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水滸噺10月(上)[好漢と筋肉の契]

あらすじ
梁山泊の漢の祭 筋肉の意地は命より重し
小李広と醜郡馬 弓矢の先は只真っすぐに
梁山泊の新星は ちらりちらりと瞬き始め
一〇八星の輝は 永久に消えない閃光残す

すいこばなし 注意書き
北方謙三先生水滸伝,楊令伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにPCなど電子機器も飛び交うし、あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
楊令伝8巻程度まで守備範囲を広げました!出てくる好漢は、すなわち水滸伝を生き残った者ということですので、未読の方はその点ご留意いただいた上でお読みください。
・作者のtwitterにて1日1回以上を目標に投稿しています。 
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまで
 お寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。

それでは行ってみましょう! 

梁山泊

梁山泊…春夏秋冬風情の異なる絶景を楽しめる場所。あらかじめ諸手続きをしておけば、きちんと場所や食事を提供してもらった上で絶景を愉しめるから一度はおいでよ。

騎馬隊

騎馬隊…林冲の気まぐれで行った騎馬隊人気投票は、有り余る忖度の末林冲が一番になったが、部下目線では索超だし、男目線では扈三娘だし、女目線では馬麟だし、力自慢目線では郁保四だから、部下はすごく困った。

人物
林冲(りんちゅう)…公孫勝としばらく会わないとすごくイライラする。別に、あいつの事なんか、何とも思ってないからな。
索超(さくちょう)…朱富に干物のレシピを提供したら、中々の人気商品になり、思わずガッツポーズ。
扈三娘(こさんじょう)…晁蓋の傍らを馬で駆ける時は死域に入って無双してる。
馬麟(ばりん)…朱富の店のバーカウンターにヘルプで入ったら、すごく様になってた。
郁保四(いくほうし)…旗が軽すぎてもっとデカくしたかったが、馬の負担が半端なくなるので断念。今や小指だけで余裕。

1.
張藍「林冲様!」
林冲「張藍!」

索超「…一体何をしているのだ、あのご夫妻は」
馬麟「…当ててみようか」
扈三娘「漫才」
郁保四「舞踏じゃないですか?」

林「張藍!」
張「林冲様!」

索「皆目見当が付かん」
馬「史進とは違う意味で羞恥心が機能してない」
扈「コント」
郁「ダブルスかな…」

林「!」
張「!」

索「なんと…」
馬「朝からしたたかに…」
扈「人工呼吸ですね」
郁「…ボケですよね、扈三娘殿?」

林「では行ってくる」
張「いってらっしゃいませ!」

索「来たぞ…」
馬「目を背けたくなる」
扈「林冲殿」
林「なんだ」
扈「張藍と、何をしていたのですか?」
郁(扈三娘殿!)

索(この潔さは何なのだろうか)
馬(デリカシーがないだけだ)
郁(代わりに聞いてくれるとは)
林「出勤前の夫婦の掟だが」
扈「それをわざわざ我々の前で?」
林「…見たのか?」
扈「見せつけられてるのかと」
林「…ここは?」
扈「練兵場です」
林「…家だと思ってた」
索「何を言ってるのだ、林冲殿」

林冲(りんちゅう)…だって張藍が…
索超(さくちょう)…惚気ればいいさ。好きなだけ。
馬麟(ばりん)…二人に曲をプレゼントしようか?
扈三娘(こさんじょう)…ただのバカップルでしたか…
郁保四(いくほうし)…正直すぎます、扈三娘殿。

張藍(ちょうらん)…試しに外でやってみたら、まさか本気で乗ると思わず、帰り道赤面。

本隊 

本隊…少しずつ味のある下級将校や見どころのある兵卒が出てき始めた。

人物
関勝(かんしょう)…雄州商店街のスタンプカードを使いきれずがっかりしてたら、ある日商工会会長から今までのお礼の品がたくさん届いて感無量。
呼延灼(こえんしゃく)…内縁の妻、穆秀(ぼくしゅう)への手紙の返事が来なくなって久しい。
穆弘(ぼくこう)…眼帯から光線を出す夢を見た。
張清(ちょうせい)…梁山泊にある石という石を検分した選りすぐりを袋にしまってある。李逵に作ってもらった礫は、ここ一番のみで使う。
宋万(そうまん)…第1回梁山泊将校月間MVPを初受賞した時は男泣きに泣いた。
杜遷(とせん)…崖登りの調練をしていただけに、自分もかなり得意。
焦挺(しょうてい)…梁山泊腕相撲大会にて、林冲と死闘を繰り広げるほど強くなった。
童威(どうい)…歩兵も騎馬隊も操船もそれなりにできる器用な男。
李袞(りこん)…槍を投げる戦い方も様になってきた。三連投して外さないくらい。
韓滔(かんとう)…実家との連絡は細く長く行っているが、呼延凌の様子が心配。
彭玘(ほうき)…韓成と一緒にいた少年の目が呼延灼に似ている気がしたが、いつも通り接していた。
丁得孫(ていとくそん)…山賊気質はまだ少し残っているが、部下のまとめ方はなかなかのもの。

2.
穆弘「今日の調練担当は?」
関勝「俺だ」
呼延灼「ちゃんと門限を守れよ」
穆「まさか梁山泊の門番に信じてもらえず、野宿で夜を明かすことになるとは思わなかったからな」
関「新兵だからしかたがない」
呼「せめて俺らの顔か武器くらいは確かめてほしかったな」
穆「確かに一目で分かる面子だ」

関「今日の調練は、死域に入るまで鬼ごっこだ」

兵「死域に入ったら鬼になりそうな隊長ばかりだぞ」
兵「死域ってなんですか?」
兵「一度入れば分かるさ」

呼「俺たち三人が鬼だ」
穆「捕まった者は、最後の一人が捕まるまで駆け続けろ」

兵「…恐れながら」

呼「名は?」
鍾玄「鍾玄と申します」

関「どうした、鍾玄?」
鍾「隊長のみで、我ら全員を捕まえられるのですか?」
穆「強気だな、鍾玄」
鍾「いえ、兵の数が多すぎて、お三方が大変な事になるのではないかと…」
関「確かに…」
鍾「ここは捕まえた兵を鬼にする者としない者に分ける掟にするのはいかがでしょう」
関「採用!」
呼「…」

関勝(かんしょう)…兵の判断力や機転を鍛える良い調練になったな。
呼延灼(こえんしゃく)…鍾玄か。覚えておこう。
穆弘(ぼくこう)…死角に逃げられて、意外と捕まえられなかった。

鍾玄(しょうげん)…新兵。図太いところがあり、隊長にも物怖じしない

遊撃隊

遊撃隊…たまには脱がなくたっていいんだよ。

人物
史進(ししん)…繰り返しになるけど、武術の腕前と戦・調練の才能は超一流だからね。
杜興(とこう)…誕生日祝いでおもむろに兵に胴上げされたが、それは誕生日翌日の出来事だった。
陳達(ちんたつ)…朱武と楊春と一緒に会うタイミングはなかなかないが、年に一度は必ず会う約束をしている。史進を混ぜるかは朱武の気分次第。
施恩(しおん)…たまたま武松と鄆城を歩くことがあったが、足技で暴漢をやっつけた武松が目に焼き付いて離れない。
穆春(ぼくしゅん)…そろそろ中遮攔くらいになったんじゃないかと勇んで商店街のタイムセールに挑んだが、まだまだ小遮攔だった。
鄒淵(すうえん)…弟の鄒潤が頭突きの特訓をしている時は心配でならなかった。

3.
史進「おい、杜興」
杜興「どうした」
史「お前と話して復帰した兵がいただろう?」
杜「おったな」
史「董進というんだが、めきめきと頭角を現し始めた」
杜「そうか」
史「嬉しくないのか?」
杜「わしは何もしとらん」
史「よく言う」
杜「復活して頭角を現したなら、全てあいつの実力だ」
史「…」

史「今、陳達の下でしごかれているよ」
杜「陳達は、やると決めたらどんなことがあろうともやり通す奴だな」
史「…本当にそういう奴だよ」
杜「そんなことがあったのか?」
史「…前にな」
杜「鄒淵はお前らと違って粘り強く、守りに強い男だ。使い所を誤るなよ」
史「…これが年の功ってやつか」

杜「呉用殿は人を見る目がない」
史「いきなり何を?」
杜「わしが遊撃隊の副官だぞ、信じられるか?」
史「よくもまあ俺の前で…」
杜「馬鹿で恥知らずな兵どものお守りを見る身になってみろ」
史「やれやれ…」
杜「なんだ、史進」
史「…自分のことは、自分が一番分からんのかもしれんと思ってな」

史進(ししん)…口うるさい爺だが、今の遊撃隊に間違いなく必要な男だよ。
杜興(とこう)…自分が思っている倍以上に慕われていて、戸惑いを隠せない。

4.
史進「乾布摩擦をするぞ」
陳達「おもむろに始めるな」
鄒淵「飯食ってんだぞ、俺らは」
杜興「…今、なんと言った史進」
史「乾布摩擦だ、老いぼれ」
杜「…それは毎年の冬場、1日も欠かさず継続している、このわしに言っているのか?」
史進 「老いぼれ…」
陳「絵が見えるな」
鄒「勝負しろよ」

史「…」
杜「…」

陳「既に史進が寒さに腰を抜かしているぞ」
鄒「杜興は眉ひとつ動かさず、泰然としている」

史「…」
杜「…」

陳「杜興の下帯が赤いな」
鄒「健康番組で見たんじゃないか?」

史「!」
杜「!」

陳「始まった」
鄒「杜興の隙もない摩擦を見ろよ」
陳「美しいとすら思うぜ」

史「!」

陳「史進は荒々しいな」
鄒「皮膚を摩擦しているだけで、動きになっていない」

杜「やめろ、史進」
史「…勝負はまだ」
杜「竜が、泣いている」
史「!」

陳「それらしいこと言いやがって」
鄒「…俺は、聞こえたぞ」

杜「正しい乾布摩擦を、わしが教えてやろう」
史「ありがとう、杜興」

史進(ししん)…会得したら見事なもので、寒さに強くなった。
杜興(とこう)…毎年冬場の日課。かつて李応にもやらせようとしたが、全力で拒否された。
陳達(ちんたつ)…飯食いながら、何てもん見せられてんだよ俺たちは。
鄒淵(すうえん)…俺は、杜興に習いに行くぞ、陳達。

水軍

水軍…冬場で雨の日は本当に大変。オフの兵は火を焚いたり、阮家の鍋を作る班に回してアシストさせる。

人物
李俊(りしゅん)…暑がりで寒がり。それはただ、我慢ができないだけではないか。
張順(ちょうじゅん)…とりあえず水に入ってないと落ちつかない。水温は度外視。
阮小七(げんしょうしち)…子供のころから梁山湖で泳いでいたから、環境変動に敏感。最近は水温が安定しないな…
童猛(どうもう)…張順ほどではないが、鯉が何言ってるのか分かるような気がしてきた。
項充(こうじゅう)…飛刀で確実に狙うため、人体の急所を安道全にレクチャーしてもらった。
阮小二(げんしょうじ)…水陸両用の船はできないか試行錯誤中。まぁ息抜きで考えるだけならいいだろう?

5.
童猛「水軍にとって厳しい季節がやってきた」
阮小七「俺は餓鬼の頃からこの湖で泳いでいたからまだ慣れているが…」

李俊「寒い!痛い!引きあげろ!」
張順「李俊殿!」
張敬「…この有様で、混江竜など名乗って良いのですか?」
李「小僧」

童「言うな、張敬」
阮「俺らの想いを伝えてくれた」

順「敬が正しいと思う」
敬「隊長たるもの、湖の寒さごときに負けて、戦ができるのですか?」
李「!」

童「痛いところ突かれたな」
阮「唇が紫にも程があるが…」

李「分かった。もう一度潜ろう」
敬「さすが隊長」

童「俺たちも準備を…」
阮「!」
童「どうした、阮小七?」
阮「冷たすぎる」

童「!」
阮「こんなに梁山湖が冷たいのは記憶にないぞ…」
童「…そしたら今日に限って言えば、李俊殿が鈍臭いのではなく…」
阮「張順たちが異常なんだ」

李「」
順「李俊殿が氷漬けになって浮かんできやがったぞ」
敬「だらしねえや」

童「安道全を!」
阮「火を焚いて、湯を用意しろ!」

李俊(りしゅん)…暹羅国の王になる夢を見ていたぞ…
阮小七(げんしょうしち)…ボケちまったか、李俊殿。
童猛(どうもう)…俺と兄者もいなかったか?

張順(ちょうじゅん)…水温を確かめて絶句。秋から冬場にかけての調練について、話し合うことに。
張敬(ちょうけい)…こんなの普通ですよ、と氷点下すれすれの水の中を魚のように泳いでみせた。

二竜山 

二竜山…調練プログラムの大枠は決まっているが、細部は将校次第で自由に取り組んでよい。

人物
楊志(ようし)…帰るたび、楊令と曹正のソーセージの新機軸について模索している。楊令よりしょうもないアイデアを出すと済仁美はかく語る。
秦明(しんめい)…狼牙棒は木製と鉄製がある。鉄製を使う時の彼は本気なので、みだりに話しかけないように。
解珍(かいちん)…点鋼叉という叉の使い手。みだりに肉を食いすぎる者を叱る時によく使う。
郝思文(かくしぶん)…武芸はまんべんなく得意。器用不器用とか言わないでくれよ。
石秀(せきしゅう)…曹正を罵ることができず、何かがたまり始めた。
周通(しゅうとう)…楊志と石秀がソーセージでバカなことを模索している間に、着々と力をつけている。
曹正(そうせい)…よくよく考えたら、こいつからソーセージを引いたら何も残らないのはどういうことだろう。
蔣敬(しょうけい)…そろばんを懐に、黒と朱の筆を両耳に挟む姿は競馬場のおっちゃんみたい。
李立(りりつ)…李立の魚肉ソーセージもなかなかの評判。原価がやや高いので、利率を上げていきたいともっぱらの意気込み。
黄信(こうしん)…二竜山から双頭山に移る予定。そしたら鎮三山(ちんさんざん)が鎮二山になるではないか。
燕順(えんじゅん)…派手な髭を蓄えている。錦毛虎(きんもうこ)の由来の一つ。
鄭天寿(ていてんじゅ)…銀細工作りも得意だけど、髪型のセットや衣類のコーデも得意。王英には絶対やらなかった。
郭盛(かくせい)…楊令との稽古を通じて、方天戟の素振りを一回一回大切にするようになった。
楊春(ようしゅん)…朱武のおかげで一言ネタが書けるようになった。少華山の木々に残したネタはどうなったかな。
鄒潤(すうじゅん)…燕順に胡桃を割ってくれと頼まれたら粉砕してしまった。
龔旺(きょうおう)…虎の刺青をやり直したくて仕方ない。

6.
曹正「ソーセージの売れ行きは堅調だ」
蔣敬「そうですね」
李立「魚肉ソーセージも行けそうだ」
曹「朱貴の魚があそこまでの代物だったとは、侮っていたよ」
楊志「…」
石秀「…」
曹「どうした?」
楊「…なんというか」
石「…すごく、物足りないのだ」
曹「お前ら…」
蔣「…」
李「…」

石「突っ込みどころのない曹正なんて、ただの曹正ではないか」
楊「お前の明後日の方向性の商品開発が、今になっては懐かしい」
石「守りに入らないでくれ、曹正」
曹「…散々罵っておいてよく言うな」
楊「令も、最近の曹正はつまらんと言っていたぞ」
曹「手堅い商売ってのはそんなもんだ」
石「…」

楊「曹正のソーセージワールドがこれ以上発展しなくていいのか!」
曹「持続可能で堅実な成長ができればいい」
石「…何か新商品のアイデアはないのか」
曹「今はないな」
楊「ならば新機軸を…」
石「…楊志殿のコピー用紙」
楊「…今なんと言った、石秀」
石「吹毛剣を、納めてください」
曹「馬鹿め」

楊志(ようし)…自分の名前をダジャレにされるとは不愉快な。
石秀(せきしゅう)…曹正の気持ちが痛いほど分かった。

曹正(そうせい)…勝手な連中だ、全く。
蔣敬(しょうけい)…ただ、あの二人のコントが見れなくなると思うと…
李立(りりつ)…正直俺も惜しいんだよな。

7.
曹正「ソーセージの売れ行きも堅調だ」
?「曹正」
曹「?」
操刀鬼「操刀鬼だ、曹正」
曹「!?」
鬼「俺は包丁の名手で、ソーセージ作りを司る鬼」
曹「頼んでもないのに自己紹介をするな」
鬼「貴様のソーセージ作りはそれで良いのか、曹正」
曹「くだらない商売は辞めた」
鬼「愚かな…」
曹「…」

鬼「貴様がくだらないソーセージを作らなければ、誰がくだらないソーセージを作るのだ?」
曹「くだらないソーセージなぞ、必要ないだろうが」
鬼「愚かな…」
曹「どっちが…」
鬼「くだらないソーセージが大衆にウケまくった時、お前は嬉しくなかったのか?」
曹「それは」
鬼「お前はな、曹正」

鬼「くだらないソーセージを作ってなんぼの男だ」
曹「失礼な」
鬼「お前からソーセージを引いたら何が残る?」
曹「」
鬼「そういうことだ、曹正」
曹「…」

曹「夫婦の遊戯でソーセージゲームを提案する」
楊志「卑猥な遊びを…」
石秀「豚の性器はホルモン屋でも売らんぞ、曹正」
曹(嬉しそうに…)

曹正(そうせい)…いかん。正気に戻ったはずなのに…
操刀鬼(そうとうき)…曹正の夢に出てきた。操刀天使はいなかった。

楊志(ようし)…済仁美とやらないからな、絶対!
石秀(せきしゅう)…ソーセージゲームのソーセージの皮を卑猥な形にするなよ、曹正。

8.
楊春「…」
鄭天寿「楊春」
楊「…何か?」
鄭「前々から思っていたのだが」
楊「…はい」
鄭「お前、中々の男前ではないか?」
楊「鄭天寿殿、一体何を…」
鄭「一度俺に衣類や髪型を整えさせてみんか?」
楊「…結構です」
鄭「お前はもっと存在感を持った方がいいから来い!」
楊「…はあ」

鄭「…」
楊「…」
鄭「白面郎君が青ざめるレベルではないか…」
楊「そんな馬鹿な…」
鄭「おい、兄貴!」
燕順「…誰だそのイケメンは!」
楊「…」
燕「楊春か…見違えたぞ」
楊「…どうも」
鄭「俺の見立て通りだ」
燕「お前、王英の馬鹿の代わりに清風山に来い!」

王英「痛え!」
女「最低!」

楊「…俺には少華山の兄がいます」
燕「そうだったな」
鄭「一度揃って対談するのはどうだ?」
燕「悪くねえ」
楊「…そんなに良いですか?」
燕「表に出るぞ、楊春」

秦明「…あんなイケメン将校いたかな?」
花栄「私ですか?」
郭盛「…まさか、楊春!」

楊「…」
鄭「な?」
燕「飲み行くぞ!」

楊春(ようしゅん)…あれで少し、自信がついた気がしています。

鄭天寿(ていてんじゅ)…イケメンはイケメンを知るのだ。
燕順(えんじゅん)…王英の馬鹿の悲鳴が聞こえたぜ。

王英(おうえい)…またやらかして出禁になった。

秦明(しんめい)…楊春の戦の才も、もしかしたら…
花栄(かえい)…私は?
郭盛(かくせい)…自明ですから、逆にカウントされないのでは?

9.
秦容「!!」
秦明「いかん。どうしよう…」
公叔「お腹が空いているのですよ」
容「♪」
明「…」

容「!」
明「いかん。どうしよう…」
公「暫く側にいたら泣き止みますよ」
容「!」
明「公叔」
公「どうなさいました?」
明「私も傍にいていいか?」
公「…もちろん!」

容「!」
明「我が息子ながら、大きな声だ」
公「次の霹靂火はこの子ですか?」
明「…歯が生え始めたのか」
公「そうなんですよ」
明「狼の牙のようだな」
公「何ですか、それは」
明「男は牙を持たねばならん」
容「!」
明「牙を剥き出しにするのは駄目だが、鈍らせるのはもっと駄目だ」
公「…」

容「!」
明「おう。いい声だ」
公「…」
容「!」
明「私も一緒に泣いていいか、容?」
容「…」
明「…駄目か」
公「…」
容「」
明「…泣き疲れたのかな」
公「旦那様」
明「どうした?」
公「私の前なら、泣いてもいいですからね」
明「公叔…」
公「…」
明「今、泣きそうだ」
公「まったく…」

秦明(しんめい)…二竜山の指揮官だって、大変なんだ…
公叔(こうしゅく)…存じてますよ。
秦容(しんよう)…よく笑いよく泣き、よく狼牙棒を振り回す。

双頭山 

双頭山…夏風山と冬風山はないのか、と配属された黄信が単廷珪に愚痴ったが、そしたら鎮四山ではないかと真顔で諭された。

人物
朱仝(しゅどう)…髭の中にしまった隠しアイテムは、本人ですら把握してない。
雷横(らいおう)…山の麓の居酒屋常連。バイトがかつての部下、柏世に似ているからそう呼んでいる。
董平(とうへい)…ドラムもいけるけど琴にも自信があったが、王母様のを聴いて断念。
宋清(そうせい)…宋国から風流喪叫仙の全国ツアーの依頼が届いたが、拒否。何されるか分かったもんじゃないだろう。
孟康(もうこう)…独自の手旗信号を開発したが、劉唐に1日で解かれた。
李忠(りちゅう)…虎をやっつけた時は無我夢中だったからなにも覚えてない。多分死域に入ってたのだろう。
孫立(そんりつ)…嫁から届く手紙がテンプレ化しつつあるのがすごく気になる。
鮑旭(ほうきょく)…あだ名は喪門神(そうもんしん)。めったに怒らないけど、怒らせたときは…
単廷珪(たんていけい)…もう一度水攻めをしてみたいが、コストもかかるし戦後処理も大変すぎるから、やっぱり割に合わない。 
楽和(がくわ)…楽和の声でボーカロイドソフトを作成中。

10.
黄信「!」
鮑旭「見事な剣ですな、黄信殿」
黄「青州一の鍛冶屋に打ってもらった」
鮑「銘はなんというのですか?」
黄「喪門剣だ」
鮑「奇遇ですね」
黄「何が?」
鮑「私の昔からのあだ名は喪門神です」
黄「…」
鮑「…」
黄「…パクってないよな」
鮑「…偶然の一致です」
黄「…」
鮑「…」

黄「この剣は、俺が軍人になった時にもらった剣だ」
鮑「私のあだ名は、かつて盗人時代に付けられたあだ名です」
黄「…何年前だ?」
鮑「いつしか呼ばれていたので、正確には…」
黄「…」
鮑「黄信殿は?」
黄「俺もいつしか呼ばれていたから、正確には…」
鮑「…」
黄「パクリでは」
鮑「ないです」

黄「喪門剣と」
鮑「喪門神か」
黄「…」
鮑「喪門神が振るう剣の名の方が相応しいような」
黄「なんだと」
鮑「黄信殿は鎮三山ですよね」
黄「そうだが?」
鮑「双頭山では、一つ足りないのでは?」
黄「!!」
鮑「…喪門剣、いいな」
黄「これは俺の剣だからな」
鮑「盗みは、しません」
黄「…」

黄信(こうしん)…単廷珪相手に、鮑旭のことを愚痴りまくった。
鮑旭(ほうきょく)…喪門神の前で喪門剣とは、少し釈然としませんでしたので…

流花寨

流花寨…孔明の罠で、朱武に孔明っぽい格好をさせたらめちゃくちゃ似合ってたし、本人もノリノリですごい策立てるしで気分はすっかり諸葛亮孔明。

人物
花栄(かえい)…なんかよく分からんが、すごい策なのは分かるぞ、朱武。
朱武(しゅぶ)…道服を着るようにしようかな。
孔明(こうめい)…神機軍師孔明って呟いたら、朱武が凄い顔でにらんできた。
欧鵬(おうほう)…俺たちで三国志にまつわる拠点にしないか?
呂方(りょほう)小温侯(しょうおんこう)だから呂布一択。
魏定国(ぎていこく)…俺は神火将(しんかしょう)だから、祝融になるな…
陶宗旺(とうそうおう)…石積みが得意な武将っています?

11.
朱武「欧鵬が攻め、呂方が側面を突き、魏定国が瓢箪矢で後方を炎上させ、花栄が止めを射る調練だ」
欧鵬「よしきた」
花栄「少し待て、朱武」
朱「どうした、花栄?」
花「私の出番は一番最後なのか?」
朱「お前の弓は、ここ一番の最後まで取っておきたいんだが」
花「私の弓はデザートではない!」

呂方(また厄介な噛みつき方を)
朱「お前の弓を見せつけすぎると、後で必ず困るぞ」
花「なるものか」
朱「盾を二枚張にされても射ぬけるのか?」
花「射抜いてやるさ」
魏定国(射抜けても、その後の局面がとても不利になりそうだ)
花「私の弓はメインディッシュにしてくれ」
朱「しょうがない…」

朱「!」

呂「号令だ」
魏「花栄殿のみ、突撃?」

花「!?」

朱「!!」

欧「太鼓が強くなった」

花「!」

魏「何をやらせる気だ?」

朱「!!」

欧「俺たちの隊で袋叩き、か」
呂「行くぞ!」
魏「そのための厚い鎧か」

花「!」

呂「痛え!」
魏「調練用だよな?」
欧「すげえものを見た」

朱武(しゅぶ)…花栄の無意識の自己顕示欲は程々にするよう躾けないといかん。
花栄(かえい)…善戦したが、衆寡敵せず、あえなく袋叩き。
欧鵬(おうほう)…鶴翼の陣が得意。
呂方(りょほう)…呂布並みに鍛えておいてよかった…
魏定国(ぎていこく)…瓢箪矢のノウハウは他で使えんかな。

聚義庁

聚義庁…毎度おなじみになった好漢コンテスト開催窓口。事務局長呉用も選手側に回りたくなってきた。

人物
晁蓋(ちょうがい)…今回のコンテストのために、1週間行方をくらませた。みんながみんな気が気でなかったという。
宋江(そうこう)…私が出れるコンテストってあるかな…
盧俊義(ろしゅんぎ)…アイデア王コンテストなら自信はあるぞ。もちろん開発予算もつける。
呉用(ごよう)…計算コンテストを思いついたが、蒋敬に勝てる気がしない。
柴進(さいしん)…高級品と一般品を見分けるコンテストで、彼がいる部屋を選択できればまず安心。
阮小五(げんしょうご)…アベレージは高いけど、突き抜ける能力がないからあまりコンテスト向きではなかった。
宣賛(せんさん)…イケメンランキング内面部門で3位入選。そうなれたのもルックスランキングのランク外になったせいだと考えると少し複雑。

12.
宋江「梁山泊ボディビル大会の決勝だ」
呉用「晁蓋殿も選ばれたのですな」
宋「忖度一切不要の大会の中、見事に実力で決勝に勝ち進んだのだ」
呉「どれだけの仕事が滞っているか…」
宋「選手入場だ」

晁蓋「…」
林冲「…」
秦明「…」
武松「…」
史進「…」
樊瑞「…」
陶宗旺「…」
李雲「…」

呉「綺羅星のような軍人と、陶宗旺、李雲が互角なのは見事ですね」
宋「番狂わせだ」
呉「まずは史進ですね」

史「!」

「今日は履くのか!」
「竜が欠伸してるぜ!」

宋「辛辣な声が」
呉「ターンしました」

史「!」

「九紋竜昇天!」
「臥竜にあらず!」

宋「退場」
呉「尻でパンツを裂くか」

林冲「…」

宋「やはり際立つな」
呉「郁保四も見たかったですが、同じブロックに入ってしまったのが運の尽きですね」

林「!!」

「張飛を股で御せる!」
「ハムストリングをハムにしたい!」

宋「この掛け声は?」
呉「兵が出しています」
宋「面白いな」

林「!」

「筋肉では倒せない奥方!」

晁蓋「…」

宋「さあ出番だ」
呉「迫力が違う」

晁「!!」

「塔でベンチプレスしてたのか!」
「二本担いで川渡れるよ!」

呉「負けたらやってもらいましょうか」
宋「本気だな、呉用」

晁「!!」

「毘沙門天が、背中で叫ぶ!」

馬麟(扈三娘が失神した)
白勝(なにごとだ?)
扈三娘「」

秦明「…」

宋「最年長とは思えぬ…」
呉「さすが二竜山代表」

秦「!!」

「青天の霹靂!」
「100万ボルトと100デジベルの合わせ技!」
「狼牙棒、何回振れる?」

秦「喝!」

呉「!!」
宋「会場を痺れさせるシャウトだ…」

「二竜山は鼓膜の筋トレも欠かせない!」
「絶叫マシン!霹靂火!」

武松「…」

呉「拳の大きさもさる事ながら」
宋「やはり見事な体躯だ」

武「!!」

「虎殺しの実績!」
「今なら何匹相手にできる!」

武「!!」

「隠し味は弟分のプロテイン!」
「薛永お墨付きのアンチドーピング認証!」

宋「李逵のサポートがあったのか」
呉「頼もしい上に、強力ですね」

陶宗旺「…」

宋「改めて見ると凄いな」
呉「今日は顔つきもまるで違う」

陶「!!」

「肩に石積み積んでるよ!」
「頭領を助けた実績!」

宋「違いない」

陶「!!」

「腹の六個の石積みは崩せない!」
「梁山泊の堤防!」

呉(そうなる気が)

陶「!!」

「甲羅を脱いだら凄いぞ、九尾亀!」

李雲「…」

宋「いつも大工をやっているからかな」
呉「湯隆は惜しくも次点でしたが、彼も見事ですよ」

李「!!」

「木材を持てて、木材からモテモテの虎!」
「木材を運ぶ単位は1李雲!」

宋「馬力か」

李「!!」

「木材に育てられた筋肉が、木材を形作る!」
「筋肉と木材の永久機関!」

樊瑞「…」

宋「最近入った者だな」
呉「超人的な身体能力の持ち主です」

樊「!!」

「お父さん!お父さん!」
「背中に魔王を纏わせている!」

樊「!!」

「妖術では惑わせない存在感!」
「筋肉しか見えない妖術だ!」
「花石綱と渡り合える芸術!」

呉「花石綱より美しい」
宋「呉用?」

宋「これは決められんな」
呉「皆にも決めてもらいましょう」
宋「というわけで、アンケートを設けさせていただいた」
呉「二つに分かれていますのでご確認ください」
宋「皆の投票結果を鑑みて、後日表彰式を行う」
呉「ご投票どうぞよろしくお願いします!」

宋江(そうこう)…武松か陶宗旺か…他の者も…
呉用(ごよう)…全員に入れたくて迷っている。

史進(ししん)…退場処分だが、俺の尻に負けたパンツの脆さを是正しろと異議申立て中。
林冲(りんちゅう)…張藍の食事サポートのおかげだ。
晁蓋(ちょうがい)…塔は一つ150Kg以上する代物。
秦明(しんめい)…若い頃並みに狼牙棒を振りに振って仕上げてきた。公叔も観覧中。

武松(ぶしょう)…李逵の食事面からトレーニングの相棒まで助かったよ。
陶宗旺(とうそうおう)…石を積んでいただけなのに…と思っていたが、コンテストのトレーニングを始め、豹変中。
李雲(りうん)…自作のトレーニングキットは、たとえライバルだろうと惜しみなく提供。
樊瑞(はんずい)…日頃のハードワークの成果を遺憾なく発揮できて感無量。

扈三娘(こさんじょう)…晁蓋の上半身の仕上がりに悶絶し、背筋の仕上がりでついに気を断った。
馬麟(ばりん)…晁蓋殿を見る目が乙女の目だった…
白勝(はくしょう)…後で晁蓋殿に見舞いに行って貰おうぜ。

10月号上

10月号上2

13.
宋江「アンケートの結果、優勝者は晁蓋、と」
呉用「武松に割れましたな」
晁蓋「…」
武松「…」
宋「ならば二人でもう一度…」
晁「いらぬ、宋江」
呉「晁蓋殿?」
晁「今日は10月の9日…」
武「!」
晁「なぜかこの日だけは、絶対に勝ちを譲れぬのだ」
武「…私も、この立合いだけは譲れません」

宋「武松!」
晁「宋江」
宋「!」
晁「男は譲れぬものがあるのだ」
呉「…立合うのですか?」
晁「拳でこい、武松」
武「!」
晁「…俺を殺してしまうと思ったな、武松」
武「!!」
晁「貴様如きに殺される晁蓋ではない!」
武「…」
李逵「待ってくれ、晁蓋殿」
武「李逵、これは俺が間違っていた」

武「俺が晁蓋殿に殺されると思わないといけなかった」
李「!」
晁「殺す気でこい、武松」
武「おう、晁蓋殿」

晁「…」
武「…」

宋(声も出せぬ)

晁「!」
武「!」

扈三娘「お待ちください!」

宋(ナイスタイミングだ、扈三娘)
呉(珍しい)

馬麟「すごいものを見た」
白勝「王定六より速え」

晁「扈三娘…」
扈「…」
晁「?」
扈「」
晁「扈三娘!」

馬「やはりか」
白「担架だ、文祥」
文祥「すごい濃い男性ホルモンの気が…」

晁「大丈夫だろうか?」
馬「まあ、あとで見舞いに行ってやってください」
晁「無論だ」
武「…晁蓋殿」
晁「おう…」
武「飲みましょうか」
晁「…そうだな」

史進「俺の大臀筋とお前の鉄の箸、どちらが強いと思う、李雲」
秦明「やめろ、史進」
陶宗旺「なんと豪勢な肉料理を」
李雲「鍛えた甲斐があった」
樊瑞「調理は?」
李逵「無論俺だ」
武「生きててよかったな」
林冲「男の宴だ!」
晁「乾杯だ!」
宋「…私も鍛えよう!」
呉「私も、できる範囲で!」

晁蓋(ちょうがい)…やはり梁山泊の者同士で喧嘩は良くないな。
武松(ぶしょう)…立合いでは、本気で死を覚悟しました。

史進(ししん)…ワンサイズ小さいパンツを履いていた事が発覚。わざとではない。
林冲(りんちゅう)…今日の晁蓋には誰も勝てないと思った。
秦明(しんめい)…ここまで若い頃のように身体を引き締めると、若さまで取り戻したようだ。
陶宗旺(とうそうおう)…李逵が呆気にとられるほど石を持てるようになった。
李雲(りうん)…軍人連中と肩を並べられるとは…
樊瑞(はんずい)…項充と李袞で二次会。梁山泊は本当にいいところだ。

李逵(りき)…今日はいつもよりも腕によりをかけたぜ。

扈三娘(こさんじょう)…見舞に来てくれた晁蓋に絶叫。嬉しい悲鳴なんだけど、お互い焦りに焦った。
馬麟(ばりん)…なるほど。扈三娘は…
白勝(はくしょう)…俺たちも身体を鍛えたくなるな。
文祥(ぶんしょう)…安道全先生たちは、また違う体力をお持ちだと思う。

宋江(そうこう)…投票してくれたものに心からの礼を言うぞ!
呉用(ごよう)…梁山泊ジムと馬術を少しづつ始めた。

14.
宋江「10月の8日だ」
呉用「はい」
宋「108の日だな」
呉「…そうですな」
宋「名札を見に行こうか」
呉「はい」

宋「…」
呉「…」

李俊「やはり宋江殿の名札は厚みと照りが違う」
燕青「盧俊義様の名札は白い斑点が綺麗だ」
史進「俺の赤い名は色に力が強すぎないか?」

宋「何をしている?」

李「おう、宋江殿、呉用殿」
燕(宋江殿はそこじゃないだろう)
史(ほっとけ)
宋「…名札で遊んでいたのか?」
李「なんだか、懐かしくなりたくて…」
宋「私と呉用もだ」
呉「そんな事…」
宋「野暮だぞ、呉用」
呉「…」
宋「…さて、何をして遊ぼうか」
李「…本気で悪ふざけしますよ」
宋「構わん」

燕「私の盧俊義様が、赤い名に!」
史「救出失敗とは、梁山泊が大変だ」
李「阮小五が欲しかった…」
呉「絶対にやらんぞ、李俊」
宋「いかん!晁蓋を忘れていた!」
呉「!」
宋「…まあいいか」
呉「いいのですか?」
宋「晁蓋は、明日一緒だな」
燕「何故ですか?」
史「…」
宋「…なんとなくさ」

宋江(そうこう)…皆きちんと正しい場所に戻せるのか…
呉用(ごよう)…こういう遊びも悪くないな。

李俊(りしゅん)…明日は晁蓋殿を混ぜて遊ぶぞ。
燕青(えんせい)…ルールを決めればゲーム化できそうだ。
史進(ししん)…最後の一枚は誰だろうな…

養生所&薬方所

養生所&薬方所…風邪がはやる季節になってきて、待合室を見て安道全は舌なめずり。薛永は薬草集めで死域。白勝は…

人物
安道全(あんどうぜん)…この季節は本気を出せば5徹はいけるぞ。
薛永(せつえい)…一人で盧俊義よりも重い薬草担いで帰ってきた。
白勝(はくしょう)…カルテの整理とか、待合い室の番号管理まで俺がやることになるとは。看護婦でも雇ってくれ!

15.
安道全「風邪が流行り始める時期になった」
薛永「薬の蓄えは十分だ」
安「梁山泊では、呼延灼、索超、李俊がひいた」
薛「彼らが風邪をひくのも、分かる、という気がします」
安「そして案の定、林冲、史進、関勝はピンピンしている」
薛「何を言わんとしているのか、私には分からない」
安「嘘つけ」

林冲「おい、安道全」
安「珍しいな、馬鹿」
薛「…顔色が?」
林「…どうやら風邪をひいたようだ」
安「そんな馬鹿な!?」
薛「今年の風邪は馬鹿にできないな」
安「馬鹿な…私の目論見が根底から覆されるとは」
林「…馬鹿と言い過ぎではないか?」
薛「馬鹿につける薬は…」
林「おい」
薛「!」

林「索超と同じ風邪か?」
安「恐らくそうだろう」
薛(すごく不本意そうな目でこちらを見ている…)
安「薛永の粥を食って、一晩寝れば概ね良くなるだろう」
林「ありがたい…」
薛「お持ち帰り用をよそってきます」
林「参った」
安「そうだな」
林「史進の馬鹿は風邪ひかないのが不公平だ」
安「!?」

安道全(あんどうぜん)…馬鹿は風邪ひかないの真実を研究中。
薛永(せつえい)…特製のおかゆはレトルトや湯煎して食べるのがある。

林冲(りんちゅう)…風邪なんて久しぶりだな。

兵站

兵站…食料を集める時は万が一のため、必然的に毒見も兼ねる。薛永印の毒消しと胃薬は欠かせない。

16.
柴進「開封府の遊戯場は?」
蔣敬「侯健の疲弊が見てられません」
柴「盧俊義殿の力も借りよう」
蔣(嫌な予感しかしない)
柴「…ところで、済州に闇の遊戯場が出来たらしい」
蔣「賭場ではなく?」
柴「どうやら我々の施設を真似しているらしい」
蔣「捨て置けませんな」
柴「調査に行ってみよう」

女「いらっしゃいませ!」
蔣(派手な衣装ですね)
柴(馬のような顔をした女が着ててもな)
蔣「なにやら破廉恥な遊戯が多いですな」
柴「…あれは」
蔣「我々の彫刻を元に勝手に作成したものですな」
柴「扈三娘が見たらなんというか…」
蔣(…青蓮寺の匂いがしますね)
柴(まさかここまで手を入れるとは)

店員「お客様、困ります!」
?「それでは対等ではないではないか」

蔣「…何事でしょう」
柴「あの声は…」

店「いくら脱衣麻雀で負けたとはいえ、お客様が脱がなくても良いではありませんか」
史進「それでは負けた俺の気が済まん」

蔣(…どうします?)
柴(動画を撮って、聚義庁に摘発させよう)

柴進(さいしん)…我らは全年齢対象のゲームしか置かんぞ。
蔣敬(しょうけい)…テストプレイのやりすぎで、目と首と肩こりが大変。

史進(ししん)…知らぬ間に遊撃隊LINEにアップされて、全員分の既読がついていた。

塩の道

塩の道…もっぱら闇塩で稼いでいるけど、ずば抜けて優秀な奴らがそろっているから、彼らの副業でも十分稼げることに気づいた盧俊義は…

人物
盧俊義(ろしゅんぎ)…燕青の自作ゲーム、蔡慶の花図鑑か。蔡福のブログ本発刊はやめておこう…
燕青(えんせい)…自作ゲーム作りが趣味。ついに家庭用販売の打診を受けたが…
蔡福(さいふく)…心の魔物を解き放った彼のブログは、コアなファンに支えられ末恐ろしいPV数を誇っている。
蔡慶(さいけい)…あだ名は一枝花(いっしか)だけに花は詳しい。北京の花屋に惚れたから覚えたとか。

17.
燕青「…」
蔡福「…どうした燕青?」
燕「やっと時代が私に追いついたのだ」
蔡「そんな時代になったら、俺など即座に寸刻みにされてしまう気がしてならんが?」
蔡慶「これだ、兄貴」
福「?」
燕「私の自作ゲームが商品化されたんだ」
福「インドア派か」
慶「兄貴は心のドアが封印されてるだろ?」

福「俺の心のドアを解き放った災で貴様を嬲り殺してやろうか」
燕「是非二人にもプレイしてほしくて、持ってきた」
慶「これは見事な」
福「気ではなく、強い執念を感じる」
燕「初回限定特典のバーコードはつけたが」
福「?」
燕「追加コンテンツは逐一買ってくれよ」
慶「このセコさは盧俊義様だ」

福「望みのモンスターが出ないのだが」
燕「蔡慶の方に入っている」
慶「なら、兄貴の方にしか出ないのと交換してくれよ」
福「…交換手段は?」
燕「この交換キットを買ってくれ」
慶「…本体より高そうな代物を」
福「お前は金儲けがしたいのか、遊んで欲しいのかどちらなんだ、燕青」
燕「それは」

燕青(えんせい)…いかん。私は遊んでもらう人に楽しんで欲しいのだった。
蔡福(さいふく)…ビジネスチャンスと見るやエゲツないからな、盧俊義様は。
蔡慶(さいけい)…もっと簡単に交換する方法はあるはずだ。

練兵場 

練兵場…鎧のノイズさえ気にならなければ身体を動かし放題のスペース。

人物
徐寧(じょねい)賽唐猊(さいとうげい)という家宝の鎧の防御力はすごいが、引き起こすノイズは周囲の集中力や攻撃力等をダダ下げする厄介な代物。

18.
徐寧「無いぞ!」
史進「今日はどの鎧のパーツだ?」
徐「胸の星が一つ足りん!」
史「いくつあるんだよ」
徐「18個」
史「無駄に多い」
徐「いかん!前にかがんだら星が落ちた!」
史「縁起でもないことを…」
徐「どういう意味だ?」
史「…何か、嫌な予感がしたのだ」
徐「良く分からん」
史「…」

史「今何個ある?」
徐「15個」

董平「!!」
鮑旭「董平殿!」
孫立「危なかったな…」
董「石積みが崩れるとは…」

徐「また落ちた!」
史「何個だ?」
徐「10個だ」

柴進「また盧俊義殿無茶振りが…」
呉用「柴進、この書類の出来はどうした事だ」
柴「…」

徐「くそ!」
史「落としすぎだ」

史「今何個だ?」
徐「6個だ」

張藍「林冲」
林冲「…」
張「私の秘蔵のスイーツをまた食べましたね」
林「…」

徐「3個になった」
史「いい加減にしろ」

宋江「呉用。例の妓楼の件だが」
呉「しまった!」
柴(ここで話さなくても)

徐「1個あった」
史「4個か」

・公孫勝「…」
・劉唐「公孫勝殿!」

徐寧(じょねい)…やっと全部星を揃えた瞬間、凌振の大砲が直撃した。
史進(ししん)…星も刺々しくて拾うのも大変だ。

董平(とうへい)…死ぬところだった…
鮑旭(ほうきょく)…陶宗旺の仕事ではないな。
孫立(そんりつ)…手抜きしたやつはどいつだ。

柴進(さいしん)…忙しくて死ぬところだった。
呉用(ごよう)…宋江に死ぬほど叱られた。
宋江(そうこう)…来た女のせいで死にかけた

張藍(ちょうらん)…今日の罰のダーツを投げなさい。
林冲(りんちゅう)…当てるのも嫌だが、外すともっと大変なことになるから大変なのだ。

公孫勝(こうそんしょう)…何が起きたのだ…
劉唐(りゅうとう)…とりあえず、孔亮を締めときます。

19.
宣賛「…」
花栄「宣賛?」
宣「花栄殿」
花「ここは弓の調練場だが?」
宣「…花栄殿の前で射るのは緊張するが」
花「ほう」
宣「見てもらっていいかな?」
花「もちろん」
宣「!」
花「…上手いじゃないか、宣賛」
宣「花栄殿に褒められるとは」
花「花栄でいい」
宣「…昔とった杵柄です」

花「それは?」
宣「…開封府にいた頃、よく弓の稽古をしていたことがありまして」
花「そうなのか…」
宣「色々あって、雄州で関勝殿と再会できなければ、私はもう死んでいたでしょう」
花「…宣賛が弓の名手とは思わなかった」
宣「花栄だけの秘密にしてください」
花「なぜだ?」
宣「…」

宣「…好きな女が、弓が得意でした」
花「…」
宣「出会わなくなって以来、夢を見るようになり…」
花「…どんな?」
宣「この顔を嫌って、妻になる者が、自害する夢を…」
花「…すまん、宣賛」
宣「妻のおかげで、今は見なくなりました」
花「…それも私だけの秘密にしておくよ」
宣「頼む、花栄」

花栄(かえい)…歯並びも、指も整っているから、もしかしたら美男だったのではないかな…
宣賛(せんさん)…関勝殿にもしたことなかったな、そういえば。

朱貴・朱富のお店

朱貴・朱富のお店…李立の魚肉ソーセージを置いたら、饅頭より売れた日があってかなり複雑。控えめにしよう…

人物
朱貴(しゅき)…彼の養魚育成記録は宋国各地の養魚業者のマニュアルになっている。
朱富(しゅふう)…魚肉饅頭を試食しすぎて、味が分からなくなってきた。

20.
張藍「林冲」
林冲「…」

関勝(おお、これが)
呼延灼(張藍様の公開説教だ)
穆弘(朱富の店でやるのか)

張「なぜ私のお造りが無くなっているのですか?」
林「美味そうだったから、つい…」
張「あなたと言う人は…」
林「朱富!」
朱富「…言いにくいんですが、生憎今日の分は切らしてしまいました」

林「なんだと!」
張「…」

関(あれが無言の張藍様か…)
呼(林冲が、蛇に睨まれた蛙のようだ)
穆(気を絶ちかけたぞ、あの林冲が)

林「他のものはないか?」
朱「饅頭なら」
林「一番始めに頼んだ!」
朱「…肉入りの饅頭は」
林「饅頭から離れろ!」
朱「…甘味の饅頭を試作中なのですが」
林「!」

林「それを…」
張「…」
朱「梁山泊随一の味覚をお持ちの張藍様に召し上がっていただくには、まだ…」
張「…喜んで、いただきますよ。朱富殿」
朱「ありがたき幸せ」

呼(そうなのか?)
関(張藍様は神の舌をお持ちで、食事レビューのオファーが後を絶たないんだ)
穆(まあ、俺たちしか来ない店だがな)

張藍(ちょうらん)…思ったよりも美味しくなかったので、まだ御機嫌斜め。
林冲(りんちゅう)…狼狽えたあまり、勘定の時小銭をぶちまけてしまった。

朱富(しゅふう)…的確かつ辛口なご意見だが、料理人の腕がなるってもんです。

関勝(かんしょう)…すっかり冷めてしまったな。
呼延灼(こえんしゃく)…俺への当てつけか、関勝?
穆弘(ぼくこう)…何を言っている、呼延灼?

郵便屋さん 

郵便屋さん…梁山泊の要の一つ、通信網を担う最重要部隊。重要性は理解され、予算は潤沢なはずなのに、もっぱら戴宗が神行法使う予算にしているという不穏な噂が。

人物
戴宗(たいそう)…神行法という1日800里(400km)走る技を伝授された所以は…
張横(ちょうおう)…いまだに父親の張礼が夢に出てくる。絶対意図的に出てきてると思うほど、会話内容がクリアで現実的。
王定六(おうていろく)…普通に足速いだけでよかったと思うことがしばしば。

21.
戴宗「神行法で走るのがこんなに苦痛になっちまうとは」
王定六「梁山泊の酷使無双だもんな、戴宗殿」
戴「お前もするか?」
王「俺は一般人最速の男でいい」
戴「また遼まで行かないといかんのか…」
王「…素朴な疑問なんだがよ、戴宗殿?」
戴「どうした?」
王「神行法はどこで身につけたんだ?」

戴「…これは秘中の秘だが、特別に教えてやろう」
王「おう…」
戴「張横、張順の親父様が持っていたのだ」
王「張横殿の親父?」
戴「張礼様という、江州伝説の男だ」
王「…一体どんなお人だったんで?」
戴「俺に起きたことをありのまま話すなら…」
王「…」
戴「牢役人の下働きが」
王「…」

戴「気がついたら船に乗って、水賊やらされてた、と言ったら?」
王「…頭がどうにかなりそうだな」
戴「張礼様は色々な奥義を持たれていてな」
王「…」
戴「というか、張礼様がもしもご存命で梁山泊にいたとしたら」
王「…」
戴「晁蓋殿も宋江殿も、顎で使っていたかもしれん」
王「何者だよ…」

戴宗(たいそう)…脚力を見込まれて、神行法を託されたのだ。
王定六(おうていろく)…もしかしたら、張順がいくらでも泳げるのって…

張礼(ちょうれい)…江州伝説の男。張横、張順の親父様で、未だに命日には厳かな祭りが密やかに行われている。

芒碭山

芒碭山…魔王と那吒と悟空が住んでいると周囲で噂されている山。

人物
樊瑞(はんずい)…物心ついたころから身体を鍛えていたらしい。なぜかは覚えてない。
項充(こうじゅう)…たまに塞ぎの虫がやってくる。まずはお天道様を浴びてれば、少しずつ元気になるよ。
李袞(りこん)…身軽な動きが得意。アクロバットの練習はいきなりやるなよ。

22.
項充「…」
樊瑞「どうした、項充」
李袞「塞ぎの虫か?」
項「ああ…」
樊「俺にはよく分からず、すまん」
李「まあ気が向いたら、俺らの稽古に来いよ」
項「…」
樊「そういう日もあるさ」
李「とりあえず、お天道様は浴びろよ」
項「…お前らがいて、よかった」
李「何を今更」
樊「友ではないか」

樊瑞(はんずい)…身体を鍛えすぎるのも考えものだな。
項充(こうじゅう)…少し元気が出て、飛刀の稽古ができた。
李袞(りこん)…三人で足りないところを補い合ってこそだろ?

済州

済州…梁山泊の領土。様々な住民が少しずつ確実に増え始めている。

23.
裴宣「若い兵と住んでいる年寄の揉め事?」
孫二娘「どうやら、酒場の使い方で双方の言い分があるそうで」
裴「これは鉄面孔目の出番かもしれん」
孫「私も一緒に」

裴「双方の言い分を聞かせてくれ」
若者「俺たちは日頃の警護や調練でくたびれてるんだ!たまには羽目を外したっていいじゃねえか!」

老人「黙れ、小童!わしらが若い頃は酒なぞで発散させず、歯を食いしばって勤めてきたのだ!」
裴「…」
孫「女の皆さんからの意見は?」
娘「私は扈三娘様に憧れて、馬術の稽古をしてみたいと友人に話したら、酷く貶されたことがありました…」
婆「はしたない… 女は女として生きて行くのが筋です」

裴「店主のご意見は?」
店主「俺は、お客様同士が喧嘩されてしょんぼり帰られちまうと、寂しくなるんだよな」
孫「…」
店「幸い店はお客様のおかげで繁盛している。だからお客様の飯作るのに精一杯で、喧嘩の仲裁まではできねえのがとても申し訳ねえ…」
裴「美味いぞ、店主殿」
店「ありがとよ…」

裴「私の意見を聞いてくれるかな」
若「…」
裴「皆は梁山泊の領土に暮らしている。意図して暮らす者もそうでない者もいるのは承知しているが、今あなたたちは、梁山泊にいるのだ」
爺「…」
裴「梁山泊は面白いところでな」
娘「…」
裴「各自が得意なものだけを好きにできる環境が整っているのだ」

裴「医者が得意な者、鍛治が得意な者、馬の医者もいるな」
婆「…」
裴「彼らは良くも悪くもそれしかできないんだ」
孫「…そうですよね」
裴「文字が読めなくても、人との付き合いが苦手でもいい。ただ、彼らは誰にも負けぬ強みを持っていて、それを梁山泊で生かしているのだよ」
娘「扈三娘様も?」

孫「あいつは剣より重いもの持ったことない女さ。今度会わしてやるから話してごらんよ。良いのは顔だけさ」
娘「まさかw」
孫「…それでも扈三娘はいいのさ。あの娘は生半可な男にゃ武術でも戦でも絶対に負けないよ」
婆「…気の毒な」
孫「彼女が本気で選んだ道を侮辱しなさんな、婆さん」
婆「!」

孫「…あんたもそうだったんだろ?」
婆「…なにが?」
孫「若い頃に思い描いてた夢や想い人との縁を、親にぶった切られちまったんだろ?」
婆「!!」
孫「そんな女を私は掃いて捨てるほど見てきた」
婆「…」
孫「…だからさ、婆さん」
婆「…」
孫「あんたももう、好きに生きていいんじゃないかい?」

婆「どういうことですか?」
孫「…あんたの縫物の腕はもっと人を幸せにできるはずだよ」
婆「それは?」
孫「後は自分で考えな」
若「…爺さん。あんたらの昔の話を聞かせてくれよ」
爺「…なんだ急に」
若「俺たちは志を持ってきたが、あんた達は徴兵されて兵にされたんだろう?」
爺「そうだ…」

若「大変だったんだな」
爺「…そうだよ」
若「今度酒を奢らさせてくれ」
爺「小僧に奢られるほど、耄碌してない」
裴「…後は当事者の話し合いで解決できるかな?」
店「今日のところは、俺が面倒みます」
裴「恩にきる」
店「なんの。この人達に常連になってもらえりゃ、繁盛する気がしたんでね」

裴「…いい店になるな」
孫「私も贔屓の店です」
裴「確か退役した軍人の」
孫「卞祥殿です」
裴「…若者と年寄も、色々あるな」
孫「そうですね…」
裴「…晁蓋殿が、梁山泊は子供の集まりだ、と言っていたのを思い出した」
孫「違いないです」
裴「そんな国になるといいな」
孫「必ず、なります」

裴宣(はいせん)…こういう所から、人の暮らしは綻びるからな。
孫二娘(そんじじょう)…卞祥のお店に良い肉を流すようにした。…良い羊だから安心しな。

卞祥(べんしょう)…田虎の所からやって来た元軍人。梁山泊で第二の人生を歩もうと一念発起し潔く軍人をやめ、料理人に。巨漢だが優しい目。実は梁山泊上位に匹敵する大斧の遣い手。

若者…爺の昔話だって、きちんと聞く耳持てば参考になるじゃねえか。
…最近の若い者はと思っていたが、あの頃の鬱憤を晴らす相手にしてはならなかったな。

…扈三娘との女子会に参加し、終始呆気にとられた。今度馬術を習う予定。
…縫物教室を始めた。きめ細かな教え方は定評あり。

チーム張清

チーム張清…瓊英に一目ぼれした張清の恋路の行方は…

人物
張清(ちょうせい)…瓊英との初めて話しかけた一言は「夢で貴女に礫投げを伝授しましたよね?」
龔旺(きょうおう)…そうのたまった張清を、丁得孫と二人で引きずって大反省会。
丁得孫(ていとくそん)…「しょうがねえ頭なんだよ」と言いつつ連絡先を聞き出す大手柄。

瓊英(けいえい)…「そうですね!」と答えたのは実は社交辞令ではなかった。

24.
龔旺「張清殿が瓊英殿の婿選びに参加しているが…」
丁得孫「まぁ、俺らじゃどうすることもできねぇ」
龔「こんな時に気の利いたことしてやれるのが、友達だと思うんだけどよ」
丁「上手くいきゃ一緖に祝って、しくじった時は一緒に泣けばいいんだよ」
龔「…それでいいのかな」
丁「そういうもんさ」

張清「…やはり傭兵風情では相手にならんか」
男「!」
瓊英「…」
男「!」
張「…話しても悪くない男たちなのは分かるが、どこか俺と合わない」
瓊「…」
張「…夜風にでも当たって、一人で飯食って帰ろう」

張「親父、飯と酒を」
店主「はいよ」
張「…無性に一人になりたくなるんだよな、たまに」

店「別嬪だね、一人で平気かい?」
瓊「喜んで!」
張「瓊英殿!?」
瓊「あら、張清様」
張「…なぜこんな所に」
瓊「私も、聞こうと思っていました」
張「…一人になりたくなるんだよ」
瓊「…私も、そう答えようと思っていました」
張「…」
瓊「…」
張「…送るから、黙っているよ」
瓊「…はい」

張清(ちょうせい)…似ているのかもな、あなたと。
瓊英(けいえい)…そうですね…

龔旺(きょうおう)…がっつかなくなったじゃねえか、張清殿。
丁得孫(ていとくそん)…賭けるぞ、龔旺。

子午山

子午山…王母様の音楽教室からプロになった音楽家多数。子午山は心の故郷なので誰も明言しないが、懐のペンダントが卒業生の証。

人物
王母(おうぼ)…開封府でもこんなことができたら、と少しだけ思い出す。
王進(おうしん)…音階を聞き分ける調練で死域。

25.
馬麟「俺の鉄笛が壊れて出ない音がある」
鮑旭「それは一大事だ」
馬「♪〜」
鮑「ふむ」
馬「♪〜」
鮑「ここまでは大丈夫だ」
馬「〜♪」
鮑「ひどくずれたな、馬麟」
馬「…お前もいつの間にそんなに耳が肥えたのだ」
鮑「…馬麟の鉄笛しか聴いてなかったからだと思う」
馬「…」
鮑「どうした?」

王母「私の出番ですね」
鮑「母上!」
母「確かに、今の音から推測すると、中二つの音が出なくなっていますね」
馬「…さすが王母様」
母「吹き加減を操ってみるのはどうでしょう、馬麟」
馬「吹き加減?」
母「いつもと同じ呼吸で出ないならば、吹く力を変えるのです」
鮑「さすが母上」
馬「はい…」

馬「〜♪」
母「まだ強いですね」
馬「〜♪〜」
鮑「半音下がった」
馬「…こんな事なかったからな」
母「馬麟」
馬「はい」
母「子供の頃のいたずらで、女の子の耳に息を吹きかける強さで吹いてごらんなさい」
馬「!?」
鮑「…母上?」
母「…」
馬「しからば…」
母「…」
馬「♪〜」
鮑「出た…」

馬麟(ばりん)…例えが絶妙すぎる…
鮑旭(ほうきょく)…やったことあるのか、馬麟?

王母(おうぼ)…二人とも男前なんだから、女の相手も巧みにならないと

青蓮寺

青蓮寺…すっかり開封府遊戯場のお得意様になっているが、よもやそれが梁山泊の軍資金になっているとは思っていない。

人物
袁明(えんめい)…技は身体で覚えるのだ、李富。
李富(りふ)…初めての競争ゲームで身体も一緒に傾いてた。
聞煥章(ぶんかんしょう)…家庭用ゲームを出さないかな。
洪清(こうせい)…体術道場の弟子に見つかり対戦した時、道場での稽古以上にコテンパンにしてやったら、そっちの弟子入りも嘆願された。
呂牛(りょぎゅう)…やる相手いないだろう、聞煥章。

26.
袁明「李富…」
李富「!!」

袁「聞煥章、この書類は…」
聞煥章「…申し訳ございません」
袁「…」
聞「二度と同じ誤りは犯しません」

李「聞煥章」
聞「私も同じことを話題にしようと思ったところだ」
李「袁明様の斬れ味が」
聞「研ぎ澄まされているぞ」
李「昔よりも凄い…」
聞「一体何が…」

聞「くそっ!」
呂牛「また遊戯場で憂さ晴らしか、聞煥章」
聞「位置が気になる」
呂「俺は店員ではない」

男「また負けたよ」
女「宋国ランキング1位と2位は盤石ね」
男「1位のえんめいさんと一度だけ当たったことがあるんだけどよ」

聞「!?」
呂「…」

女「どうだった?」
男「話にならなかった」

聞「立合いゲームのランキング?」
呂「まさか…」

No1. ENMEI
No2. Shadow.K

聞「…」
呂「…」

男「そこをどけ、お前ら!」
聞「なんだ急に」
男「この台はえんめい様の執務室だ!」
聞「どういう意味だ?」
洪清「聞煥章…」
聞「!!」
呂「…」
洪「…」
聞「…すぐに退きます」

袁明(えんめい)…息抜きで始めたはずがいつの間にやら宋国全国ランカー1位。持ちキャラは入雲竜。癖の強いキャラを巧みに御す。
洪清(こうせい)…付き添いで相手してたら全国ランカー2位。接待プレイを禁じられており、彼の浪子の流れるようなコンボは、一度入ると止められない。

李富(りふ)…袁明様の斬れはどこで研がれているのだろう…

聞煥章(ぶんかんしょう)…初めてプレイして負けた時、思わず義足で台を蹴って以来、どうも調子がおかしい。
呂牛(りょぎゅう)…俺も始めている。持ちキャラは、鼓上蚤だ。

楊令伝

黒騎兵

黒騎兵…張平と蘇琪のしょうもない言い争いから取っ組み合いになるが、耶律越里に首根っこつかまれて、楊令の所に連れていかれるのが風物詩。

人物
楊令(ようれい)…やっと楽に呼吸ができるようになってきた。
郝瑾(かくきん)…あだ名は叩頭蟲(こうとうちゅう)。酔っぱらってる時についうなずいてしまったからそんなあだ名になったことをすごく後悔してる。
張平(ちょうへい)…青騎兵を率いている。前任者とは違う意味で黒騎兵との相性は抜群。
蘇端(そたん)…郝瑾の副官。郝瑾のやり残しは殆どないからあまりやることがない。
蘇琪(そき)…楊令の隠れファン。昔からの付き合いとはいえ、張平の無礼の数々に唖然。
耶律越里(やりつえつり)…2m以上は余裕であるんじゃないかというほどデカすぎる。逆の意味で身長制限に引っかかることしばしば。

27.
楊令「…」
張平「楊令殿、羽根つき弱いですね」
郝瑾「意外な弱点が」
蘇端「なんでもできるわけじゃねえんだな」
張「では、顔に墨を」
楊「…」
郝(楊令殿の顔に泥ならぬ墨を塗るとは)
蘇(付き合い長えんだろうな)
楊「…」
張「もう墨を塗られてない面積の方が少ないですよ、楊令殿」
楊「…来い」

楊「…」
張「!!」
郝(卓球選手のような雄叫びを)
蘇(こんなワンサイドゲームになるとは)
張「それでは墨を」
楊「…」
郝(痣以外、隈なく塗られたな)
蘇(地図みたいですね)
張「もう楊令殿の領土は孤立しましたよ」
楊「…梁山泊は昔からそうだっただろう、張平」
張「!」
郝「試合が動く気が…」

蘇「完封負けとは…」
張「これでは黒面獣ですよ、楊令殿」
楊「…強いな、張平」
郝「楊令殿がそんなに弱いようには見えなかったのですが…」
楊「…いかん」
郝「何か?」
楊「重りをつけていたのを忘れていた」
張「…外してみてください」
楊「!!」
郝「…」
楊「…第2セットだ、張平」
張「…」

楊令(ようれい)…張平、郝瑾、蘇端を完封勝ち。なお、墨を塗るセンスは皆無。
張平(ちょうへい)…もっと隈取りみたいなデザインにしてください。
郝瑾(かくきん)…モダンアートみたいだな、蘇端。
蘇端(そたん)…郝瑾殿も額の蟲の字はかっこ悪すぎですよ。

遊撃隊

遊撃隊…半裸と厠で脱ぐのが落としどころになりつつあるが果たして…

人物
班光(はんこう)…羞恥心とは何かを考えながら眠りについたら、案の定夢の中で史進がレクチャーしに来た。

28.
班光「史進殿」
史進「なんだ」
班「どうしてそこまで頑なに着物を着ることを拒むのですか」
史「お前こそ、なぜ頑なに着物を脱がぬのだ」
班「体を洗う時と厠の時と調練の時だけで良いではありませんか」
史「妓楼を忘れるな、班光」
班「…」
史「…すまぬ、班光」
班「史進殿?」

史「実は引き際が分からなくなってしまったのだ」
班「!」
史「俺も公衆の面前にも関わらず、なぜ全裸で一分の隙もなく食事をしていたのか、分からなくなっていたよ」
班「史進殿…」
史「班光」
班「はい」
史「…着物を着てもいいかな?」
班「勿論!」

楊令「…感動的な和解だ」
張平「どこが?」

史「冬の寒さは堪えた」
班「史進殿は風邪をひきません」
史「貴様、俺を馬鹿だと言ったな」
班「そんな肉体をしていたら、風邪の菌だってひとたまりもないですよ」
史「…そうかもな」
班「さあ、早速調練に…」
史「む、風が」
班「やっぱり履いてない!」

楊「詰めが甘かったか」
張「馬鹿なの?」

史進(ししん)…これだけは履かんぞ、班光。
班光(はんこう)…履いてください!

楊令(ようれい)…また新たな火種が…
張平(ちょうへい)…どうしてそこまで真面目に見られるのですか、楊令殿?

致死軍

致死軍…前任者が引退した時は、慎ましやかな引退式が古参兵のみ集められて行われた。泣かぬ者は一人もいない、しとやかな式だったという、

人物
侯真(こうしん)…様々なところをたらいまわしにされた挙句よもやの配属先。そうは見えないが、エリート中のエリートコースを邁進した結果である。
羅辰(らしん)…致死軍で彼のデコピンを罰ゲームで食らった兵が失神した。

29.
侯真「いかん」
羅辰「どうした、侯真」
侯「はめる関節の向きを間違えたようだ」
羅(こいつは人体模型か何かなのか?)
侯「!」
羅(えぐい音だ)
侯「!」
羅(はまった…)
侯「これでよし」
羅「侯真」
侯「なんだ?」
羅「痛くないのか?」
侯「…ガキの頃からやってたから、もう慣れっこだ」
羅「…」

呉用「おう、侯真」
褚律「…」
侯「呉用殿」
呉「褚律がお前の軟体芸に興味があると言ってな」
褚「…」
侯「…構わんが」
羅(珍しいな)
侯「じゃあ準備運動から」
羅(この時点で人間じゃない…)
褚「侯真…」
侯「おう」
褚「俺もやっていいか?」
侯「勿論」
褚「!」
羅「」
呉「気持ち悪いな」

侯「やるではないか、褚律」
褚「俺と互角に渡り合える奴は初めてだ」
呉「どういう格好で会話してるのだ、お前ら」
羅「新人類ですね」
侯「俺は関節外しが得意だ」
褚「俺は身体をしならせて巻きつける技がある」
呉「…もうお腹いっぱいだ、二人とも」
羅「言葉にしかできんのが惜しいですな」

侯真(こうしん)…褚律の技は、身体を巧みにしならせて出来る代物だ。
羅辰(らしん)…Y字バランスができたからってなんだってんだ、こいつらの前じゃ。

褚律(ちょりつ)…関節外しは度胸がいるから、俺はまだできないよ…
呉用(ごよう)…私も今の自分の頭くらい身体を柔らかくしたいな。

本隊

本隊…少しずつ将校も二世も出していくから待っててね。

30.
馬麟「杜遷の甥?」
祖永「はい」
馬「俺は杜遷と会ったことはないが」
祖「白勝殿が会ったことがあると」
馬「あいつは古参だからな」
祖「子どもながら、憧れのかっこいい叔父でしたよ」
馬「見ろ、祖永」
祖「何か?」
馬「扈三娘だ」
祖「そうですね」
馬「…」
祖「…?」
馬「!」
祖「!?」

馬麟(ばりん)…もう今日は祖永と口をきかん。
祖永(そえい)…杜遷の甥っ子。いきなり蹴られた理由が分からず相棒の曾潤と対策会議を開いた。

31.
馬麟「…」
祖永(いつも義足で蹴られたり、皮肉を言われたりするが…)
曾潤(いつも当たり前のように飯を配膳してくれる…)
馬「食うぞ」
曾「ありがたく」
祖「いただきます」
馬「…」
扈三娘「馬麟殿」
馬「よう、扈三娘」
扈「そこ、いいですか?」
馬「おう」
祖「!」
曾「!」
扈「失礼します」

扈「この二人は、馬麟殿の?」
馬「将校さ」
祖(こんな近くでお会いできるとは…)
曾(綺麗すぎる…)
馬「…名乗れよ、お前ら」
祖「失礼…」
扈「…」
祖「祖永と申します」
曾「曾潤と…」
!!
曾「いかん、皿が…」
馬「緊張しすぎだ、曾潤」
曾「すぐに片付けます」
扈「バリンと割れましたね」

祖「!?」
曾「!?」
馬「早く片付ける道具を借りてこい、曾潤」
曾「今すぐ!」
扈「…どうしたのでしょう?」
馬「分かってて言うな、扈三娘」
扈「馬麟殿の部下はどうですか、祖永?」
祖「!」
馬「…」
祖「えっと…」
馬「…」
祖「よく蹴られますけど、良い軍です!」
扈「ですって」
馬「…」

馬麟(ばりん)…愉快な連中だ、全く。
扈三娘(こさんじょう)…馬麟殿なら上手に部下を育てられるでしょう。

祖永(そえい)…扈三娘の隣は、すっごい良い匂いがしたという。
曾潤(そじゅん)…動揺のあまり、片付ける最中、したたかに机の角に頭をぶつけた。

元ネタ
 ・水滸伝

 ・楊令伝

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