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悪魔の証明

2023年2月7日火曜日午前10時54分、電話がかかってきた。

友人と通話をしている途中だったので、出るの面倒くさいなア、でも重要なことだったら出なきゃいけないしな、と思って電話番号をサファリで調べた。

運転免許センターだった。

どきッとした。無免許運転の幇助の罪に問われている最中だからだ。教習所に通っている途中で卒業検定直前だったからそのことかもしれないと思い直して折り返しの電話をかけた。

免許科の女性が電話に出た。

「ご要件はなんですか」と聞かれたので「先程お電話を頂いたので折り返し連絡させて頂いてるんですけど」と返した。

名前と電話番号を伝えると別の男性が電話を代わった。

頭が真っ白になりすぎて細かくは覚えていないが電話の内容を要約すると、

・私に2年の欠格期間(免許を取ることができない期間)が与えられた
・次いつ免許が取れるようになるのか警察署に行って確認したほうがいい(任意)
・今取りに行っている免許は試験に合格しても渡せない

ということだった。

ここから先は今どうしてこんなことになっているのかを説明する。

2022年7月半ば頃、元彼が140キロのスピードでバイパスを走っていた。私もその時同乗していて家まで送って貰う途中だった。深夜だった。

普段そんなスピードを出すことはないので、グングン上がり続けるメーターと素早く通り過ぎる景色を見て怖くなって、100キロを出したあたりで怒鳴りつけた。めったに大声を出さない私に怒鳴られても、彼がスピードを落とすことは無かった。

ほどなくして後ろからサイレンの音が鳴る。「やから言うたのに」と叫んだが悪びれる様子は無い。

バイパスの降り口付近で停車させられ私は車内で待機。元彼は車を降りて違反切符を切られていた。

ヘラヘラ笑いながら車に帰ってきた。「なんか大丈夫やったわア」と言うので「ならええけど」と返してそのまま家まで送って貰った。

後で判明したことだがこのスピード違反が原因で元彼は免停の処分を受けることになる。

愚にもつかぬ話だが、免停になっていることを知らないまま同乗し続け、来る8月13日。

元彼が事故を起こし、その際に無免許であることが発覚して「道路交通法違反」という罪に問われ逮捕された。

事故を起こす前日、お気に入りのカービィの缶を踏まれたことが原因で喧嘩をしていた。

11日に元彼の家に泊まっていたのだが、翌朝12日、起きたら元彼の左腕に青い粉が付着しており、缶の中に入れていたデパスとサイレースが1シートずつ無くなっていた。飲んだんだと瞬時に理解して、耐性もついていない常人がこんなに飲んで、と思って焦って息をしているか確認した。生きていた。

飲んだ理由は知らないけれど、私の処方薬を勝手に飲み散らかされた挙句缶を踏み潰されたことにだんだん腹が立って、心配の気持ちも全く消え失せ、鍵を勝手に借りて家を出て帰宅した。「ポストに鍵入れてるから」とLINEを送った。

帰る前に駐車場で見た彼の車は、運転席側がボコボコになっていた。

19時頃に元彼が起床した旨のLINEを送ってきた。ひたすら平謝りされ、謝る気があるなら会いに来いと言ったが親に怒られるからとはぐらかされ(今思うと無免許だから来れなかったんだなと思う)、一悶着あり次の日、逮捕当日の13日。

電車やバスを乗り継ぎ乗り継ぎして元彼の家まで行った。仲直りをしようと思って。ああ生ぬるい。

インターホンを押して部屋に上げてもらって、謝罪をされて、普段と変わらず他愛のない会話をしていた。でもなんだか様子がおかしい。

しばらくしてまだ薬が残っているのか疲れが溜まっているのか、眠りこけてしまった。

私の勘はよく当たると自負している。いつでもスマホを覗いて良いと前々から言われていたので、遠慮なくLINEとインスタグラムを覗いた。

あまりにも真っ黒。ベンタブラックかと思った。

これは後で問い詰めることにしようと思い、証拠全てを私のスマホで撮影した後、Dropboxに保存してカメラロールの写真は削除した。

正直、覗かない方がよかった。いくら許可があっても覗きはよくない。

喧嘩して会ってない日の夜に別の女と会ってたらしい

とても不快だったので元彼が起きた後「用事あるから帰るわ」と告げて帰ろうとした。私の機嫌が顔に出ていたのか、気を遣われて「レンタカー呼んだし駅まで送ったる」と言われたのでバス代が浮くなと思い、代車を待って駅まで送って貰った。

事故を起こしたのは送ってもらった後だった。

私を送ったあと共通の知人と遊びに行くと聞いており、ゼンリーを入れさせられていたのでちょくちょく確認していると、なぜか私の家の方面に向かっている。知人の家は全く違う方面なので不思議に思って「会えた?」とLINEを送った。

返ってこない。何時間経っても返ってこない。流石におかしい。何度も電話をかける。出ない。おかしい。

鬼電

ゼンリーを見たら警察署でオフラインになっていた。警察署で電源を切らされたとは思わず、浮気を疑って泣き続けた。実際に浮気はされていたけども。

14日の朝、警察署から電話がかかってきた。元彼が事故を起こしたので15日に取り調べをしたいとのことだった。

捕まっているだなんて思わなかったので本当に驚いた。彼氏が犯罪者か、と冷静でもあった。頭の芯が冷えた感覚がした。

取り調べはもうほとんど覚えていない。7回ほど受けたと思う。元彼のほうが取り調べの回数が少なかったらしい。憎い。

元彼は事故の件で2日間も留置を食らっていたのだと思い込んでいたけど、後から無免許運転で捕まったと知らされた。初めに知らされなかった理由は、私が無免を知っていることを隠そうとするのを防ぐためだ。

私って無免幇助の罪に問われて取り調べを受けていたらしい。

今考えると本当に無知だったなと思う。50キロオーバーと聞くと普通の人間ならそれより前に1〜2点の違反があれば免停だとわかるらしい。無知って、罪だ。

無知が罪なら、知ることは贖いになるのだろうか。

取り調べではLINEやメール、写真やマップの履歴、サファリの検索履歴など、スマホの中身を隅から隅まで調べられた。プライベートな物なのでかなり不愉快だった。警察からすればただ仕事をしているだけなので仕方ないのだが。

事故より何日も前の日から1度目の取り調べあたりまでの行動も覚えてる範囲で話した。事故当日はどういうルートで駅まで送ってもらったかを書かされて実際に警察の車に乗って説明したりもした。これを1日に7時間ほど。あまりにもしんどい。

取り調べでは1度だけ面白い体験があった。

突然「博愛主義さんって、彼氏さんが捕まるよりずっと前から短髪でした?」と聞かれた。質問の意図が理解できなかったが、実際しばらくショートだったので「そうです」と答えた。

「じゃあこれ、博愛主義さんじゃないですよね」と言いながら警察官が見せてきたのは、彼氏の浮気現場が写った監視カメラの写真だった。

私の趣味とはかけ離れた白いワンピースを着た黒髪ロングの女と元彼がコンビニのレジで物を買う様子だった。絶対にこの後ホテル行ってるよね。

分厚い冊子に写真が貼り付けられていて、写真の下に「被疑者と女」と書かれていた。なんだか面白くて笑ってしまった。警察官も「浮気?」と半笑いで聞いてきた。見たらわかるだろ。

何回も受けさせられたのは本当に苦痛だったけど、これだけは本当に面白かった。

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最後に取り調べが終わったのは12月の終わりだったと思う。解放されて喜んだのもつかの間。

冒頭の話に戻るが、昨日の朝、免許センターから電話で2年の欠格期間が与えられていることを告げられた。

つまるところ、有罪ということだ。
無免であることを知らなかったにも関わらず。

「知らない」を証明するのは、「知っている」のを暴くよりもはるかに難しい。悪魔の証明だ。
相手は警察で、「知っている」ものだと思って取り調べをする。少しでも怪しいメッセージがあればそれは「知っている」という証拠にされる。

大麻や覚せい剤など吸ったことも見たこともないのに、薬物の乱用を仄めかすような冗談をLINEで言い合っていたためその方面でも疑われた。さすがに罪には問われなかったが。

完全敗北。教習所に通うために出した30万は全部パアだ。こんなことで。本当にバカバカしい。

今回のことで得られた教訓は、

・スピード違反をするような人間の車に乗らない
・人の車に乗る時は運転する者が免許を携帯しているか確認する
・冗談であっても犯罪行為を黙認するような発言や会話をLINE等残るものではしない
・許可があってもスマホは覗かない

の4つだ。

取り調べが終わったあと、元彼とは綺麗さっぱり別れて、元彼と共通の友人には浮気の証拠と元彼の犯した罪の内容を吹き込んであげた。全てから孤立してるといいな。

今日は免許センターに言われた通りに警察署に行きます。はやく解放されますように。

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