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水滸噺番外「胡蝶の羽ばたき」第一部 ~小旋風救出~

~あらすじ~
囚われの小旋風 唾棄するは青蓮寺
黒旋風喪門神  裁くは殷天錫
錦豹子玉旛竿  火眼狻猊を馴らし
行者浪子    及時雨に涙する

水滸噺番外 注意書き
北方謙三先生水滸伝何でもありな二次創作です。
柴進の庭という、好漢たちの持つ渾名の力を色々な形で発揮できる異世界からお届けします。
・番外編ですので、がっつりネタバレしています。ご了承ください。
・作者のtwitterにて連載中です。 
・ご意見ご感想等々、こちらまでお寄せいただけると、とても嬉しいです。いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

始まり

柴進「おかしい…」
呉用「どうした、柴進?」
柴「いつもならこの時期になると、私の庭を管理する者から便りが届くのだが…」
呉「気にしすぎではないか?」
柴「なら良いのだが…」
伝令「柴進殿はいずこに!」
柴「ここだが?」
伝「柴進殿の庭が、高廉に乗っ取られました!」
柴「なんだと!?」
呉「急ぎ、公孫勝に伝令を!」
柴(まさか、あの宝が盗まれたのか?)

呉「柴進?」
柴「私を先行させてくれ、呉用殿」
呉「林冲みたいなことを言うな、柴進」
柴「青蓮寺にあの庭を奪われたら、大変なことになるのだぞ!」
呉「だから、皆で救援しようとしているのではないか!」
柴「それでは手遅れになりかねん!」
呉「お前一人で何ができる!」
柴「私ならできることがある」
呉「独断専行は許さんからな、柴進」
柴「…」

柴「…すまんな」
?「…酔狂ですね、柴進殿も」
柴「まさかお前が手引きしてくれるとは」
?「捕まっても知りませんからね」
柴「捕まるものか」
?「私も柴進殿の庭をうろうろしてますから」
柴「酔狂だな、浪子も」
燕青「…」

第一話 梁山泊出動

林冲「あの柴進の庭が、高廉に奪われた?」
宋江「梁山泊の緊急事態だ」
林「しかし、相手が高廉なら、公孫勝の野郎だけでいいのでは?」
呉用「今回は、そうもいかんのだ、林冲」
林「討伐の面子は?」
呉「朱仝、秦明、戴宗、武松、李逵は決まっている」

宋「朱仝と李逵は大丈夫か?」
呉「武松がいるから大丈夫かと」
宋「そうだな」
林「二竜山と双頭山の大将もお出ましですか」
宋「それだけの事態なのだ、林冲」
呉「山の仲間は、二人の裁量で決めてもらう」
宋「他にも、三々五々集えるものが集まって来るだろう」
林「ところで、肝心の柴進は?」

呉「それが、役にも立たん書き置きだけ残して単独で出奔した」
林「そういうところがあるからな、柴進は」
宋「柴進も、林冲に言われるとは思わんだろうな」
林「…捕らえられた可能性は?」
呉「十二分に考えられる」
宋「柴進の発見、救出も含めた戦だと思ってくれ」
林「殺されなければいいですが」

柴進「くそっ!」
殷天釈「手こずらせやがって」
高廉「それにしても、この庭で手に入った能力はなんだ?」
柴「小旋風!」
高「ぬるい!」
柴「!」
殷「高廉殿が妖術使いになられるとは…」
柴「まさかお前が…」
高「青蓮寺に至急連絡を取れ」
殷「かしこまりました」

林「初めてきた時に比べたら、随分雰囲気が変わったな」
扈三娘「林冲殿、あちらを」
燕順「二竜山からは俺たちだ」
秦明「久しいな、林冲」
鼠「よう」
林「なんだこの胡散臭い鼠は」
鼠「齧るぞ、この野郎」
林「…お前、白勝か?」
白勝「白日鼠はお天道様がいる間はネズミになっちまうらしい」

秦「霹靂火は雷の全体攻撃だ」
燕「錦毛虎は、戦う時に虎になる」
林「お前ららしい能力だ」
扈「よろしくお願いします」
王英「兄貴じゃねえか!」
燕「王英のバカの声がしたが、どこから聞こえた?」
扈「燕順殿、そこに」
王「!?」
燕「…そういう掛け合いやってたのさ、清風山の頃に」
扈「はあ」

燕「次は、小さくて分かりません、って言えよ、扈三娘」
扈「おっしゃる意味が…」
王「…」
扈「王英殿。お久しぶりです」
王「…ああ」
燕「…」
扈「矮脚虎はどんな虎ですか?」
王「…あまり見せたくねえな」
扈「なぜですか?」
王「それは…」
燕(つくづく女見る目ねえな、お前)
王(何故それを)

楊林「禍々しい庭だ…」
孟康「久しぶりだな、楊林」
楊「孟康兄貴!」
孟「近くにいたもんでな」
湯隆「俺もたまには外に出たくなって来た」
項充「俺はこの庭に迷い込んだことがあったが、まさか梁山泊所縁の地だったとは」
孟「いつの話だ?」
項「樊瑞と、李袞と一緒に、入山する直前のことだ」

楊「…ところで項充」
項「なんだ?」
楊「あの猿がお前をガン見してるぞ」
飛天大聖「…」
項「飛天大聖か!」
飛「!」
孟「懐いてるな、項充」
項「当たり前じゃねえか」
楊「あと一人は?」
項「雄州の牢にいるとか」
楊「任務か」

樊瑞「…すごく良い出番を逃した気がする」
董平「なんの?」

?「…」
湯隆「行き倒れが…」
楊林「やけにでかいな」
湯「饅頭でも食うか?」
?「…」
孟康「無愛想な野郎だ」
?「…」
湯「お前、没面目か!」
没面目「…」
項充「あのでかい二人組は?」
湯「雲裏金剛!摸着天!」
雲裏金剛「…」
摸着天「…」

孟「どうやら馴染みの奴がいると、仲間になるらしいな」
湯「頼もしいぜ」
楊「孟康兄貴、そしたらさ…」
孟「…必ず、来てくれるさ」

第二話 喪門神、黒旋風を纏う

朱仝「林冲!秦明!」
秦明「おう、朱仝」
朱「美髭公!」
林冲「…やはりお前は、この顔の方がしっくりくるな」
朱「懐かしい感触だ」
李逵「黒旋風!」
朱「…あの黒い旋風は」
李「俺に決まってんだろ、朱仝」
朱「…お前か」
李「嫌そうな顔しやがって…」

朱「強いのも料理が上手いのも認めているがな」
李「何が不満なんだ」
朱「使いどころを選んでくれ」
鮑旭「死ぬかと思いました…」
項充「団牌が必須だな」
飛天大聖「怒」
没面目「…」
湯隆「化け物!」
李「…すまねえ」

李「だけどよ、なんだかお前らとは上手くやれそうな気がするぜ」
鮑「よろしくお願いします、李逵殿」
項(なぜかこいつらのお守りをする気がしてならん)
飛「喜!」
没「…」
朱「…梁山泊一の凶悪集団の出来上がりだ」
武松「なぜだ?」
朱「お前のその格好は…」
武「行者だ」
朱「似合うな、武松」

戴宗「俺はいつでも走り放題さ」
鮑旭「さすが神行太保」

?「早速来やがったな梁山泊」
?「我らで追い払ってやろう」
林冲「あいつらで準備運動していいか?」
扈三娘「どうぞ」
秦明「たまには私も戦わせてくれ」
燕順「お手並み拝見ですな」
于直「高廉様の部下于直!」
温文宝「同じく温文宝」

林「豹子頭!」
秦「霹靂火!」
温「!」
于「温文宝!」
林「片手で相手しやろう」
于「なめるな!」
林「!」
于「」
朱「見事な予定調和だ」
楊林「俺たちの出番あるかな、兄貴?」
孟康「まあ待ってようぜ」
白勝「ねずみにゃ堪える音だ…」
秦「中々の威力だ」
林「しかしうるさいぞ、秦明」

?「前座はここまでだ」
林「どうだか?」
殷天釈「高廉殿の元へは行かせん」
朱仝「お前が柴進を捕らえたのか」
殷「どうだか?」
李「朱仝」
朱「なんだ」
李「ここは俺たちに行かせてくれないか?」
武松「俺も行くぞ、李逵」
鮑旭「私も行ってきます、朱仝殿」
朱「冷静にな」
鮑「お任せを」
項充「俺たちも行く」
飛天大聖「勇」
没面目「…」

殷「たかが六人で何ができる?」
兵「…」
林「なんという大軍…」
朱「引け、李逵!」

李「行くぞ、お前ら!」
鮑「…」
項「…鮑旭?」
鮑「血の雨を降らせてやろうぜ、黒旋風の」
項「!?」
李「喪門神か、鮑旭」
鮑「懐かしいね、その名で呼ばれるのは」

李「なんだか俺も、今日は人を殺したくて殺したくて仕方ねえや」
鮑「見ろよ、黒旋風」
李「おう」
鮑「殺し放題だ」
李「ウズウズするな」
鮑「辛抱たまらん」
李「…殺るとするか」
鮑「行くぞ、野郎ども」
武(絶対にあいつらの射程内に入るなよ、お前ら)
項(…飛刀で援護するよ)
飛(了)
没(…)

李「ハハハハハハ!」
鮑「UREEYYYYY!」
武(久しぶりに戦うのが愉しい)
項(夢に見るなこれは)
李「元気がねえなぁ、八臂哪吒」
鮑「腹から声出さねえと、てめえらから殺すぞ」
項「…わー!」
飛「キー!」
没「…!」

朱「冷静とは?」
林「援護はいらなそうだな」

殷天釈「私の軍が…」
李「ハハハハハハ!」
殷「目を背けたくなるような惨状を…」
鮑「てめえが将だな?」
殷「しまった!」
李「どうやって殺してやろうか?」
鮑「まあ待て、黒旋風」
殷「…」
鮑「死人を選ぶのが喪門神の仕事よ」
殷「」

鮑「俺の髑髏が、こいつに高廉の秘密と柴進の隠し所をしこたま吐かせてから寸刻みにしろと、言っている」
李「じゃあそうしようか!」
鮑「よし、行こう」
武「さっさと歩け」
殷「どこへ連れて行くのだ…」
鮑「良いところさ」

項「すげえものをみた」
飛「怖」
没「何も言えねえ」

第三話 神行太保万里

李逵「どうやら高廉は、この庭の宝を見つけたらしいぜ」
鮑旭「柴進殿も、この庭の屋敷に囚われているそうです」
項充(もう鮑旭の目を見て話せない…)
朱仝「お前らの捕らえた将は?」
武松「それが、殺す間際で消えた」
鮑「高廉は妖術を使うそうです」
朱「厄介な」
項「樊瑞が使えたが、任務中だ」
林「ふむ」

李逵「ところで、あの竜は?」
林冲「…いけ好かない竜だな」
竜「!」
林「なんだ!」
秦明「霹靂火!」
竜「!」
秦「効かない!?」
扈三娘「もしかして、入雲竜?」
林「道理でいけ好かない訳だ」
入雲竜「!」
林「俺ばかり狙うな!」
秦「公孫勝と連絡は取れないか?」
王英「二仙山に行くと言っていました」

林「豹子頭!」
竜「!」

戴宗「俺の出番かな?」
秦「さすが察しがいい」

竜「!」
林「この!」

秦「相手が高廉ということもあるから、公孫勝の力は必須だろうな」
戴「任せてくれ」

竜「!」
林「妖術か!」

朱「俺たちは別部隊として動かないか?」
秦「伝令の手段は…」
戴「俺の部下を使ってくれ」

竜「!」
林「つよい!」

戴「王定六も来るだろう」
秦「私と相性が良さそうだ」
戴「もしかしたら、呼べるんじゃないか?」
秦「皆、耳を塞げ」

竜「!」
林「おととい来やがれ!」

秦「霹靂火!」
王定六「なんだ!」
戴「よう、活閃婆」

林「お前ら見たか!豹子頭の勇姿を!」
秦「少し黙れ、林冲」

李逵「戴宗」
戴「なんだ」
李「これは大事な仕事なんだから、酒飲むなよ」
戴「…」
李「生臭も食うなよ」
戴「…」
李「若い奴に説教するなよ」
戴「…」
李「この3つの約束を守れるなら、俺が最高の精進料理を二仙山の仕事が終わるまで賄ってやる」
戴「…頼む」
李「よしきた!」
戴(しかし、なぜこうも釈然としないんだ)

戴宗「だいぶ走ったな」
李逵「そろそろ水を飲もう」
戴「ああ」
李「…」
戴「…!?」
李「戴宗?」
戴「やっちまった…」
李「まさか…」
戴「水を入れる筒に酒を入れたままだったのを忘れていた…」
李「すると?」
戴「…西域まで行ってから、二仙山に向かうことにしよう」
李「土産に絹でも買ってきな」

第四話 妖術

高廉「役に立たんな、お前も」
殷天釈「…」
高「妖術とやらを試してみるか」

林冲「ちょろい奴らばかりだ」
秦明「フラグを立てるな、林冲」
扈三娘(秦明殿がいると、安心感が違う…)
燕順「朱仝たちは?」
秦「柴進救出部隊として動く」
楊林「…」
王英(私情を挟むなよ)

白勝「俺は夜だと足手まといじゃないか?」
秦「安心して医術を任せられる者が、足手まといのわけがない、白勝」
白「秦明殿…」
扈(優しい…)
林「任せたぞ、白勝」
白「がってんだ」

林「…」
扈「林冲殿?」
秦「…皆、気をつけろ」
楊「嫌な風が吹いてきた…」

高廉「私の庭にようこそ、梁山泊の諸君」
王英「相変わらず憎たらしい面だ」
楊「俺たちで打ち取るぞ、王英」

高「暗!」

林「何も見えん!」
秦「みだりに動けん…」
燕「攻められた時の備えをするぞ!」
王「俺もか、兄貴?」

高「攻めろ!飛天神兵!」
燕「錦毛虎!」
王「…矮脚虎!」

兵「!?」
燕「虎は夜目が利くな」
王「他の連中を助けないと…」

林「視界さえ戻れば…」
扈「勘で剣を振り回すのも…」

楊「錦豹子!」
王「地味で根暗な楊林が…」
燕「輝くようなイケメンに…」
秦「皆、楊林の光の元に集まれ!」
林「こんな時は声がでかいと便利だな」

高「小癪な」
楊「くたばれ!」
燕「!」
王「!」
秦「さすが錦毛虎は毛並みがいい」
扈(矮脚虎、可愛い…)
高「疾!」
楊「!?」
秦「何という突風だ」
燕「くそっ」
扈「!?」
王「扈三娘!」

燕「さっさと行け!バカ」
王「兄貴!」
燕「好感度を稼げ!」
王「言ってる場合か!」
燕「!」
秦「燕順!」

高「まずは虎を一匹、毛皮にしようか」
?「…」
高「何者だ!」
燕「…よう」
扈「闇が晴れてきました…」
王「お前は」
秦「白面郎君か…」
白面郎君「…」

白勝「秦明殿…」
秦「…分かった」

高「引け!」

燕「助けられたな、白面郎君…」
白「…」
王「…久しぶり、か?」
白「…」
王「…」
白「!」
王「痛え!」
扈「白面郎君!?」
燕「お約束だ」

第五話 童

高「厄介な梁山泊の死に損ないが出てくるな…」
殷「援軍を頼むのは?」
高「目処は立っている」
殷「この面子は…」
高「今は、私たちの味方さ」
殷「ところで、こいつは?」
白勝「…」
高「逃げ遅れた鼠だ」
殷「殺しますか?」
白「…」
高「殺すよりも、痛ぶる方が我らの性に合うだろう?」
殷「王和様のような事を…」

林冲「…白勝は?」
秦明「高廉に囚われた」
林「なんだと!」
秦「策がある、と言っていた」
林「あいつに何ができる!」
秦「白勝を、信じた」
林「…」
秦「お前の友の言うことならば、信じてもいいだろう?」
林「…そうだな」
扈(なぜ秦明殿ってこんなに頼もしいのですか、燕順殿?)
燕(二竜山全員の雷親父さ)

楊林「…俺が行くのかよ」
王英「くじの結果だ」
楊「イカサマじゃねえだろうな?」
王「あっちにゃ孟康もいるじゃねえか」
楊「任務には、私情を挟むな」
王「分かってるなら」
楊「だが、この感情はどうすりゃいい?」
王「…餓鬼じゃねえんだ。てめえでなんとかしろ」

楊「…朱仝の軍と合流します。秦明殿」
秦「楊林」
楊「…」
秦「もしも事が済んだら、柴進を一度殴っていいぞ」
楊「秦明殿!?」
秦「私が許可する」
楊「…それでは!」
秦(…梁山泊も色々あるな)
扈「秦明殿」
秦「…何かな、扈三娘」
扈「皆にお優しいのですね」
秦「!」
燕(自分の頭に霹靂火が…)

李逵「結局俺だけじゃ、二仙山なんて分からねえよ」
童「!」
李「どうした、坊主?」
童「!!」
李「泣いてるだけじゃ分からねえよ」
童「!!!」
李「…元気がいいな」
童「!!」
李「坊主は泣くもんだからな」
童「!」
李「泣き止んだら、なんか食わせてやるよ」
童「…お前、本当に天殺星か?」

李「…爺みたいな声だな、坊主」
羅真人「坊主ではない」
李「いつの間に爺に!」
羅「…」
李「いや、婆か…」
羅「どうでもいい」
李「あんたは?」
羅「ついてこい、天殺星」
李「…俺のことか?」
羅「一清を連れてきたんだろう?」
李「誰だ?」
羅「…いいからついてこい」
李「戴宗が…」

羅「天速星なら西域で葡萄酒をしこたま飲んだ後、直接梁山泊だ、天殺星」
李「俺が兄貴になって、酒を辞めさせてやる」

第六話 母子

公孫勝「李逵か…」
李逵「戴宗の馬鹿は話にならねえ」
公「あの庭の話だが」
李「俺に難しい話しても無駄じゃねえか?」
公「そうでもない」
李「…聞くだけ聞いてやるよ」
公「…もしも柴進が、この国の帝だったとしよう」
李「柴進が?」
公「帝になり、壮大な庭を拵えたとする」
李「やりそうだ」

公「柴進はそこに、大切な宝物を隠したい」
李「…」
公「どこに隠すと思う?」
李「…勘だぞ」
公「聞こう」
李「柴進のことだ」
公「…」
李「宝の地図を作り、庭の名所に謎解きを作って…」
公「…」
李「全ての謎を解き明かすとようやくその宝にたどり着く、と考えたんだが…」
公「…」

公「…」
李「俺たちからすれば、一番分かりやすい所に、ご丁寧な宝箱があるんじゃねえかな?」
公「…見つけたのか、李逵?」
李「…入り口すぐのでけえ彫刻の足元に、空いた箱があった…」
公「…」
李「…嘘だろう?」
羅真人「それが天貴星よ、天殺星」

李「その宝ってのはなんだ?」
公「少し難しいが、聞くか?」
李「頑張るぜ」
公「柴進の先祖は柴栄という」
李「柴栄さんな」
公「彼は非常に優秀な王だったのだが、早死にした」
李「残念だが、ありそうな話だ」
公「ここからは、滅多にない話になる」
李「なんだ」
公「柴栄は周という国を建てていた」
李「周な」
公「周は、天下を統一する直前までいったのだが」

李「…その時に死んじまったのか?」
公「子どもこそいたものの、まだ赤子同然だった」
李「…」
公「そこで部下の者たちは、柴栄配下で一番の将軍を帝にした」
李「酷えな」
公「そしてできた国が、宋だ」
李「…宋?」
公「…今私たちが戦っている国だ」
李「そうだった!」

公「しかし、宋の帝は柴栄の一族を特別扱いした」
李「当然だ」
公「宋国の帝は、柴栄、柴進の一族を保護し続けること、と」
李「そりゃ凄え」
公「丹書鉄券という書がその宝だ、李逵」
李「…公孫勝?」
公「…」
李「そんな柴進の大事な秘密を、なんで知ってんだ?」
公「一度だけ酒に付き合った時に、聞きもしないのに話してきた」
李「本当、そういう所なんだよ、柴進」

公「私も柴進の庭に行くぞ」
李「何してたんだ、公孫勝?」
公「入雲竜を使いこなさないと、高廉には勝てん」
李「林冲と戯れてたぜ?」
公「…」
羅「くそったれ天雄星か…」
李「羅真人さんよ」
羅「なんだ、天殺星」
李「言葉が汚いぜ?」
羅「」
李「師匠ならよ、そういうところをきちんとしねえと、弟子はついていかないぞ?」
羅「」
李「武松の兄貴の師匠みたいに、立派な師匠になりなよ」
羅「」
公(師匠が李逵に説教されてる…)

羅「明日の朝に山を降りろ、一清」
公「かしこまりました…」
李「飯だぞ」
公「…」
羅「ほう」
李「今日の雑炊は自信作だ」
羅「わしにもくれ」
李「仙人は霞食うんじゃねえのか?」
羅「風評被害だ」
李「公孫勝」
公「…」
李「…」
羅「?」

李「…食うぞ」
羅「天殺星、椀が四つあるぞ?」
李「…母者の、分だよ」
羅「…呼んでこようか?」
李「…呼べるもんならな」
羅「飯だぞ、お袋さん」

母「あら、美味しそう」
李「!?」
母「私の好物ばかりね、逵」
李「???」
母「いただきます!」
李「…これは夢か?」
公「…」
羅「!」

母「腕をあげたわね、本当に」
李「…母者?」
母「何?」
李「…喋れんのか?」
母「ええ」
李「…痛く、なかったか?」
母「…逵や」
李「…」
母「おいで」
李「…すまねえが、二人にしてくれるか?」
羅「…」
公「…」

羅「…一清」
公「…」
羅「…すまぬ」

第七話 首飾り

李逵「…」
公孫勝「…」
羅真人「…達者でな、一清」
公「…せいぜい長生きしてください」
母「気をつけてね!」
李「おう!母者も元気でな!」
母「もう死んでますよ〜」
李「うるせえ!」
公「…」
李「…綺麗な山だな」
公「見た目だけさ」

女「…あの」
李「…こんなところで、何をしてんだい、姐さん?」
公「…」
女「…あなたに、お兄さんはいますか?」
李「…でっかいのと、小さい兄貴が」
女「…もしも、その小さいお兄さんに会われたら、これを渡してもらえますか?」
李「小さい兄貴っていうと、武松の兄貴か?」
女「…」

李「兄貴に似合いそうな首飾りだ…」
女「…」
李「あんた、名前は…」
公「帰ったぞ」
李「いつの間に!?」
公「…用事があるとさ」
李「…どこかで会ったような姐さんだ」
公「…そういう、山なのさ」
李「急ぐぞ、公孫勝」
公「…」

藩金蓮「…」

朱仝「柴進の救出だが」
楊林「俺が」
武松「俺も行こう」
孟康「武松が行くなら、俺も」
楊「大丈夫か、孟康兄貴?」
孟「俺だって、あいつの弟分さ」
朱「鮑旭の情報によれば、高廉は柴進の屋敷を拠点にしているという」
楊「その屋敷のどこかに捕らわれてるんですね?」
朱「そう考えるのが自然だ」

武「別にいる可能性も」
朱「もちろん考えられる…」
楊「俺たちは一箇所しか攻められません」
朱「…」
楊「俺は、朱仝殿の命令で動きます」
朱「いいのだな、楊林」
楊「はい」
朱「俺は馬鹿正直だからな」
楊「…」
朱「馬鹿正直に、屋敷を探ってくれ」
楊「了解」

武「あれが屋敷か…」
楊「嫌な気がプンプンするな…」
孟「ところで武松」
武「…」
孟「この眼が金色の小さい猫は知り合いか?」
猫「…」
武「…金眼彪か」
彪「!」
楊「可愛いな」
彪「当!」
武「…こいつがいたら、罠の場所が分かりそうだ」
楊「役に立つな」
彪「是!」

孟「…俺の玉旛竿を試していいか?」
楊「見せてくれよ、兄貴」
孟「玉旛竿!」
楊「綺麗な旗になっちまった…」
武「…錦豹子になって振ってみたらどうだ?」
楊「…錦豹子!」
武「振れ、楊林」
楊「…」
武「…器用なもんだな」
楊「…だからなんだってんだよ!」
孟「こんな能力使ったところで…」

火眼狻猊「…」
孟「!」
楊「火眼狻猊…」
火「!」
武「これだけ揃えばいけるか?」
楊「絶対にいけるな、火眼狻猊」
孟「俺も乗せてくれ」
火「!」
彪「怖」

第八話 小旋風受難

柴進「…」
高廉「随分痛めつけられたな」
柴「…」
高「…お前と話したいという方が、お見えになった」
柴「…帝か?」
袁明「そう見えるか?」
洪清「…」
高「警護は万全に…」
洪「高廉」
高「…」
洪「私が、来ている」
高「…失礼いたしました」
柴(青蓮寺の重役か?)

袁「梁山泊の柴進か」
柴「…」
袁「気分はいかがですかな、大周国皇帝陛下?」
柴「…反吐が出そうだ」
袁「皇帝陛下はご気分が優れないそうだ、洪清」
洪「…それではスッキリさせて差し上げましょう」
柴「!?」
袁「反吐が出ましたな、皇帝陛下」
柴「…」
袁「今のは死ぬ拳か、洪清?」
洪「陛下はご気分が優れないので、撫でて差し上げたのです、殿」
袁「そうか、撫でたのか」
柴「…」

袁「丹書鉄券か…」
柴「…」
袁「それだけ高貴な血をもちながら、なぜ叛徒に?」
柴「…宋が、腐っているからだ」
袁「それで?」
柴「…だから、梁山泊に加わったのだ」
袁「…よく分からんな」
柴「…何がだ」
袁「宋が腐っている。それは私がお前などよりも遥かに分かっている」
柴「…」

袁「しかし、次の言葉が全く分からん」
柴「…」
袁「だから、梁山泊に加わった、だと?」
柴「何がおかしい?」
袁「宋が腐っているから賊徒になる。そんな輩は宋に掃いて捨てるほどいる」
柴「梁山泊は賊徒ではない!」
袁「…分からん皇帝陛下だ」
柴「分からんのは私だ、袁明!」
袁「…」

袁「私の名を当てたところでどうでもいい」
柴「…」
袁「お前は私が一番嫌いな人種だ」
柴「それは光栄だ」
袁「なぜ嫌いなのか、逐一教えてやろう」
柴「暇だな、青蓮寺も」
袁「お前は自分の置かれた立場を、まるで分かっていない」
柴「…」

袁「明日食う麦もない農民が、食いつめて賊徒になる。これは、分かる」
柴「…」
袁「腐った役人に貶められた怒りで叛徒になる。これも、分かる」
柴「…」
袁「しかし」
柴「…」
袁「世が世なら皇帝の座にいる血筋の男が、上っ面の政の不正に腹を立て、反乱に加わる…」
柴「…」

袁「全く分からんと思わないか、洪清」
洪「道楽ですな」
柴「道楽、だと…」
袁「高俅の蹴鞠の方が、まだましだ」
洪「蹴鞠にだけは真摯ですからな、高俅は」
柴「私が梁山泊に真摯ではないと言いたいのか」
袁「今のご自身の有様を見て物を言うのだな、皇帝陛下」
柴「…」
袁「帰るぞ、洪清。案の定だが、不愉快極まりない」
洪「そうですな」
柴「…」
袁「…」
洪「…お前の道楽で、何人死なせた?」
柴「!」

柴(私の志は、道楽ではない!)

柴(本当に?)

兵「さっさとこいつをしょっ引いてこい」
兵「なんだよこの酔っ払いは」
?「仕事なんて放ったらかして飲もうじゃねえか!」
兵「酒臭え」
兵「面は綺麗なのにタチが悪すぎる」
?「分かってんじゃねえか、助けてくれよ」
兵「黙れ!」
兵「薄汚え浮浪者め!」
?「さっき綺麗って言ってくれたじゃねえかよ」
兵「さっさと入れ!」
?「そういうのをいけずっていうんだぜ?」
兵「気持ち悪い」

柴(なんだこいつは…)
?「…助けに来ましたよ、柴進殿」
柴「お前は…」
燕青「さっきの浪子は見なかった事にしてくださいね」
柴「燕…」
燕「柴進殿」
柴「…雲壁と呼ぶよ」
燕「じゃあ私も柯引と呼びますね」
柴「なぜだ?」
燕「なんとなくです」
柴「なんとなくか」

第九話 脱兎の如し白日鼠

鼠「…おい」
柴「鼠が!」
燕「…白勝か?」
白勝「察しがいい奴がいると助かるぜ」
柴「白日鼠、だったな」
白「今はお天道様が出てる時間らしい」
燕「夜は戻るんだな」
白「頭いいな、燕青」
柴「あと顔もな」
燕「…念のため、ここでは雲壁と呼んでくれ」

白「…俺が助けられなくてすまない」
柴「なんの」
白「まさか、袁明が来ているとはな…」
燕「本当か?」
柴「あと、その護衛にも介抱されたよ」
燕「洪清まで…」
白「俺は鼠のうちにここを脱出して、林冲か秦明に知らせてくるぜ」

兵「そういえば、あの鼠野郎はどこ行った?」
兵「逃げたのか?」
兵「いないのはおかしい」
兵「探せ」

白「鼠呼ばわりしやがって」
柴「今は鼠じゃないか」
白「…じゃあ、ちょっくら」
燕「捕まるなよ」
白「伊達に鼠呼ばわりされてねえ」
柴「頼もしい」

白(とは言ったものの)

兵「どこだ鼠野郎!」
兵「鼠一匹逃すな、と高廉様のご命令だ」

白(そいつは困るな)

白(日が落ちねえうちに脱出しねえと…)

兵「鼠だ!」
兵「どっちの!?」
兵「鼠の方だ!」
兵「だからどっちだ!」

白(いけねえ!)

兵「ただの鼠か」
兵「袋の鼠にしてやる」

白「…」

兵「叩き潰せ!」
白「!」
兵「痛え!」
兵「噛まれるなよ!」
白(窮鼠人を噛むってな)

兵「絶対に許さねえ」
兵「鼠ごときに…」
白(なら捕まえてみやがれ)

洪清「…騒がしい」
兵「洪清様!申し訳ございません」
白(まずい!)
兵「すぐに鼠退治を…」
洪「この程度のことを…」
白(畜生!)
洪「…さっさと殺さないか」
兵「今すぐに!」
白(男になれ、白勝…)
洪「いや、私が殺すとしよう」
白(…怖すぎて動けねえ)
洪「たかが、鼠の一匹…」
白(すまねえ、林冲、安道全)

洪「!」
白「なんだ?」
?「鼠!」
白「お前は!」
?「早く来い!」
白「ありがてえ!」
兵「洪清様?」
洪「何かに刺された…」
兵「蜂ですか?」
洪「…分からん」

?「生憎、俺の親方はもっと小さい」
白「死ぬかと思った…」
石勇「大丈夫か白勝」
白「ありがとよ、石勇と鼓上蚤」
鼓上蚤「」

石勇「よくここまで調べた、白勝」
白勝「おう」
石「ここからは俺の仕事だ」
白「頼んだぜ」
石「出るなら今のうちだ」
白「隠れながら、林冲たちと合流するよ」
石「頼んだぜ」
白「お前の渾名は?」
石「」
白「どこいった?」
石「石将軍さ」
白「なるほど」
石「じゃあな!」
蚤「」
白「死ぬなよ」

白「娑婆の空気はやっぱりうまいな」
虎「…」
白「妙な虎だな…」
虎「…」
白「お前、もしかして病大虫か?」
病大虫「…」
白「…いいこと思いついたぜ」

第十話 火眼狻猊乱舞

武松「騒がしいな…」
楊林「柴進の馬鹿がいる気がしてきた」
火眼狻猊「!」
楊「静かに吠えてくれよ…」
金眼彪「怖」
武「…」
彪「好」

兵「獣の匂いがしないか?」
兵「血なまぐさい…」

孟康「さっきから気になってんだがよ」
楊「…」
孟「火眼狻猊がずっと食ってるもんは、なんだと思う?」
火「…」
楊「…兄貴の方も、もう一度考えを咀嚼してみるといいんじゃないかな」
孟「…噛み砕いて言うぞ」
楊「…吐き出しちまえ、兄貴」
孟「飲み込みの良い弟分だ…」
火「!!」
孟「やっぱ俺たちじゃ飼いならせねえ!」
楊「武松なら一人でなんとかなるだろ!」

兵「敵襲!」
兵「赤目の獅子が!」

彪「怖」
武「…」
彪「好」

高廉「赤目の獅子だと!?」
殷天釈「梁山泊か!」
洪清「甘いな、高廉」
高「洪清殿がいれば…」
洪「私は、袁明様の護衛だ」
高「…」
洪「はき違えぬ様に」
高「…はい」
洪「…」
高「ところで、袁明様は?」
洪「私がいる」
高「…失礼いたしました」

殷「赤目の獅子が味方を…」
高「酷い…」

楊「…」
孟「…菜食主義者に、俺はなる」
火「♪」

石勇「…何か始まりましたな」
蚤「」

袁明「…」
石「袁明が一人で?」
袁「…」
石「今なら俺でも…」
蚤「!」
石「!」
蚤「」
石「…間者は間者の分を弁えた仕事をしろ、ですよね」
蚤「」
石「もう少し様子を見よう」

武「騒ぎの内に、柴進を…」
金「!」
武「どうした、金眼彪?」
金「嫌」
武「こちらの道は良くないのか?」
金「是」
武「…俺の恵方は?」
金「上」
武「上だと?」
石「!」
武「なるほど」

石「色々と情報があるが」
武「一番大事なものを言え」
石「袁明と洪清がいる」
武「なんだと」
石「お前なら倒せるだろう?」
金「嫌!」
石「なんだ、そいつは?」
武「金眼彪さ」
石「洪清さえ倒せば…」
金「嫌!」
武「…こいつの予感は良く当たる」
石「…そういうことなら」
金「是」
武「柴進の救出を優先しよう」
石「分かった」

袁明「…」
高廉「袁明様!」
袁「酷いものだな、高廉」
高「火眼狻猊という獅子が…」
袁「柴進は、どうでも良いぞ」
高「袁明様?」
袁「お前が拘るのは構わないが、私はどうでも良い」
高「…殺せと?」
袁「関心はない」
高「…ところで、洪清殿は?」
袁「ここにいる」
高「…どこに?」
袁「一度しか言わん」
高「!!」

火「!!」
孟「もう腹が減ったのか」
楊「勘弁してくれよ…」
火「!!」
孟「玉旛竿!」
楊「兄貴、ずるい!」
孟「やかましい!」
楊「錦豹子!」
火「」

楊「…これで言うこと聞くのか?」
火「」
楊「お手」
火「手」
楊「伏せ」
火「伏」
兵「いたぞ!」
兵「毒矢で殺せ!」
楊「突撃」
火「!!!」
兵「」

袁「酷い匂いだ」
高「袁明様は開封府に」
袁「屋敷から出られるか?」
高「私の命に代えて」
洪清「貴様の命は他で使え」
高「」
洪「帰る」
高「…かしこまりました」

殷天釈「洪清殿、赤眼の獅子が」
洪「私に襲いかかってくるなら戦おう」
殷「」
洪「そうでないなら、口をきくな」
殷「」
洪「…一人、供を残そう」
殷「それは?」
洪「役にたつぞ」
周炳「…」
殷「こんな餓鬼が…」
周「」
殷「!」
洪「お前よりもな」

第十一話 行者の夜

柴進「上が賑やかだな」
燕青「誰が来ますかね」
柴「賭けようか?」
燕「…」
柴「雲壁?」
燕「楽しいんですか、柯引は?」
柴「そういうわけでは、ないが…」
燕「悪気なく言っているのは分かります」
柴「…」
燕「ですが、あなたの言葉は、知らぬ間に周囲を傷つけているのですよ」
柴「…考えてみる」
燕「…出すぎたことを申し上げました」
柴「いや、礼を言わせてくれ、雲壁」
燕「…」
柴「苦言を呈してくれる者がいなくなったら、おしまいだものな」
燕「…柯引の小旋風は何かに使えないですか」
柴「…そうだな」

武松「…血に酔いそうな夜だ」
石将軍「」
武「見なかったことにしたい気持ちは分かるぞ、石勇」
金眼彪「危!」
武「金眼彪?」
洪清「…」
武「出会ってしまったものは、しょうがないか…」
石「」
武「金眼彪を連れて行け!」

洪「…名は?」
武「行者の武松だ」
洪「洪清という」
武「あいにく、俺は血に酔い始めてな」
洪「…」
武「今のお前の顔をぐしゃぐしゃにしたくてしょうがない」
洪「…奇遇だな」
武「…」
洪「…私もだ」
武「…」
洪「…」
武「!」
洪「!」

石「どっちに行けば良い、金眼彪?」
彪「止!」
石「」

兵「ちくしょう、どうすりゃいいんだ」
兵「屋敷を燃やして、仕切り直すらしい」

石(なんだって?)
彪「行!」
石「どういうことだ?」
彪「風!」
石「どうした?」
彪「右!」
石「おう!」
彪「左!」
石「…」
彪「止!」
石「」

兵「戦の支度をしろ!」
兵「キザ野郎は捨て置くとさ」

石(柴進のことか?)
彪「行!」

錦豹子「闇雲に旗振るだけってのもなあ、兄貴」
孟康「もう後には引けねえぞ」
火眼狻猊「!!」
楊「火眼狻猊?」
孟「俺を振れ!」
楊「止まれ!」
火「!!」
楊「だめだ!言うことを聞かねえ!」
孟「レベルが上がりすぎたのか?」

彪「怖!」
石「金眼彪?」

火「!!」
石「」
楊「金眼彪じゃねえか」
石「楊林!」
楊「石勇!」
孟「いたのか?」
石「旗が!」
楊「玉旛竿の兄貴だ」

火「好」
彪「嫌!」
鼓上蚤「!」
火「!」
彪「?」

石「金眼彪が何かを感じているらしい」
楊「火眼狻猊!」
火「…」
楊「金眼彪に習え!」
火「諾」
金「下!」
石「下?」
孟「隠し扉か」
楊「ぶっ壊せ、火眼狻猊!」
火「!!」

第十二話 化物の宴

武松「!」
洪清「!」
武「愉しいなあ、おい」
洪「…お前は私と似ている」
武「…」
洪「影の如く主君に尽くし」
武「自分を殺して生きてきた」
洪「一度己を剥き出せば」
武「阿鼻叫喚が子守唄」
洪「…敵なのが惜しいと思ったのは、お前が初めてだ」
武「お前は俺なのか、洪清?」
洪「私は、私を殺したくて仕方ない…」
武「その私ってのは?」
洪「お前のことさ」
武「」
洪「」

柴進「おう、きてくれたな」
孟康「柴進!」
錦豹子「ぶっ壊せ、火眼狻猊!」
火眼狻猊「!!」
柴「ありがとう、皆」
楊「燕青もいたのか!」
燕青「ああ…」
石勇「高廉はこの屋敷を燃やして、仕切り直すと」
柴「…そうか」
孟「さっさと出るぞ、柴進、燕青」
柴「分かった」
燕「…」
金眼彪「急!」
楊「出ろ!火眼狻猊!」
火「!!」

石「…燕青?」
燕「…少し、散歩に付き合ってくれ」
彪「…」

武「汚ねえ顔して笑うな、洪清」
洪「お前には隠し事をしたくないんでね」
武「まだあんだろ?」
洪「さて?」
武「てめえの主は何処にいる?」
洪「お前の後ろの正面さ」
武「なんだと?」
袁明「やあ」
武「!」
洪「」
武「!?」

洪「岩のような身体だ」
武「…」
洪「汚く笑いながら立ち上がるか…」
袁「洪清、血に飢えているのは分かるが…」
洪「…」
武「…待て」
洪「…」
武「…くそっ」

石「散歩ったって燕青」
燕「気まぐれさ」
石「…燕青?」
金「止!」
石「」
洪「…」
石(洪清…)
洪「…」
石(武松は?)
洪「…」
燕「…」

石(何をしている、燕青!?)
燕「酔っ払いが迷い込んでしまってね」
洪「…」
燕「凄え血の匂いだね。化物の大宴会でもあったのかい?」
洪「…違いない」
燕「あんたからも、えらい血の匂いがするよ」
洪「…」
燕「この館の量と、どっちが多い?」
洪「…私、かな」
燕「そいつは怖い」
洪「…」
燕「やれやれ。今宵の月はこんなに綺麗だってのに。血化粧なんて施されちゃかわいそうじゃねえか?」
洪「…」
燕「…」
洪「…また会うな」
燕「ごめんだよ、爺さん」

石「…行ったのか」
燕「見なかったことにしてくれよ」
石「一体何を…」
燕「気まぐれだよ」
彪「!」
武「よう、金眼彪」
石「武松?」
武「負けた…」
燕「珍しいな」
武「少し、休んでいいか?」
燕「貸しだぞ」
武「」
燕「!」
石「火の手が!」

燕「ゆっくり、しすぎたかな?」
石「何を呑気な…」
彪「怯」

柴「燕青と石勇は?」
孟「牢屋でばらけちまった…」
楊「武松もいないぞ!」
孟「もう火が回って…」
柴「そんな…」
朱仝「柴進!よかった」
楊「よくねえんだよ!」
孟「武松たちが屋敷に…」
朱「なんだと!」

林冲「…雨か?」
秦明「嫌な気を洗い流してくれそうな、雨だ」
林「霹靂火はいらんな」
秦「今暫し、音を感じていよう」

燕「恵みの雨か…」
石「それって…」

朱仝「…及時雨が、降った」
柴「泣いている…」
楊「…誰が?」
柴「誰もが、さ」
楊「キザ野郎…」

燕「…」
武「…」

宋江「…」

袁「…」
洪「…」

袁「愉しかったか、洪清?」
洪「…」
袁「答えてよい」
洪「…少し」
袁「…そうか」

人物紹介

梁山泊
宋江(そうこう)及時雨(きゅうじう)を降らせる。それは恵みの雨になったのか。
呉用(ごよう)智多星(ちたせい)だが、その星はまだ輝かない。
公孫勝(こうそんしょう)入雲竜(にゅううんりゅう)は、林冲に追い払われ機嫌が悪い。
林冲(りんちゅう)豹子頭(ひょうしとう)は、三国志の張飛の如く、自身の戦闘力を底上げする。馬鹿さも底上げ。
秦明(しんめい)霹靂火(へきれきか)は、雷をそこかしこで浴びせる。自身も浴びかねないので、女性の取り扱い注意。
柴進(さいしん)小旋風(しょうせんぷう)は、攻撃よりも他の事で役立ちそう。
朱仝(しゅどう)美髯公(びぜんこう)は、三国志の関羽の如く、見事な髭を蓄える。昔のように。
武松(ぶしょう)行者(ぎょうじゃ)の姿を見たものは、血を見ることになるだろう。
董平(とうへい)双槍将(そうそうしょう)の渾名を持つが、今はただの囚人。
戴宗(たいそう)神行太保(しんこうたいほう)自慢の足は、生かし放題でも酒はご法度。
李逵(りき)黒旋風(こくせんぷう)が吹くときは、敵も味方も関係ない。巻き込まれるのは自己責任。
燕青(えんせい)浪子(ろうし)。遊び人のようにままならない足取りでも、隙はかけらもない。
火眼狻猊(かがんしゅんげい)…赤眼の獅子。人間が大好物。
燕順(えんじゅん)錦毛虎(きんもうこ)は、毛並みがいい虎。なかなかの強さ。
楊林(ようりん)錦豹子(きんひょうし)になると、輝くような立派なイケメン。性格は変わらんが。
王英(おうえい)矮脚虎(わいきゃっこ)は足の短い虎。もともとだから、仕方がない。
扈三娘(こさんじょう)一丈青(いちじょうせい)を見せるのは、ここ一番の時だって。
鮑旭(ほうきょく)喪門神(そうもんしん)は李逵と相性抜群。髑髏の声が聞こえる時は、いつもの彼は出てこない。
樊瑞(はんずい)混世魔王(こんせいまおう)を見る者は、他にいる。
項充(こうじゅう)八臂那吒(はっぴなた)は飛刀の名手。一度に8本投げて百発百中。なお、彼のチーム。
飛天大聖(ひてんたいせい)…項充と仲良しの猿。槍を投げて百発百中。なお、彼のチーム。
孟康(もうこう)玉旛竿(ぎょくはんかん)を掲げると、どんな猛獣でも言うことを聴く。錦豹子なら、なお良し。
白面郎君(はくめんろうくん)…光のようなイケメンは、兄貴分を闇から助けた。
雲裏金剛(うんりこんごう)…力抜群の巨漢力士。無口。
摸着天(もちゃくてん)…力自慢の巨漢力士。無口。
病大虫(びょうだいちゅう)…病気の虎。健康な時はめったにないとか。
金眼彪(きんがんひょう)…気配に敏感な金色の眼を持つ猫。可愛い。
湯隆(とうりゅう)金銭豹子(きんせんひょうし)はまだら模様の豹。出番は多分、きっとこれから。
没面目(ぼつめんもく)…力が強い巨漢力士。無口で不愛想でも、李逵と通じる。
石勇(せきゆう)石将軍(せきしょうぐん)は動かなければ、路傍の石の如く誰も気づかない。
王定六(おうていろく)活閃婆(かつせんば)は稲妻だから、霹靂火と一緒に降ってくる。
白勝(はくしょう)白日鼠(はくじつそ)は太陽が出ている時だけ鼠になれる便利な能力。彼のコミュ力も相まってさらに化けそう。
鼓上蚤(こじょうそう)…蚤だけに、気づくものはめったにいない。蚤の一突きは痛いし痒い。

青蓮寺
高廉(こうれん)…憧れの妖術使いになったが、それはそれで茨の道。
・殷天錫(いんてんしゃく)…
お察しの副官。良くも悪くも普通の男。

于直(うちょく)…お察し。林冲に秒殺。
温文宝(おんぶんほう)…お察し。秦明に瞬殺。

袁明(えんめい)…青蓮寺の総帥は、洪清と二人で一人。
洪清(こうせい)…袁明の影。彼が出る時、袁明が影。

・周炳(しゅうへい)…これから役に立つであろう、洪清の弟子。

二仙山(にせんざん)…あの世とこの世の境目にある山。
羅真人(らしんじん)…公孫勝の師匠。何でも知ってる、はず。
李逵の母…盗賊に喉を斬られて喋れなかったが、今は元気にしゃべくり倒す。虎だってへっちゃら。
潘金蓮(はんきんれん)…武松の嫂。兄の武大はどっかその辺にいた、はず。

蛇足

お留守番だよ!遊撃隊!【修行中】

李忠「!」
史進「どうしました、師匠?」
李「…恥を忍んで言わせてもらう」
史「…」
李「着物の尻が裂けた」
史「そんな事ですか」
李「そんな事とはなんだ」
史「俺にいたっては」
李「…」
史「尻が二つに裂けていますよ」
李「恥を知れ」

史進(ししん)…ところで、主だった連中はどこいったんですかね?
李忠(りちゅう)…あの恐ろしい庭に行ったらしいぞ。

お留守番だよ!遊撃隊!【一等賞】

鄒淵「俺の駆け足に勝てるか!」
杜興「わしの年の功に勝てるものか、ひよっ子!」
陳達「俺の跳躍力に勝てる奴だっていないだろうが!」
史進「…」
陳「史進?」
史「!」
鄒「お尻を出した!」
杜「やはりお前が一等賞だ、史進」

呉用「判定は?」
宋江「死罪」

史進(ししん)…誰だこんなネタ考案したやつは!
杜興(とこう)…貴様だ!
陳達(ちんたつ)…ノリノリで練習してたじゃねえか、爺!
鄒淵(すうえん)…こんなバカ達連れてやってるんです、宋江殿

呉用(ごよう)…判定は?
宋江(そうこう)…その後の内輪揉めの方が面白いな…

お留守番だよ!遊撃隊! 【避難】

陳達「本当に杜興の爺はムカつくぜ」
鄒淵「いつも棒で小突いてくるよな」
史進「てめえの棒は突くことすらできないのにな」
陳「酷えw」
鄒「杜興だ!」
史「隠れろ!」
杜興「…」
史「…」
杜「頭隠して尻隠さずか!」
史「!」

呉用「判定は?」
宋江「族滅」

・史進(ししん)…だから駝鳥の隠れ方の方が良いと言っただろうが!
・杜興(とこう)…そういう問題ではないわ!
・陳達(ちんたつ)…今日一の音だぜ、爺。
・鄒淵(すうえん)…心に染み入る音だな。

・呉用(ごよう)…判定はw?
・宋江(そうこう)…死んでも笑うな、呉用。

お留守番だよ!遊撃隊! 【強さ】

陳達「勝負だ史進!」
史進「弱い!」
陳「!」
鄒淵「隙だらけだ!」
史「甘い!」
鄒「!」
史「俺より強い者などいない!」
杜興「強き者よ」
史「なんだ爺」
杜「その尻は如何した?」
史「!」
杜「これが本当の」
史「匹夫の勇」

呉用「判定は?」
宋江「凌遅」

・呉用(ごよう)…次の演目は、「知り合い」とありますが…
・宋江(そうこう)…見るまでもない、呉用。

・史進(ししん)…待ってください!
・杜興(とこう)…私の人生はどうしてこうなったのでしょうか、李応殿…
・陳達(ちんたつ)…朱武の兄貴、楊春。後は任せたぜ…
・鄒淵(すうえん)…潤。解珍殿と解宝殿によろしくな…

お読みいただきありがとうございました!

・ご意見ご感想等々、こちらまでお寄せいただけると、とても嬉しいです。

【水滸噺番外 胡蝶の羽ばたき】
 第二部「大戦梁山泊」 

これからも、どうぞよろしくお願いします!

元ネタ!


参加される皆さんの好きを表現し、解き放つ、「プレゼンサークル」を主宰しています! https://note.com/hakkeyoi1600/circle ご興味のある方はお気軽にどうぞ!