。私はそれを「やる気の空洞化」と呼んでいる。

 日本人の意欲が低いという根拠になっているのが、近年つぎつぎと発表される「ワーク・エンゲイジメント」の国際比較だ。ワーク・エンゲイジメントとは、ひと言でいうと仕事に対する積極的な関わり方をあらわす。モチベーションに近い概念である。

 各種の調査結果をみると、日本人のワーク・エンゲイジメントは主要国のなかで最も低い水準にある。たとえばケネクサというアメリカの人事コンサルタント会社が行った調査(2012/2013年)によれば、日本は調査した28カ国中最低であり、しかも極端に低い。「日本人は世界一やる気がない」といわれてもしょうがないようだ。

 ところが先日開かれた日本労務学会の全国大会で、興味深い調査結果が発表された。石山恒貴法政大学教授の研究「雇用によらない働き方におけるワーク・エンゲイジメントの規定要因-会社員とフリーランスの比較分析-」によると、会社員のエンゲイジメントは他国水準より顕著に低い一方、フリーランスのエンゲージメントは欧米諸国の水準に比べて遜色がない。

 このことは、「日本人のやる気がない」のではなく、「日本の会社員のやる気がない」のだということを示している。すなわち国際比較調査にあらわれたわが国の低い数値は、会社という組織とそのマネジメントに原因があることをうかがわせる。したがって日本企業の組織・マネジメントさえ改革すれば、日本人の「やる気」はほぼ間違いなく高くなると考えられる。

 平成の30年間、労働生産性や国際競争力における日本の地位は急落し、企業ではイノベーションや画期的な新製品が生まれない状態が続いている。その一因が「やる気の空洞化」にあるとしたら、組織・マネジメントにメスを入れることによって日本企業、そして日本の復活は可能だということだ。

「個人」の視点から組織、社会などについて感じたことを記しています。