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水滸噺 9月(下)[騎馬隊致死軍大感謝祭]

あらすじ
豹子頭入雲竜 吐露するは日頃の想い
遊撃隊将校共 唾棄するは史進の思い
岳飛徐史孫範 草莽の志は臭気に潰え
九転虎、門神 叩頭蟲の叩頭を知らず

すいこばなし 注意書き
北方謙三先生水滸伝,楊令伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
楊令伝8巻程度まで守備範囲を広げました!出てくる好漢は、すなわち水滸伝を生き残った者ということですので、未読の方はその点ご留意いただいた上でお読みください。
・作者のtwitterにて1日3回を目標に投稿しています。 
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまで
 お寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

それでは行ってみましょう! 

梁山泊

梁山泊…山あり谷あり湖畔ありの大自然豊かなスポットだけど、みだりに足を踏み入れたら二度と帰ってこれなくなることもあるから、くれぐれもご用心。

騎馬隊

騎馬隊…林冲より足の遅い馬がいるが、おおむね馬の方が林冲よりも賢いから馬もあまり気にしていない。

人物
林冲(りんちゅう)…言葉は少ないが、見る者が見れば表情やそぶりで何があったか一発で分かる。張藍関係は、特に。
索超(さくちょう)…大斧を騎乗で使う練習を始め、かなり上達した。
扈三娘(こさんじょう)…梁山泊の女たちが思っていること第2位、「すっぴんでそれかよ」
馬麟(ばりん)…縁日の吹き矢を思わず横笛の持ち方をしてしまい、おっちゃんに笑われた。
郁保四(いくほうし)…旗上げゲームをやった時、どうしても旗を下げることができなかった。

1.
林冲「扈三娘」
扈三娘「はい」
林「愉しく、セクシーに、とはどういう意味だと思う?」
索超(何を聞いている、林冲殿?)
郁保四(意味が分かりません)
馬麟(それが正しい)
扈「愉しく、セクシーに…」
林「…」
扈「…品のある、史進殿ではないでしょうか?」
林「そういうことか!」
索(悪くない回答だ)

林「史進!」
史進「げえっ!林冲殿」
林「愉しくセクシーになるぞ」
史「何を言っている、林冲殿」

杜興「やっぱり馬鹿だな、林冲も」
陳達「さてどうなるか」

林「お前の裸には、愉しさとセクシーさが足らん」
史「はあ」
林「それを組み合わせれば、お前が裸になる大義ができるぞ」
史「それは」

扈「私たちに、愉しくセクシーな史進のお披露目を?」
杜「林冲は随分自信を持っていた」
索「期待値は皆無だが」
馬「酒を不味くしなければいい」
郁「幕開けです」
陳「…」

林「出でよ!愉しくセクシーな史進!」
史「…」

杜「朱富の店は?」
馬「予約済みだ」
扈「さすが馬麟殿」

林「待て!」
史「…」

扈三娘(こさんじょう)…愉しくもセクシーでもありませんでしたね。
索超(さくちょう)…林冲殿の愉しさとセクシーさとは一体…
馬麟(ばりん)…どこで聞いてきた言葉だ?
郁保四(いくほうし)…元宰相の次男がそんなこと言ってたとか。

杜興(とこう)…根っこから下品な男だからハナから無理な話だ。
陳達(ちんたつ)…少しだけ面白かった気はしてた。

林冲(りんちゅう)…血の滲むような調練を強いた結果がこれか!

史進(ししん)…俺にセルフプロデュースさせてくださいよ… 

致死軍&飛竜軍

致死軍&飛竜軍…致死軍は職務上、栄養失調気味。飛竜軍は職務上、塩分過多になりがち。

人物
公孫勝(こうそんしょう)…何をエネルギーに活動しているのか分からないほど、食事量が少ない。
劉唐(りゅうとう)…白髪が一本だけ生えた時、抜くかどうか迷った。抜くと増えるっていうだろ?
楊雄(ようゆう)…あだ名は病関索(びょうかんさく)と言った時、関勝が妙に嬉しそうだったのが不思議。
孔亮(こうりょう)…頬が締まっていればいるほどイケメンが際立つが、単に仕事が過酷すぎただけ。
樊瑞(はんずい)混世魔王(こんせいまおう)と名乗る割には、物理で闘った方がはるかに強そう。
鄧飛(とうひ)…一緒に焼き肉に行ったら、まだ焼けてないだろって肉ばかり食って周囲をヒヤヒヤさせる。
王英(おうえい)…短足すぎて呉服屋で履けるズボンがなかったのを店員に笑われた時は、万引きして腹いせ。
楊林(ようりん)…地味で根暗な性格だけど、きちんとコーデしてあげれば、それなりのイケメン。

2.
公孫勝「劉唐」
劉唐「はい」
公「しばらくこの地を離れられなくなった」
劉「…何があったのです?」
公「…」
劉「正直に言ってください」
公「…博打のツケが溜まって、下働きして返すことになってしまったのだ」
劉「なぜ俺の力を使わんのですか!」
公「…驚かせたくて」
劉「もう驚いてます!」

劉(俺の技を使っても一度で返すのは大勝負だ…)
公「いらっしゃいませ」
劉(とりあえず、賭場の客と店員で別個に返済する策を立てたが…)
公「二名様ご来店です」
主「声がでけえ!」
劉(こんな公孫勝殿見たことない…)
客「くそっ!」
客「この赤毛やりやがる」
劉「まだやるか?」
客「畜生…」

客「イカサマだ!」
客「言いがかりだ!」

劉「…」

公「お客様、他のお客様のご迷惑になりますので…」
客「うるせえ!気色悪い顔しやがって!」
公「…お客様、表にお連れ様がお待ちです」
劉(これは…)

公「」
客「!?」

公「お客様お帰りです」
主「…なにやった、お前?」
劉「知らん方がいい」

公孫勝(こうそんしょう)…イカサマ師だったからしこたま銀を持っていたよ。
劉唐(りゅうとう)…二度と内緒で行かないでくださいね。 

遊撃隊

遊撃隊…またこいつらかよ…

人物
史進(ししん)…体を洗うとき、厠、妓楼と人間1日1回以上は着物を脱ぐではないか。
杜興(とこう)…だから常に裸でいいわけないだろう、馬鹿。
陳達(ちんたつ)…少華山でもしょっちゅう裸で徘徊してたぞ。
施恩(しおん)…宋江に志について相談した時、身も心も裸になって考えるのだと言われ、史進に相談したのが運の尽き。
穆春(ぼくしゅん)…いまだに髪を洗うときはシャンプーハットが欠かせない。
鄒淵(すうえん)…1日1回も妓楼に行かねえ。

3.
史進「しまった」
扈三娘「そろそろ落とし前を、史進殿」
馬麟「どうした、扈三娘」
鮑旭「また遊撃隊の兵に覗きを?」
扈「これ以上遊撃隊の兵の腕を折るのも本意ではないので」
馬「…何本折った?」
扈「十指に余ります」
鮑「指ではなく、腕ですね」
扈「そろそろ史進殿の器量を試そうかと思って」

史「…すまなかった」
扈「それは、私に言っているのですか、私に腕を折られた兵に言っているのですか?」
史「」
鮑(史進が怯えている…)
馬(真顔が怖いんだ、扈三娘は)
扈「史進殿の腕を斬り落とすのもやぶさかではないのですが」
史「」
扈「それは、梁山泊にとって大きな損失になりますので…」

史「扈三娘様の言う事を、なんでも聞こう」
扈「…」
鮑(何か嫌だ)
馬(恥も外聞も無いとはこの事だ)
扈「私の奴隷になると?」
史「よろこんで!」
鮑「…」
馬(どう捌く、扈三娘)
扈「私の言う事をなんでも聞くならば」
史「」
扈「私と林冲殿の言う事を聞け、と言えば聞くのですね、史進?」
史「」

扈三娘(こさんじょう)…自分で言った落とし前ですからね、史進?
鮑旭(ほうきょく)…他人事ながら肝が冷えた。
馬麟(ばりん)…今年で一番いい顔してたぞ、林冲殿。

史進(ししん)…(この件の事は一言も話せぬのだ)

4.
史進「…」
陳達「…なんだ、それは?」
史「俺の実家からの届け物なんだが」
杜興「どこかで見た下品な面をした人形だの」
史「しばくぞ、爺」
鄒淵「まさかお前をモデルにした…」
史「土産物らしい」
杜「冥土の土産でも受け取り拒否される代物だぞ、これは」
史「貴様を冥土に送るぞ、老いぼれ」

史「俺をゆるキャラにして地域おこしに取り組むらしい」
杜「お前がゆるいのは股だけでも十分すぎるだろう」
陳「裸族が住み着く集落が出来かねんと思う」
鄒「人間的に退化するな」
史「貴様ら言わせておけば」
杜「着物は脱がせるのか?」
陳「剥いでみよう」
鄒「…えげつない再現度だ」
史「おい」

杜「尻のほくろの位置まで再現されとるぞ」
陳「乳首の位置まで完璧だ」
鄒「その割に竜の再現度がいい加減だな」
史「…さっきからなにを言っているのだ、お前ら」
杜「どう遊んでやろうか?」
陳「練兵場に顔だけ出して埋めてみようか?」
鄒「矢の的にするのは?」
史「…」
杜「どうした、史進?」

杜興(とこう)…とりあえず、わしらと遊撃隊の兵全員分は発注しておいた。
陳達(ちんたつ)…誰が一番面白く遊べるか競うぞ。
鄒淵(すうえん)…やらないのか、史進?

史進(ししん)…俺の人形だというのを忘れてないか?

5.
呉用「杜興」
杜興「はい」
呉「お前が発注したこの箱の数々はなんなのだ」
杜「…史進の実家の地域振興の助けになりたく」
呉用 「開けたら史進の首が四百も出てきた時は腰を抜かしたぞ」
杜「私もまさか組立式の人形だったとは思わず…」
陳達(ちゃんと数えてるのが呉用殿らしい)
鄒淵(暇なのか?)

呉「いくつ注文した?」
杜「遊撃隊の兵の数だけ…」
呉「二千はあるのか…」
陳(頭だけの箱があるってことはよ)
鄒(尻だけの箱もあるってことだよな)
呉「何のために?」
杜「史進の実家が、財政で苦労しているそうで…」
呉「…」
杜「身内が史進だからと、役人からも目の敵にされているそうです」

呉「遊撃隊の蓄えで賄えるのか?」
杜「聚義庁の経費として落としていただきたく」
呉「それだけの価値が…」
宣賛「あります、呉用殿」
呉「宣賛?」
宣「馬に乗せて兵の偽装にする」
陳「…」
宣「落し穴の罠の偵察に使う」
鄒「…」
宣「晒し刑にして相手の目を欺くこともできます」
呉「…ふむ」

杜興(とこう)…まさか宣賛から助け舟が出るとは…
陳達(ちんたつ)…尻だけの箱は見るもんじゃねえな。
鄒淵(すうえん)…誰が組み立てるんだよ、これ…

呉用(ごよう)…意外と面白いではないか…
宣賛(せんさん)…いたずらや悪ふざけを真剣に考えるのは、人間の知能を高めますからね。

6.
李応「これはなんだ、杜興?」
杜興「これは、李応殿。御機嫌よう」
陳達(また露骨に態度を変えやがった)
鄒淵(死に損ないのエビみたいな背中がシャンとするのがいけ好かねえ)
杜「史進の実家と近隣を援助するため、人形を少々仕入れたのですよ」
陳(何が少々だ)
鄒(桁一つ間違えた耄碌爺の分際で…)

李「この顔は、史進か?」
杜「そう見えるだけです、李応殿」
李「そうか…」
陳(騙されるな、李応殿)
鄒(明らかに史進ではないか)
李「…いくつか、貰ってもいいかな?」
杜「それは喜んで!腐るほどありますので!」
陳(野晒しにされてるやつは?)
鄒(カビが生え始めた有様は、身の毛もよだつぞ)

李「これを見ろ、解宝」
解宝「…死に損なった史進のような木偶だな」
李「杜興の土産だ」
解「冥土の土産か、置き土産か?」
李「失礼な」
解「何に使うんだよ?」
李「それはな…」

李「行くぞ、解宝!」
解「どんと来い!」

!!

李「衝車と卵鉄の良い試しになる」
解「違いない」

史進「…」

杜興(とこう)…二千でも二万でも大差ないだろう?
陳達(ちんたつ)…そのうち悪霊が乗り移って、お前を叩き殺しにくるぞ、爺。
鄒淵(すうえん)…最近気管支を悪くする兵が増えているらしいが、まさか…

李応(りおう)…これで攻城兵器の試験運用も進むぞ。
解宝(かいほう)…関節の作りが巧みで良く出来てますな。

史進(ししん)…そろそろお灸を据えてやらんと

7.
史進「お前ら」
陳達「…」
鄒淵「…」
史「今寝返るなら、今までの事をなかったことにしてやってもいい」
陳「…」
鄒「…」
史「それでもお前らが、あの糞爺に付くと言うのなら止めはせんが、この棒が何をするかの保証はせん」
陳「史進に付く」
鄒「終生の友ではないか、俺らは」
史(こいつら…)

史「このカビの生えた人形を全部糞爺の部屋に運び込め」
陳「肺疾患で死にかねんぞ」
史「あの口汚さならカビの方が先に死ぬから問題ない」
鄒「根拠はないが説得力はあるな」
史「それから…」

陳「まだ杜興は帰ってこねえのか?」
史「李応に頼んで、しこたま酒を飲まさせている」
鄒「抜かりねえ」

杜興「良い夜だった…」

杜「?」

杜「!!」

杜「…本当にすまなかった、史進」
史「…」
陳(鄒淵が途中から呼吸困難で搬送されたってのに、ピンピンしてら)
史「どう落とし前つけるんだ、杜興?」
杜「野晒しの人形は、防水加工されていなかったのだ…」
史「は?」
杜「…その事ではないのか?」

・史進(ししん)…梁山泊の兵の数よりも多い自分の人形の数に絶句。
・陳達(ちんたつ)…防水加工に、ゼンマイ式に、ブリキの人形だって?
・鄒淵(すうえん)…喉と肺をカビにやられて闘病中。口から凄い史進の匂いがするらしい。

・杜興(とこう)…単品を二千頼んだはずが、全種類二万発注してしまったのだ…

二竜山 

二竜山…鄒淵が遊びに来た時、鄒潤と一緒にこれで本当の二竜山だ、と喜び合ってた時、史進が割り込んできて萎えた。

人物
楊志(ようし)…済仁美と楊令の土産物を選ぶときは、ゆうに10刻(5時間)以上悩む。
秦明(しんめい)…息子の秦容に贈った狼牙棒が軽すぎると言われたが、明らかに自分の稽古用より重い。
解珍(かいちん)…自慢のたれは、実はかなりの在庫がある。出し惜しみするのは、意外と飽きやすい味だからだという。
郝思文(かくしぶん)井木犴(せいぼくかん)だけに、天体に詳しい。
石秀(せきしゅう)…曹正への悪口を言いすぎた気がしてきた。
周通(しゅうとう)…楊志や石秀ほどスペックが高くないので、意外と兵からの人望は厚い。
曹正(そうせい)…今度こそ、心を入れ替えてソーセージ作りに挑み始めたが、その結果出番が減った。
蔣敬(しょうけい)…私の本職は兵站であって、マーケティングではないのですが…
李立(りりつ)…魚肉ソーセージを模索中。あいにく名前をもじった商品名にできなさそう。
黄信(こうしん)…秦明に愚痴を禁じられたことがあったが、かえって不気味だったので2日も持たず撤回された。
燕順(えんじゅん)…清風山の石や岩の場所すら完璧に覚えている。
鄭天寿(ていてんじゅ)…梁山泊イケメンランキング殿堂入りを果たす。燕青は顔部門では上位だが、内面部門で票を落とした。
郭盛(かくせい)…方天戟を買った時、喜びのあまり一緒に寝たが、翌朝手が傷だらけになってた。
楊春(ようしゅん)…一言ネタに定評がある。ネタ元は史進。
鄒潤(すうじゅん)…安道全に瘤の診察をうけた時、人体の限界を超越した硬度だと唸ったという。
龔旺(きょうおう)…槍投げの名手だが、槍をパスしてくれる相方がほしい。

8.
曹正「ソーセージの店頭販売を実践して、お客様アンケートを取ろうと思う」
楊志「良いことだ」
石秀「店頭の提供スペースは豚舎の仕切り2頭分か…」
曹「…様々な味やアンケート用紙にも工夫を凝らした」
蔣敬「大事なことです」
石「男女の他に豚の雌雄も必要ではないかな?」
曹「言わせておけば」

曹「いらっしゃい!」
子供「曹正のソーセージの曹正だ!」
曹「美味いぞ!」
子「したたかチーズはないの?」
曹「…あれは、やめたんだ」
子「そうなんだ」
子「そしたら、曹正のソーセージの曹正のソーセージ!って芸ができたのにな」
曹「どういう意味だ、それは」
石「www」
楊「www」
蔣「www」

子「ハムは作らないの?」
曹「ハムか…」
石「こいつがハムみたいなもんだから、紐で縛り付けお歳暮にして送ってやろうか?」
子「いらねえよwww」
子「ベーコンは?」
石「こいつの汗は塩気が強すぎるから食えたもんじゃない。やめておけ」
子「酷いやwww」
曹「石秀」
楊「教育上、そこまでにしろ」

曹正(そうせい)…完売したし、アンケートも絶好調だ。
楊志(ようし)…もっとTPOをわきまえろ、石秀。
石秀(せきしゅう)…なぜか曹正といると、スイッチが入ってしまうのです…
蔣敬(しょうけい)…派手なCMや奇抜な商品ではなく、堅実な商売が何よりですね。

9.
秦明「おう、郝思文、郝瑾」
郝思文「秦明殿」
郝瑾「おはようございます、秦明殿」
秦「朝の稽古か、二人は?」
思「そんなところです」
秦容「おはようございます!」
思「おはようございます、秦容殿」
瑾「おはようございます!」
思「秦明殿は、秦容殿と朝のお散歩ですかな?」
明「そうだ」

瑾「秦容の棒は何ですか?」
容「狼牙棒!」
瑾「少し貸してもらっていいかい?」
容「どうぞ」
瑾「!?」
明「重いだろう、郝瑾」
瑾「…構えるだけで精一杯です」
思「調練が足りんぞ、瑾」
瑾「…父上も持ってみてください」
思「!?」
容「そっくり!」
明「親子だからな」

思「ありがとう、秦容」
瑾「これを振れるのかい、秦容は」
明「見せてやれ、容」
容「!」
思「!?」
瑾「凄まじい風が…」
明「お前たちも容と素振りをするか?」
思「負けられんぞ、瑾」
瑾「そうですな、父上」
明「容、二人と一緒に振り回していいぞ」
容「本当!」
思「よろしくお願いします」

秦明(しんめい)…息子ながらここまで振り回せるようになっていたとは…
秦容(しんよう)…もっと振り回したいです、父上!

郝思文(かくしぶん)…途中でギブアップし、翌々日に来た筋肉痛で歳を実感。
郝瑾(かくきん)…さすが秦明殿の息子だ… 

双頭山 

双頭山…ある時は朱仝雷横のツイン。またある時は、董平の二本鎗。二つと縁のある山なんだな。

人物
朱仝(しゅどう)…念じてから一晩寝ると、髭が元通りになることに気づいてしまった。
雷横(らいおう)…手が空いたら鍛冶を手伝っている。昔取った杵柄で、中々の腕前。
董平(とうへい)…総大将とバンドリーダーの二足の草鞋。槍とドラムスティックの名手。
宋清(そうせい)…兵站とバンドマネージャーの二足の草鞋。イライラすると鉄扇で卓を叩き始める。
孟康(もうこう)…梁山泊にきて密輸の才能が開花した。生半可なボディーチェックでは、彼の隠し持つブツを没収することはできない。
李忠(りちゅう)…たとえ自分より腕が立つ兵がいようとも、決して妬まずアドバイスを乞いに行く。
孫立(そんりつ)…鞭も槍も弓もかなりの腕前なんだが、教えるのは好きではない職人肌。
鮑旭(ほうきょく)…一度だけ部下に本気でキレたことがある。叱られた部下はその時のことを、決して黙して語らない。
単廷珪(たんていけい)…火攻めを受けた時の防災マニュアルと水置き場の配置が完璧なのも、さすが聖水将(せいすいしょう)と呼ばれるだけのことはある。
楽和(がくわ)…歌は勿論、楽器もいける口。キーボードをやってみようかな。

10.
朱仝「なぜ髭がないのかって?」
鮑旭「美髭公というのに、なぜ髭がないのか新兵が気にしていました」
朱「…新兵に教えるには早い」
李忠「まあそうでしょうな」
鮑「李忠殿はご存知なのですか?」
李「いや、知らないよ」
鮑「私も孫立殿も知らないです」
朱「今知ってるのは宋清だけか…」
鮑「…」

李「鮑旭。そういうのは、本人が酔っ払って泣きながら話す機を待つのが鉄則だ」
朱「なんだと、李忠」
李「そうやって一人で上に立つことになった者の重荷を、少しでも背負える副官になりたいかな、私は」
朱「…」
鮑「そういうものに、私は疎くて…」
李「お前は大丈夫だ、鮑旭」
鮑「李忠殿?」

李「今のお前には分からんかもしれんが、私にはお前は大丈夫だということだけは、はっきり分かる」
朱「俺も分かる」
鮑「?」
李「今は分からないを愉しめ、鮑旭」
朱「だいぶもどかしいがな」
鮑「はあ」
李「もう一つ分かるのは」
鮑「…」
李「孫立の女房はダメだ」
朱「分かる」
鮑「分かります」

朱仝(しゅどう)…苦労してると労わり方も渋いな。
李忠(りちゅう)…本当はもっと立派になってるはずだったんですがね。

鮑旭(ほうきょく)…あの言葉が、今の私には少しだけ分かった気がします。

11.
董平「宋国による我々の楽曲の無断利用が後をたたんから、公式PVを作ることになった」
鮑旭「まさか宋国が不正をなすとは」
馬麟「俺たちが謀反人とはいえけしからん国だ」
楽和「謀反人の権利を認める国はあるのでしょうか…」
董「我々も撮るが、他の部隊にも作成してもらった」
鮑「見てみましょう」

董「致死軍・飛竜軍か」

公孫勝「…」

馬「将校と兵が勢ぞろいだ…」
楽「このために招集してくださったのでしょうか」

劉唐「…」
楊雄「…」
孔亮「…」
公「!」

董「凄い!」
鮑「兵が舞っている…」
馬「身軽な兵揃いだからな」
楽(統率が取れすぎて、逆に不気味だ…)
董「歌そっちのけだな」

董「…問題作だ」
鮑「察しました」
馬「十八歳以上の禁は?」
董「貼ってない」
楽「全年齢対象なんですか?」
董「…笑ったら負けだぞ」
鮑「今少し笑いましたね」

史進「…」

鮑「やはり…」
馬「待て、鮑旭」
楽「アングルが…」
董「見えそうで見えんだと!?」

史「…」
陳達「…」
鄒淵「…」

史「」
陳「!」

董「遠近法…」

史「」
乱雲「…」

鮑「乱雲の顔で…」

史「…」
杜興「!!」

馬「見える寸前で杜興が横入りに…」
楽「間が完璧だ」

史「」
陳「」
鄒「」

董「各自絶妙な配置で…」
鮑「誰が撮ったのでしょう…」
董「…ラストだ」

史「!!」

董「」
鮑「詰めが甘い!」

董平(とうへい)…予約者特典に混ぜようか?
鮑旭(ほうきょく)…希望者特典にした方が炎上しないのでは?
馬麟(ばりん)…しかし、動画を無断転載されたら結局炎上するぞ。
楽和(がくわ)…そんな心配するなら、私たちのイメージダウンに直結することを考えてくださいよ!

宋清(そうせい)…結局メンバーでPV撮って、遊撃隊の楽曲使用は許さなかった。

公孫勝(こうそんしょう)…我ながら壮観だったと感無量。
劉唐(りゅうとう)…同時進行の任務の進捗が心配でならなかった。
楊雄(ようゆう)…まさか全軍全員いるとは、高廉も思わなかったようです。
孔亮(こうりょう)…俺たちのPVにもできるんじゃねえか?

史進(ししん)…無声PVにされたが、これはこれで味わい深いものがある…
陳達(ちんたつ)…宋国チャンネルの広告動画に混ぜてやろうぜ。
鄒淵(すうえん)…遊撃隊チャレンジのハッシュタグで視聴者に投稿してもらおう。
乱雲(らんうん)…裸の史進と阿吽の呼吸。

杜興(とこう)…李応と出会った時、膝から崩れ落ちた。

流花寨

流花寨…青蓮寺のネガキャンがすごい拠点。それに負けじと梁山泊も青蓮寺のネガキャンを始めようと模索中だとか。

人物
花栄(かえい)…うかつに弓矢以外のことを頼んだらえらいことになるのは、流花寨の兵の暗黙の共有知。
朱武(しゅぶ)…陶宗旺の石積みの配置はさすが神機軍師。石が崩れた後の形まで絵になるらしい。
孔明(こうめい)…花栄の副官をしてたら、弓矢以外のことはおおむねできるようになってきたらしい。
欧鵬(おうほう)…跳躍してからの鉄槍の技は大したもの。棒高跳びの名手でもある。
呂方(りょほう)…お父さんの逸話を秦明や花栄から聞いた時、全部覚えがあったという。
魏定国(ぎていこく)…瓢箪矢作成のノウハウもさることながら、その際に作成した耐熱手袋も、梁山泊で重宝している。
陶宗旺(とうそうおう)…うっかり石積みに名前を付け始めたら、愛着が生まれ崩すのが忍びなくなってきた。

12.
花栄「…」
李俊「もう一度だ、花栄」

魏定国「あの二人は何を?」
童猛「どっちが鈍臭いかの勝負をしている」
魏「…それは?」
童「李俊殿は花栄殿に泳ぎを教え、花栄殿は李俊殿に弓を教えて、双方の鈍臭さを競うそうだ」
魏「それには客観的な評価がないと…」
童「それも含めて鈍臭いからいい」

李「流花寨の大将が未だに泳げないのはまずいぞ」
花「それではまず、浮くところから教えてくれ」
李「浮き方だと…」

魏「率直に教えを乞う姿勢は評価できる」
童「まさかそこからとは…」

李「力を抜くのだ」
花「では力の抜き方も教えてくれ」
李「…」

魏「主体性がないな」
童「やはり鈍臭い」

李「まず何も考えないで水面にたたずめ」
花「…よし」
李「それがつかめたら、浮くところは解決した」
花「浮けるようになったぞ!」

魏「無邪気だ」
童「李俊殿も根気強い」

李「浮けるようになったら、自由に泳いでみろ」
花「…分かってきたぞ!」

魏「ほう」
童「身体能力は高いからな」

魏「結果、ここ一番で花栄殿が足をつり、その救出に李俊殿だけでは難航した結果、張順が緊急出動するという双方鈍臭い結果に終わった」
童「五分だな」

李「弓か…」
花「…」

魏「俺らも物好きだな」
童「面白いからいい」

李「!」
花「どこに射ている!」

童「…バレたのか?」
魏「大丈夫か」

李「!」
花「前に飛ばせ、李俊」

魏「限度がある…」
童「ギャラリーに甲冑を容易しなければ死人が出る」

李「頼むから、一から教えてくれ」
花「お前は呼吸を教えられて出来るようになったのか?」
李「…」

魏「花栄殿なら言わんとすることは分からなくもないが」
童「俺なら矢を折って帰るな」

花「…少し待て」
李「?」

魏「的を後ろに?」
童「何をする気だ」

李「…意味が分からんが」
花「射れば分かる」
李「!」

魏「当てた!」
童「李俊殿の明後日の方角を捉えたのか!」

李「当たった」
花「まず、矢を射ることを覚えよう」

魏「鈍臭さを生かす教えとは」
童「見事な鈍臭さだ」

魏「結局李俊殿は後ろの的に当てる妙技を会得した」
童「これが素だから恐れ入る」
魏「鈍臭さも伸ばすと技になるのは、俺たちの学びだ」
童「限度ははち切れてるがな」

花「…」
李「…」

魏「結局どちらが鈍臭いかな…」
童「誰が決めるのだ?」
趙林「それはお二人に」
魏「!」
童「いつの間に」

趙「俺に気付かぬとは、中々の鈍臭さですな」
魏「くそっ」
童「蟷螂窺蝉とはこの事だ」
趙「…どういう意味ですか?」
魏「盧俊義殿に聞け」
趙「今から結果発表をしますので、審査員席に」
魏「用意されているとは…」
童「難しいジャッジになるぞ…」

花「…」
李「…」

趙「結果発表です!」

魏「…俺は、泳ぎのここ一番で足をつってしまう鈍臭さに共感したから、花栄殿に軍配だ」
花「よし!」
趙(よしなのか?)
童「俺は、正面に矢を射れないのが信じ難いから、李俊殿に軍配を上げる」
李「覚えてろ、童猛」
趙「票が割れたので、同率優勝です!」
魏「いいのか、それで」
童「どうでもな」

趙「メダルが一つしかないので、はんぶんこしましょう」
魏「お前も鈍臭いぞ」
童「運営まで鈍臭いとは」
趙「!」
花「半分とは言い難いな」
李「俺はいらん」
趙「…じゃあ花栄殿」
花「割れたメダルはいらないよ」
趙「…」
魏「全員鈍臭いな」
童「誰が得した?」

趙「…アガリです」
劉唐「…」

花栄(かえい)…泳げるようになったぞ!という微笑ましくも鈍臭い姿は、殺伐とした流花寨の兵の癒しになっている。
李俊(りしゅん)…弓を射る時の技は宴会では大ウケ。誰も素の技量だと思ってないから。

魏定国(ぎていこく)…俺らが覗いている時は、俺らもまた覗かれているんだな。
童猛(どうもう)…李俊に尻を蹴り上げられた。

趙林(ちょうりん)…蟷螂窺蝉の意味を知り、賢人の智慧に少し触れた気がした。

劉唐(りゅうとう)…言葉巧みに趙林の分け前も博打で巻き上げた。その銭はどこへ?

三兄弟 

三兄弟…ボディーガードから裏の仕事まで、失敗したことはない。なお料理だけは末弟に任せないと大惨事。

人物
魯達(ろたつ)…片腕と見くびるなかれ。足技に精通し始めた。
武松(ぶしょう)…最近のパンチ力を図るために本気で木を殴ったら、木を貫通してしまった。
李逵(りき)…彼のスパイスの作り方や香辛料の取り扱い方は、武松の口述筆記によりマニュアル化されている。

13.
李逵「武松の兄貴もやっと皿を洗えるようになったか」
武松「自分で焼いた皿ならば粗末にできんから、作った甲斐があった」
李「…だけどよ、兄貴」
武「なんだ?」
李「言っちゃあれだが、すごく形が独特じゃないか?」
武「そうか?」
李「例えばこの雑炊に使ってる皿を見てくれ」
武「おう」

李「雑炊をよそうには浅すぎるし、薄すぎるんだよ」
武「…」
李「俺が配膳も一流じゃなかったら、毎度大惨事だぜ、兄貴?」
武「…」
李「おまけに妙なところに突起が付いている」
武「…とげとげしさを表現したんだが」
李「食器に棘はいらねえ」
武「…」
李「…飯にしようぜ、兄貴」
武「…頼む」

李「猪肉の雑炊だ」
武「この皿の出番だな」
李「…またかよ」
武「…」
李「兄貴が持っててくれよ」
武「なぜだ」
李「その拳は鍋つかみみたいなもんだろ?」
武「確かに」
李「よそうぞ」
武「!」
李「どうした?」
武「棘が…」
李「言わんこっちゃねえ」
武「早く匙をくれ」
李「投げて渡すぜ」

武松(ぶしょう)…匙を投げて渡すな、李逵!
李逵(りき)…手が離せねえんだ!しょうがねえじゃねえか!

養生所&薬方所

養生所&薬方所…梁山泊文治省の年寄が集会所を作ろうと画策したが、安道全に無碍なく断られた。

人物
安道全(あんどうぜん)…治療の邪魔は誰であろうと許さん。
薛永(せつえい)…私たちの仕事場で茶飲み話はやめてください。
白勝(はくしょう)… 俺らの仕事量を一月こなせたら考えてやらなくもないぜ。
馬雲(ばうん)…何言ってるかわからないのに、何言いたいのか分かる不思議な男。

14.
薛永「本音を吐露してしまう薬が出来てしまった…」
馬雲「( ゚д゚)」
薛「試したいところだが、治験してくれそうな者はいないかな、馬雲?」
馬「(~_~;)」
白勝「おい、薛永。安道全のところで、また林冲と公孫勝がコント始めやがったから、聞きにこいよ」
薛「…」
馬「( ͡° ͜ʖ ͡°)」
薛「今行く」

公孫勝「そんなに注射が怖いか、林冲」
林冲「お前こそ、歯の治療が怖いのか」
安道全(なぜこの二人は惹かれ合うのだ」
白(またいちゃつきやがって…)
薛「…」
馬「(^_^)ノ且且」
公「余分すぎる筋肉が針を太くしたな」
馬「(^_^)ノ且」
林「ろくに飯も食わんお前は歯もいらんだろ」
馬「(^_^)ノ且」

‎薛(…飲んだ)
‎馬「d( ̄  ̄)」
‎公「林冲」
‎林「…」
‎公「注射は痛いが、安道全もお前の健康を思って提案しているのだぞ」
‎林「!?」
‎安「!?」
‎公「!?」
‎林「公孫勝!」
‎公「…」
‎林「お前があまりに飯を食わんから、俺は心配しているのだぞ!」
‎公「!?」
‎安「!?」
‎林「!?」
‎薛(決まった)
‎馬「٩(^‿^)۶」

安(周囲が騒然としてきた…)
白(何をした、薛永?)
薛「さて?」
馬「ʕ•ᴥ•ʔ」
林「公孫勝、お前という奴は…」
公「…」
林「いつも過酷な任務を強いているのが、心配でならん!」
安「…」
公「何を言っている、林冲」
林「…」
公「お前の騎馬隊の速さを信頼しているから、作戦が組めるのだ」

林「死にたがるな、公孫勝。生きるのも捨てたものではない」
公「お前も周囲の心配を省みず、無茶な突撃ばかりするんじゃない」
林「過酷な戦ばかりして、兵を労っているのか」
公「日々感謝と自分の不甲斐なさを噛み締めている」
林「俺も周囲の者への感謝を欠かさぬようにする」
白(大サービスだな)

安「治療は済んだから戻っていいぞ」
林「いつも助かっている、安道全」
公「兵たちの治療に取り組む姿勢には頭が下がる」
安「!?」
薛(なるほど…)
白(不意打ちでこれは効く…)
安「とっとと隊に戻れ、バカップルが!」
林「…」
公「…」

安「医者をやっててよかった…」
白「泣くなよ…」
薛「…」

林(…どうしてしまったのだ、俺は)
索超「林冲殿、明日のことだが」
林「いつも調整をしてくれて助かっているぞ、索超」
索「!?」
林「お前のような縁の下の力持ちがいるから、俺も調練と指揮に専念できるのだ」
索「…ああ」
林「俺ももっとお前らを労わねばな…」
索「…涙が」

扈三娘「林冲殿」
馬麟「また公孫勝殿と漫才を?」
林「おう。騎馬隊の華と優しさ担当のお出ましか」
扈「!?」
馬「!?」
林「調練の時はいいが、普段はもっと笑うと美しさが際立つぞ、扈三娘」
扈「…はあ」
林「お前の心配りと鉄笛があるおかげで、大助かりなんだ、馬麟」
馬「…もったいないお言葉」

郁保四「林冲殿」
林「お前と言う奴は…」
郁「…また何かやらかしましたか?」
林「俺の厳しすぎる調練に、いつも歯を食いしばって耐え抜いて…」
郁「…?」
林「いつしか驚くほど強くなったではないか、郁保四」
郁「…」
林「林冲騎馬隊の旗手がお前で、本当に良かったよ」
郁「…何も言えません」

公「…」
劉唐「公孫勝殿!」
公「…大したものだ、劉唐」
劉「何がですか?」
公「飛竜軍の発想だよ」
劉「?」
公「私の思いも及ばなかった、新たな致死軍を、お前は一から自分で作り上げた」
劉「…公孫勝殿?」
公「お前は私の自慢だ、劉唐」
劉「…なにを、言っているのですか、公孫勝殿」

楊雄「公孫勝殿」
孔亮「任務の件でご報告を」
公「聞くまでもない」
楊「!」
孔「!」
公「万事うまくいっているのだろう?」
楊「?」
孔「公孫勝殿?」
公「こんな過酷な仕事を苦もなくこなしているお前らなら、なにを任せても安心だからな」
楊「…」
孔「…」
公「良い部下に恵まれた、私は」

林「薛永」
薛「ひい」
公「何を盛った」
薛「…それは」
馬「(=゚ω゚)ノ且」
林「これは」
公「…」
薛「…」
馬「(-.-)y-., o O」
林「…」
公「…」
薛「一日で切れます」
林「…一日で切れなくなっちまったよ」
薛「薬がですか!?」
公「…他のものだ、薛永」
薛「腐れ…」
林・公「皆まで言うな」

薛永(せつえい)…効能と副作用について真剣に研究し始めた。
馬雲(ばうん)…( ͡° ͜ʖ ͡°)

安道全(あんどうぜん)…死んでも死なさんからな、林冲め。
白勝(はくしょう)…だから一生の友達なんだよ。

索超(さくちょう)…この話を肴に呂方を酔い潰した。
扈三娘(こさんじょう)…少し笑顔が増えたら、恋文が急増。
馬麟(ばりん)…鉄笛の選曲が絶妙になった。
郁保四(いくほうし)…男泣きが止まらず。

劉唐(りゅうとう)…俺を試そうとしているのかと思ったが、涙腺にきたのは本当だ。
楊雄(ようゆう)…ちゃんと俺たちのことを見ていてくれるのだな。
孔亮(こうりょう)…全く。もっと褒めやがれってんだ。

林冲(りんちゅう)…その日の張藍と百里風にも本音が止まらず、えらいことになっていた。
公孫勝(こうそんしょう)…兵の一人一人に労いと感謝の言葉をかけ続け、感動の輪に包まれた。

朱貴・朱富のお店

朱貴・朱富のお店…魚肉饅頭以外のメニューも美味いっちゃ美味いけど、それ以上でもそれ以下でもないのが何とも惜しい。

人物
朱貴(しゅき)違う世界に行った時の技は健在。氷を容易く作れるのが良かったな。
朱富(しゅふう)…兄のスタイルも好きだったが、どちらかというと料理に力を入れたいタイプ。

15.
李俊「会計は…」
阮小七「手間だが個別で頼む、朱富」
李「しまった」
童猛「その手は食わねえぞ、李俊殿」
張順「俺たちが計算できないと思って割り勘した挙句、少し自分の分を安く勘定するとは、なんとせこい男だ」
項充「たまには俺たちに奢る男気を見せてくださいよ」
阮小二「銭単位で割り勘だもんな」

趙林「一度だけ盧俊義様のご飯にご相伴にあずかったことがあるんですけど」
童「どうだった?」
趙「かっこよかったです」
七「さすが盧俊義殿」
項「どこかの大将とは器が違え」
二「しょっぱいのは塩だけで充分だ」
張「塩捌いてたら、てめえの財布までしょっぱくなっちまったか、李俊殿」

李「野郎ども…」
朱富「乱闘なら表でやってくれ」
童「さすが朱富」
項「明瞭会計が売りなだけはある」
七「やはり個別会計だな」
二「違いない」
張「李俊殿の男気がみたいな」
李「表で見せてやるから、かかってこい」

趙「…」
朱「…」
趙「朱富殿」
朱「…」
趙「二割高いね」
朱「黙ってろ」

・李俊(りしゅん)…力が強いだけのことはあるのでとりあえずまあまあ強い。
・阮小七(げんしょうしち)…くそう、覚えてやがれ。
・張順(ちょうじゅん)…水の中なら負けんのだが…
・童猛(どうもう)…梁山湖の鯉に愚痴を聞いてもらった。
・項充(こうじゅう)…またふさぎの虫が鳴いた。
・阮小二(げんしょうじ)…実は結構強い。
・趙林(ちょうりん)…場の支配者が一番強いのは、博打と一緒だ。

・朱富(しゅふう)…当然だろ?

顧大嫂のお店

顧大嫂のお店…男が大好きなこってり系のメニューがそろったお店。梁山泊全土展開中!

人物
顧大嫂(こだいそう)…男心をくすぐるのが実に巧み。自身はなかなか乙女チックなところがあり、それがたまらないと孫新は言う。

16.
孫立「…よう」
顧大嫂「…いらっしゃい」
孫「…」
顧「…」
孫「…殺さんのか?」
顧「誰かを殺して帰ってくるなら、宋江殿だって殺せますよ、私は」
孫「…」
顧「いつもの、用意しますね」
孫「…頼む」
顧「義兄さんが客で良かったです」
孫「死ぬのも覚悟してきたんだが」
顧「お舐めでないよ」

顧「心を込めて、作りましたからね」
孫「…」
顧「…」
孫「いつもながら美味い」
顧「生きてて良かったですか、義兄さん」
孫「ああ」
顧「…義兄さんの事も察してはいたけどね」
孫「…」
顧「…どうしようもなかったんだろう?」
孫「…俺ではな」
顧「義兄さんでなくても、無理だったでしょうね」

孫「泣いていたよ」
顧「義姉さんが?」
孫「梁山泊に来てから、ずっと」
顧「私は肌が合わなくて」
孫「顧大嫂ならそうだろう」
顧「…梁山泊の女とは、馴染めなかったでしょうね」
孫「…そうかもな」
顧「友人は?」
孫「一人もいなかったと思う」
顧「義兄さん」
孫「…」
顧「死ぬんじゃないよ」

孫立(そんりつ)…喪ってから初めて分かることが多すぎたよ。
顧大嫂(こだいそう)…人間そんなもんなのかもね。

飲馬仙 

飲馬仙…遼の国境にある山賊の根城。連日鎖鎌が唸る音が風に乗って聞こえてくる。

人物
鄧飛(とうひ)…無茶苦茶に手足が生えたような頭領。
孟康(もうこう)…頭脳派で鄧飛の頭が上がらない男が首領ならよかったのに…
楊林(ようりん)…成り行きで飲馬仙に行くことになったが、細かな気配りが孟康に認められた。

17.
魯智深「すまぬ、鄧飛!」
鄧飛「早くしろ、魯智深殿」
魯「うっかり忘れていた」
鄧「聞き捨てならねえぞ」
魯「お前の穢れを一日で落とすつもりだったのだが」
鄧「二日目に絶望して絶叫しちまった」
魯「三日もつけ置きしたら、干す時のしわが大変だ」
鄧「洗濯物じゃねえ」
魯「今取り込みにいく」

鄧「死ぬかと思った」
魯「これだけつけ置きすれば、血の汚れも落ちただろう」
鄧「漂白剤かクリーニング屋に任せればすぐに落ちるだろうが…」
魯「お前の心の話だ、鄧飛」
鄧「…三日もほったらかされたら、荒れ放題だ」
魯「身も心もしわくちゃか」
鄧「ちょくちょく洗濯物に例えるのやめてくれ」

孟康「兄貴!」
魯「驚きの白い肌だ」
孟「クソ坊主め!」
魯「…お前の白さに、二度と落とせぬ染みをつけてやるぞ?」
孟「…なんだこの坊主」
鄧「相手にするな」
魯「…志の話をしようか」
孟「聞く耳持たん!」
魯「この肉を見ても、聞く耳もてぬか?」
鄧「…背に腹は変えらんねえ」
孟「兄貴…」

魯智深(ろちしん)…肉と酒があれば、男は通じあうのだ。
鄧飛(とうひ)…もっと血生臭い肉が食いたいな、俺は。
孟康(もうこう)…兄貴が洗脳されちまわんように気をつけねえと…

山中

山中…簡単に言うけど、野宿なんて好漢でもない限りするもんじゃねえからな。

18.
楊志「…落ちぶれたな」
燕青「楊志殿?」
楊「…お前は確か」
燕「盧俊義様の従者の燕青です」
楊「思い出した」
燕「…噂は聞いております」
楊「…そうか」
燕「北京でも楊志殿の人相書きが…」
楊「それはいいのだが」
燕「なにか?」
楊「なぜこんな密州の山中で、出くわすのだ?」
燕「…」

燕「実は、盧俊義様が楊志殿の行方を心配しておりまして」
楊「…あの時は酔いにまかせ、酷いことを言ってしまったのに?」
燕「何としても楊志殿を見つけ出して、安全な場所にご案内するよう、私に申しつけられたのです」
楊「私にそんな事をしてもらう資格はないよ」
燕「…そう言わず」
楊「…」

楊「なぜそこまで親切にしてくれるのだ?」
燕「盧俊義様が、楊志殿を認められたからではないかと」
楊「女々しく酔っ払った挙句、任務を大失敗した軍人でもないこの私を?」
燕(めんどくさい人だな)
楊「今なら致死量の痺れ薬を飲み干せる!」
燕「楊志殿」
楊「…」
燕「安丘に行くぞ」
楊「燕青!?」

楊志(ようし)…有無を言わさず安丘の曹正の所にしょっぴかれた。
燕青(えんせい)…こんなに女々しい人だと思いませんでした。

掲陽鎮

掲陽鎮…眼帯イケメンと闇塩商人ですら頭が上がらなかった、江州伝説の男張礼の息子が、張横と張順である。

19.
穆弘「掲陽鎮眼帯の似合う男コンテストだと?」
穆春「兄者を差し置いて、勝手に開催されている」
弘「聞き捨てならん」
春「急いで出場だ、兄者」
弘「…しかし困った」
春「?」
弘「おめかし用の眼帯をどこにしまったか分からん」
春「催事用の眼帯でいいではないか」
弘「迷うな…」
春「兄者…」

春「兄者はいつもの眼帯が一番似合うではないか」
弘「春…」
春「まず、コンテストに乱入しなければ」
弘「没遮攔を遮るどころか仲間外れにするのは許さん」

李立「何で穆弘呼ばねえんだよ、兄貴」
李俊「…敵わんから」
童威「女々しい」
童猛「逆撫でするような真似を…」

弘「李俊!」
俊「!」

弘「これだけのギャラリーを集めながら、俺を集めないのはおかしいだろうが!」

客「没遮攔だ!」
客「何でいないのかと思ってた!」

弘「さすが客は分かっている」
俊「…受付時間は過ぎて」

客「女々しいこと言ってんじゃねえ!」
客「それでも商人か、混江竜!」

俊「…仕方ない」
弘「よし」

穆弘(ぼくこう)…あっさり優勝。そりゃそうだ。
穆春(ぼくしゅん)…会場を味方につけるのが上手いんだよな、兄者は。

童威(どうい)…同率2位。双子コントがウケた。
童猛(どうもう)…同率2位。結局どっちがどっちか分からくなるオチがウケた。
李立(りりつ)…童兄弟は二人で一人扱いで3位。眼帯をつけて料理する手捌きは中々のもの。
李俊(りしゅん)…4位でメダルももらえなかった。

雄州

雄州…将軍は調練だ!って言い張るけど、どう考えても遊んでるようにしか見えないと、住民はかく語る。

20.
宣賛「…」
金翠蓮「…」

関勝「…」

宣「…」

?「!」

宣「まず一人」
金「今のは関勝殿ではありませんね」

?「!」

宣「今の音は郝思文か」

?「!」

宣「部下は皆落ちた」

関「!」

宣「そして、正面突破を試みる」
金「読みきりです」
郝瑾「宣賛殿」
宣「玄関から入れば落ちんのに」

宣賛(せんさん)…落とし穴を掘ってたら、だいぶ身体が仕上がってきた。
金翠蓮(きんすいれん)…罠の敷き方が分かってきた。
郝瑾(かくきん)…宣賛の集中軍学講座を受けにきてる。

関勝(かんしょう)…今日は特別深いぞ。
郝思文(かくしぶん)…宣賛が掘っているのですか?
単廷珪(たんていけい)…負傷しないよう、藁を敷いてあるのは毎度助かるが…
魏定国(ぎていこく)…第一歩で落ちるとは…

代州

代州…仕事とプライベートの切り替えが下手くそすぎる将軍のまいた種が、あだにならなければいいのだが…

21.
韓滔「おう、穆凌」
穆凌「こんにちは!韓滔殿」
韓成「今日も馬の稽古だ、穆凌」
滔「成」
成「…父上?」
滔「わしら三人で会う時は、穆凌を、呼延凌と呼ばんか?」
穆「…それは」
滔「もちろん穆秀殿が素敵な奥方なのはよく知っておるぞ、呼延凌」
穆「…」
滔「悪いのは全部、呼延灼のヘタレだ」

穆「…」
滔「これは全て、大人の問題なんじゃ、呼延凌」
穆「…」
滔「今子供のお前では、どうする事も出来ぬ問題なのだよ」
穆「…はい」
滔「しかしの、呼延凌」
穆「…」
滔「お前の親父はこの国で五本指に入るほどの、比類なき軍人だ」
穆「韓滔殿…」
滔「まあ、ヘタレだがの」
穆「w」
成「w」

滔「お前は軍人になるのだろう?」
穆「はい。父上のような」
滔「小さいことを言うでない」
穆「?」
滔「呼延灼なんぞ、顎で使える軍人になれ、呼延凌」
穆「…」
滔「呼延の血を引くお前なら、必ずなれる」
成「稽古を始めるぞ、呼延凌!」
呼延凌「おう、韓成!」

滔「立派な息子だぞ、呼延灼」

韓滔(かんとう)…呼延灼にもう少しの甲斐性があれば…
韓成(かんせい)…父上と母上の掛け合いなんて漫才みたいなもんだぞ。
呼延凌(こえんりょう)…最近母上の機嫌が悪いことが多くて…

陣中

陣中…梁山泊の兵たちは、いつ死ぬとも分からぬ恐怖と緊張にさらされ続けているのだ。

22.
晁蓋「…史文恭」
史文恭「はい」
晁「…少し、独り言を呟いてもいいかな」
史「外します…」
晁「…いや、いてほしいから、頼んだ」
史「…晁蓋殿?」
晁「…いいかな?」
史「…心ゆくまで」
晁「…」
史「…」
晁「…言葉にならぬかもしれんし、梁山泊の頭領が言ってはいけないことかもしれんが」

晁「なぜ私が、梁山泊の頭領なのだろう」
史「…」
晁「私はただ、心の思ったまま、正直な気持ちを、同志の皆に伝えてきただけのつもりだった」
史「…」
晁「…そしたら、梁山泊の頭領になっていた」
史「…」
晁「梁山泊の頭領になるうちに、私は元々いたはずの私がいなくなっていることに気づいた」

晁「皆が求める晁蓋を、いつしか演じていたのだ」
史「…」
晁「私は頭領の器ではない。元はただの戦好きな保正だ」
史「…」
晁「耐えられないのだよ。皆が求める晁蓋を演じ続けるのが…」
史「…」
晁「…礼を言う史文恭」
史「死ぬまで、私の心の底に閉まっておきます」
晁「お前も同志だ、史文恭」

晁蓋(ちょうがい)…もしかしたら、本当に思ったことを言える相手が、私にはいないのかもしれないな。

史文恭(しぶんきょう)…ますます晁蓋殿が、好きになりました…

女傑三人衆

女傑三人衆…彼女たちの女子会は、そんじょそこらの山賊ではとても相手にならないだろう。

人物
扈三娘(こさんじょう)…おもむろに彼女が真顔になった時は、死を覚悟した方がいい。
顧大嫂(こだいそう)…おもむろに酒場の卓を持ち上げた時は、死を覚悟した方がいい。
孫二娘(そんじじょう)…おもむろに目が笑ってない笑顔で酒を勧められた時は、死を覚悟した方がいい。

23.
孫二娘「酒に対して当に歌うべし」
顧大嫂「人生幾何ぞ譬えば朝露の如し」
扈三娘(酔うとえらいことになるんですよね、二人とも)
?「御免…」
孫「その鉄面は…」
裴宣「!」
孫「迎えに来てくれたのかい?」
裴「申し訳ない店主。今持ち帰る」
顧「帰るなら、あんたの家より愛の宿の方が近いよ」

裴「何を言っているのだ」
孫「いけずだねぇ。あんた」
裴「…やめないか」
顧「店主!一番いい酒を頼もう」
店主「そんな高いので大丈夫かい?」
孫「大丈夫よ。問題ない」
裴「…銀をおろしてくる」
顧「逃げるのかい、裴宣?」
裴「…観念して付き合うから、懐に若干の余裕を確保させてくれ」

扈(なんて真っ直ぐな人…)
裴「身分証を置くから、もし逃げたら好きにしてくれて構わん」
顧「…行って来な」
裴「…御免」
顧「…」
孫「どうだ、顧大嫂」
顧「正直すぎるよ…」
扈「!」
顧「どうした、扈三娘」
扈「身分証の裏に…」
顧「!」
孫「」
裴「…戻ったぞ」
扈「…」
裴「どうした?」

扈三娘(こさんじょう)…一途すぎる人もどうしたら良いのか分かりません…
顧大嫂(こだいそう)…綺麗な馬鹿だね、こいつは。
孫二娘(そんじじょう)…家帰ったら説教しないと…

裴宣(はいせん)…(しまった。裏地に書いてあるのは…)

チーム張清

チーム張清…野球チームとしても優秀。なお張清は、投手として超一流だが、打者としての評価は芳しくない。

人物
張清(ちょうせい)…傭兵だが気の向くままに戦してる気楽な頃。拠点は土地の石の量で決める。
龔旺(きょうおう)…虎の刺青は著作権法に抵触する酷いアレ。
丁得孫(ていとくそん)…もともと山賊だから色々下品。

24.
龔旺「お前は本当に蛇がだめなんだな」
丁得孫「逆になぜ平気なのだ、お前らは」
張清「!?」
龔「どうした、張清殿」
丁「厠なら行ったばかりではないか」

瓊英「…」
鄔梨「…」

張「」
龔「…美人だな」
丁「見たことねえや」
張「」
龔「張清殿?」
丁「てめえが石になってら」

張「美しすぎて死ぬところだった」
龔「そんな物の怪がいた気がするな」
丁「確か男にしたたかを誘惑する物の怪ではなかったか?」
張「下世話な話はやめろ」
龔「…惚れたか?」
張「惚れたなんてものではない」
丁「じゃあどれほど?」
張「魂を取られた」
龔「やっぱ死んでんじゃねえか」

張「まずは名を知るところから始めるぞ」
龔「あとをつけるのか?」
張「名前だけでも聞き取れればこの戦は勝ちだ」
龔「また固まるなよ?」
丁「硬めるのはしたたかの時のせがれだけで…」
張「」
丁「!?」
龔「的確に矢傷の跡を…」
張「行くぞ、龔旺」
龔「…戻ってきた」
張「」
龔「負けたか」

張清(ちょうせい)…反省会を二昼夜、死域に入りながら行った。
龔旺(きょうおう)…反省会に付き合わされ、死線をさまよった。
丁得孫(ていとくそん)…次につなげる作戦会議をしろよ…

鄔梨(うり)…瓊英の旦那を探しているが、資格を得るための試練が待っている。
瓊英(けいえい)…面白そうなお三方がいらっしゃいましたね。

裴宣と孫二娘さん家

裴宣と孫二娘さん家…孫二娘曰く、あまりにクソまじめすぎるせいで、怒る気も失せるという。夫婦仲はなんだかんだで抜群だしね。

25.
裴宣「今年の税収の使い道が…」
孫二娘「…少し良いですか、あなた?」
裴「どうした?」
孫「…家でも仕事の話ばかりで疲れませんか?」
裴「…確かに、家にまで仕事を持ち帰るのは良くないな」
孫「世の中には意味のある話ばかりではなく、どうでも良い話をしたい者もいるのですよ」
裴「あなたか」

孫「分かればよろしい」
裴「少し待ってくれ、今全力でどうでもいい話を」
孫「まだ分かっていませんね、あなた」
裴「孫二娘?」
孫「どうでもいい話に全力になってしまっては、どうでも良くなくなってしまうではありませんか」
裴「確かに…」
孫「どうでもいい話はどうでもいいからこそ良いのです」

裴「ならば、孫二娘のどうでもいい話を聞かせてくれ」
孫「しからば」
裴「紙と筆を…」
孫「それがいらないのさ!」
裴「!」
孫「これが芝居ならまだしも、素なのがあなたらしいですが…」
裴「すまん…」
孫「なんだかどうでもよくなってしまいました」
裴「それは、良いのか?」
孫「よくない!」

裴宣(はいせん)…どうでも良い話とは何か、というどうでも良い悩みを抱え、仕事に支障をきたしている。
孫二娘(そんじじょう)…裴宣がどうでもいい話ができないんだ、と顧大嫂にボヤいたら、どうでもいいと言われた。

子午山

子午山…ある時は岩を砕く怪物。またある時は綺麗な笛の音。またまたある時は、全裸の変質者が徘徊していると、近隣の子供たちは噂しており…

人物
王母(おうぼ)…近隣の子供たちにも大人気なおばあちゃん。
王進(おうしん)…近隣の子供たちの名を思い出そうとして死域。

26.
鮑旭「…史進がいなくなったら」
王母「こんなに静かになるものなんですね」
鮑「うるさくない日はありませんでしたね」
母「昔からそうだったのですよ」
馬麟「…おい」
母「何ですか、馬麟?」
馬「…客だ」
鮑「馬麟、もっと口の利き方を…」
母「構いません、鮑旭」
馬「…」
母「お客様?」

客「失礼します」
母「こんな山奥にどんなご用事ですか?」
鮑「お茶をどうぞ」
客「私は旅の講談師なのですが」
母「はい」
客「麓の村の子どもたちがこの山には化け物が出る、との話をしていたので、聞き取りに参りました」
母「化け物?」
鮑(武松は化け物だな)
客「中でも心惹かれた化け物の話が」

母「はい」
客「暗闇を徘徊する棒を持った裸の巨人の話でしてな」
母「…」
鮑(絶対にあいつだ)
客「裸で山の木々を飛び移ったり、棒で大樹をへし折る化け物だそうで…」
鮑(やってたな、そんな事)
客「ご存知ありませんか?」
母「…そうですね」
客「…」
母「後できつく叱っておきます」
客「?」

王母(おうぼ)…少華山に手紙を書きます。
鮑旭(ほうきょく)…茶菓子まで用意してくれてありがとう、馬麟。
馬麟(ばりん)…気まぐれだ。

…ただならぬ気を感じましたので、聞くのをやめましたわい…

史進(ししん)…朱武が読んで失神してる手紙を見て察した。

27.
鮑旭「これは何と読むのだ、馬麟?」
馬麟「しゅゆと読む」
鮑「茱萸?」
馬「赤いぐみの実があるだろう?」
鮑「ああ!」
馬「どんな詩だ?」
鮑「独り異郷にあって、異客となる。佳節に逢うごと 、ますます親しきを思う。遙かに知る 、兄弟の高きに登るとき。あまねく茱萸を挿し 、一人を少く」

王母「王維ですね」
鮑「さすが母上」
母「九月九日に山東の兄弟を思う」
鮑「私には子午山の友が兄弟ですね、母上」
母「そうですね」
馬「…」
鮑「もちろん、馬麟もだぞ」
馬「…ああ」
母「…」
鮑「しかし、寂しい詩ですね、母上」
母「王維が独りで異郷にいる身を歌った詩ですからね」
馬「…」

鮑「一人足りないのですか」
母「王維自身が」
鮑「寂しいでしょうね」
馬「…」
鮑「馬麟?」
馬「いようがいまいが、変わりはしない」
鮑「馬麟」
馬「そんなもんさ」
母「私は笛の音のない月夜は寂しいですよ」
鮑「みんな欠かせぬのだ、兄弟は」
馬「…」

鮑「…本当に一人、足りなくなるなんて」

馬麟(ばりん)…嫌々ながらも、いつも月夜に笛を吹いてくれる。
鮑旭(ほうきょく)…ギターの呼吸もつかめてきました。
王母(おうぼ)…三人で合わせますよ!

王進(おうしん)…トライアングルのタイミングを見計らって死域。 

青蓮寺

青蓮寺…最近袁明の居室にそぐわない可愛らしいぬいぐるみが増えてきたが、指摘した幹部はまだ一人もいない。

人物
袁明(えんめい)…気を抜くことを覚えたら、仕事の能率が倍増したという。ヤバいぞ。梁山泊。
李富(りふ)…袁明の居室に一番呼ばれるが、ぬいぐるみの存在に気づいてすらいない。
聞煥章(ぶんかんしょう)…扈三娘フィギュアを集めすぎたので、部屋を借りた。
洪清(こうせい)…開封府の遊戯場に時折出没するスーパーおじいちゃんとして、開封府の若者から崇められている。
呂牛(りょぎゅう)…梁山泊近隣に、遊戯場を作り荒稼ぎしようと模索中。

28.
袁明「…」
洪清「…」
袁「…浪子の使い手だな、洪清」
洪「…殿の入雲竜もなかなかの腕かと」
袁「立合いゲーとは、この遊戯場も色々と考えるものだ」
洪「鉄笛仙の笛ゲーや神行太保の競争ゲーも大人気ですな」
袁「…あの一番人気のない場所は?」
洪「病尉遅の嫁の舞ゲーです」
袁「それはいらん」

侯健「…お客様」
袁「…」
洪「…」
侯「閉店の、お時間なのですが…」
袁「…分かった」
洪「…また来る」
侯(かなりの頻度で来るが、梁山泊に知らせたら私の正体がバレる…)

袁「…あれは」
洪「…」

聞煥章「細工をしているのではないか!この台は!」
呂牛「まだ取れぬのか、聞煥章」
聞「黙れ」

袁「聞煥章」
聞「袁明様!」
呂「!?」
洪「…」
袁「…何を執心している?」
聞「…何でもありません」
袁「…」
聞「…」
袁「位置が気になる」
聞「?」
袁「位置が、気になる」
洪「店員」
侯「ただ今!」

袁「…」
聞「…」
袁「…」
聞「!」
袁「これだな、聞煥章」
洪「顧大嫂」
聞「…違う」

袁明(えんめい)…さんざん銀を使った甲斐があったな、洪清。
洪清(こうせい)…部屋には好漢渾名ぬいぐるみがいっぱい。

聞煥章(ぶんかんしょう)…結局扈三娘を取りそびれ、転売屋から高値で買い取った。
呂牛(りょぎゅう)…俺たちもこの商売はできぬだろうか…

侯健(こうけん)…仕立て屋と間諜と開封府遊戯場店長の三足のわらじはきつすぎる…

禁軍

禁軍…年間スケジュール帳を毎年配布されるが、すでに調練日のスケジュールが埋められている。

人物
童貫(どうかん)…声が甲高い。限界まで高い声を出してみたら、こうもりが呼応した。
趙安(ちょうあん)…死にそうで死なない、殺しても殺せない、謎を秘めたフレッシュマン。

29.
趙安「死ぬところだった…」
公順「…なぜあれで生きているのですか?」
何信「まさか趙安殿に暴れ馬が直撃するなど…」
趙「馬が私の鮮度につい寄ってきたのだろう」

趙「死ぬところだった…」
公「普通死んでます」
何「まさか趙安殿に落雷が直撃するなど…」
趙「天が私の鮮度に嫉妬したのかな」

公「何信殿」
何「おう」
公「趙安殿は不死身なのですか?」
何「つい最近も、山中での調練の最中に山崩れに巻き込まれたが、生還された」
公「そんなことが…」
何「不幸中の幸いに恵まれすぎている」
公「幸せなんだか、不幸なんだか…」
何「私も皆目検討がつかない…」
公「趙安殿に聞いてみましょう」

公「趙安殿…」
趙「…死ぬかと思った」
何「何事ですか!?」
趙「マムシに噛まれた」
公「なんと…」
趙「冥土の川を渡りきる直前で、王安石様が現れた」
公(マジで死にかけてる)
趙「フレッシュマンの加護でもあり試練でもあるということだ」
何「冥土から説明を聞いて帰ってくるとは、さすが趙安殿」

趙安(ちょうあん)…この衣装を見にまとっている限り、死にかけても本当に死ぬことは滅多にないらしい。
公順(こうじゅん)…ならいっそ脱いだ方が…
何信(かしん)…フレッシュマンの誇りと命ならば、誇りを選ぶのが趙安殿だ。 

楊令伝 

黒騎兵

黒騎兵…女真族の恐怖の象徴だった。やりすぎ感は否めず、マイナスイメージ克服に奔走中。

人物
楊令(ようれい)…梁山泊の同志はやはりいいな、と思う反面…
郝瑾(かくきん)…楊令の苛烈な戦を知る唯一の古参メンバー。
張平(ちょうへい)…楊令との連携はまさに一心同体。
蘇端(そたん)…郝瑾の叱責も突っ込みも、ものともしないひょうきん者。
蘇琪(そき)…馬に関する知識は皇甫端も一目置く。人を見る目は楊令への定点観測。
耶律越里(やりつえつり)…渾名は門神(もんしん)。デカすぎるから。

30.
侯真「黒騎兵新兵歓迎会の一発芸ですか…」
蘇端「どんな芸ができる?」
侯「…そうですね」
郝瑾「…」
侯「こういうのとかですか?」
楊令「!」
蘇「首が…」
郝「何度回ったのだ…」
侯「こういうのとか…」
楊「!」
郝「どこから頭が出てきているのだ」
蘇「股から頭が生えてきたようだ…」

侯「何か箱はありますか?」
蘇「重箱があるが」
侯「…これなら」
郝「これなら?」
侯「!」
郝「エグい音が…」
侯「!」
蘇「両肩が」
侯「よっ」
郝「入った…」
侯「蓋を閉めてください」
蘇(人体の神秘だこれは…)
侯「いかがですか?」
郝「…判定は、楊令殿?」
楊「優勝だ、侯真」

侯真(こうしん)…師匠との修行がこんなところで生きるなんて…

楊令(ようれい)…こいつは黒騎兵よりも、もしかしたら…
郝瑾(かくきん)…どうすればこの箱に入れるのだ?
蘇端(そたん)…俺ああいう痛い音苦手なんです。

31.
耶律越里「!」
張平「またかよ、お前」
蘇端「デカすぎるからな」
耶「デカくて得をしたことなど一度もない」
張「いつも天井に頭をしたたかに打ち付けるから、門神なのか?」
耶「遠からずだ」
蘇「小柄な俺らからすれば、高身長のお前には憧れるんだが」
耶「俺はもっと小さくなりたいよ」

楊令「!」
張「楊令殿!」
楊「…ここの門の頭は低すぎるのではないか?」
耶「油断していましたな、楊令殿」
張「この宿舎の施工を頼んだのは誰だ!」
蘇「郝瑾殿だ」
張「今すぐ被告人を出頭させましょう」
楊「そこまでのことではない…」
張「そこまでのことです、楊令殿」
楊「それは?」

張「この宿舎を建てることによるバリアフリー対応を怠った罪」
耶「…」
張「己の身長を良しとし、周囲の心配りを怠った罪」
蘇「…」
張「そして何より楊令殿や耶律越里の器を低く見積もった罪があります」
耶「言い得て妙だ」
蘇「郝瑾殿を出頭させよう」
楊「…ここはお前らの宿舎ではないか?」

耶律越里(やりつえつり)…やたらデカイ隊長。いつも張平に、あれ取ってくれって頼まれる。
張平(ちょうへい)…皆の平均身長より大きい間取りで設計することを要求します。
蘇端(そたん)…そうだ!郝瑾殿!
楊令(ようれい)…お前らが平均を下げている。

郝瑾(かくきん)…釈然としないものを抱えつつ、宿舎の門を高くして見積もり出したら、倍以上かかった。

遊撃隊

遊撃隊…史進時代を知る古参と、班光配属後の新参の羞恥心の乖離が激しい。

人物
班光(はんこう)…出会った時は史進殿が英雄に見えたが、その日の夜の格好に幻滅した。

32.
史進「…」
班光「…」

楊令「あれは?」
張平「絶対に服を着ない史進殿と、絶対に服を脱がない班光の冷戦です」

史「…」
班「…」

楊「…これは俺たちに、何か大切なものを示唆しているのかもしれないぞ、張平」
張「…なにを言っているのですか、楊令殿?」
楊「二人の佇まいをよく見るんだ」

史「…」

楊「史進は服を着ていない一点のみ目をつぶれば、所作からなにから完璧だ」
張「目を潰したのですか、楊令殿?」

班「…」

楊「対して班光は服を着ている一点のみ抑え、他をあえて疎かにしている」
張「だからあんなに汚い食べ方を…」

史「…」
班「…」

楊「見事な立合いだ」
張「…」

史(冬は寒い…)
班「耶律越里から分けてもらった毛皮の温もりは堪らんですな」
史「笑止だ」

班(身体を洗うのだから…)
史「脱衣所で脱ぐのか?」
班「そんなわけありません!」

楊「どうなった?」
張「史進殿は半裸。班光は厠で脱ぐことで妥協したそうです」
楊「五分だな」
張「何言ってんの?」

史進(ししん)…半裸を妥協したら、冬はいっそ全部着たくなってきた。
班光(はんこう)…厠で脱ぐことまで禁じられるのは盲点だった。

楊令(ようれい)…俺たちの忘れてしまった何かを見せてくれたような気がしたのだが…
張平(ちょうへい)…たんなるガキの意地の張り合いです。

致死軍

致死軍…だんだん世代交代が進みつつある。

人物
羅辰(らしん)…公孫勝でも生意気を言う無謀者。劉唐や楊雄に会わせたら殺されるだろうと、公孫勝ですら危惧したらしい。

33.
公孫勝「…」
羅辰「…」
公「羅辰」
羅「!」
公「…」
羅「飛ぶ鳥を落としました」
公「…」
羅「…失礼しました」
公「…その鉄球は、どうやって補充している?」
羅「…秘密です」
公「…私にもか、羅辰」
羅「…」
公「…」
羅「…周りには秘密ですからね」
公(…秘密ならそれでいいんだが)

羅「宋国のろくでもなさそうな鍛冶屋から横流ししてもらった鉄を貯めてるんです」
公「ほう」
羅「ここに」
公「…よく貯めたものだな」
羅「私のは使い捨てなので、硬度さえあればあとは丸く削るだけです」
公「…どうやって?」
羅「これは絶対に秘…」
公「…」
羅「…周りには、ですよ」
公「…?」

羅「鉄屑を用意します」
公「四角いな」
羅「これを丸くするのに」
公「…」
羅「これを使います」
公「…なんだそれは」
羅「この容器に鉄を入れると」
公「…」
羅「いつのまにか、鉄球が出来上がるのです」
公「これは周囲にも教えろ」
羅「無理です」
公「…お前も仕組みが分からんか」
羅「はい」

公孫勝(こうそんしょう)…ただ黙って思案してるだけなんだが、勝手にベラベラ喋る奴だな。
羅辰(らしん)…公孫勝の部下みたいな若者。鉄球をデコピンで飛ばして百発百中。鉄球作成用容器は稼働中、妙に熱いんで気をつけてくださいね。

本隊

本隊…あの頃は若くても、だんだんと押し寄せてくる老いと世代交代に直面中。

34.
馬麟「♪〜鉄笛〜♪」
鮑旭「…」
馬「…」
鮑「いつ聞いてもいいものだ」
馬「…いつでも吹くものでもないがな」
鮑「年季が、入ったな」
馬「お前と会う前から、吹いていたからな」
鮑「…いつから、吹き始めたのだ?」
馬「…」
鮑「…」

鮑「私まで歌うことになるなんて」
馬「そんなもんだろう」
鮑「それは?」
馬「俺も鉄笛を吹く自分なんてある時まで考えたこともなかった」
鮑「…今の私たちには、鉄笛を吹いてないお前を考えられないよ」
馬「鉄笛が無かったら、俺はただの人でなしさ」
鮑(こんな時、なんて声をかけたらいいのかな)

馬「声などかける必要はない」
鮑「…お前はたまに私の心を読むな」
馬「…聞こえるのさ」
鮑「子午山で、嘘がつけなくなったからかな」
馬「心の獣は?」
鮑「きっと、飼い慣らせるようになった」
馬「たまには暴れさせてやれよ」
鮑「牙は鈍ってないさ」
馬「…そうだな」
鮑「鈍らせる気も、ない」

鮑旭(ほうきょく)…梁山泊の漢達に恥じぬ死に方をしたい。
馬麟(ばりん)…俺のことなどさっさと忘れてもらいたかったが、そうもいかなくなったらしい。

35.
韓成「穆凌!」
穆凌「韓成じゃないか!」
韓「…お前も、やっと梁山泊に来れたのか」
穆「…やっとだよ、韓成」
韓「…穆凌」
穆「…」
韓「…俺は、お前にずっと言いたいことがあってな」
穆「…」
韓「俺はあの時のお前が、大変な目に遭っているのを、知っていた」
穆「…」
韓「だが、俺は逃げた」

穆「…」
韓「俺はお前と一緒に梁山泊に行く約束をしていたというのに、お前を捨てて、逃げた」
穆「韓成」
韓「…謝って許されることではないと思う」
穆「やめろ、韓成」
韓「俺はきっと、死ぬまでお前に返せぬ借りをしてしまったと…」
穆「韓成」
韓「!」
穆「…もう、済んだことだ」
韓「…」

穆「お前のことだ」
韓「…」
穆「悩みに悩み抜いた上で、動いたんだろう?」
韓「…梁山泊に行ける日は、あの日しかなかった」
穆「その日を逃したら、お前は永遠に梁山泊に行けなかったかもしれんだろう?」
韓「…かもしれん」
穆「なら、今ここで会えて、良かったじゃないか、韓成」
韓「…友よ」

穆凌(ぼくりょう)…呼延灼の息子。韓成とは親父同士が仲良しだったから、馬が合ったのも当然かもしれない。親父のせいでえらい苦労してきた。
韓成(かんせい)…韓滔の息子。義理堅く、責任感が強いところがある。それが自身を縛らなければ良いが…

36.
張平「鮑旭殿」
鮑旭「どうした、張平?」
張「これは、鮑旭殿に託すものだと、楊令殿が」
鮑「…」
張「…」
鮑「相変わらず、見事な手入れがされている…」
張「俺もあの人くらい上手く…」
鮑「張平は、張平の笛でいい」
張「…」
鮑「あいつの笛は、あいつにしか吹けなかったから、良かったのさ」

鮑「子午山に送ってもらおうか」
張「よいのですか?」
鮑「あそこなら、絶対に無くさないだろう?」
張「そうですね」
鮑「それにあそこなら」
張「…」
鮑「きっと皆で集まれるじゃないか」
張「…そうですね」
鮑「…お前は当分来なくていいからな、張平」
張「その時はお手柔らかにお願いします」

鮑「…子午山か」
張「行かれるのですか?」
鮑「…いや、二度と行くことはないだろう」
張「よろしいのですか?」
鮑「私一人で、行くわけにはいかないからな」
張「ならば、武松殿や史進殿と…」
鮑「気持ちだけ受け取っておくよ、張平」
張「…」
鮑「…これからは、笛の音が聞こえぬ月夜になるな」

鮑旭(ほうきょく)…張平の鉄笛も、もちろん好きだよ。ただな、あいつの笛の音は身体の一部みたいなものだったからな。
張平(ちょうへい)…あの音をもっと聞いておけばよかったです。

重装備隊

重装備隊…やたらゴージャスな重装備部隊になった、意匠が凝りすぎだともっぱらの評判。

人物
李媛(りえん)…李応の娘。お嬢様気質と重装備部隊が合体してしまったら…
荀響(じゅんきょう)…李応の薫陶を受けた将校。李媛が大好き。

37.
李媛「杜興殿」
杜興「何かな、李媛」
李「この兵器を作るための木材と鉄の見積書を出したのですが…」
杜「…あの件か」
李「まだ届かないのですか?」
杜「…今の梁山泊は兵器の原料よりも他の物資の方に尽力していてな」
李「まさか、まだ出してないのではありませんよね?」
杜「…すまぬ」

李「杜興」
杜「…」
李「原料が届くのを待つことは出来ますが、梁山泊に忖度して見積書を出さないのは、執事にあるまじき振る舞いです」
杜「お嬢様…」
李「執事を荀響に変えましょうか?」
杜「それだけはご勘弁を…」
李「ならば私の言いたいことは分かりますね?」
杜「今すぐに!」
李「…」

杜「…弱った」
孟康「やれやれ梁山泊も人使いが荒い」
杜「飛んで火にいる」

孟「離せ糞爺!」
杜「何としても、木材と鉄を仕入れてもらうぞ!」
孟「ふざけんな!」
?「!!」
孟「飛刀が!」
李「これは孟康殿、ご機嫌よう」
孟「いい訳ない!」
李「荀響」
荀響「孟康殿、こちらへ」
孟「」

李媛(りえん)…お嬢様気質が抜けきれず、攻城兵器を見る審美眼が厳しすぎて納期など知ったこっちゃない。
杜興(とこう)…李媛様だけには逆らえない…
荀響(じゅんきょう)…虎視眈々と、次期執事の座を狙っている。

孟康(もうこう)…貧乏くじ当選者筆頭

岳家軍

岳家軍…こいつらの歩む道のりは、かつての好漢たちが模索した姿と瓜二つ。

人物
岳飛(がくひ)…後世で英雄になった夢を見たと徐史に言ったら、呆れた目で見られたのがすごく悔しい。
徐史(じょし)…岳飛と立合ったら勝てないが、口喧嘩で負けたことは一度もない。
孫範(そんはん)…子供二人の面倒を見るナイスガイ。頼むから仲良くけんかしてくれ。

38.
岳飛「嫌だ!」
徐史「岳飛殿!」
孫範「観念しろ」
岳「嫌なものは嫌だ!」
孫「徐史が手塩にかけた代物だぞ」
徐「俺の羹が飲めないというのですか」
岳「この羹、野菜が入っているではないか!」
孫「肉しか食わん岳飛殿を心配してのことだ」
徐「岳飛殿の屁に我々は心底から辟易しているのです」

岳「肉しか食わなくても、病にならないから良いではないか」
孫「我々は岳飛殿の尻から出る副流煙を吸い続け、間違いなく健康寿命が5年縮んだ」
徐「換気するのも間に合わないんです」
孫「襖を開く直前で、何度気絶したことが」
徐「三途の川の渡し守と顔見知りになりました」
岳「言いたい放題だな」

岳「む…」
孫「退け!徐史」
徐「この顔は!」
岳「許さんぞ、貴様ら」
孫「!」
徐「すまぬ、孫範殿!」
孫「おのれ!」
岳「とくと味わえ」
孫「無念だ…」
岳「冥土の土産にするといい」
孫「俺の屍は、故郷の元に…」
岳「!」
孫「」
岳「」

徐「まともに嗅いだら、てめえごと気絶してやんの」

岳飛(がくひ)…あれが三途の川か…
徐史(じょし)…諸々の家事担当。その力の高さを徐史力と自負している。
孫範(そんはん)…あいつはきちんと余命を確かめてから渡してくれる堅気の船乗りです。

禁軍

禁軍…梁山泊との戦いなどを繰り広げ、ここはここで大きなターニングポイントを迎えつつあるのだ。

39.
童貫「岳飛」
岳飛「はい」
童「禁軍の調練はどうだ?」
岳「どうということもなく」
童「そうか」
岳「ただ一つ気になったことがあります」
童「言ってみろ」
岳「なぜ畢勝殿も、兵の一人一人も、何々をする調練と言うのですか?」
童「どういう意味だ?」
岳「調練とつける意味がわからないのです」

岳「食事を作る調練、宴会芸の調練、調練と言う必要が感じられません」
童「岳飛」
岳「…」
童「生きることそのものが戦であり、その準備を調練と言うことの何がおかしい?」
岳「…なるほど」
童「今お前も調練をしているぞ」
岳「?」
童「私に口答えをする調練だ」
岳「これは私にとって、戦です」

童「ほう。私と戦をしているのか」
岳「厳しい調練には反対しませんが、逐一調練とつける禁軍のあり方に異議があります」
童「そこまで私に直言をした者は初めてかもしれぬ」
岳「私は調練とそうでない時は、調練と言わぬ方が良いと考えます」
童「調練とそうでない時を分ける調練か」
岳「だから!」

童貫(どうかん)…調練と言わぬ調練も、全く無意味だったぞ。
岳飛(がくひ)…考え方です。童貫様。

元ネタ
 ・水滸伝

 ・楊令伝

twitterにて連載中!

ご意見ご感想やリクエストは、こちらまでよろしくお願いいたします!

気が付いたら半年経ってました。

今月号も、長々とお読みいただき、誠にありがとうございました!

参加される皆さんの好きを表現し、解き放つ、「プレゼンサークル」を主宰しています! https://note.com/hakkeyoi1600/circle ご興味のある方はお気軽にどうぞ!