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水滸噺 8月(下),9月(上)[恥知らずの九紋竜]

あらすじ
曹正ソーセージを創生し 九紋竜裸にて天地を創造す
豹子頭青面獣妻に恐怖し 九紋竜及時雨の雷に恐怖す
青蓮寺長期休暇を満喫し 九紋竜大刀に人の罪を問う
新副官九紋竜に戦々恐々 幻王楊令の歩みいざ始まる

すいこばなし 注意書き
北方謙三先生水滸伝,楊令伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
・今回からついに、楊令伝まで守備範囲を広げました!出てくる好漢は、すなわち水滸伝を生き残った者ということですので、未読の方はその点ご留意いただいた上でお読みください。
・作者のtwitterにて1日3回を目標に投稿しています。 
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまで
 お寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

それでは行ってみましょう! 
今回は62本の特盛です!

水滸伝 

梁山泊

梁山泊…本当は晁蓋もまぜてあげて109星にしたいところなんだけど、あいにく108の軛からは逃れられないのである。

騎馬隊

騎馬隊…騎馬隊競馬も盛んに博打が行われるが、百里風が気まぐれで思いの外当てにならないから、掛け率は乱高下する。

人物
・林冲(りんちゅう)…なぜ黒騎兵にしたって?具足の汚れが目立ちにくいではないか。
・索超(さくちょう)…なぜ青騎兵にしたって?幼少の頃の戦隊英雄もので、青英雄に憧れてたからさ。
・扈三娘(こさんじょう)…なぜ林冲殿の騎馬隊で平気なのかですって?もう終わったことですし、こころなしか身体も頑丈になったのでいいかな、と。
・馬麟(ばりん)…なぜ食事を取り分けるのかって?索超は箸やお手拭きを配る係だから、配膳は俺しかできるやつがいないだろう?
・郁保四(いくほうし)…なぜ無茶な調練ばかりしているのかって?俺が聞きたいです。

1.
索超「青騎兵!」
青騎兵「!」

馬麟「さすがの突破力だ」
扈三娘「直線を駈けぬける速さは林冲殿にも負けませんね」
郁保四「急先鋒の所以ですね」

索「…」
扈「相変わらず見事な突撃ですね、索超殿」
索「ああ…」
馬「どうした、索超?」
索「…実は見て欲しいのはそこじゃないんだ」
郁「?」

馬「高台からもう一度見てくれとのことだが」
扈「何が始まるのでしょう?」
郁「動き始めました」

索「!」
青「!」

馬「こいつは…!」
郁「綺麗だ…」
扈「具足の色彩がここまで映える突撃だったなんて…」

索「!」

馬「交差した!」
扈「水と水がぶつかり合うようですね」
郁「すごい…」

扈「もっと見ていたい…」
馬「!?」
郁「あれは…」

林冲「!!!」
索「!?」

馬「林冲殿…」
郁「ぶち壊しですね」
扈「青い着物に墨をぶちまけてしまったような…」

索「…」
扈「見事でした、索超殿」
郁「綺麗でしたよ!」
馬「無粋な隊長など気にしなくていい」
林「…なんだお前ら」

・索超(さくちょう)…誰も気づかないこだわりだったとしても、良さを分かって欲しくなる時もあるんだ。
・扈三娘(こさんじょう)…他の色もないでしょうか?
・馬麟(ばりん)…黒と赤はあるが、あの二人に索超の繊細な世界観など分かるわけがないだろうな。
・郁保四(いくほうし)…俺、索超殿の旗持ちになりたくなりました。

・林冲(りんちゅう)…調練だったのではないのか?

致死軍&飛竜軍

致死軍&飛竜軍…オフの時は、お酒は椀に2杯までだし、睡眠時間も14刻(7時間)以上取ることを奨励している。致死とは程遠い生活習慣なのだ。

人物
・公孫勝(こうそんしょう)…地下牢での頭倒立会得中、倒れた時背中で虫を潰した感触が忘れられない。
・劉唐(りゅうとう)…家族も赤毛で蒼い目をしていたが、一体先祖はどこから来たんだろうな。
・楊雄(ようゆう)…石秀と組み始めた頃は、虚弱体質でしょっちゅうおんぶしてもらってた。
・孔亮(こうりょう)…兄貴は絶対に致死軍は向いてないよな。
・樊瑞(はんずい)…暗殺なれしすぎて、普通の戦に戸惑うようになった。
・鄧飛(とうひ)…魯智深の肉は本当にうまかった。銭に困ったら残りの腕も言い値で買うぞ。
・王英(おうえい)…なぜ身長が伸びなかったのか不思議でならないが、女性と接する時の気も小さすぎる。
・楊林(ようりん)…砂絵の名手。いつ風で台無しになるかのスリルがたまらないらしい。

2.
劉唐「行きますよ、公孫勝殿」
公孫勝「…」
劉「!」
公「」
孔亮「いただき!」
楊雄「孔亮!」
劉「公孫勝殿が食べてないのに先に食うな」
孔「そんなこと言ったって、劉唐殿」
劉「…」
孔「そしたら全員でそうめんを見逃すことになってしまうではないですか」
公「…」
樊瑞「配置を変えよう」

劉「前衛に公孫勝殿と樊瑞」
公「…」
樊「…」
劉「間を楊雄と楊林が受け」
雄「…」
林「…」
劉「殿に孔亮と王英だ」
孔「…」
王英「背が届かねえんだが」
劉「最後に滞留した麺を食え」
王「…」
劉「では行くぞ」
公「…」
劉「!」
公「」
樊「!」
劉「!」
公「」
樊「…」
雄「…」
林「!」

劉「前衛では厳しいですか、公孫勝殿?」
公「…」
樊(箸使いが思ったより下手くそだな、公孫勝殿)
劉「役割を交代しましょう、公孫勝殿」
公「…」
劉「…」
公「…」
劉「公孫勝殿?」
公「!」
劉「公孫勝殿!」
雄「俺たちに流してください!」
孔(腹ペコだったのか)
王(俺たちは食えるのかな)

・公孫勝(こうそんしょう)…普通に食えばいいではないか。
・劉唐(りゅうとう)…致死軍飛竜軍合同調練のレクリエーションです。
・楊雄(ようゆう)…薬味は生姜とネギ。
・孔亮(こうりょう)…薬味に李逵の香料を隠し持っていたが、匂いでバレて取り上げられた。
・樊瑞(はんずい)…タンパク質がほしい。
・楊林(ようりん)…甘辛いキノコが好き。
・王英(おうえい)…伸びきったそうめんしか食えなかった。

騎馬隊&致死軍

騎馬隊&致死軍…林公。なぜか男子厠での遭遇率が異様に高い。

3.
林冲「くそっ!」

索超(林冲殿はさっきから何を?)
馬麟(公孫勝殿と頭倒立で立合いをすることになったそうだ)
索(どうしてこうも容易く、相手の土俵で勝負してしまうのかな)

林「俺も地下牢暮らしが二年あれば間違いなくできたのに!」

索(そしたら梁山泊はあったのか?)
馬(本気で言っているな)

扈三娘「林冲殿は何を?」
索「頭倒立の練習だ」
扈「また公孫勝殿ですか」
馬「分かってきたな、扈三娘」

林「!」

扈「林冲殿を固められれば、勝機があるのでは?」
索「どうやって?」
扈「私に考えがあります」
馬「…」

林「ちゃんと支えろ、郁保四!」
郁保四「…」

公孫勝「一夜漬けでできるようになったのか、林冲」
林「…」
劉唐「両者用意!」
公「…」
林「…」

索(扈三娘!)
扈(張藍!)
張藍(承知)

劉「はじめ!」

公「…」
林「…!?」

張「これより、林冲様恥ずかしい話十選集朗読会を始めます」
索「よろしくお願いいたす」
馬「…」
扈「…」
郁「…」

公(まさか微動だにしないとは…)
林「」

張「今日は皆さんの心に残ったフレーズを、私がその時のことを思い起こしながら、朗読いたします」
扈「では、父との遭遇で、張藍のお父上と初めてあった時の場面を」
索「王道だな」

林「」
公(目が血走り始めたぞ?)

張「それでは…」

林(動くに動けん)

張「林冲様。次はどちらのお店に行きましょうか?」
張(林)「…どこでもいい」
張「ならば、菓子の店に…」
張(林)「そこはちょっと…」

馬「煮え切らないな」
扈「どこでもいいと言ったのに…」

林「」
公(顔が赤くなってきたぞ…)

張「ならばどこならいいのですか!」
張(林)「お前が決めてくれ」

郁「めんどくさいですね」
索「いい加減にして欲しいですな」

林「」
公(林冲が死域に入った!)

張「…父上」
張(林)「誰のだ」

扈「決まってるじゃないですか…」
馬「本当にそういうところだな、林冲殿」

林「」
公「…私の負けだ」
劉「公孫勝殿!?」
公「このままだと馬鹿のまま死ぬぞ、林冲」

・林冲(りんちゅう)…薛永の丸太をゴルフスイングにする事で気を断つことに成功した。勝敗は覚えてない。
・索超(さくちょう)…よくそれで夫婦になれたな…
・馬麟(ばりん)…失礼にもほどがある…
・扈三娘(こさんじょう)…第一印象最悪じゃないですか。
・郁保四(いくほうし)…笑った笑った。

・張藍(ちょうらん)…この物語はノンフィクションですからね。

・公孫勝(こうそんしょう)…実はがっつり聞こえてた。
・劉唐(りゅうとう)…むしろ朗読会の方聞いててどうでもよかった。

本隊 

本隊…梁山泊のオーソドックス。とはいえ隊長は変わり者揃いなんで、知らず知らずインスパイアされてしまうのもやむを得ないか。

人物
・関勝(かんしょう)…宣賛といる時は、周囲が驚くほど幼稚な遊びをする。最近は砂をかけあっているところを、金翠蓮に叱られた。
・呼延灼(こえんしゃく)…梁山泊にも宋国で培ったフレッシュマンの気風を取り入れようとしているが、そもそもフレッシュマンってなんだよ!という方は、こちらへ。
・穆弘(ぼくこう)…イケメンなのを忘れがちだが、弟を溺愛する姿や、眼帯に性格を乗っ取られる様を見ると冷める。
・張清(ちょうせい)…そこそこイケメンでも、内面の成長度合いと嫁の瓊英の成熟度合いと全く釣り合っていないので、何かもったいない。
・宋万(そうまん)…焦挺との稽古では、体術でコテンパンにされた後は、槍でコテンパンにして返す。
・杜遷(とせん)…ダンディーなノッポ。梁山泊の急成長ぶりに、自身の身長が急に伸びた時の成長痛を思い出し、ひそかに危惧している。
・焦挺(しょうてい)…杜遷とは古い付き合い。昔はとても敵わなかったけど、今や腕相撲では瞬殺するほどまでに、林冲との稽古で強くなった。
・童威(どうい)…しょっちゅうなにかをやらかした、若いころの李俊の尻ぬぐい担当。
・李袞(りこん)…兵が引くレベルで物事を覚えている。嬉しいっちゃ嬉しいけど、500人はいるんだけどな…
・韓滔(かんとう)…お父さんは代州の英雄と呼ばれていたが、戦と私生活の緩急の入れどころは子供のころから見習っていた。
・彭玘(ほうき)…彼の判断力は、呼延灼や関勝も頼りにするほどだが、せめて定食の付け合わせ程度は自分で判断して決めてくれ。
・丁得孫(ていとくそん)…張清がふざけて、「蛇だ!」って言いながら枝をホン投げた時だけは、張清を返り討ちにできた。

4.
穆弘「皆、筆は用意したな」
関勝「…」
呼延灼「…」
宣賛「…」
穆「ここに無地の眼帯を用意した」
関「…」
穆「今日の眼帯はここに自分で目玉を書き、その書いた目玉の性格になりきり、調練を行おう」
宣(何の罰ゲームですか?)
関(隊長オリジナル調練企画が穆弘の番になったのだ)
呼(前回は俺だ)

関「まつ毛を書くな、宣賛」
宣「関勝殿こそ、カラコンみたいな色を足さないでください」
呼(子どもか、こいつら)

穆「書けたなら眼帯を付けろ」
関「…」
呼「…」
宣「…」
穆「今からその目玉の性格になるのだぞ」
宣「ヘイ、関勝?」
関「ボンジュール、宣賛」
穆「おう」
呼(ノリが良すぎる)

宣「随分と長い睫毛ですな、マドモアゼル関勝」
関「あなたの眼の色も青眼虎より青いわね、ムッシュ宣賛?」
穆「世界観が面白いな、二人とも」
呼「…」
穆「呼延灼?」
呼「西洋かぶれめ。キザな輩の台詞を聞くとこの刀疵が疼く… 」
関「ナイト呼延灼様…」
穆(何か忘れてる気がするが、いいか)

・穆弘(ぼくこう)…この閉じられし目が開かれる時、真の力が解き放たれるのだ。
・関勝(かんしょう)…妖術が解き放てるのかしら、ムッシュ宣賛?
・宣賛(せんさん)…ナイト呼延灼殿に、護衛していただくのですな。
・呼延灼(こえんしゃく)…おう、護衛なら俺に任せろ。マドモアゼル関勝。

・徐寧(じょねい)…まだ調練に来ないのか、隊長たちは…

5.
張清「瓊英の美しさに歯止めがかからなくて…」
林冲「張藍との仲も良好だな」
張「最近あまりに美しすぎて、目があったら石になってしまうように動けなくなる」
林(そんな物の怪がいなかったかな?)
張「見つめ合うと素直に喋ることなど到底できない」
林「梁山泊と瓊英殿を選ぶなら?」
張「瓊英」

林「迷いがないな」
張「もし瓊英が童貫の娘だったら、俺は禁軍の将になり、お前らと戦をしていただろう」
林「宦官だぞ?」
張「林冲はどちらを選ぶのだ?」
林「それは…」
張「梁山泊と張藍殿を選ぶなら」
林「…その問いはやめてくれ」
張「なぜだ?」
林「それは…」

張藍「…」
百里風「…」

林(どこで聞きつけてくるのだ)
清「林冲?」

瓊英「…」

林「瓊英殿!」
清「聞き捨てならん!」
林「違う!あの木陰に」

清「誰もいないではないか!」
林(致死軍エクササイズの成果か)
清「貴様、張藍殿がいながら瓊英を狙うとは」
林「私は張藍しか愛さん!」

百「!」
藍「よしよし」
瓊「…」

・林冲(りんちゅう)…いつもこの話題になると必ず現れるのはなぜなのだ…
・張清(ちょうせい)…瓊英が禁軍に行くと言ったら?無論俺も行くがなにか?

・張藍(ちょうらん)…張清も中々のアレね、瓊英。
・瓊英(けいえい)…お見苦しいところを…

・百里風(ひゃくりふう)…厩で乱雲に意地悪して憂さ晴らし。

遊撃隊

遊撃隊…諸悪の根源。お願いだから、脱がないで。

人物
・史進(ししん)…裸。
・杜興(とこう)…爺。
・陳達(ちんたつ)…跳躍。
・施恩(しおん)…替天行道。
・穆春(ぼくしゅん)…噛ませ犬。
・鄒淵(すうえん)…猟師。

6.
鄒淵「猟師をしていて思うことがある」
陳達「それは?」
鄒「小動物の可愛らしさだ」
杜興「だが、それを狩るのが生業なのだろう?」
鄒「背に腹はかえられんからな」
陳「どの動物が好きなのだ?」
鄒「兎だな」
杜「わしには食い物にしか見えんのだが」
鄒「それは否めないが、実に可愛らしい」

陳「どの部位が可愛いのだ?」
鄒「尻だな」
史進「…」
杜「分かる、という気がする」
史「…」
鄒「あの尻の丸みの丸い尻尾が堪らんのだ」
史「…」
陳「兎の尻か…」
史「…」
鄒「見れば見るほど撫で回したくなるぞ」
史「…」
杜「兎は年中発情していると聞くが」
史「…」
鄒「そうなのか?」

史「…」
杜「繁殖のためだと聞いた覚えがある」
史「…」
陳「だからプレイボーイマガジンのロゴは兎らしい」
史「…」
鄒「そうなのか」
史「…」
杜「解珍殿が犬を飼っていたな」
史「…」
鄒「俺は犬には可愛さよりも格好良さを求めたいな」
史「…」
陳「分かる、という気がする」
史「…」

・杜興(とこう)…黒鉄はカッコいい猟犬だな。
・陳達(ちんたつ)…どこかの隊長よりもかっこいいよな。
・鄒淵(すうえん)…絶対梁山泊一部の隊長よりも賢いと思うぜ。

・史進(ししん)…(俺はいつまで尻を出し続けていればいいのだ)

7.
王母「また裸になって、史進」
史進「私の竜が、そうささやくのです、王母様」
母「そんなに脱いでばかりいたら、いつか必ず酷い目にあいますよ」
史「あうものですか」

母「馬麟と鮑旭から便りが」
楊令「何事ですか?」
母「…」
楊「王母様?」
母「私は史進に手紙を書きます」
楊(何という気を…)

史進「!?」
陳達「史進?」
鄒淵「どうした、お前が落馬するなど」
杜興「それにかこつけて具足を脱がんなど」
史「今、取り返しのつかぬことが起きる気を感じた…」
杜「起こしたばかりではないか」
林冲「おい、木偶」
史「」
林「新しい技を思いついた、かけるぞ」
陳「この事か?」
史「もっと酷い」

史「痛いにもほどがあった…」
陳「しかし、これより酷いことなんて起こるのか?」
史「!!」
陳「…史進?」
史「あの手紙は…」
陳「…ただの手紙ではないか」
史「開けてくれ、陳達」
陳「俺は字が読めんぞ」
史「開けるだけだ」
陳「…」
史「…」
陳「」
史「…陳達が、気を断つほどのお叱りか」

・王母(おうぼ)…あれだけ言っていたのに…
・楊令(ようれい)…子午山に怒涛の嵐が訪れました…
・王進(おうしん)…嵐の中鍛錬していたら死域。

・史進(ししん)…肩を震わせて大泣きしながら謝罪の手紙を書いた。
・杜興(とこう)…脱がなくなったな、史進。
・陳達(ちんたつ)…手紙を開けた時、死を覚悟する何かが飛び出したのは覚えてる。
・鄒淵(すうえん)…ノリ悪くなったな。

・林冲(りんちゅう)…練兵場の木偶を108体はぶっ壊した。史進なら頑丈だからどうにでもかけられて便利だ。

騎馬隊&遊撃隊

騎馬隊&遊撃隊…調練の時は騎馬隊が遊撃隊をコテンパンにして終わるけど、飲み会や水浴びの時は、遊撃隊が騎馬隊をコテンパンにする。

8.
馬麟「楊令を、ずいぶんとかわいがっていた、と聞いたが、林冲」
林冲「打って打って、打ちのめして、心を裸にしてやった。俺も裸になった。楊令とは…」
史進「今なんと言った、林冲」
林「史進?」
史「質問に、答えろ」
林「…打って打って」
史「そこではない」
林「…心を裸にして」
史「違う」

林「…俺も裸になった」
史「…もう一度」
林「…俺も裸になった」
史「林冲」
林「…」
馬(史進が林冲を圧倒している…)
史「なぜ裸になったのだ?」
林「言葉のあやだ、史進」
史「裸になっていないのか?」
林「…例えだ」
史「ならばなぜ、裸という言葉を選んだ」
林「…そういう関係だったのだ」

史「楊令と裸の関係だと?」
林「水浴びをした」
史「水浴びの時に裸になるのは当然だろうが!」
林「!」
馬(キレた)
史「林冲」
林「…」
史「裸になる調練だ」
林「史進?」
史「梁山泊の裸を司るこの俺との裸の立合いは、貴様の死を意味する」
林「…」
史「脱ぐぞ、林冲」
林「…」
馬「♪〜鉄笛〜♪」

・史進(ししん)…馬麟の笛の音と月の光が俺たちの裸を彩った夜だな、林冲。
・林冲(りんちゅう)…股間を隠そうとすると竹の棒で打ってきやがった…
・馬麟(ばりん)…さすが史進。

本隊&遊撃隊

本隊&遊撃隊…連携調練は頻繁に行われるが、風紀の乱れを心配した呉用が、門限を設定しようとした結果、遊撃隊有志による無言のデモが裸で行われた。

9.
呼延灼「…」

鄒淵「良いではないか、良いではないか」
史進「あーれー」
兵「wwwww」
史「帯を解かれながら回転しつつ着物をはだけると自然に脱ぐことができるのだ」
杜興「また馬鹿なことをしているな、小僧」
兵「引っ込め爺!」
兵「史進殿のありがたいお言葉の途中だぞ!」

呼(これが遊撃隊…)

史「…」

呼「もう一度だ、郭盛」
郭盛「…フレッシュ!」
呼「今の一呼吸は余計だ」
郭「…」
呼「梁山泊フレッシュマンの衣装になれろ」
郭「…どうしても着なくてはダメですか?」
呼「聞くまでもない、郭盛」
郭「恥ずかしい」
呼「由緒正しきフレッシュマンの衣装に羞恥は不要!」

史(変態か?)

杜「馬同士ぶつかったら、人格が入れ替わっただと?」
郭「幸い、朝影も乱雲も怪我はないのですが」

史(呼)「…」
呼(史)「…」

鄒「もう一度ぶつかるのも危険だな」
陳「乱雲たちが気の毒だ」
呼(史)「俺たちは気の毒ではないのか、陳達」
陳「!」
鄒(中身が史進でも呼延灼殿に叱られると怖い…)

史(呼)「当面の調練はどうしよう?」
呼(史)「俺が呼延灼の兵を引き受ける」
史(呼)「なんだと?」
呼(史)「止むなしではないか」
史(呼)「確かに…」
呼(史)「この馬鹿どもの相手も疲れていたからな」
鄒「なにを!」
呼(史)「」
鄒(やっぱ怖え)
呼(史)「そのうち戻ってるだろう」
史(呼)「そうだな」

呼(史)「双鞭も面白い武器だな」
兵「呼延灼殿、本日もどうぞよろしくお願いいたします」
呼(史)(硬い雰囲気だな)
郭「今日は関勝殿との合同調練だ」
呼(史)「郭盛」
郭「なんだ、史進」
呼(史)「双鞭にその口の利き方はなんだ」
郭「!」
呼(史)「鞭の罰だ」
郭(野郎…)
呼(史)「尻を出せ」
郭「!?」

史(呼)「…」
兵「ういっす、史進殿」
史(呼)(なんといい加減な軍だ…)
兵「やべえ下着忘れた」
兵「俺も!」
史(呼)(具足はきちんと着ているのに、なぜ…)
杜「まあ、こんなバカどもの軍なのだ、呼延灼殿」
史(呼)「杜興」
杜「なんだ」
史(呼)「俺たちで軍の風紀を取り戻すぞ」
杜「…涙が」

呼(史)「人は産まれた時、服を着ていない」
関勝「…」
呼(史)「そこにパンツという蛇が絡みついた時、羞恥心という悪の心が芽生えた」
関「…」
呼(史)「人間の原罪は恥。羞恥心だ」
関「…」
呼(史)「その羞恥心を芽生えさせないために、人間ができることは何か…」
彭玘「呼延灼?」
郭(史進め…)

兵「史進殿はどうしちまったんだ」
兵「なんだ、この衣装は…」
兵「俺は好きだぞ」

杜「呼延灼殿、これは…」
史(呼)「宋国フレッシュマンの気風を取り入れて風紀を正すのだ」
杜「しかし、この衣装は…」
史(呼)「宋国の由緒正しい衣装だ、杜興」

陳(中身が呼延灼殿でも…)
鄒(露出度は変わらん…)

呼(史)「尻を出せ!」
兵「お願いします!」
呼(史)「!!」
兵「!」
彭「…のう、呼延灼」
呼(史)「なんだ、彭玘」
彭「なぜ尻なのだ?」
呼(史)「顔では痛いではないか」
彭「尻でも痛いだろ?」
呼(史)「ビジュアル的に顔の方が痛い」
彭「はあ」
呼(史)「尻だと気持ちコミカルだろう?」
彭「…」

史(呼)「フレッシュ!」
兵「フレッシュ!」
史(呼)「声が小さい!」
杜「…」
兵「爺がフレッシュもないでしょう、史進殿」
兵「身体は萎びたイチジクだもんな」
史(呼)「愚か者!」
兵「!」
史(呼)「貴様の見掛け倒しの鮮度なぞ、杜興の内に秘める味と比べ物にならんわ」
杜(フォローされたのか?)

彭「そんな理由が…」
杜「呼延灼も露出狂だったとは思わず…」
彭「道理で関勝が…」
杜「関勝?」
関「よう、杜興」
杜「!?」
彭「…着物はどうした、関勝殿」
関「羞恥心という原罪から逃れるために、服を捨てたのだ」
彭「…呼延灼か?」
関「あの教えは貴重だぞ、彭玘。お前も脱げ」
彭「断る」

史(呼)「史進!」
呼(史)「呼延灼!」

関「史進が史進と怒鳴って、呼延灼が呼延灼と怒鳴ってるぞ?」
杜「訳ありだ」
彭「解説する気にもなれん」

史(呼)「貴様よくも羞恥心を捨てる調練だの、鞭を尻に挟んだ立合いなどしてくれたな」
呼(史)「お前のフレッシュマンだって、ただの露出狂だ」

史(呼)「フレッシュマンを侮辱したな」
呼(史)「あんな淫らな衣装を纏うくらいなら裸の方がマシだ」
史(呼)「蛮族め、恥を知れ」
呼(史)「その言葉そのまま貴様に返してやる」

杜「お前はどっちが変だと思う、彭玘?」
彭「わしはもう考えるのを放棄したよ」
関「なんだか恥ずかしくなってきたぞ」

史(呼)「貴様、俺の鞭を取れ」
呼(史)「おう、望むところ」
史(呼)「間違っても貴様の尻に挿した方を渡すんじゃないぞ」
呼(史)「もう二本とも挿した後だが?」
史(呼)「なんだと…」

杜「わしはあと何回史進に幻滅すれば良いのだろうか…」
彭「帰ろう、杜興」
関「やはり着物は着るべきなのか?」

杜「戻ったのか?」
呼「史進の鞭と俺の鞭で相打ちになり、双方気絶したら戻っていたのだ」
史「鞭も悪くないな、呼延灼」
呼「貴様が尻に挿した鞭など二度と使わん」
史「お前の尻だ」
彭「…史進は落とし前をつけた方が良いのではないか?」
史「それは?」
関「俺を裸にさせたのは貴様か?」
史「」

・呼延灼(こえんしゃく)…尻に挿された鞭を泣く泣く廃棄したが、次の双鞭がなかなかしっくりこない。
・史進(ししん)…本気で怒る関勝は、生涯三本指に入る怖さだったとか。

・杜興(とこう)…そういえば李応殿が好きだったフレッシュマンというのは…
・陳達(ちんたつ)…史進の史進が出てるか出てないかの差だったな。
・鄒淵(すうえん)…誤差の範囲にすぎん。

・郭盛(かくせい)…尻に鞭を挿して戦う呼延灼殿なんて見たくなかった…
・彭玘(ほうき)…あれで技になっていたのが腹がたつ…

・関勝(かんしょう)…宣賛にコテンパンに論破されて目が覚めた。

二竜山 

二竜山…二竜、清風、桃花の近くに孔明が見つけた白虎山という山があるが、もっぱら調練の駆け足と遠足で使われている。

人物
・楊志(ようし)…人が良すぎて日常の些事は、石秀や曹正に言いくるめられがちだが、たまに自分で決めた時は、周囲を振り回すバランスの悪さ。
・秦明(しんめい)…狼牙棒はめったなことじゃ振り回さないが、解珍にスケベなことを言われた時だけは、顔を真っ赤にしながら振り回して追いかけっこしている。
・解珍(かいちん)…黒鉄という飼い犬のおかげで山歩きができているが、実はかなりの方向音痴。
・郝思文(かくしぶん)…ほぼ兵卒だった頃の自分に、なぜ陳娥ほどの女性が嫁入りしてくれたのかを尋ねたら、「将来性です」と一言。
・石秀(せきしゅう)…曹正を罵るレパートリーがむやみやたらに多い。決してうっ憤を晴らしているのではない。
・周通(しゅうとう)…遠出調練の時は、必ず何か一つ忘れものをしている。用意周到とは決して行かない。
・曹正(そうせい)…いつの間にかソーセージ職人と化し、兵站とか情報収集の仕事を蒋敬や済仁美に投げ続けていたら…
・蔣敬(しょうけい)…曹正のソーセージのパッケージを開封する時は、必ず曹正の顔を裂くようにしている。
・李立(りりつ)…魚肉でソーセージを作るよう朱貴に提案して作成したが、曹正が二竜山から走って抗議しに来たので、取り止めることに。
・黄信(こうしん)…出番が少ないことにぼやいているが、増やしたら増やしたでぼやくだろう、お前は。
・燕順(えんじゅん)…清風山は隅から隅まで知っている。二竜山に合流する時に、三人で記念碑を作った。
・鄭天寿(ていてんじゅ)…イケメンの心技体を兼ねそろえた本物のイケメン。
・郭盛(かくせい)…秦明の従者時代に好きな女の子の話をしたら、卒倒されて大慌て。
・楊春(ようしゅん)…朱武と陳達は彼の将来性と堅実性を高く評価していたが、史進はそうでもないと思っていた。誰がお前の下ネタに乗るもんか。
・鄒潤(すうじゅん)…額の瘤がしゃべり始める夢を見た。
・龔旺(きょうおう)…虎の刺青のデザインは変態の所業。

10.
曹正(ソーセージバブルもソーセージさながら、弾けちまったか…)

楊志「…」
石秀「…」

曹(何を深夜に二人で話し合っている?)

楊「曹正のソーセージを売るためにはやむを得ないか…」
石「楊志殿、ご決断を」

曹(何の話だ?)

楊「…」
石「楊志殿、これは二竜山存続に関わる決断です」

楊「しかし…」
石「もう一度売上を増やすには、曹正をソーセージにするしかないのです」

曹(!?)

楊「しかし兵站が…」
石「蔣敬と李立がいます」
楊「情報収集も…」
石「それは済仁美殿が」
楊「…そしたら曹正は何をしているのだ?」
石「今や売れないソーセージ職人です」
楊「…」
石「…」

楊「ならば曹正がソーセージになるしか…」
曹「おい」
石「ソーセージ!」
曹「野郎!」
楊「曹正」
曹「楊志!」
楊「二竜山のためにソーセージになってくれないか?」
曹「賊徒の様なことを!」
石「屠殺の技は衰えてないから安心しろ」
曹「」
石「!?」
楊「今の技は…」
曹「スパイスの目潰しよ」

・曹正(そうせい)…怒りのあまり、額の痣の面積が広がった。

・楊志(ようし)…それで、結局曹正は何の仕事をしているんだ?
・石秀(せきしゅう)…目も鼻も口もえらいことになって、早一週間。

11.
曹正「出来たぞ!」
楊志「曹正?」
石秀「まさか雌豚と子豚をもうけたのではなかろうな?」
曹「」
石「!?」
楊「…何が出来たのだ?」
曹「曹正のソーセージの新作だ」
楊(もう飽きたんだが)
曹「早速楊令に食わせに行くぞ、楊志」
楊「今のお前にソーセージ作り以外の仕事はないのか?」

曹「曹正のソーセージの新作だ、楊令」
楊令「今までと何が違うのですか、曹正殿?」
曹「食べれば分かる」
令「…すごく、大きいですね」
済仁美(なぜ卑猥に聞こえるのかしら?)
令「大きすぎてお口に入りません」
曹「ならば、楊志の吹毛剣で半分にしてくれ」
志「そんな事で楊家の家宝は使わん!」

済「野菜も食べてね、楊令」
令「トマトが二つも…」
曹「…切れんな」
志「中に何が入っているのだ?」
曹「切ってからのお楽しみだ」
令「曹正殿早く!」
石「許さんぞ、豚め…」
曹「いかん!」
石「!?」
志「曹正のソーセージの先から…」
済「したたかにチーズが…」
令「すごいものを見ました」

・楊志(ようし)…曹正のソーセージしたたかチーズ入りか…
・石秀(せきしゅう)…楊志と同じ位置に火傷が出来た。
・曹正(そうせい)…石秀の怪我が完治するまで、豚小屋に強制移住させられた。

・済仁美(さいじんび)…今夜、楊志様にお願いしよう…
・楊令(ようれい)…美味しいんですけど、なんだか変な気持ちです。

12.
楊志「曹正のしたたかチーズは売れているのか?」
蔣敬「…売れてます」
楊「分からんもんだな」
蔣「この動画を見てください」
楊「…何だこのチャレンジは」
蔣「曹正のソーセージしたたかチーズチャレンジという企画で…」
楊「史進のチャレンジが大炎上しているが」
蔣「全裸でやっていたので」

楊「食べ物で遊ぶのはやめてほしいな」
蔣「しかし、先端からしたたかにチーズが飛び出すソーセージが珍しいのは否めません」
楊「珍しいが、思いついてもやらんだろう普通」
蔣「曹正は、チーズ入りのソーセージを作っただけだと主張しているのですが」
楊「クレームは?」
蔣「ひどい有様です」

曹正「次の商品はこれだ、楊志」
楊「したたかチーズに味をしめたな」
曹「今回のは一味違うぜ」
蔣「また先端から飛び出す仕組みが?」
曹「見てろよ…」
楊「…赤い汁の正体は?」
曹「チリソースだ」
楊「…」
蔣「…なんというか」

周通「血尿が…」
安道全「ソーセージの食べ過ぎだ」

・楊志(ようし)…この方向性に舵を切るのは絶対にまずい気がする…
・蔣敬(しょうけい)…また曹正が暴走し始めましたね。
・曹正(そうせい)…卑猥だと?そう考えるお前の想像力が穢れているのだ。

・周通(しゅうとう)…塩分を控えないと結石ができるのか…
・安道全(あんどうぜん)…曹正のソーセージはもっと塩を減らした方が味が良くなると思うぞ。

13.
曹正「ソーセージのしたたかチーズチャレンジを行なった者への摘発が厳しいという」
楊志「少華山はそのチャレンジのせいで討伐されているというぞ」
曹「俺の食卓を豊かにする一工夫がなぜ曲解されてしまうのだ」
楊「…」
曹「ソーセージを作る気も失せてしまうぜ」
楊「そしたらお前の仕事は?」

石秀「下品な代物を拵えものだな、曹正」
曹「なんだと?」
石「誰がどう見ても、性器からしたたかに精を放つ動画にしか見えぬ」
曹「貴様の想像力はそこまで堕ちたのか、石秀」
石「この動画を見ても同じことが言えるか?」
曹「…少華山の大炎上したやつか?」
石「己の下品さを噛み締めるがいい」

史進「したたかチーズチャレンジを行う!」

曹「なぜ全裸なんだ」
石「貴様の駄作よりも粗末だ」

史「いく…」

曹「酷え…」
石「豚の所業の愚かさに気づいたか」

史「!」

〜したたか〜○

史「…神機賢者史進による、したたかチーズチャレンジだ」

曹「…」
石「感想は?」
曹「穴を塞ぐ。今すぐ」

・曹正(そうせい)…他の仕事始めようかな…
・楊志(ようし)…もともと兵站と情報収集をしていただろう。
・石秀(せきしゅう)…朝からくだらん代物を見せつけられる者の気分になれ、曹正。

・史進(ししん)…この直後朱武にトラウマになるほど叱られた。

14.
曹正「石秀」
石秀「どうした曹正。ソーセージと間違えて、自分のものを切断してしまったのか?」
曹「…真面目な相談だ」
石「ほう」
曹「ソーセージ作りは既に自動化されている」
石「…」
曹「兵站も情報収集も間に合っている」
石「…」
曹「俺の仕事がない」
石「今さら気づいたのか」

曹「ソーセージにかまけていたら、出番が無くなってしまったのだ」
石(くだらない出番だらけだった気もするが)
曹「しかし、今から戦に出るのは酷だ」
石「お前の着る具足を買う銭など無い」
曹「他の仕事も間に合っている」
石「おまえの名札が薪にされる日も近いな」
曹「どうしよう…」
石「俺は名札よりお前の脂肪の方が着火しやすいと思うが」
曹「野郎」
楊志「仕事だ、曹正」

曹「なに!」
楊「お前が働かないのも惜しいからな」
石「無職の曹正より豚の方が今の我々の役に立ってますものね」
曹「おい」
楊「令のおつかいの撮影を頼む」
曹「任せろ」
石「…それは致死軍だった私の方が適しているのでは?」
楊「…確かに」
曹「…」
楊「すまん。やはり石秀に頼む」
曹「」

・曹正(そうせい)…機械にソーセージ作りを取り上げられ、アイデンティティを喪失した。
・石秀(せきしゅう)…豚は食材になりますからね。
・楊志(ようし)…曹正の扱いどうしよう…

15.
曹正「蔣敬、李立。兵站の仕事は…」
李立「今は大丈夫だな」
蔣敬「私は例の炎上案件のクレーム対応をやってもらいたいんだが」
曹「…分かった。引き受けよう」
蔣「それは助かる」

蔣「このクレームの手紙の量を見ろ、曹正」
曹「こんな事に…」
蔣「胃薬が増えたよ」
曹「すまなかった、蔣敬」

蔣「曹正?」
曹「俺はまた、自分のソーセージ作りの初心を忘れていた」
蔣「それは?」
曹「ご家庭の食卓を豊かにすることだ」
蔣「…二度と忘れるなよ」

?「曹正は卑猥にもほどがある」
曹「…妙だな」
?「曹正は豚よりも頭が悪い」
曹「俺への非難は甘んじて受け入れるが、筆跡が同じだ…」

曹「筆跡鑑定を依頼したい」
蕭譲「どれどれ」
曹「…」
蕭「この字は…」
曹「ありがとう、蕭譲」

曹「石秀!」
石秀「どうした、クレームの山に豚からの告訴状でも混ざっていたのか?」
曹「貴様、クレームをこれだけ書く暇があったら調練しろ」
石「!」
曹「楊志にも報告したからな」
石「!!」

・曹正(そうせい)…もう一度作り直しだな。
・李立(りりつ)…味が整ってきたじゃねえか。
・蔣敬(しょうけい)…減塩したものやお子様向きも作るとは、見直しました。

・蕭譲(しょうじょう)…字を見れば誰の書か一発で分かるぞ。

・石秀(せきしゅう)…楊志から一週間の着ぐるみ調練を命じられた。

16.
楊春「第一陣前へ」

郭盛「くそっ」

楊「第二陣は側面を突け」

郭「!」

郭「また負けた…」

楊「…」

郭「一体どこに秘訣があるんだ」

楊「…」

郭「観察してみよう」

楊「…」
郭(調練場を均してやがる…)
兵「隊長!」
兵「それは我々新兵の役割ですので!」
楊「…では一緒にやろうか」

楊「そのやり方ではきちんと均せない」
兵「すみません。見様見真似でやっていたもので…」
楊「では、キチンとしたやり方を今日覚えよう」
兵「よろしくお願いします!」

郭(マメな奴だと思っていたが、こんな所まで…)

楊「産まれは?」
兵「青州です」
楊「ならば秦明殿を?」
兵「憧れです!」

楊「これで覚えたな」
兵「ありがとうございます!隊長!」
楊「お前は陣を組むときに周りをよく見ているな」
兵「!」
楊「それを新兵で出来る者は少ない。周りの者と調練の振り返りをすれば、更に力を発揮できるぞ」
兵「今日の調練後に始めてみます」
楊「その意気だ」

郭(俺も楊春を見習おう)

・郭盛(かくせい)…兵と調練の振り返りや、マメに気づいたことについて話をすることを始めた。
・楊春(ようしゅん)…俺は出来ることをやっているだけさ。

17.
解珍「…」
黒鉄「…」
解「長生きしたもんだ」
黒「…」
解「…お前ももう、走れんか?」
黒「!」
解「すまん。お前ならまだまだ走れるよな」
黒「…」
解「悪かったよ…」
黒「!」
解「黒鉄?」
黒「!!」
解「どこへ行く!」
黒「!!」
解「待て!」

解「黒鉄!」
黒「!」
解「…」
黒「!」
解「…老いぼれたのは、わしだと言いたいのか、黒鉄」
黒「!!」
解「独竜岡一の猟師を舐めるな!」
黒「!!」
解「走るぞ、黒鉄」
黒「!!」

解「一息つくのはいいだろう、黒鉄?」
黒「…」
解「…二竜山とはいえ、いつの間にか随分と深い所に来たな」

解「帰れるかな…」
黒「…」
解「ため息か、今のは」
黒「…」
解「すまん、黒鉄」
黒「!」
解「走るな!」
黒「!!!」
解「黒鉄?」

黒「…」
解「もう分かるぞ」
黒「…」
解「黒鉄?」
黒「…」
解「…そういうことか」
黒「!」
解「…」
黒「…」
解「黒鉄」
黒「…」
解「さらば」
黒「!」

・解珍(かいちん)…黒鉄?きっと二竜山を元気に駆け回って獲物を探しとるよ。
・黒鉄(くろがね)…しょうがない飼い主め。最期の走りくらい綺麗に終わらせやがれ。

双頭山 

双頭山…ある時は、ノッポと脳筋の二人三脚。またある時は、バンドの活動拠点。趣向が違いすぎるんじゃねえか?

人物
・朱仝(しゅどう)…兵たちの間では、髭に意志があるのではないかとの噂をたてられたが、真偽のほどを知っているのは雷横だけ。
・雷横(らいおう)…陳達と跳躍競技で勝負したらほぼ互角。彼は高さ。陳達は距離に自信あり。
・董平(とうへい)…風流喪叫仙というバンドリーダー。アルバム作成時は調練すらままならない。
・宋清(そうせい)…また曹正のソーセージであらぬ誤解を受けて、取引先からクレームを受けた。
・孟康(もうこう)…旗がやたら目立つ。郁保四もうなるデザイン。
・李忠(りちゅう)…兵卒だろうが年下だろうが、教えを乞う時は真摯に聞く姿勢に定評あり。
・孫立(そんりつ)…鞭はかなり強い。嫁には弱い。
・鮑旭(ほうきょく)…盗人時代の昔馴染みがよりを戻そうと連絡を取ってくるが、全部突っぱねてる。
・単廷珪(たんていけい)…風流喪叫仙のライブでの水の仕掛けは定評がある。
・楽和(がくわ)…最近お姉ちゃんが本当に面倒くさくなってきた。

18.
李忠「雲を掴むような話しですまない、石勇」
石勇「李忠の生まれは?」
李「太原県だ」
石「あの辺りか…」
李「まさか、心当たりが?」
石「聞いた話に過ぎぬのだが」
李「おう」
石「賊による人攫いが頻発しているらしい」
李「なんだと?」
石「瓦罐寺という寺の悪僧の酷い噂を聞いたことがある」

・李忠(りちゅう)…そんな寺が近所に昔あったような…
・石勇(せきゆう)…女や子どもを攫っては、人買いに売り捌く下衆野郎どもだ。

19.
董平「風流喪叫仙を始めて、案の定例の知府の娘から、エゲツない手紙が届くようになった」
孫立(俺なら一枚でも届いたら、一生トラウマになる代物だ)
董「困った…」
孫「既に現世から命を失って、董平殿の未練だけが残っているのでは?」
董「やめろ」
楽和「またこんなに手紙が…」
董「羨ましい…」

董「いいな、楽和は」
楽「…よく見てください。董平殿」
孫「楽大娘子の字だ…」
董「これは?」
楽「私の活動へのいちゃもんか、バックダンサーの要望書が何枚も何枚も届きまして…」
董「お前もめんどくさいな…」
孫「めんどくさくても、そこがいいんだ、董平殿」
楽和(義兄さんはこれだからな…)

鮑旭「皆さん、お揃いで」
董「お前はファンからのロクでもない手紙は届かんのか?」
鮑「…ファンというよりも」
楽「届くのか?」
鮑「私は昔、盗人だったじゃないですか」
孫「おう」
鮑「その時の仲間がやっかみで、昔の写真や逸話をファンサイトに投稿し続けているんです…」
董「アク禁だな」

・董平(とうへい)…神を讃える歌でも歌えば、なんとかなるかな?
・孫立(そんりつ)…楽大娘子はバックダンサーに適任だろう、楽和。
・楽和(がくわ)…(アマチュアが見ても中の下なんですよね)
・鮑旭(ほうきょく)…ちなみに馬麟は、捕らえた賞金首によるネガキャンに悩まされているそうです。

流花寨

流花寨…弓矢を作る職人は、三顧の礼で梁山泊に招かれた。花栄も尊敬してやまないその道40年の大御所。

人物
・花栄(かえい)…弓矢より難しいことができないイケメン隊長。
・朱武(しゅぶ)…陣形敷きてえなぁ、とよくぼやくようになった。
・孔明(こうめい)…優しすぎて、食べたかった定食のおかずを物欲しそうな花栄についあげてしまう。
・欧鵬(おうほう)…鉄の槍の稽古相手はもっぱら呂方。方天戟とはいい勝負ができる。
・呂方(りょほう)…週刊占いの的中率に宋国メディアからの依頼も殺到している。
・魏定国(ぎていこく)…相手の心の炎を焚きつける、火付け役によくなる。ただ、凌振に火をつけるんじゃなかった…
・陶宗旺(とうそうおう)…梁山泊キルスコアランキング上位に自分がいる理由が分からないまま、石積み組んでた。

20.
花栄「お前らの言い分はよく分かった」
朱武「…」
花「確かに、私は弓矢と顔以外の特技はないかもしれない」
孔明「…」
花「ならば私に新たな特技を会得させる機会をくれ」
朱「…それで、何をするのだ?」
花「弩はどうだろう?」
孔「矢は絶対使うんですね」

花「これが弩か」
朱「使い方マニュアルは…」
花「!」
孔「どうしました?」
花「弦で指を挟んだ…」
朱「まだトリガーに手を入れるなよ」
花「トリガー?」
孔「花栄殿、危ない!」
花「!」
朱「取り上げろ、孔明」
孔「使う前から大騒ぎだ」

花「弩は諦めた」
朱「賢明だ」
花「魏定国の瓢箪矢を試す」
孔「嫌な予感しかしない…」
花「失礼な」
朱「差し障りのない場所に射ろよ」
花「じゃああの石積み…」
孔「花栄殿!そこは!」
花「!」
朱「…」
孔「…陶宗旺苦心の石積み芸術が」
朱「完成間近だったのに…」
花「…どうしよう」

・花栄(かえい)…陶宗旺がここまで血相を変えることがあるんだな…
・朱武(しゅぶ)…この石積みの色合いのコントラストがたまらんのだが…
・孔明(こうめい)…しかし、戦の時に崩すんですよね?

21.
解珍「お前ができることは何かな?」
男「私は、頭上で百回も槍を回すことができます。その間は、敵は近づけません」
郭盛「…」
男「実際、滄洲場内の試合で、私は勝ちました」
呂方「…」
解「何か聞きたいことは?」
郭「百回を過ぎたらどうする?」
男「それまでに隙を見つけて打ちこむのです」

呂「これは、仮に俺がお前と立ち合うことを想定した話なのだが」
男「…」
呂「俺なら、お前が槍を振り回している間、槍の届かない位置で待機していると思う」
男「…」
呂「その時お前はどうするのだ?」
男「…百回を過ぎる前に隙を見つけて」
呂「ならば俺は百回過ぎた後の隙をついて打ちこむぞ?」

郭「百回以内なのか?」
男「百回以内です」
呂「俺たちは毎日方天戟を千回振り回しているが」
郭「準備運動だよな」
男「」
解「わしはお前に負けた男が気になる」
呂「わざわざ突っ込んできたのか?」
男「はい…」
郭「そんな奴に勝ったところで」
男「じゃあ二百回ならよいのですか!」
解「違う」

・解珍(かいちん)…たまにいるんだよな。ああいう身の程知らずが。
・郭盛(かくせい)…一度限界まで試したところ、千回は余裕で振り回せた。
・呂方(りょほう)…良くも悪くも普通の男では戦に出られんよ。

・槍を百回回せる男…なぜ私が不採用なのだ。百回も回せるのだぞ!それも全力で!準備運動で千回回せたからなんだというのだ!本気の立合いで回すことに価値があるのではないか!一度私と立合って、槍を回すところを見せてやりたかったが、あいにく今日は利き腕の肘の調子が今ひとつなので勘弁してやろう

聚義庁

聚義庁…脳筋・ポワポワ・パワハラしかいない3トップに、頭脳が苦悩しない日はない。

人物
・晁蓋(ちょうがい)…村の保正時代の武勇伝は事欠かないが、ノリで塔を背負いながら川を渡るのだけは二度とやらない。
・宋江(そうこう)…ノリで説教するが、着地点を決めてないから、双方どうしたらいいのか分からなくなることがしばしば。
・盧俊義(ろしゅんぎ)…ノリで無茶ぶりして、職人たちの納期を破らせることもしばしば。ただ、その後の気前はいい。
・呉用(ごよう)…なんなんだよこの3人、と思いながら今日も深夜残業。
・柴進(さいしん)…また新しいビジネスを思いついた。
・阮小五(げんしょうご)…呉用の良い息抜き相手。碁もオリジナル将棋もいい勝負。
・宣賛(せんさん)…梁山泊節目の宴会では、頭巾にひと工夫凝らしてやってくる。

22.
呉用「…」
柴進「飲みたそうな顔をしているな、呉用殿」
呉「分かるのか?」
柴「なんとなくな」
呉「…」
柴「私でよければ」
呉「では…」
柴「と、言わないと飲めないだろう、呉用殿の事だから」
呉「柴進…」
柴「さて、どうしようかな」
呉「…今日は一緒に飲んでくれ、柴進」
柴「分かった」

呉「…私と飲んでも旨くないだろう?」
柴「なぜ飲み始めてからそんな野暮なことを言うのだ、呉用殿」
呉「すまん…」
柴「呉用殿のそういうところは好きではないが」
呉「…」
柴「嫌われることを厭わず仕事をしている姿は嫌いではないぞ、呉用殿」
呉「柴進」
柴「まあ私も呉用殿の事は苦手だがな」

呉「血筋が良いと嫌味まで上品だ」
柴「言うではないか」
呉「梁山泊を周にして、柴進を帝にしようか」
柴「呉用殿」
呉「晁蓋殿が大将軍、宋江殿が宰相、盧俊義殿が商売をされれば…」
柴「…上手くいきそうだな」
呉「…少し、驚いている」
柴「人を見る目はあるのに自分は見えんか」
呉「お前もな」

・呉用(ごよう)…もしそうなら、私は宋江殿の補佐官がいいな。
・柴進(さいしん)…そんな国なら悪くないかな…

23.
宋江「呉用」
呉用「…」
宋「私は自分の置かれた立場をよく分かっている」
呉「…」
宋「たとえ美形揃いが揃っているとしても、史進の行った闇の妓楼に行くつもりはない」
呉「…」
宋「このパンフレットを見て心は動きこそしたが、決して行くことはないから安心しろ、呉用」
呉(ならばその丸印は…)

宋「とにかく、前回の馬のような女は酷かった」
呉「…申し訳ございません」
宋「なぜ私に選ばせてくれないのだ?」
呉「青蓮寺のハニートラップが心配で…」
宋「釈然としないが、もう一度チャンスをやろう」
呉「…」
宋「私の嗜好についてまとめたチェック用紙を元に、明日呼んでくれ」
呉(明日?)

呉(女のことなど…)
金大堅「呉用殿、頼まれた印を持ってきたぞ」
呉「お前がいたか、金大堅!」
金「?」
呉「実は…」
金「…任せろ、呉用殿」

呉「宋江殿」
宋「選んだか?」
呉「お望みの女性は、どの女性彫刻になりますか?」
宋「見事な…」
呉「金大堅の力作です」
宋(後で個人的に頼もう)

・宋江(そうこう)…この女性彫刻でしばらくなんとかなるな…
・呉用(ごよう)…また新たな才能を一つ掘り当ててしまった。
・金大堅(きんだいけん)…印を掘るよりも楽しい仕事だ。

・馬のような女…呉用の書類選考をパスした宋江のしたたかのお相手。のちに彼女がその時の体験を赤裸々に綴った自伝がベストセラーになった。

24.
宋江「梁山泊二十四時間テレビのフィナーレを飾る一万里マラソンのランナーが着到できない?」
呉用「戴宗が神行法の札を切らし、王定六が肩の違和感を訴え途中棄権しました」
盧俊義「肩なら走れるのではないか?」
宋「他に走者は?」
呉「林冲が行ったのですが、百里風が片道でそっぽを向いたと」

盧「走者はどこにいるのだ?」
呉「戴宗が道半ばすぎとのことらしく…」
宋「スタミナはさすがだが、いかんせん間に合いそうにない…」
呉「楽和のサライもサビに入りましたね…」
盧「マズイな…」
宋「ラスト10分を迎えたぞ」
呉「公孫勝たちの偽装ももう限界です」
盧「そうだ!」
呉「盧俊義殿?」

盧「燕青」
燕青「…」

楽和「〜♪〜」

宋「感動が梁山泊を包みはじめた…」
呉「しかし、ランナーは?」

?「…」

宋「あれは?」

蔡福「…」

呉「蔡福?」

蔡「」

呉「ボロ雑巾のようだ…」
宋「長距離走った感はある」

蔡「」

呉「ゴール!」
宋「…感動せんな」
呉「…確かに」

蔡「」

・宋江(そうこう)…やはり男は顔だな…
・盧俊義(ろしゅんぎ)…蔡福のズームで視聴率がダダ下がりしただと!
・呉用(ごよう)…一体蔡福に何が…

・戴宗(たいそう)…あとで勘定したら、酒をチャージしていたら意外と間に合ったらしい。
・王定六(おうていろく)…走るのは全身運動だから身体のケアは欠かせないのさ。

・林冲(りんちゅう)…千里は走れんのか、百里は…
・百里風(ひゃくりふう)…遠い!

・楽和(がくわ)…彼のズームでは視聴率がダダ上がりした。
・燕青(えんせい)…また私は心を殺してしまった…
・蔡福(さいふく)…三徹したボロボロの帰り道、燕青に拉致され襷を託された。

三兄弟 

三兄弟…李逵にストライキを起こされた兄貴分二人は、餓死寸前まで追い込まれたことがあるらしい。

人物
・魯達(ろたつ)…片腕では家事などできぬではないか。
・武松(ぶしょう)…李逵に全部やってもらっていたから、家事などできる気がしない。
・李逵(りき)…だったらもっと労わってくれよ!

25.
魯達「李逵」
李逵「はいよ」
魯「…いつもながら美味いぞ」
李「当然さ」
魯「俺の腕もお前に調理してもらいたかった」
李「どうやって食べたんだい?」
魯「焼いただけさ」
李「そりゃ危ねえ」
魯「林冲は腹を壊したらしい」
李「無理ねえよ」
魯「お前ならどう料理する?」
李「そうだな…」

李「豚の骨と魚で出汁を取って、汁物を作って…」
魯「おう」
李「大兄貴の肉は、しっかり火を通して、甘辛く煮詰めて燻製させて」
武松「…」
李「野菜も合わせて麺にするかな」
魯「美味そうだ」
武「なにを言っているのだ、兄者」
魯「李逵に拳骨だな」
李「なんでだよ!」

魯「武松の拳を食うなら?」
武「兄者!?」
李「不味いに決まってら」
武「李逵!?」
李「食えるところもねえし、出汁が出るほど味もしねえだろ」
魯「辛口だな、李逵」
李「味しねえってば」
武「…敵の血を吸いに吸っているから、あるいは」
李「熊が蜂の巣壊してるのと訳がちがうだろうが、兄貴」

・魯達(ろたつ)…げんこつで出汁をとるというのは?
・李逵(りき)…豚の骨だよ。兄貴の拳じゃねえ。
・武松(ぶしょう)…万が一食う時が来たら、確かめてやろう。

養生所&薬方所

養生所&薬方所…けが人のリハビリプログラムは結構ハードだが、そのおかげで普通よりもすぐに治る。

人物
・安道全(あんどうぜん)…スポーツ医学の見識もさすがのものがある。
・薛永(せつえい)…ドーピングの相談には一切応じません。
・白勝(はくしょう)…梁山泊の催しでは呉用すら頼りにする根回し力。

26.
林冲「断る」
安道全「しかし、このツボを突けばお前はさらに強くなれるぞ」
林「だが断る」
安「林冲、おまえはなにを、友だち甲斐のない事を言っているのだ」
林「む…」
安「恥を知れ」
林「…」
白勝「!」
林「どうした、白勝」
白「腹の中が破れちまいそうになるほど痛え」
安「そんな、白勝!」

林「もうそれは治ったのだろう?」
白「再発した…」
安「ならば直ぐに手術を」
白「もう腹を開かれるのはごめんだ」
安「わがままを言うな、白勝」
白「だけどよ…」
安「…」
白「林冲が安道全の新しいツボの試しに協力したら、手術を受けるぜ」
安「林冲」
林「…」
安「友達がそう言っているぞ?」

白(やっぱちょろいな)
安(押しに弱いのは分かっている)
林「…」
安「さて林冲。正直言って、きわどいところだ」
林「…」
安「痛いし、苦しい。泣き叫ぶだろう」
白(話が違わねえか?)
安「死んだら、あの世で恨め」
林「…」
安「ツボはここだ!」
林「うぐっ!!ぐああ!!」
安「ん!?間違ったかな…」

・林冲(りんちゅう)…安道全に怒りの百烈拳をお見舞いした。
・安道全(あんどうぜん)…うわらば!
・白勝(はくしょう)…いったいどこで見つけてきたんだ、この秘孔ってツボの本を…

27.
薛永「白勝」
白勝「どうした、薛永?」
薛「体調が悪いんだ」
白「いつものことじゃねえのか?」
薛「それが、いつもと違うんだよ」
白「というと?」
薛「身体がいつもより温かくて…」
白「…」
薛「脈が一定で…」
白「…」
薛「頭痛がしないんだ」
白「そりゃ健康って言うんだよ、薛永」

・薛永(せつえい)…これが、健康?
・白勝(はくしょう)…最近は定時に上がって身体動かして早く寝てたじゃねえか。

牧場

牧場…牧童が、馬は飼い主に似るんだなあと思わない日はない。

人物
・皇甫端(こうほたん)…百里風のめんどくささは林冲似だよな。
・段景住(だんけいじゅう)…乱雲の馬鹿さ加減も史進似だ。

28.
史進「乱雲!」
乱雲「嫌!」
史「どうして…」
皇甫端「どうした、史進」
史「乱雲が俺を避けるのだ」
皇「ふむ…」
史「弱った…」
皇「心当たりは?」
史「…あの一件以来どうもしっくりこないのだ」
皇「あの一件とは?」
史「…俺に言わせるな」
皇「わしは何も知らんぞ」
史「…妓楼の件だ」

皇「妓楼の件?」
史「…本当に知らんのか?」
皇「わしは馬の事しか興味はない」
史「ならば一から説明する必要が?」
皇「乱雲との仲を取り戻したければな」
史「…実は」

皇「…」
史「ということがあったのだ」
皇「全裸で乱雲を乗りこなしたのだな…」
史「改めて言葉にされるとこそばゆいな…」

皇「…乱雲と話してくる」
史「俺も…」
皇「今のお前では心を開かん」
史「?」
皇「待っていろ」

皇「史進」
史「理由は?」
皇「脱げ」
史「なぜだ!?」
皇「着物が原因だ」
史「どういうことだ!?」
皇「乱雲は、着物を着ているお前を、史進だと思っていない」
史「…心の準備が」
皇「なにを今更…」

・史進(ししん)…自分が脱ぐならまだしも、他人から真顔で脱げといわれると躊躇いが…
・皇甫端(こうほたん)…乱雲も喜んでいるな。
・乱雲(らんうん)…裸でこそ史進よ!

兵站

兵站…ごはんから生活必需品から、果ては鉄鉱石や材木の原料までなんでも調達する係。めっちゃヘビーだぞやっぱり。

29.
柴進「私の庭の生き物をぬいぐるみにした」
蔣敬「侯健の目の隈は酷い有様ですが」
柴「いずれ塩の道のように仕立て職人で道を作るから今は堪えてもらう」
蔣「…しかし、素晴らしい出来栄えですな」
柴「九紋竜や青面獣は人気が出るだろう」
蔣「史進から案が出ていましたが」
柴「見るまでもない」

蔣「どこで売るのですか?」
柴「娯楽施設だ」
蔣「どんな?」
柴「ただ売るだけでは、それでおしまいだ」
蔣「そうですね」
柴「だから、取れそうで取れないが、上手くやれば取れるギリギリを狙った遊具を作ったのだ」
蔣「…柴進殿」
柴「なにかな?」
蔣「中々の悪ですな」
柴「お前ほどではない」

柴「これだ」
蔣「楽しそうですな」
柴「銀一粒で三回だ」
蔣「…もっと安くしましょう」

蔣「あ!」
柴「取れそうで取れんだろう?」
蔣「あのタグに引っかければ…」
柴「それには調練が必要だな」
蔣「…よし!」
柴「…」
蔣「風が!?」
柴「気まぐれに小旋風が吹く」
蔣「クレーム案件です」

・柴進(さいしん)…小旋風だって商品化したいができんだろう?
・蔣敬(しょうけい)…神算子も難しそうですな…

30.
柴進「頼む、扈三娘」
金大堅「そなたをモデルに彫刻を作らせてくれ」
扈「…構いませんが」
柴「恩にきる!」
金「わしも全力を尽くす」
扈「どのような格好がよろしいですか?」
金「それは任せる」
扈「脱ぎますか?」
金「そこまでせんでよい!」
扈「…なら具足で」
金(…今、大損したような気が)

金「いかがかな?」
扈「凄い…」
金「差し上げよう」
扈「ありがとうございます!」
金「…実はこれを柴進の遊戯場の景品にしたくてな」
扈「遊戯場?」
柴「梁山泊の資金調達の一環だと思ってくれ」
扈「分かりました」
金「二頭身の可愛らしいものも作ろうか」
扈「楽しみです!」
柴(素直だな)

金「なあ、柴進」
柴「どうした、金大堅?」
金「この扈三娘彫刻の価格を見てくれ」
柴「!?」
金「しかも一つじゃない」
柴「全て買い占めているとは…」
金「何者なんだ、この義足のBとやらは…」
柴「ポーズや衣装を変えたら、こいつから大儲けできそうだ」
金「ちゃんと扈三娘の許可を得るんだぞ」

・柴進(さいしん)…遊戯場で大儲けし始めた。調子にのるなよ。
・金大堅(きんだいけん)…判子より、彫刻の仕事の方が増え始めた。
・扈三娘(こさんじょう)…騎馬隊の皆さんのものもよろしくお願いします!

・義足のB…他の者が所持することは絶対に許さん。

・王英(おうえい)…懐に入れてお守りにしてる。

工房

工房…弟子を取り始めた。見どころがあるものも多いとか。

人物
・凌振(りょうしん)…深夜に大砲ぶちかますのだけはやめてくれという署名を火にくべて暖を取った。
・湯隆(とうりゅう)…吹毛剣を見せてもらった時は、過去最高のテンションだったと梁山泊古参はかく語る。
・李雲(りうん)…くぎを使わない建築に興味を持ちはじめた。

31.
趙林「俺たちも柴進殿の庭に行ってみたかったですね、李雲殿?」
李雲「そんな事はどうでもいい」
趙「興味ないんですか?」
李「自分が出来ることを、きちんとやる時だったからな」
趙「でも、行ってみたかったですよね?」
李「趙林」
趙「…」
李「今、お前がすべき事はなんだ?」
趙「…船を作る事です」

李「分かっているではないか」
趙「でも…」
李「どうした?」
趙「…」
李「素直な気持ちを言ってみろ」
趙「…俺の作った船に、人を乗せるのが怖いんです」
李「なぜだ?」
趙「だって、もしも人を乗せて沈んでしまったら…」
李「ならばお前の作った船に、張敬を乗せればいいではないか」
趙「?」

李「張敬なら、もし船が沈んでも泳いで帰ってくるぞ」
趙「李雲殿?」
李「張順でも阮小二でもいいではないか」
趙「…」
李「そいつらなら、お前の作る船に乗せられるだろう?」
趙「…はい」
李「そいつらに乗ってもらうために、お前が今できる事は?」
趙「俺の船を完成させる事です」
李「よし」

・李雲(りうん)…俺は青い眼の虎になれたのかな?
・趙林(ちょうりん)…俺だって渾名をもらえるくらい、持っている技を磨くぞ!

間者

間者…かくれんぼ王決定戦決勝は本当に凄い。こんなところに隠れているわけないの連続。

人物
・時遷(じせん)
…いたずらで呉用の真後ろにずっと気配を消してついて行ったら、普通に3日気づかれなかった。
・石勇(せきゆう)…時遷の柔軟性は凡人じゃまねできないから、頭の柔らかさで勝負したい。
・侯健(こうけん)…息子の侯真の将来が、日に日に末恐ろしくなってきた。
・孫新(そんしん)…口が達者で相手から聞き出すスタイル。
・顧大嫂(こだいそう)…梁山泊の兵見たくないものランキング第2位、死域の顧大嫂。
・張青(ちょうせい)…周囲に溶け込んで雰囲気から察するスタイル。
・孫二娘(そんじじょう)…梁山泊の事務職見たくないものランキング第2位、孫二娘の作り笑い。

32.
石勇「親方は身体が柔らかいですが」
時遷「おう」
石「背中を向けたまま、首だけでこちらを見れますか?」
時「三国志読んだな?」
石「狼顧の相ってやつです」
時「俺はここまでだが…」
石(十分すごい…)
時「出来る奴を一人知っている」
石「誰ですか?」
侯真「私です」
石「いつの間に後ろに!」

時「まだまだだな石勇」
石「どこから出てきた?」
侯「師匠の小包の中に」
石「小包に隠れる芸は親方の専売特許だ」
時「そんなことより見せてやれ、侯真」
侯「…」
石「…」
侯「こんにちは!」
石「!」
時「見事だ、侯真」
侯「まだいけます」
時「どれくらい?」
侯「これくらい!」
石「」

時「270度は向いてるな」
石「素直に右を向けば良いのに」
侯「逆もいけますよ!」
時「…参った」
石「お前の首はボルトか何かなのか?」
侯「…バレてしまいましたか」
石「は?」
侯「!」
石「」
侯「着脱式の首なんです!」
石「」
時「気絶した」
侯「そんなに怖いですか?」
時「めっちゃ怖い」

・時遷(じせん)…俺の手妻は全てこいつがさらに洗練させていくだろうな…
・石勇(せきゆう)…夢で侯真人形に追いかけられていた。
・侯真(こうしん)…時遷の英才教育の結果、子供たちを絶叫させる軟体芸の達人となった。

断金亭

断金亭…かくし芸大会は団体戦と個人戦がある。

33.
晁蓋「中秋の隠し芸大会を行う」
宋江「おおむね察したが、私からはもう言うことは何もない」
晁「それでは行ってみよう」
呉用「一番。遊撃隊将校による…」
宋「この順番を見直すべきではないのか?」
呉「天恥無用」

史進「…」
晁(着ているな)

史「…原始、裸は実に太陽であった。真正の太陽であった…」
陳達「!」
穆春「!」
宋(雷と鳥が!)
呉(どういう趣旨なんだ)
史「今、裸は月である。着物に依って脱ぎ、林冲によって輝く、公孫勝のような蒼白い顔の月である」
林冲「…」
公孫勝「…」
呉(とんだとばっちりだ…)
施恩「!」
宋(灯を消した…)

施「史進は言われた」
史「光あれ」
晁「!」
施「こうして、光があった」
宋(跡形もなく着物が消えている…)
施「史進は光を見て、良しとされた。史進は光を裸と呼び、闇を着物と呼ばれた。裸があり、着物があった。第一の日である」
呉(なんとスケールの大きな話だ)
史「第二部に続く」

史進(ししん)…調練そっちのけで脚本書いてた。
陳達(ちんたつ)…字は読めないが演技力は中々。
穆春(ぼくしゅん)…台詞覚えるのが苦手。
施恩(しおん)…演出と朗読の名手。

晁蓋(ちょうがい)…不覚にも見入ってしまった。
宋江(そうこう)…不覚にも続きが気になってしまった。
呉用(ごよう)…不覚にも演出の妙に唸ってしまった。

林冲(りんちゅう)…あとで首を捩じ切ってやろう。
公孫勝(こうそんしょう)…あとで遊撃隊に嫌がらせをしよう。

呉用「第二部史進の園」
宋江(楊春が蛇に)
楊春「園のどの木からも食べてはいけない、などと史進は言われたのか」
穆春「わたしたちは園の木の果実を食べてもよいのです。でも、園の中央に生えている木の果実だけは、食べてはいけない、触れてもいけない、死んではいけないから、と史進はおっしゃいました」

楊「決して死ぬことはない。それを食べると、目が開け、史進のように裸を知るものとなることを史進はご存知なのだ」
穆「…もし私が死んでも、あなたの中に生き続けますか?」
楊「勿論だ、女よ」
晁蓋(女だったのか)
穆「…美味しい。あなたも食べて、男」
陳達「…美味い」
楊「…」
穆「!」
陳「!」

穆「…なぜ裸なの!?」
陳「何か隠すものを…」
史進「どこにいるのか」
穆「!」
陳(…軸が喉に引っかかっちまった)
穆「…あなたの足音が園の中に聞こえてきたので、恐ろしくなり、隠れております。わたしは裸ですから」
史「お前が裸であることを誰が告げたのか」
陳「…女です」
穆「…蛇です」
楊「…」

史「このようなことをしたお前は、あらゆる将校、あらゆる兵の中で呪われるものとなった。お前は、生涯這いまわり、調練を受ける」
楊「…」
史「男と女」
陳「…」
穆「…」
史「男の調練の苦しみを大きなものにする。男は、苦しんで調練をする。女は男に求められ、したたかに精を放たれる」

史「お前らが食べた果実は恥を知る果実だ」
陳「…」
穆「…」
史「恥さえ知らなければ、お前らは裸という光を浴び続けることができた」
陳「…」
史「だが、恥を知ったが故、着物という闇に己が光を閉じ込めることになったのだ」
穆「…」
史「楽園から去れ」
陳「そんな!」
穆「死んでしまいます」

史「嘆く者は死ね!」
陳「!」
穆「!」
史「死してなお、私の中に生き続ける、光を探す旅に出よ」
陳「…?」
史「この書が、おまえらの心に光を当てる」
穆「替天行道?」
宋(こんな使い方を…)
呉(どこから出したのでしょう?)
史「死ねぬぞ、その書を持つかぎり」
陳「死にません」
穆「もっと、苦しんでみせます」
晁(凄い…)

史「ひとつだけ、頼みたいことがある」
陳「なんですか?」
史「私に、止めを刺せるか?」
穆「!」
陳「史進様!」
史「蛇の毒に、やられたようだ…」
楊「…」
陳「いつの間に…」
史「止めを、刺せるか?」
穆「史進様…」
史「できるかできないか、訊いているだけだ」
穆「…できます」

史「史進だと思って、止めを刺せるのだな」
陳「この書に誓って」
史「よし、止めを刺してくれ」
穆「…」
史「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地を這う生き物をすべて支配せよ」

施恩「天地万物は完成された。史進は御自分の仕事を完成されたが、蛇の毒に、斃れた」

陳「史進様」
穆「おさらばです」
史「!」
陳「…なにが見えますか?」
史「裸が」

施「史進は御自分の命を離れ、安息なさった。これが天地創造の由来である」

晁(私は、泣きそうだ)
呉(酒を、飲みましょう)
宋(まるで、自分が成した事のようだ…)

・史進(ししん)…裸であることを忘れさせる完成度。最優秀賞の授賞式も、無論裸。
・陳達(ちんたつ)…訳が分からなかったが、役に入り込んでいた。
・穆春(ぼくしゅん)…穆弘に号泣されながら熱演を讃えられた。
・施恩(しおん)…さすがの朗読力。
・楊春(ようしゅん)…緊急招集されたが、その場でも呼吸が合うさすがの付き合い。

・晁蓋(ちょうがい)…人は裸である必然性を感じた。
・宋江(そうこう)…いつかこんな事をする機会があるかもしれんな。
・呉用(ごよう)…史進にここまで感動させられるとは…

34.
宋江「梁山泊お尻当てクイズ!」
呉用「史進以外の誰が出場したのですか?」
宋「答えを言うな!」
盧俊義「皆、もう帰っていいぞ」
宋「…史進!」
史進「!?」
宋「お前がいつも脱いでばかりだから、この様な企画倒れになるのだ」
史「…宋江殿?」
宋「もっと自分の尻を大切にせよ、史進」
史「?」

宋「そもそもなぜ脱ぐのだ、史進!」
史「…宋江殿?」
盧(皆、やはり帰るな)
呉(すげえ説教が始まりましたな)
宋「なぜ脱ぐのだと聞いた」
史「…今日はそういう企画だったので」
宋「今日の話をしているのではない!」
史「…」
盧(理不尽にもほどがあるとは思うが)
呉(史進だから見守りましょう)

史「私は脱ぎたくて脱いでるわけでは…」
宋「自然に脱いでいると言いたいのか」
史「…」
宋「動物ですら体毛で体を覆っているのに」
史「…申し訳ございません」
宋「謝れと言ったのではない」
史「…」
宋「なぜ脱いでいるのかを聞いた」
盧(着地点が分からん)
呉(一体何を怒っているのでしょうか)

・宋江(そうこう)…いかん。気がついたら朝になっていた。
・盧俊義(ろしゅんぎ)…史進が泣き始めた所から記憶がない…
・呉用(ごよう)…こんな事で徹夜するなんて…

・史進(ししん)…服を、着ます。

林冲さん家

林冲さん家…旦那が旦那なら、嫁も嫁で、馬も馬な、歪なトライアングルが出来上がっている。

・張藍(ちょうらん)…まだ色々あったんですよ。
・林冲(りんちゅう)…やめてくれ、張藍。
百里風(ひゃくりふう)…結局どっちが大事なのだ、林冲。

35.
林冲「咲いたな」
張藍「咲きましたね」
林「…」
張「林冲様」
林「…」
張「こんな時、男が女に言う台詞は決まっていますよ」
林「…」
張「桜より、私の方が綺麗だ、でしょう?」
林「!」
張「…まさか本当に言うつもりだったので?」
林「そんな訳、ないだろう」
張「お顔が桜色ですよ、林冲様」

林「黙れ、張藍」
張「…」
林「…」
張「…」
林「…黙るな、張藍」
張「豹子頭も寂しがりやさんね」
林「…」
張「梁山泊にも桜の名所があるなんて…」
林「開封府も咲いていたな」
張「あなたと開封府で桜が見たかったな」
林「俺もだ」
張「でも、今こうしていられるのも、奇跡かもしれませんよ?」

林「馬鹿な」
張「もしも私がいなくなったら」
林「張藍?」
張「あなたは一人で桜を見上げて、私のことを思い出してね」
林「何を言っている?」
張「だからね、林冲様」
林「…」
張「どの春も、どの春も、一緒に梁山泊の桜を見ましょうね」
林「一生の約束だ、張藍」

・林冲(りんちゅう)…しかし、どこかで聞いたような台詞だ…
・張藍(ちょうらん)…この絵巻に出てくる奥様の台詞の真似っこです。

36.
林冲「張藍!」
張藍「何事ですか、林冲様?」
林「お前はいつの間に私の恥ずかしい話を冊子にしていたのだ!」
張「…書き留めたのは、私ではありません」
林「どういうことだ?」
張「魯達殿が私のお話に感銘を受け、思わず書きとめた物に私が表題を付けて冊子にしたのです」
林「なんということだ」

張「蕭譲殿と金大堅殿も、自分の技量が世の中の役に立つと腕を振るわれたそうで…」
林「印刷しているのか!?」
張「開封府で替天行道を上回るベストセラーになったと…」
林「道理でお前の衣装や装飾品が豪華になったわけだ…」
張「…お食事も豪華になっていたでしょう?」
林「…気づかなかった」

張「…林冲」
林「!」
張「今、なんと言いました?」
林「…」
張「まさか冷蔵庫の残り物やあり合わせで作ったお食事と同じものだと思っていなかったでしょうね?」
林「…いつも美味いから気にしてなかったのだ」
張「!?」
林「…すまん」
張「…林冲様」
林「張藍?」
張「愛でるぞこのやろう」

・林冲(りんちゅう)…今日は豪華な上に、私の好物ばかりではないか!
・張藍(ちょうらん)…たまには甘やかしてあげないと、二巻が発刊できないからです!

・魯達(ろたつ)…暇があると書き写して同志に配り歩いている。
・蕭譲(しょうじょう)…読みやすい字に書き直す時に笑いが止まらなかった。
・金大堅(きんだいけん)…印刷用の木の厳選から気合が入っていた。

清風山

清風山…こんな馬鹿なことやってる山は他にねえだろうと常々思っていた燕順は、少華山との格の違いに圧倒されたという。

人物

・燕順(えんじゅん)…なんだよあの史進とかいう小僧は…
・王英(おうえい)…俺がドン引きするのってやばいだろ?
・鄭天寿(ていてんじゅ)…下には下がいるな、兄貴…

37.
燕順「おう、阮小五」
阮小五「またバカを締めてんのか、燕順?」
王英「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
燕「男の風上にもおけねえ野郎だからな」
鄭天寿「それで、何しにきたんだ?」
阮「たまにはお前らに羽を伸ばさせろと盧俊義殿が」
燕「そいつは珍しい」
王「妓楼行くぞ、兄貴」
燕「てめえは留守番だ」

燕「曹正の店で飲むか?」
阮「そんな安い店に行かなくてもいいくらいの小遣いを貰ってる」
鄭「気前はいいんだよな」
燕「じゃあこの辺りで一番良い店を頼もうか」
阮「よしきた」
鄭「待て、二人とも」

童「!」

鄭「親とはぐれたのかな」
燕「そのようだ」
鄭「行ってくる」

童「…」
鄭「…」

燕「本当にあいつは…」
阮「イケメンに手足が生えたような野郎だ」
鄭「はぐれたらしい」
童「…」
阮「どこではぐれたか覚えているかな?」
童「あそこのお店らへん…」
燕「よし、俺が肩車してやろう」
童「高い!」
燕「俺を親分と呼べ、坊主!」
童「親分!」
燕「お前の母ちゃんを探すぞ」

阮(俺らはお尋ね者だぞ)
鄭(…ほっとけねえのさ)

童「いた!」
燕「どこだ!」
童「あっち!」
燕「よし、走れ!」
童「ありがとう!」
鄭「…」

童「母ちゃん!」
母「どこ行ってたの…」
童「親分に助けてもらったの」
母「親分?」
童「…いなくなってら」
母「お礼を言いたかったのに…」

燕「全くおめえは骨の髄までイケメンだ」
鄭「…そんな訳、ねえだろ」
阮「おい、あれは…」
燕「…」
鄭「俺らの人相書きじゃねえか…」
阮「…どうする?」
燕「やっぱ曹正のソーセージつまみに飲みいくか…」
鄭「だな…」

曹正「おめえらか」
燕「ソーセージつまみに酒だ、曹正」
曹「あいよ」

童「!」
母「…どうしたの?」
童「…なんでもない」
母「…」
童(清風山?)

曹「それでお前は、梁山泊に…」
兵「あの三人は、俺の英雄です」
曹「そんな話をしていたな」
兵「何か恩返しをしたかったのですけれど…」
曹「巡り合わせさ」
兵「…」
曹「その銀細工は?」
兵「あの時のお守りです」

・燕順(えんじゅん)…こんな人助けも悪くねえな。
・鄭天寿(ていてんじゅ)…似てたのさ、弟に。
・阮小五(げんしょうご)…下手くそな人相書きだったな。

・曹正(そうせい)…そんな話をするのは珍しいから、よく覚えていたよ。

・王英(おうえい)…こっそり妓楼に行って、塩まかれて帰ったところに出くわし、三人で袋叩き。

・童…のちに二竜山経由で梁山泊入りし、下級将校に。

代州

代州…呼延灼将軍のご家庭もいろいろあるそうで…

38.
呼延灼「…」
穆秀「旦那様、帰るなら予め言っておいていただけたら…」
呼「軍務だ」
穆「そうかもしれませんが…」
呼「…」
穆「…」
呼「…苦労をかけるな」
穆「旦那様の思ってる倍、苦労しています」
呼「…」
穆「もっとも、あなたと関わることになるとなったら、覚悟はしていましたけどね」

呼「穆秀」
穆「旦那様の胸には、呼延家の掟が刻まれているのですよね?」
呼「赤心殺賊、とな」
穆「それに、面倒な家訓もあるんですよね?」
呼「門を出ては国のために家を忘れ 、陣に臨んでは主のために死を忘れる、だ」
穆「そんな家訓のある男と付き合う女がどこにいるのでしょうね?」
呼「…」

穆「優も凌ももう寝ていますよ」
呼「娘にも息子にも、親父の顔などできんな」
穆「優は病がちで…」
呼「呼延の血を引いているなら、問題ない」
穆「もしも、穆の血が濃かったら?」
呼「それは?」
穆「私は、姉も弟も、病で亡くしているのですよ」
呼「…」
穆「旦那様の血が濃いことを願ってます」

・呼延灼(こえんしゃく)…身内に素直になれない所が致命的な短所。
・穆秀(ぼくしゅう)…呼延灼の内縁の妻。韓滔の手引きでこうしてこっそり会えている。

・穆優(ぼくゆう)…呼延灼の娘、ってことでよろしくお願いします。
・穆凌(ぼくりょう)…呼延灼の息子。気弱だけど芯は強い。

梁山パーク

梁山パーク…「水滸伝」という物語をモチーフにした北京にある巨大な遊園地。覚えがなさそうでありそうなキャストが108人と1人いる。

人物
・盧俊義(ろしゅんぎ)…キャストの配役が下手くそにもほどがある。
・燕青(えんせい)…魯智深のキャストをやることになった時、本当にスキンヘッドにした。
・蔡福(さいふく)…今度は花栄をやるのか?
・蔡慶(さいけい)…今度は盧俊義をやるのか?

39.
蔡福「梁山パークの経営危機?」
盧俊義「軌道に乗ったと思って安心して放ったらかしていたら、全く客がいなかったのだ」
福「閑古鳥も死に絶えましたな」
盧「その結果、お前たちの賃金は言うに及ばず、アトラクションのメンテナンス費すら危うい」
福「大至急、北京の労働者を団結させるぞ、慶」

慶「もっと前向きな施策を講じようぜ、兄貴」
盧「さすが蔡慶は良いことを言う」
福「…」
盧「そこで打開策を一つ考えた」
慶「…」
盧「燕青の李師師コネクションを使って、宋国から運営資金を調達出来ないだろうか」
燕青「それは」
福「何かで読んだぞ、その展開」
慶「どこだったかな?」

盧「帝と李師師で貸切にするのだ」
福「確かに、風流天子の花石綱の予算を一割でも調達できれば三年は左団扇ですな」
慶(その予算は民の税なのでは…)
福「そのイケメンをこんな時にフル活用しないでいつ使うんだ」
盧「社運を託したプレゼンを頼むぞ、燕青」
燕「かしこまりました…」
慶(まあいいか)

・盧俊義(ろしゅんぎ)…結果、盧俊義本人が唖然とするレベルの資金が注ぎ込まれた。
・燕青(えんせい)…帝と李師師のデートを間近で案内して複雑。
・蔡福(さいふく)…梁山パークよりすごいテーマパークをあと10件は容易く作れるらしい…
・蔡慶(さいけい)…青蓮寺の手入れが来た時に備えて、資金面は綺麗に整理しておこう、兄貴。

梁山泊の嫁

梁山泊の嫁…梁山泊の男を従わせる、綺羅星のような精鋭揃い。戦を挑むんじゃねえぞ。

40.
張藍「…」
済仁美「…」

晁蓋「なんだこの林冲と楊志の立ち合いとも間違える強い気は」
呉用「その二人の奥方が旦那自慢で雌雄を決するそうで…」
晁「当の旦那は?」
呉「あそこに」

林冲「…」
楊志「…」

晁「…なぜ鎖で縛られているのだ?」
呉「立ち合いの一部始終を必ず見届けるようにと」

阮小五「先攻、豹子頭奥方、張藍殿」
張「あれは、私たちが初めて会った時のことでした」
林「やめろ、張藍!」
阮「減点1!」
張「林冲」
林「」
張「猿轡をされたくなければ少しお黙りなさい」

晁「これはDVにならないのか、裴宣?」
裴宣「…ノーコメントです」
呉「すげえものを見てますね」

阮「仕切り直し!」
張「あれは、私たちが初めて会った時のこと…」
林「」
張「私はお友達とカウンター席で淑やかな食事をしていました」

晁(チョイスが渋い)

張「私の席の左三つ隣にいたのが林冲様です」
林「」
張「右隣のお友達とお話をしている最中、ふと左を見てみると」
林「」

張「林冲様が左二つ隣にいるのです」

晁(笑い所だよな?)
呉(そうでしょうけど)
裴(この緊張感では笑うに笑えませんな)

張「そしてまたお友達と話していた時、ふと左を向くと」
林「」
張「林冲様が左一つ隣にいらっしゃるではありませんか」

晁(怪談話みたいに話すな)
裴(聞いててもどかしい)

張「そして目と目が合った時、私は、少しだけ、小首を傾げたのです」
林「」
焦挺「…」

晁(暴れている…)
呉(焦挺が獄卒のようだ…)

張「その後またふとした間で左を見たら…」

晁(左隣か?)

張「左二つ隣に戻っているではありませんか」

晁「www」

張「それが私たちの出会いです」
阮「そこまで!」

阮「後攻、青面獣奥方、済仁美殿」

楊令「母上!頑張れ〜」
晁「健気だな」

済「あれは、私が旦那様と初めて夜を迎えた時のこと…」
志「!?」

晁「楊令の耳を塞げ、呉用!」
呉「楊令殿!子どもには早すぎます!」
令「何がですか?」
裴(子供の前で、真顔の猥談ぶっ混んでくるとは…)

済「旦那様が湯浴みの後くつろいでいた時のこと…」
志「」
済「私は意を決して勝負服に身を包みました」

済「その姿で旦那様の前に現れた途端」

晁(どうなるんだ)
呉(楊令殿、暴れないでください)
令「何故ですか!」

済「呆気にとられた旦那様の吹毛剣がみるみるそそり勃つではありませんか」

晁(最低だwww)
呉(言い方www)
令「吹毛剣の何がおかしいのですか!」

済「私も旦那様の吹毛剣の斬れ味を試すべく、髪を解き、吹毛剣に息を吹きかけました」

裴(猥談に聞こえないwww)

済「旦那様の吹毛剣も飢えていたのでしょう…」

済「みるみる斬れ味と硬度が増すのが目に見えて分かりました」

済「旦那様のお顔も童のようになられ…」

済「私は吹毛剣でしたたかに貫かれました」

令「父上酷い!」
呉(違うのです、楊令殿)

済「吹毛剣に貫かれた私はたちまち極楽浄土に導かれ…」

済「極楽浄土の白い世界も悪くない、と思いながら、吹毛剣を研いでいました」

晁(優勝だ、済仁美殿…)

済「旦那様の吹毛剣は、三奇備わった剣です」

済「一つ、刃に髪を吹けばその髪を断つ。故に銘を吹毛剣」

済「二つ、金属を断って刃こぼれしない。私の鉛のような過去は吹毛剣に断たれました」

済「三つ、人を斬っても刃に血は残らない」

晁(どう落とすんだ…)

済「しかし私は旦那様の吹毛剣で血を残しとうございます」

晁「優勝!」
呉「申し訳ございませんでした、楊令殿」
令「もう呉用殿とは、口を聞きません!」
裴「死ぬかと思った…」
晁「裴宣。死ぬ思いをしたのは…」


晁「彼らだろう…」
裴「…」

張「見事です、済仁美」
済「張藍こそ」

・張藍(ちょうらん)…雨降って地固まるとはこの事ね、済仁美。
・済仁美(さいじんび)…第2ラウンドはまた今度ね、張藍。

・林冲(りんちゅう)
・楊志(ようし)

・晁蓋(ちょうがい)…とりあえず、あの二人に白勝のメンタルケアを。
・呉用(ごよう)…楊令にも嫌われて地味にショック。
・裴宣(はいせん)…結婚って怖いな。
・阮小五(げんしょうご)…真顔保つのって大変だな…
・焦挺(しょうてい)…ほんわかした顔して、実はかなりの隠れS

・楊令(ようれい)…大人って酷いです!

北の大地

北の大地…あまりの寒さに蔡福の皮下脂肪ですら完敗。次の冬までにもっと太るぞ。

41.
蔡福「けしからん輩め」
蔡慶「結局断るなら、初めから俺たちに依頼するな」
福「我らの時間をなんだと思っている」
慶「兄貴の贅肉より無駄だ」
福「贅肉は寒さしのぎになり、柔らかさが女性受けするからな」
慶「全くだ」
福「慶」
慶「おう」
福「お前の通風口を贅肉で隈無く塞いでやろう」
慶「」

・蔡福(さいふく)…良い息抜きになっただろう慶?
・蔡慶(さいけい)…息がつまるとはこの事だ、兄貴。

子午山

子午山…地図に載ってない庵に行きたかったら、笛の音や全裸男の足跡を見つけよう。

人物
・王母(おうぼ)…お月見が大好き。
・王進(おうしん)…月を眺めていたら死域。

42.
楊令「王母様?」
母「なんですか、楊令」
楊「鮑旭殿と馬麟殿と、音楽を嗜まれていたのですか?」
母「ええ」
楊「王母様の琴が素晴らしかったと、里の宿屋のご主人が仰っていました」
母「そうですか」
楊「今やお二人は仲間を増やして大人気ですね」
母「何よりです」
楊(どこか、寂しそうなお顔を)

・王母(おうぼ)…あの詩が一番人気だそうですよ、王安石様。
・楊令(ようれい)…最近あの詩をよく口ずさまれるんです、王母様。

43.
張平「起きてください、楊令殿」
楊令「もう朝か?」
張「子午山で虫を取りに行く約束をしたではありませんか」
楊「そうだったな」
張「早く行きますよ」
楊「急かすな、張平」
張「先んずれば人を制します」
楊「急いては事を仕損じるぞ」
張「いいから早く着物を整えてください」
楊「暑いんだ」

楊「確か蜜を塗ったのは…」
張「あの木です」
楊「待て、張平」
張「楊令殿?」
楊「人の気配が」
張「!」

悪者「…」

張「また貴様か!」
悪「げぇっ、小僧ども」
楊「また悪さをしていたのか?」
悪「小便してただけだよ」
張「私たちの木になんて事を」
悪「生理現象だ。しょうがねえだろう」

張「いい歳をして節操がない大人だ」
楊「厠まで我慢できなかったのか?」
悪「ねえだろ、厠なんて」
張「子午山条例で山の木々への立ち小便は禁じられている」
楊「罰金だな」
悪「銭なんてもってねえよ」
張「ならば全身に蜜を塗って縛り上げ、山に放置しましょうか」
楊「やむなしか」
悪「酷え」

・楊令(ようれい)…なぜか虫の集まりがいいな、張平。
・張平(ちょうへい)…蜜を塗ったところ以上にカブトムシが集まっているような…

・悪者(わるもの)…日雇い仕事帰りに散歩してただけだって言ってんじゃねえか!

青蓮寺

青蓮寺…少しずつではあるが、職員は働き方改革の効果を実感できているが、総帥と一部の幹部はまるで乗っかる気がない。

人物
・袁明(えんめい)…青蓮寺設立以来初めての休暇をとってみた。
・李富(りふ)…ついに梁山泊兵士や文官の家族構成まで記憶し始めた。
・聞煥章(ぶんかんしょう)…義足から愉快な音が鳴る仕組みがどうしても分からない。
・洪清(こうせい)…意外に開封府の美味い店とか知ってる。
・沈機(しんき)…生涯で初めての長期休暇を取るにあたり、厳かなセレモニーが開催された。
・呂牛(りょぎゅう)…聞煥章の義足にしょっちゅういたずらしてる。

44.
聞煥章「…」
〜パスワードが違います〜
聞「なぜだ!」
呉達「聞煥章?」
聞「…何でもありません、呉達殿」
呉「義足の貧乏ゆすりもほどほどにな」
聞「…」
〜パスワードが違います〜
聞「くそっ!」
呉「どうした、聞煥章」
聞「構わないでください、呉達殿」
呉「ならば黙って働け」
聞「…」

聞「なぜログイン出来なくなっているのだ…」
呂牛「5959」
聞「…貴様か」
呂「お前のパスワードはなんでも5959か」
聞「なぜそれを」
呂「テンキーの指の動きをアテにしなくても分かる」
聞「何に変えたのだ」
呂「当ててみろ」
聞「くだらん事をするな、呂牛」
呂「くだらない事も悪くないぞ」

聞「言え」
呂「お前と関係ある4桁だ、とだけ言っておこう」
聞「分かるか、そんなもの」
呂「人ならば必ずもつ数字があるだろう」
聞「分からん」
呂「ではな」
聞「消えるな!」

聞「人の必ずもつ数字?」

聞「私の誕生日か?」

〜ログインできました〜

聞「まさか…」

聞「…」

聞「今日か」

・聞煥章(ぶんかんしょう)…いつのまにか卓においてある包みは…
・呂牛(りょぎゅう)…なんのことかな?

・呉達(ごたつ)…刻むならビートを刻め、聞煥章。

45.
洪清「…」
袁明「洪清」
洪「はい」
袁「帝から複数の茶を賜った」
洪「…」
袁「しかし、この中で一つだけ、急須で入れていないものがあるらしい」
洪「…」
袁「どれが違うか分かるか、洪清?」
洪「殿」
袁「…」
洪「私は白湯しか飲みませぬ」
袁「…そうであったな」
洪「…」
袁「…」

袁「ならば私が飲み比べて判断するしかないのか」
洪「…」
袁「…」
洪「…」
袁「…」
洪「…」
袁「洪清」
洪「はい」
袁「茶の味しかしないな」
洪「…茶ですから」
袁「…」
洪「…」
袁「違いが分からぬ」
洪「…」
袁「しかもぬるくなってしまって、茶の味が死んでいる」
洪清 「…」

洪「…殿」
袁「どうした、洪清」
洪「どの茶が一番美味いと思いましたか?」
袁「そうだな」
洪「…」
袁「お前の茶を入れてくれぬか?」
洪「かしこまりました」
袁「…」
洪「お待たせいたしました」
袁「…」
洪「…」
袁「…」
洪「…」
袁「やはり、これだな」
洪「…」

・袁明(えんめい)…高級でも器が良くても、相手をもてなす想いがなければ美味くはならぬな。
・洪清(こうせい)…体術道場の控え室でガッツポーズした所を弟子に見られた。

46.
袁明「青蓮寺早期離職問題もひとまずの落ち着きを見せた…」
洪清「…」
袁「しかし、未だ平均就業時間の長さに就労を躊躇う者が少なくない…」
洪「…」
袁「有能な手の者は、何とか青蓮寺に抱えて仕事をさせたいのだが…」
洪「殿…」
袁「…」
洪「平均就業時間を伸ばしている元凶二名をここに」

李富「…」
沈機「…」
袁「…先月は何日勤めたのだ?」
沈「もちろん先月も皆勤賞です」
袁「…」
李「既に暦が分からなくなって久しいのですが…」
袁「…お前は地下牢にでも閉じ込められていたのか?」
李「地下牢ではなく、執務室に閉じこもっておりましたが」
袁「…」
李「日を見るのは久しぶりです」

袁「二人に命ずる」
李「…」
沈「…」
袁「離職せよ」
李「!?」
沈「!?」
洪「殿、言葉が」
袁「…仕事から離れよ」
李「ならば我らは」
沈「何をすれば良いのですか?」
袁「…」
沈「それに、お言葉ですが申し上げますけれども」
袁「…」
沈「袁明様と洪清殿もお休みされては?」
洪「…」
袁「…確かに」

・袁明(えんめい)…私の休みか。考えたことも無かった。
・洪清(こうせい)…体術道場の稽古が良い休みだから別にいい。
・沈機(しんき)…中堅層就業時間増の元凶。皆勤賞お祝いトロフィーが年々書庫を圧迫しているのが悩み。
・李富(りふ)…幹部就業時間増の元凶。住んでるだけで残業代が出るが、文句を言う者は誰もいない。残業代も青蓮寺への寄進に使う。

47.
聞煥章「今何と言った、李富?」
李富「袁明様から、当分仕事から離れるよう命ぜられてしまったのだ」
聞「早い話が長期休暇をもらったのだな」
李「私だけではないぞ」
聞「?」
李「沈機も」
聞「ついに連続出勤記録が途切れるのか」
李「袁明様も洪清殿も仕事から離れる」
聞「前代未聞ではないか」

李「しかし四人とも休日という概念がそもそも分からん」
聞「そこからか…」
李「だから青蓮寺で一番遊んでいるお前に、我らの休日を計画してもらう事で合意した」
聞「なんだと」
李「青蓮寺で一番遊んでいる男だともっぱらの噂ではないか?」
聞「…」
李「友人も多いのだろう?」
聞「まあな…」

聞「…えらいことになった」
呂牛「お前の友人とは?」
聞「李富」
呂「…他には?」
聞「…」
呂「大見得を張ったな、聞煥章」
聞「…どうしたらいい?」
呂「美味い飯屋は知らんのか?」
聞「なぜ飯に金をかける?」
呂「…美術展は?」
聞「芸術など意味が分からん」
呂「…お前という男は」

・李富(りふ)…このチケットは?
・聞煥章(ぶんかんしょう)…友人からもらった、北京の梁山パークという娯楽施設のチケットだ…
・呂牛(りょぎゅう)…これはこれで面白いことになりそうだ…

48.
聞煥章「ここだ」
李富「すごい行列だ」
沈機「帝が花石綱の予算を大幅に割いた曰く付きの娯楽施設だとか」
袁明「…」
洪清「聞煥章」
聞「…はい」
洪「貸切にできなかったのか?」
聞「…さすがにこれほどの施設を貸しきるわけには」
洪「言っておけばその程度の予算は割いたものを…」
聞「!?」

洪「これだけの人間の中、私のみで護衛することがどれだけ大変か…」
聞「…」
袁「洪清…」
洪「はい」
袁「よく喋るな」
洪「!」
袁「…わくわくしているのか?」
洪「…まさか」
袁「隠さずとも良い」
洪「…」
袁「まずはあの設立者の像の前で写真を撮ろう」
沈「良いですな」
聞(ノリノリだ…)

袁「盧俊義というのか…」
李「北京の大商人ですな」
沈「すまぬ、そこの人」

蔡慶「はい?」

沈「写真を撮っていただけませぬか?」

蔡「喜んで!」

沈洪袁李聞

蔡「撮りました!」
沈「礼を言う」
蔡「ようこそ、梁山パークへ!」

慶「おっさん五人で来てる団体がいたぜ」
蔡福「道楽だな」

袁「私は公孫勝ゾーンが気になる」
李「林冲ゾーンも行きたいですな」
聞「扈三娘の家も行きましょう」
袁「公孫勝ゾーンが、気になる」
李「」
聞「」
洪「そこから行くぞ」

袁「あれが幻術か」
洪「樊瑞という者も中々の手練れでしたな」

沈「…」
李「沈機?」
沈「あの創設者の顔、どこかで…」

李「食わないのか、聞煥章?」
聞「顧大嫂の顔が気に食わん」
李「気を落とすな、聞煥章」
聞「扈三娘の家は事前予約が必要だったとは…」
袁「厠に参る」
洪「私も…」
沈「次は柴進の所に行きたいですな」
李「林冲の乗馬ゾーンも楽しみです」

洪「…遅い」

袁「…どこで待ち合わせたかな?」

洪「袁明様は?」
李「一緒だったのでは?」
沈「まさか」
聞「…逸れたのですか?」
洪「…」
李「冷静になりましょう、洪清殿」

「迷い人のお知らせです」

洪「こんな不覚を…」

「青蓮寺からお越しの袁明様が」

洪「!?」

「同伴の方をお待ちです」

洪「」

「迷い人窓口にお越しください」

袁「すまぬ、洪清」
洪「自裁します、袁明様」
袁「思いつめなくともよい」
燕青「…」

袁「すまぬ、皆の者」
李(袁明様のつけられている耳はなんだ、聞煥章?)
聞(五虎将マスコット林ちゅ〜の耳だ)
沈(余裕ありますな)

福「…今のアナウンスは?」
慶「燕青の声が動揺してたが…」
福「まさかな」

袁「夜のパレードの演目は?」
李「今宵は盧俊義救出ですな」
聞「智取生辰綱も気になる」
沈「十万貫の財物を盗む話とは痛快ですな」
洪(最近あったな、そんな事件)

盧俊義「無念!」
石秀「助けに来ましたぞ!盧俊義殿!」

袁(痛快な)
洪(警護がなってない)
沈(手足の骨を折らんから逃げられる…)

袁「愉しかったな」
沈「人間に戻りました」
李「この商売はこれからさらに伸びますな」
聞「帝が予算を費やしたのも分かる」
洪「…」
袁「何を考えている、洪清?」
洪「あの美男の係りの者が、私をも凌ぐ体術の遣い手だったもので…」
袁「まさか」

福「冗談だよな、燕青」
燕「冗談じゃない」

・袁明(えんめい)…職員一人一人にお土産を配った。
・洪清(こうせい)…武松のパンチングマシン歴代No.1の記念品をもらった。
・李富(りふ)…林冲と楊志のキャストと一緒に写真を撮ってもらった。
・聞煥章(ぶんかんしょう)…扈三娘の家の年間パスポートを買った。
・沈機(しんき)…盧俊義のキャストと握手してもらった。

・燕青(えんせい)…青蓮寺という、同じ名の寺がどこかにあるはずだろう?
・蔡福(さいふく)…あいにく宋国全土の寺リストにも載ってない…
・蔡慶(さいけい)…俺が写真撮ったおっさん達は全員只者ではなさそうだったな。

49.
聞煥章「口ほどにもない情報だ、呂牛」
呂牛「こういう日もある」
聞「何のためにお前を使っていると思う?」
呂「…これでもやれることはやったが?」
聞「他愛ない無駄な情報ばかりだ」
呂「」
聞「もっと役に立つ情報を掴んでこい」
呂「聞煥章」
聞「なんだ」
呂「覚えていろよ」
聞「何をだ?」

聞(そういえば、久しぶりに呂牛の感情を感じたな)

何恭「そろそろ昼か」
蒼英「支度でも…」

?「〜♪〜」

何「昼の鐘の音が?」
蒼「このBGMはいったい…」

聞「〜♪♪〜」

呉達「聞煥章の声か?」

聞(一体なにが起きている?)

聞「扈三娘を愛し〜♪〜」

何「この曲は風流喪叫仙の」

聞「」

聞(これはもしや、先日ヒトカラに行った時の…)

聞「俺だけの〜♪扈三娘〜」

呉「本人に聞きたいのも山々だが…」
蒼「お前の歌詞を全て扈三娘に変えてますな」
何「いったい誰の仕業でしょう?」

聞「」

聞「…仕事にならなかった」
呂「見事な歌声だ」
聞「貴様か…」
呂「あの時の店員は、俺だ」

・聞煥章(ぶんかんしょう)…お前、もしかしてしたたかをしている時も…
・呂牛(りょぎゅう)…されたくなくば、言葉に気をつけるんだな。

・何恭(かきょう)…洪清殿も止めるよりも愉しんでたぞ。
・蒼英(そうえい)…言っちゃあれだが、いい気味だ。
・呉達(ごたつ)…やったのは何者だろう?

・李富(りふ)…気にもとめず仕事。

50.
袁明「開封府も華やかだな、洪清」
洪清「虚飾塗れですが」
袁「…あの施設は?」
洪「…見覚えがありませんな」
袁「…入ってみよう」
洪「…」

男「挿翅虎が捕れない!」
女「病大虫捕れた!」
女「入雲竜は入荷待ち?」
女「おかしくないですか?」

袁「若者が多いな」
洪「殿、あの遊具を」

袁「ほう…」
洪「玉麒麟、入雲竜、青面獣、九紋竜、挿翅虎、病大虫、とあります」
袁「…やるか」
洪「…」
袁「…どれを狙うか」
洪「…」
袁「…玉麒麟だな」
洪「…」
袁「…」
洪「…」
袁「…容易くは捕れぬか」
洪「…そうやって、銭をせしめる商売ですな」
袁「もう一度…」
洪「殿」
袁「…」

洪「百文で一回ずつやるよりも、五百文で六回やる方がよいかと…」
袁「…さすが洪清」

袁「…捕れぬ」
洪「アームに不正の痕は見られませぬな…」
袁「位置が気になる」
洪「…」
袁「位置が、気になる」
洪「店員!」
侯健「はい…!?」
洪「玉麒麟の位置を直してくれ」
侯「…かしこまりました」

・袁明(えんめい)…結果的に銀一粒は使ったかもしれぬな、洪清。
・洪清(こうせい)…青面獣が欲しかったから、一人で捕りに行こう。

・侯健(こうけん)…まさか、こんなところに…

禁軍

禁軍…なんでもかんでも調練だのフレッシュだのつけりゃいいってもんじゃねえからな。

人物
・童貫(どうかん)…今月のスローガンは調練の調練による調練のための調練。
・趙安(ちょうあん)…新鮮組を拵えたはいいが、出番がない…

51.
公順「なぜ我々が家庭内で野菜を食べる啓蒙普及CMを撮影するのですか?」
趙安「フレッシュ軍人たるもの、フレッシュな野菜とのコラボは欠かせぬだろう?」
何信「高俅の蹴鞠部に宋国広報予算を根こそぎ持っていかれて、フレッシュマンの宣伝が満足に出来ぬのが実情なのだ、公順」
公(だらしないな…)

公「野菜はあまり好きではなく…」
趙「歯茎を見せろ、公順」
公「!」
趙「なんと貧弱な…」
公「…」
趙「高俅の軍よりも脆い歯茎でよくぞフレッシュマン副官を務められると思ったな」
何「私の歯茎を見よ、公順」
公(口臭よりもきつい体臭の持ち主に、歯茎でマウンティングされるとは…)
趙「公順」

趙「お前に農家百八箇所巡りの調練を命ずる」
公「そんな!」
趙「各農家の野菜を咀嚼して、見るも無惨な歯茎を鍛え上げてこい」
公「歯茎よりも戦の調練の方が…」
何「愚か者!」
公「!」
何「老後に総入れ歯で過ごす惨めさからお前を救わんとする趙安殿の情けがなぜ分からない!」
公(そういう?)

・趙安(ちょうあん)…これでは新鮮組の活動もままならんのが実情だ…
・公順(こうじゅん)…大根農家のおばちゃんたちと親しくなって、腐る程の大根を持って帰ってきた。
・何信(かしん)…宋国予算委員会の時だけは、高俅の弁が異様に際立つのが癪にさわるのです。

52.
童貫「これより禁軍将校による、酒を飲む調練を始める」
鄷美「皆の者、当然分かっていると思うが」
畢勝「これは調練だ。間違っても宴ではないことを忘れぬように」
李明「馬万里殿?」
馬万里「どうした、李明」
李「今回初参加なのですが…」
馬「ふむ」
李「どう見ても皆の衣装が宴なのですけど」

韓天麟「そう思っていられるのも今のうちだ、李明」
李「…その衣装は、韓天麟殿?」
韓「鹿だ」
李「…なぜ?」
韓「あとで分かる」
童「それでは宴会芸の調練を」
鄷「元帥」
童「…調練芸の実戦を行う」
李(今、宴会芸と…)
馬(罰を受けるぞ、李明)
韓(気づいても気づかぬふりをするのが、将校の嗜みだ)

童「韓天麟、馬万里」
韓「…」
馬「…」
李(鹿の格好にどんな意味が…)
馬「ばばんば馬万里、ばばんば馬万里」
李(くだらねぇ…)
童「…」
馬「ばばんば馬万里、ばばんば、馬!」
韓「鹿!」
鄷「判定を」
童「…」
李(棒打ちだな)
馬「…」
韓「…」
童「良し」
李「嘘だろ」
童「次、李明」
李「」

・李明(りめい)…細かすぎて伝わらない調練あるあるネタで起死回生。

・童貫(どうかん)…確かに、幼虫はご馳走だ。
・鄷美(ほうび)…走る時に隣の者の変顔ほど殴りたくなることはないな。
・畢勝(ひつしょう)…決まって同じ所にできる打ち身の跡がなくなると寂しいよな。

・馬万里(ばばんり)…終わってみたら、結局最下位。
・韓天麟(かんてんりん)…晒し刑だよな、これも。

楊令伝

楊令伝(ようれいでん)…ついに足を踏み入れてしまった。水滸伝終了後から3年後の世界から始まる世界。案の定アクの強いキャラが多いこと多いこと。

黒騎兵

黒騎兵…怖気を振るうほど恐ろしく強い騎馬隊。しかし、中の連中は意外とそうでもなく…?

人物
・楊令(ようれい)…頭領。梁山泊伝統の志と一緒に、どんくさい所もしっかり受け継いだ。
・郝瑾(かくきん)…某子供おっさんに振り回される父の気持ちが痛いほど分かってきた。
・張平(ちょうへい)…小賢しさをフル活用して巧みに立ち回り、戦場も周囲も翻弄。
・蘇端(そたん)…ノリで生きている郝瑾の副官。色々馬鹿。
・蘇琪(そき)…楊令が好きすぎるクソ真面目。もっと遊ぼうぜ。

53.
郝瑾「またお前らか」
蘇端「違います。張平がやれと言ったので、張平が悪いのです」
張平「私は郝瑾殿の椅子に愉快な音のなるクッションを敷いたらいいのに、と口走っただけで、やれなどと一言も言っていません。実行犯の蘇端に全ての責任があります」
郝「しかし、その席に座ったのは私ではなく…」

楊令「俺だ」
蘇「…」
張「…弓をしまえ、蘇琪」
郝「梁山泊の会議だから良かったものの」
楊「金国との会談だったらお前らに死の調練を課していたぞ」
蘇「…しかし、なぜ楊令殿が郝瑾殿の椅子に座られたのですか?」
楊「…」
郝「確かに…」
張「楊令殿?」
楊「…うっかり間違えたのだ」
郝「…」

張「もしかしたら、先に楊令殿の椅子に座っていた不届き者がいたのでは?」
蘇「誰だ!」
楊「これが座席表だ」
郝「…私だ」
蘇「射ていいぞ、蘇琪」
郝「なぜ楊令殿がこんな中途半端な場所に座るのだ?」
楊「場所などどうでもいい」
張「これは郝瑾殿に死の調練ですね」
楊「そうだな」
郝「!?」

・楊令(ようれい)…終始真顔で通したが、向かいの花飛麟が終始笑いを堪えてたのにムカついてた。
・郝瑾(かくきん)…叱るはずの私が、なぜ死の調練を?
・張平(ちょうへい)…楊令殿と王母様の飯を食い続けた仲ですからね。
・蘇端(そたん)…張平の機転はさすがだぜ。
・蘇琪(そき)…楊令殿に恥をかかせる奴には死を見せてやる。

遊撃隊

遊撃隊…ここでも案の定である。

人物
・班光(はんこう)…よりによってあの史進の副官になってしまった、薄幸の少年。なんだかんだで取り扱いがうまいが、脱ぐぐらいなら死ぬ覚悟。

54.
史進「…」
班光「史進殿の衣類に…」
史「…」
班「なぜ下に履くものが一枚もないのですか?」
史「…風通しの良い環境だからな、梁山泊は」
班「…だから履かないんですか?」
史「履かないのでも、履いていないのでもない。履くことを潔しとしなかった」
班「潔すぎます」
史「お前も履くな、班光」

班「お断りします」
史「なに!」
班「恥ずかしいじゃないですか」
史「恥ずかしいだと!恥を知れ、班光!」
班「知らないのは史進殿です」
史「どうやら俺の恥とお前の恥に、大きな隔たりがあるようだな」
班「埋める気はさらさらありませんよ」
史「貴様!」
班「履かないと馬にも乗れませんって」

史「吐くほどの調練を課してやろうか」
班「史進殿が履くならいくらでも」
史「俺は履かん」
班「なら私もお断りします」
史「なぜ履く、班光?」
班「なぜ履かないのですか、史進殿」
史「…班光の反抗期め」
班「史進殿も着衣の反抗期ではないですか」
史「人は皆裸だ」
班「生まれた時の話です」

・史進(ししん)…ノリが悪くてやりにくい副官だが、色々と小回りがきくから手放せんのが忌々しい…
・班光(はんこう)…下を履かない以外は憧れてるんですが、その一点が致命的なんですよね。

55.
班光「…ここは?」
史進「班光」
班「なぜ着物を着ていないのですか、史進殿」
史「着ている俺もいるぞ、班光」
班「史進殿が、二人?」
全裸「貴様は俺がただ着物を着ない蛮族であるかのように見下しているかもしれんが」
着物「そうではないことを伝授する調練を行う」
班「何だこの世界は…」

裸「まず俺は最初から着ていない」
着「一番潔いと言えるだろう」
班「…」
着「しかし、俺も今でこそ着物を着ているが、ここから二つに分割される」
班「…どういう意味ですか?」
自発「自分で脱ぐか」
他力「他の者に脱がされるかだ」
班「分裂した…」
自「俺も二つに分かれる」
班「…それは?」

自己「自分で脱ぐか」
自然「自然に脱げるかだ」
裸「よいか、班光」
他「裸になるだけでもこれだけのレパートリーがあるのだ」
発「侮るなよ」
己「お前が考えている以上に」
然「俺たちは知恵を使っているのだからな」
班「助けて!」

班「…夢か」
史「班光」
班「…どの史進殿ですか!」
史「?」

・史進(ししん)…今日の班光の視線は助平だな…
・班光(はんこう)…今日はどんな脱ぎ方をするのやら…副官として厳しく戒めないと。

本隊

本隊…生き残った連中の悲喜こもごもをご覧あれ。

56.
呼延灼「皆、ここだけの話にしてくれるのを約束してくれるか」
史進「言いたいことは分かる、呼延灼」
張清「あれは誰なのだ?」
宣賛「私はあの頃のあの人になってしまった気がしてなりません」
杜興「憎まれ役は組織に必要なのが分かったか、呼延灼」
呼「痛いほどに…」
張「あの時分かっていれば」

呼「俺は本気で処断しようと思っていた事があるのだ」
史「本当か?」
公孫勝「今のお前など、片手で返り討ちにされるのが目に見えているぞ」
呼「俺もそんな気がしている」
公「弱気になったものだ…」
史「恐怖とは分からないものから生まれるのだな」
張「俺も全く分からないよ」
?「丸分かりだ」

呼「!?」
呉用「何を雁首そろえて相談している?」
史「…」
呉「ご苦労、褚律」
褚律「いえ…」
李俊「いつの間に…」
呉「誰を処断するのだ?私も混ぜてくれ」
呼「」
呉「処断するなら、褚律が山林に潜んでいる青蓮寺の者たちを二ヶ所把握しているが?」
宣「それは」
呉「それで誰を処断するんだ?」

・呼延灼(こえんしゃく)…いっそ俺を処断してくれ。
・史進(ししん)…迂闊に関われもしないぞ。
・張清(ちょうせい)…絶対苦手だ。
・宣賛(せんさん)…私が憎まれ役になるか…
・杜興(とこう)…開き直りすぎだぞ。
・公孫勝(こうそんしょう)…嫌いではないよ、今の呉用殿も。
・李俊(りしゅん)…吹っ切れた顔してんじゃねえか。

・褚律(ちょりつ)…呉用の護衛。無口でも体術の腕や機転はさすが。
・呉用(ごよう)…色々あってスーパー呉用になった。どう弾け飛んでくれるかな。

57.
鮑旭「なあ、馬麟」
馬麟「おう」
鮑「…」
馬「どうした、鮑旭」
鮑「…お前だから聞きたいことなんだが」
馬「…」
鮑「退役することを、考えたことがあるか?」
馬「…」
鮑「…」
馬「考えたことも、なかった…」
鮑「実は私も、最近考えたことでもあるんだ」
馬「…」
鮑「遠くに来たものだな」

馬「そうだな」
鮑「遠くに来たということは」
馬「それだけ俺たちが、老いぼれたってことでもある」
鮑「そういうことだ」
馬「…退役してからやりたい事など、とても俺には考えられんよ」
鮑「…私も、そうなんだ」
馬「お前は、兵の調練でも、畠で作物を育てるのでもいいではないか」
鮑「馬麟」

馬「…」
鮑「それは、お前がやっても良いことだぞ」
馬「俺は、いけない」
鮑「なぜ?」
馬「…そうするのに相応しい人間と、そうでない人間がいるのさ」
鮑「盗人で人を何人も殺めた私が、相応しいと?」
馬「…」
鮑「…子午山に行こうか」
馬「…一度だけな」
鮑「約束だぞ」
馬「分かった」

・鮑旭(ほうきょく)…とりあえず、今回の戦を乗り越えてからの話だよな。
・馬麟(ばりん)…まあな。

58.
呉用「…」
宣賛「…」
呉「宣賛」
宣「何でしょうか?」
呉「お互い様ではあるが」
宣「はあ」
呉「酷い顔だな」
宣「」
呉「とはいえ、お前は元が良いからまだましだ」
宣「…」
呉「歯並びも整っていれば、声も綺麗だし、美しい手をしている」
宣「…呉用殿?」
呉「それに比べて私を見ろ、宣賛」

宣「…」
呉「元々狭かった視野が片目で半分になった」
宣「なんと」
呉「歯はスカスカで唇は焼け落ちた」
宣「唇滅びて歯寒し、ってやつですな」
呉「これは大変なことだ、宣賛」
宣「それは?」
呉「私が言葉通りなら、梁山泊も滅びかねん」
宣「確かに、呉用殿がいないと飯も金もありませんからな」

呉「皆が私の悪口を楽しそうに言っているのだ」
宣「不埒な奴らで」
呉「お前が言った悪口も、褚律が記録しているぞ?」
宣「しまった!」
呉「私の真似か、宣賛」
宣「…」
呉「お前ももっと剽軽だったではないか」
宣「…今なら、あの時の誰かにもっと寄り添えそうです」
呉「そんな誰かいたかな?」

・呉用(ごよう)…お前の頭巾ももっと剽軽なものにしろ。
・宣賛(せんさん)…今度息子がイタズラ書きした奴をつけてきますよ。

子午山

子午山…代が変わってここでも色々あった。

人物…
・花飛麟(かひりん)…花栄の息子。弓意外おおむね下手くそなイケメン。ドケチ。
・秦容(しんよう)…秦明の息子。ほんわかしてるがなかなかのしたたか者。

59.
花飛麟「!!!!!!!!!」!
秦容「凄いですね、花飛麟殿」
花「だめだ、秦容」
秦「なぜです?」
花「一本外したではないか」
秦「九本も当ててるじゃないですか」
花「父上は十本射て十本当てたのだぞ」
秦「凄いですね」
花「この一本が、果てしなく遠いのが分かるか、秦容」
秦「聞いたことありますね」

花「十本目だ」
秦「気の持ちようでは?」
花「それは?」
秦「十本を一度も外さない、ではなく、一本を十度当てるだけ、と考えては?」
花「…何が違うのだ?」
秦「花飛麟殿なら、弓を一本当てるなんて造作もないでしょう?」
花「当たり前だ」
秦「ならその気の持ちようで十回射れば…」
花「!」

花「ただ一本を気軽に射続ければいいのか!」
秦「そういうことです!」
花「ならば…」

秦「…ハリネズミだってここまで棘はありませんよ、花飛麟殿」
花「ちょっと死域入ってた」
秦「では、的になってくださった、史進殿人形に礼をして帰りましょうか」
花「…一体誰が作ったのかな、これは?」

・花飛麟(かひりん)…十本どころじゃなかったな…
・秦容(しんよう)…適当に行きましょう、花飛麟殿。

方臘軍

方臘軍…作中一のイカレちまったメンバーを紹介するぜ!

人物
・方臘(ほうろう)…作中最強クレイジー!イカレすぎてまともに見える教祖様。
・趙仁(ちょうじん)…ノリで潜入しちまった、しまった軍師!
・石宝(せきほう)…元ネタでは最強の敵!小柄でも刀と流星鎚の腕は梁山泊でも勝てる者はいるかどうか…
・包道乙(ほうどういつ)…元ネタでは妖術使い!信徒をちり紙か何かだと思ってる。

60.
方臘「趙仁」
趙仁「はい」
方「俺は梁山泊のやり方を逐一観察していてな」
趙(私が呉用だとバレたか?)
方「石積みの名手がいたという」
趙(陶宗旺のことか?)
方「童貫が攻めてくるにあたり、石積みも有効な武器になるのは違いない」
趙「はい」
方「そこで俺は考えた」
趙「…」
方「包道乙」

包道乙「早速実践ですな、方臘様」
方「破壊力を見せてくれ」
趙「いったい何が始まるので?」
包「見ていてください、趙仁殿」
信徒「度人…」
信「度人」
趙(信徒が)
信「度…」
信「度」
趙(積まれていく?)
信「d」
趙「方臘様、これは」
方「崩せ!」
包「!」
信「」
趙「…」
方「信徒積みだ」

包「山中でやればかなりの破壊力ですな、方臘様」
方「よく集めた、包道乙」
趙「…今の信徒たちは」
包「お試し用の信徒です」
趙「お試し用…」
方「気にするな、趙仁!」
趙「…」
方「信徒積みを山中で活用する方法を考えてくれ、趙仁」
包「信徒の受付は私が」
趙「すげえ所に来た」

・方臘(ほうろう)…ヤバさはきっと作中一。ヤバすぎて逆にヤバさが分からなくなるほどヤバい。
・趙仁(ちょうじん)…呉用の偽名。夢に信徒が出てこない日はない。
・包道乙(ほうどういつ)…信徒窓口担当。信徒?私にとっては牛を出荷するようなもんだな。

61.
方臘「梁山泊の水軍は、槍魚という兵器を使っていたという」
趙仁(水軍の機密事項なんだが)
方「童貫が船を使うにあたって、これも有効な兵器になるのは違いない」
趙「…そうですな」
石宝「俺は船のことはよく分からないのですが、どのような兵器なのですか、方臘様」
方「包道乙に準備させている」

包道乙「方臘様!」
方「合図だ」
石「あの槍のような船は?」
方「槍魚という言葉から連想して造らせた代物だ」
趙(阮小二呼んだらもっと凄いのができるんじゃないか)
石「船で曳いて体当たりさせるのですな」
方「そうだ、石宝」
趙「…中には」
方「もちろん信徒が操縦する」
石「さすが方臘様」

石「あの船を沈没させるのですな」
方「行け!」
槍魚「度人…」
趙「…」
石「…動きが鈍いですな」
方「信徒を乗せすぎたかな」
趙「どれほどの…」
方「気にするな、趙仁」
石「沈みましたな」
趙「脱出口は…」
方「もちろん塞いである」
趙「…」
方「沈没よりも、作戦中の浸水の方が困るだろ?」

・方臘(ほうろう)…水軍の将はいないかな。
・趙仁(ちょうじん)…水から絶え間なく信徒の声が聞こえる気がする。
・石宝(せきほう)…方臘軍最強の将軍。小柄でも武術は一番。
・包道乙(ほうどういつ)…今月の信徒収支は黒字ですから問題ありません

岳家軍

岳家軍…きっかけは村の自警団。後に国造りを模索する姿は手探り間満載。

人物
・岳飛(がくひ)…英雄にだって下積み時代はあるんだよ。
・徐史(じょし)…岳飛の腐れ縁。何かと口うるさい。
・孫範(そんはん)…岳飛軍の良心。優しいナイスガイ。

62.
岳飛「徐史」
徐史「また用事ですか、岳飛殿」
岳「大将に憎まれ口を叩きながらも、コマネズミのように甲斐甲斐しく世話をする副官…」
徐「…俺のことですか?」
岳「凄くよく見かけないか?」
徐「そんな馬鹿な…」

張平「!」

班光「!」

蘇端「!」

岳「今、似たような気が一箇所に集まるのを感じた」
徐「何を分からぬことを」

楊令「どうした、張平?」
張「楊令殿の、デベソ!」
楊「!?」

史進「班光」
班「史進殿の全裸!」
史「それがどうした」

郝瑾「蘇端」
蘇「郝瑾殿の、中間管理職!」
郝「そういう気質だからな」

岳「お前も埋もれぬよう精進しろよ」
徐「岳飛殿の世話を焼く物好きがどこにいますか」

楊「張平?」
張「楊令殿と一番息が合うのは私です!」

班「伊達に御竜子と呼ばれてませんので」
史「生意気な」

郝「早く兵の名簿を提出しろ」
蘇「今やろうと思ったのに、言われたからやる気をなくしました」

・岳飛(がくひ)…英雄の下積み時代中。
・徐史(じょし)…岳飛のお友達。暑さに弱い。

・楊令(ようれい)…英雄の準備期間中。
・張平(ちょうへい)…楊令の相棒。小賢しい。

・史進(ししん)…やはり脱ぐ。どこでも。
・班光(はんこう)…史進の脱ぎ散らかす服の回収に意地になっている。

・郝瑾(かくきん)…苦労人気質は父親似。
・蘇端(そたん)…ノリで生きてる副官。

元ネタ
 ・水滸

 ・楊令伝

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