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レザークラフト脳内トレーニング

こんにちわ、HAKUです。

今日は私が時折やっているレザークラフトの「脳内トレーニング」についてご紹介してみたいと思います。

脳内トレーニングというだけあって、残念ながらレザークラフトの技術上達には直結しません。手を動かしませんからね。ですが、ものづくりをする上で考えるべきポイント、気をつけるポイントなど「気づく力」を養う上では役に立っている気がします。

っと小難しいことを並べてみましたが、単純に結構楽しいモノです。トレーニングというよりも「ゲーム」といった方が感覚的には近いかなぁ。

ゲームの名は「トレース」

私がやっているトレーニングは、特に名称はありませんが紹介用に強いて名前をつけるとすれば「トレース」とでも言いましょうか。

何を「トレース」するのかと言えば、自分以外の作り手さんの製作意図や設計思想です。

凄腕の作り手さんほど、無駄な(単に装飾目的の)デザインはしない、という前提の下、デザインや意匠、仕様に込められた「何かしらの意図」を読み取るゲームが「トレース」です。

なぜ、こういうデザインにしたのか?どうしてこういう仕様にしたのか?といった部分を作り手さんになったつもりでアレコレ想像してみる、と言ったら伝わるでしょうか。

こうした設計思想や製作の意図というのは、作り手さん自身が解説してくださっている場合もありますね。ブランドコンセプトとして、また商品ごとの詳細情報として解説してくださっているケースもあるでしょう。

ですが、むしろご本人が明言されていない意図や狙いを自分なりに想像(妄想?)する方が面白かったりします。もちろん、想像なので正しいか間違っているか分かりません。ですが、正誤は問題ではなく、「考えてみること」が大事じゃないかな、と思います。

次からこのゲームの中身を具体的にご紹介してみましょう。

作り手の意図を想像する

ここでは、私のメンターの一人でもあるATSUSHI YAMAMOTOさんの二つ折り財布を例として挙げさせていただきましょう。

私が二つ折り財布に挑戦した際、ATSUSHIさんのこちらの動画を参考にさせていただきました。いや、参考というよりはほぼ真似をさせてもらったと言っても過言ではありませんね。

ただ、どうしても真似できなかった部分があります。「仕立ての精度と完成度だろ」って?…それを言っちゃあオシマイよ。

技術面で真似できていない部分は数え切れないほどありますが、仕様面で目で見て明らかに真似できていない部分がありますね。そうです、別の動画で詳細に紹介してくださっていますが、「ヘリきり」「載せべり」というテクニックです。

「うわー、難しいテクニックを使っているなぁ!スゴイなぁ」…で終わってしまってはもったいない。ここからもう一歩踏み込んで「何故、このテクニックを採用したのか?」ATSUSHIさんになりきって考えてみましょう。

「オレ、こんなに難しいテクニック使えるんだぞ」っとドヤ顔するために採用した…訳がないですよね。何かしらの「意図」があるハズ。それは何だろう…さぁ、Thinking Timeスタートです!

以下は私の勝手な分析です。なので、もしかしたらATSUSHIさんに「ちげーよ!」と怒られてしまうかもしれませんが、私は2つの理由があると思っています。

ATSUSHI YAMAMOTOになりきる

私が考えた第一の理由は、デザイン的な理由です。

「ヘリきり」というテクニックを使うことで小銭入れのカブセ部分がきれいな直角になっていますよね。これを切り目処理でやろうとすると角が立って脆くなってしまいます。

かといって角を丸めてしまうと全体的に直線で構成されたデザインがぼやけてしまいます。もし小銭入れのフタの角が面取りされていたら、ATSUSHIさんの製品の特徴とも言うべき、カード前段のRが際立たなくなってしまいそうですよね。

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また、小銭入れのカブセ裏や、「載せべり」を施した内装部分にはヘリに立体感が生まれています。ノッペリと平面的な造形よりも、仕立てに高級感が出ますし、動画のオーダー品ではそのおかげで差し色(イエロー)のステッチがより際立っています。

さらに言えば、小銭入れのフタ・アリ上部と「ヘリきり」「載せべり」を採用した箇所は、実際に財布を使う際によく指をかける部分。小銭入れを開ける時、札入れを開く時、必ず指がかかる部分です。

この部分の断面を革で包む構造にすることで厚みが増して耐久性の向上も図れるのではないかと思います。

そして、2つ目の理由はコストです。

もし「ヘリきり」や「載せベリ」といった技法を採用せず、全ての断面のコバを作るとなるとどうでしょう?

これは私自身も製作したのでよーく分かります。

小銭入れのフタ(小冠)パーツのコバを先に仕上げないと、小銭入れを組み立てることができません。カード段や小銭入れのパーツの内側のコバを作ってあげないと、アリ(内装の土台)と合体させることができませんね。

さらにアリ(内装)の上辺部分も予めコバを作ってやらないと中一(札仕切り)や外装と合わせることができません。つまり、組み立て途中に都度、コバづくりの工程が入ってしまうため、製作効率がものすごく悪くなってしまいます。

プロの作り手さんにとって「製作時間」=「コスト」ですから、かかった時間分のコストは最終的には製品価格に反映せざるを得なくなります。すなわち、最終的には製品を購入してくださるお客様に負担を強いることになってしまうわけですね。

「ヘリきり」は動画を観ると分かりますが失敗のリスクも高い難しい技法。恐らくATSUSHIさんの中では、制作上のリスクを取ってでも、デザイン的に優位性があり、且つ製作効率が良い方法としてこの作り方を採用したのではないかな、と私は想像しています。

結果的にコバをつくるのはお財布の外周部分のみになっていますね。むしろ外周のみのコバ塗りだからこそ、ATSUSHIさんの製品の特徴でもあるカラフルなコバが一層際立っているとも言えます。

単に製作効率を求めるだけでなく、デザイン性、特に自身の製品のアイコンたるデザインを際立たせている点が…もう、ため息でちゃうでしょ?やっぱり、プロの方ってスゴイですね。

「気づく力」を養う

…っといった感じで、「なんでこのデザインなんだ?」「どうしてこういう仕様なんだ?」という部分を勝手に想像・妄想するゲームです。どんなモノか伝わりましたでしょうか?

改めて言っておくと、ここに書いたことは全部、私の勝手な想像・妄想。ATSUSHIさんご本人にインタビューした訳ではありません。てんで的外れという訳ではないと信じたいですが、ズバリ正解でもありません。きっとまだ私などでは考えが及びもしないような意図やこだわりがたくさんあると思います。

ただ、正誤はともかく、こうやって作り手の意図を想像してみると、すごく勉強になるものです。いざ自分がものづくりをする際に「何を考えなければいけないか」「どう考えるべきか」参考にすべきことがたくさん学べます。

これはちょっと大げさな言い方をすると、「気づく力」を養うトレーニングでもあると思います。

具体的に解説されたことを理解することは、それほど難しいことではありませんよね。「10」の説明から「10」の理解を得るだけです。ですが、こうやって作品を通して作り手の意図や設計思想を想像すると、さらに「10」「20」と学び取れることが増えるような気がします。

たとえ解説がなくとも、観察するだけで学びになるのですから、あらゆるものが「教材」となるわけです。言語化されていないものを自分の頭で考えて言語化するのも、良い”脳トレ”にもなるかもしれないですね。それがまた楽しかったりするんだなー。

どう?やってみたくなりました?

ついでに言わせて

ついでに、というとちょっと失礼ですが、せっかく例として挙げさせていただいたのでATSUSHIさんがスゴイと思うことをもうひとつ述べさせてください。

プロの方にとって製作時間=コストと述べました。製作効率を高めれば高めるほど、販売価格を低く抑えられたり、利益率を高く維持できたりする訳です。私のようなアマチュアはともかく、プロの方は避けて通ることのできない課題でしょう。

ミシンや漉き機など設備投資をするのが最も分かりやすい手段でしょうか。他にも抜き型を作ったり、一度に複数個の製作をしたり、部分的に外注したり…プロの方は色々と工夫し、投資し、効率化を追求されていると思います。

それだけ製作の効率化は大事なテーマですが、過度に効率を追求しすぎると手間を惜しむようになってしまう、という側面もあると思います。

例えば、漉きを入れない、コバをキレイに仕上げない、カシメを多用して縫製箇所を減らす、床処理も裏打ちもしない…そうやって時間と手間のかかる工程を省いてしまえば、簡単に作業時間を減らして製作コストを抑えることができますね。

「そういう作風なのです!」っと言われてしまったらそれまでなのですが、中にはもはや効率化ではなく「手抜き」や「妥協」の部類なのではないか!?っと思えてしまうものもあったりします。(あくまでも個人の感想です)

革製品のコストの主な部分は原材料費よりもむしろ、仕立てにかかる手間賃(作業費・人件費)ですから、私のようなひねくれ者は「この仕立ての割には、なかなか良い値段するよなぁ…」なんて感じてしまうことも…。

それを踏まえた上でATSUSHIさんの製品を見ると、全くと言ってよいほど手間を惜しんでいないし、こだわりを大事にしているのが分かると思います。私が「ATSUSHIさん、スゲーなぁ!」っと思うのはまさにココ、手間を厭わずに品質と製作の効率化を両立させているところです。

工程を省いたり、適当に済ますのではなく、技術力や工夫によって仕立ての品質とコストのバランスを取る。まさにプロの仕事ですよね。私はこういう所にプロのスゴさ、ATSUSHIさんのスゴさを感じています。

抽象度を上げた学びも大事

レザークラフトを独学でやっていると、どうしても具体的な技法等に目が奪われてしまいます。「○○を上手くやるコツはありませんか?」みたいな質問を頂くこともありますが、どうしてもそういった具体的な事柄に目を奪われてしまいますよね。

それはそれでとても大事なことなのですが、一方で今回紹介したような抽象度の高い学びも大事だなぁと思ったりもします。具体的な技法や所作以前の、考え方や姿勢、設計思想を学ぶ、といったら分かりやすいでしょうか。

例えば元メジャーリーガーのイチローさん。イチローさんのルーティンやしぐさは芸人さんもモノマネするくらい有名です。毎日カレーを食べるとか、試合開始1時間前にユンケルを飲むとか、色々と話題になりましたよね。

じゃあ毎日カレーを食べてユンケル飲んで、屈伸して振り子打法をすればみんなヒットが量産できるかといえば…そんな訳はありませんよね。大事なのは「何故そうするのか?」という体調管理やパフォーマンス向上のための考え方、バッティング理論の方だと思います。

これはちょっとした笑い話ですが、イチローさんが朝からカレーを食べると知れ渡ってから、日本で「朝カレー」がちょっとした流行りになりました。ですが、当のご本人は胃潰瘍になってからカレーを食べていなかったそうです。

表面的なことだけを真似して取り入れてもダメよ、という教訓のようなお話ですよね。

もう一つ例を挙げてみると、手前味噌ですが私のこちらの動画。

こちらの動画は「革漉き術」と言いながら、具体的な革漉きの”やり方”については一切触れていません。革漉きをするにあたって、どういう事に気をつけて、何を意識しているのか?また、なぜこのやり方をしているのか?にフォーカスした概念的なお話が中心です。

需要ないだろなぁなんて思っていましたが、びっくりするくらい多くの方に視聴いただくことができました。

「包丁をよく研ぎましょう」「刃を斜めにスライドさせましょう」といった具体的な事は省き抽象度を上げた、言い換えれば「どうやるの?」ではなく「何故そうするの?」を紹介したことで視聴者の方が解決策を見つけるキッカケになれたのかな、と思います。

具体的なテクニックや所作を見て学ぶことも大切ですが、せっかくならもう一歩踏み込んで「なぜそうするの?」と考えてみる。それって結構大事な事だと思います。

何だか小難しく書いてしまいましたが、まずは気軽に「トレース」ゲームから始めてみるのも良いのではないでしょうか。






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