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HAKU的「レザークラフト道具論」

こんにちわ、HAKUです。

YouTubeなどで情報発信をしていると「オススメの道具は何ですか?」「○○を買おうと思うのですが、どれが良いですか?」といった質問をいただくことが結構あります。みんな道具に興味あるのね。

っというワケで今回は、具体的な道具紹介!…ではなく、もう一歩踏み込んで私の道具観について書いてみたいと思います。

道具選びに迷っている方や、欲しい道具を買おう買うまいか迷っている方に少しでも参考になれば嬉しいです。

良い道具とはなんぞや?

私がレザークラフトを始めたばかりの頃に比べて、最近はレザークラフトの道具もバリエーションが豊富になりました。特に高級・高品質なラインナップが充実してきた印象。羨ましいなぁと思う一方で、これから道具を揃えようという人は迷ってしまうだろうなぁなんて思っています。

「やっぱり高くても良い道具を使ったほうがいいですかね?」なんて聞かれる事もありますが、私個人的には高価なモノであれば良いとは思っていません。

安価なモノでも自分が使いやすいと感じ、使いこなせていて、不満がなければそれはとっても良い道具だと思います。逆に高価であっても、使いこなせないのであればそれは良い道具とは言えないのではないでしょうか。

私にとって道具はあくまでも「手段」。なので大事なことは値段ではなく、「目的」をきちんと果たせるか否かです。目的が果たせれば安価なもので充分ですし、そうでなければ高価でも品質の高いツールも視野に入ってきます。

そう考えると、私は道具を買う際に「道具そのもの」に対してお金を払っているというより、その道具を入手することによって果たせる目的や、解決できる課題に対してコストをかけていると言えるかも知れません。

最近の高級ツールに思うこと

道具はあくまでも「手段」。そういう私の道具観は他のクリエイターさんに比べて結構ドライなものかもしれません。

道具好きな方や、実際に道具を作られている方には怒られてしまうかも知れませんが、正直なことを言ってしまうと最近の高級ツールのトレンドにはちょっと「?」っと思ってしまう部分もあります。

「柄に銘木を使っているので、とても高級感があります」「所有する満足感があります」って言われても私的には「お、おう…」となってしまうんです…。

例えば「この包丁の柄は耐水性の高い木材なので、研ぐ際に濡れても安心です」とか、「少し重みがあったほうが使用時に安定するので比重の高い銘木を選びました」なんて言われれば「おー、なるほど!」ってなると思います。

でも単に「高級感」「所有感」を訴求されても、あまりそこを重視していない私からすると、そんな高級素材を使わなくてもいいから、もう少し値段が安くならないかな、なんて思ってしまうことも…。ちょっとドライ過ぎるかしら?

そんな私なので、気になる道具があっても「お、カッコイイ!」とスグに飛びつくことはしません。最近はデザイン的にもカッコイイ道具が多いので、物欲を抑えるのが大変ですけどね。

道具は手段なので、「カッコイイ」「デザインが素敵」ではなく、その道具を手に入れて実現できることは何か、またきちんと自分が使いこなせるのかを一呼吸おいてしっかり考えるようにしています。

KS Blade Punchを買ったワケ

そうは言っても私もいくつか「高級」と言われる部類の道具を所有しています。ここでは一例として「KS Blade Punch」さんの菱目打ちを買った体験談をご紹介したいと思います。

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こちらは2本目と10本目の菱目打ち。縫い穴をあけるための工具ですね。2本セットでお値段、180USドル。国際送料等を含めると約200ドル(2.2万円)でした。

「は?菱目打ちに2万?アホじゃん?」って思ったでしょ?

でも、私にとっては、とてもリーズナブルな買い物だったのです。なぜなら、コストに見合うほどに私が抱えていた課題を解決してくれたから。

以下、少し長くなってしまいますが、購入の経緯をご紹介していきます。

歯(刃)数の多い菱目打ちが欲しい!だが…

はじまりは作業効率を上げるために歯(刃)数が多い菱目打ちが欲しいと思った所から。歯数が多いと菱目打ちを打つ回数も少なくて済みますし、ステッチラインが曲がってしまうリスクも抑えられますからね。

それまで国内メーカー製の2本目と4本目を使用していたので、6本目や8本目を買い足せば済むお話かと思いきや、そうはいかなかったのです…。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、私はCADを使って縫い穴をあける位置まで描きながら型紙を製作しています。ピッチの辻褄合わせをする必要もなくなりますし、パーツの段差もキレイに跨げるとても便利な方法。

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レザークラフトの教則本に載っている基本的な手順では上手く行かず、何とかならないか?もっとキレイに、再現性高く作れないか?と自分なりに試行錯誤を重ねてたどり着いた方法です。

ですが、国内のメーカーさんの菱目打ちはCADほど正確なピッチ幅は担保できないそうなのです。これはメーカーの方からご教授いただいたお話ですが、国内生産の菱目打ちは職人さんが手作業で1本1本削り出し、刃付けをしているとのこと。ですのでコンマ数ミリのズレは当然発生し得るもの、言わば「許容差」という訳です。

確かに、コンマ○ミリという精度を手作業で担保するのは至難の業でしょう。しかもそれを量産している訳ですから、この程度の許容差は起こり得て当然。むしろ一本一本手作業でよくここまで精度を追い込んでいると評したほうが適切かもしれません。

ただ、私のようなCADを活用した作り方をしていると困ってしまうポイントでもあります。僅かなズレとはいえ、それが積み重なると、設計と実際の製作のズレが大きくなってしまうからです。

仮に1つのピッチ(刃と刃の間)の誤差が±0.2mmだとすると、8本目、10本目と刃の数が多くなるほど全体のズレは大きくなります。単純計算をすれば、8本目であれば刃の隙間は7箇所あるので、1回打つ度に0.2✕7で±1.4mm。10本目であれば±1.8mm分、狙った位置と実際の縫い穴がズレてしまう訳です。

以前ATSUSHI YAMAMOTOさんも動画の中で「革小物の世界で1mm…いや0.5mmのズレでも大きい」とおっしゃっていました。私も同感です。なので縫い穴のピッチにもそれなりの精度を求めたいのですが…これは困った。

失意の中、KS Bladeと出会う

ここで私の取れる選択肢は以下の3つ。

1.自分の方法論を捨てて、従来的な手法で製作をするようにする
2.誤差の影響が少ない4本目など歯数の少ない菱目打ちだけを使う
3.歯数が多くてもピッチを正確に刻める菱目打ちを探し求める

せっかくCADを使って正確な型紙が作れるようになったのに、「1」の選択をするのはちょっと残念。長い間、キレイに制作するためにと自分なりにアレコレ試行錯誤してきた方法論ですから簡単に捨てることはできません。

「2」が現実的な選択かもしれませんが、それでは現状維持。そもそもの発端であった作業の効率化という目的は果たせませんから、ちょっと歯痒さが残ります。

作業の効率化は諦めて今まで通りやるしかないのか…。私の方法論はセオリーから外れた、言わば「邪道」。邪道はやはり通用しないのか…。

そんなことを考えながらも、選択肢の3番目にすがるようにいろいろな道具を物色していました。そこで出会ったのがKS Blade Punchの菱目打ちだったというワケです。

金額だけを見たら2万円は決して安い金額ではないです。でも、これまで自分が培ってきた方法論を捨てること無く、本来の目的であった作業の効率化が実現できると考えたら、私はとてもリーズナブルに感じました。

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ご覧の通り、10本目でもピッチが正確です。本体に1本1本刃を据え付ける構造なので、おそらくかなりピッチ精度は高いのだろうと踏んでいましたが、ビンゴでした!

10本目ですが刃の刺さりもまずまずですし、重さがあって重心が低いせいか安定して打ち込むことができるような気がします。ステンレス製を選んだのでサビの心配も少ないです。刃幅はもう少し細い方が好みではありますが、それでも大満足。

造形としてもカッコイイなぁと思いますが、それはあくまでもオマケの付加価値。私の悩みを解決してくれた対価として、2万円は決して高くはないと思えました。

私が道具に求めるもの

長々と私の体験談を書かせていただきましたが、書きながら改めて思いました。私が道具に求めているのは、何か自分の課題を解決してくれる事、”ソリューション”なんだなぁと。

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高級・高品質なツールが沢山流通するようになると、道具に対してソレ以上のものを求めてしまいがち。私もそうですが、ふと

「憧れの職人さんが使っているものと同じものを使ったら、自分の腕も上がるのではないか」
「良い道具に変えれば、作品のクオリティもあがるのではないか」

なんて思ってしまうことがあります。

でも実際は道具を変えても自分は自分のままですから、いきなり熟練職人さん級に経験値がドカンと上がるわけでもありません。高級感のある道具で作ったからと言って、作品そのものに高級感が宿るワケでもないんですよね。

良い道具が欲しいと思ったら、情報収集をすることも大事ですし人にオススメを聞くのも良いですが、その前に「自分の解決したい課題」を明確にすることが大事なように思います。

その上で、本当にそのツールで課題が解決できるのか、課題解決の対価として納得できる金額なのかを考えると良いのではないでしょうか。

また、課題解決のためには新しい道具が必要であるとも限りません。先日noteに書いた菱ギリのように自分で手を加えることで解決できることもあると思います。

そういう検討を経て手に入れた道具は、きっとバリバリ活躍してくれるでしょうし、自分にとって相棒と呼べる存在になるハズ。

…っと私はそんなことを考えながら道具たちと付き合っています。

YouTubeをやっているんだから、”動画映え”を考えてカッコイ道具を揃えたら?という声も聞こえてきそうですが…。今日も私は2万円の菱目打ちを1,000円のプラスチックハンマーで打つのでした。

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