約束 後編

あの・・・どうしましたか?

男は鼻水と涙でぐちょぐちょになった顔で、私を見てこういった

「女と・・・約束をしていたんです。一緒に行こうと約束を。
でも・・・間に合わなかった・・・(泣)
ちょと来るのに時間がかかってしまって。来て見たら居なくて。
あぁ、もっと無理してでも早く来るべきだった。なんて事をしてしまったんだろう!!
あんなに二人で約束していたのに。一緒に行こうと言っていたのに!
可愛そうな事をしてしまった。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!悔しい!!
もっと早く、もっと早く着いていたら。。。こんな事にはならなかったのに!!!
事故が起きなければもっと早く来れたのに!!」

男は落胆の色を見せながら、ただただ悔やみつづけていた。
一人で待っていたあの女は、この男の女房だったのか?
事故、とは何の事を指しているんだろうか。

あの、ずっと待っていたようですよ。その・・・女性は。
浴衣姿で、祭りが始まった時から一人でずっとここで待っていたようですよ。

「あああああああああああああああああ。
やっぱり、やっぱりずっと待っていたんですね!?
あぁ~なんて事をしてしまったんだろう。心細かっただろうに。
きっともう会えない・・・一緒に行ってやることが出来なかった・・・・・・」

半ば錯乱状態に陥り、言葉少なくなってしまった男に
私はかける言葉が見つからなかった
どうする事も出来ず、ただ一人にさせた方がいいだろうと思い少し離れた時である

”もし・・・そこにいるお方、どうかなさいましたか?”

え?
突然の声に驚き振り返ると、白髪混じりの老人が声をかけてきた。

えっ・・・あぁ・・・今家内だという人と待ち合わせをしていたらしいんですが、結局すれ違ってしまったらしくって。
男になんて声をかけたらいいか・・・その・・・悩んでいたんです。

”はて・・・男なんてどこにおるのかのう?”

えっ!?

泣きじゃくりうなだれていた男の方へ目を向けると
そこには誰も居なかった・・・。
いやっまさか!そんな・・・今の今まで半狂乱で泣いていた男が。
急にこの数分で居なくなるなんて・・・アリエナイ。

あの。えっと。。今ここにですね、女と出会えなかった男が居たんですよ。
いなくなっちゃったのかなぁ。
女と待ち合わせをしていたようなのですが、男の方に何かトラブルが生じたらしくて
結局会えなかったみたいなんです。
ただ会えなかっただけなのに、えらく動揺してて。
一生会えない、なんて言ってたので気になってまして・・・。

”それは・・・もしかしたら、色気を持った浴衣姿の女とやせ細った男だったか?”
はい、どうでした。あれ、おじいさん彼らの事を知っているんですか?

”少し前になるんじゃが・・・昔、体が弱かった女房と稼ぎが悪くいつも仕事を探している男がおってのう。
女の誕生日の日にちょうど村で祭りがあって男はせっせっと働きお金を貯め
祭りに一緒に行く約束をしておったそうじゃ。
しかし祭りの約束の日、女は病に伏せ、男は待ち合わせ場所へ向かう途中で事故に合ってしまってな。
二人が出会う事はなかったそうじゃ。
女も、男もまた、相手が亡くなった事を知らぬまま・・・な。
そしていつしか・・・今そこのお前さんが立っている場所では、浴衣姿の女と待ち合わせに行かれずに悔やむ男の幽霊が、たびたび目撃される話が出てくるようになったそうじゃ。
おぬしが見たものはきっと・・・・”

あぁ~~。
だから・・・泣きじゃくっていた男は事故に遭わなければと言っていた。
待ち合わせ場所へ行かれなかった後悔をずっと引きずっていたのだ。

今も・・・その男は後悔しているようですよ。
行けなくて一人で待たせてしまった、と。

”そうか・・・哀れじゃのう。なんとかしてやりたいが、どうしてやる事もできん”

もっと前にこの話を聞いていたら
教えてあげたかったですね。後悔する事はないんだ、という事を。
二人ともあの世に行って会えるという事を。

私は一ついい事を思いついた。

失礼ですが、私とおじいさんとどちらかが亡くなった時に
彼らに教えてあげる約束をしませんか?
早く亡くなった方が彼らに伝える、という約束を。
”わしが先に亡くなると思うが(苦笑)”
そんな滅相もないです。それこそ事故で私が先に、という事もありえますし。
”分かった。どちらかが彼らに伝えるという事で”
はい。
約束です。

過去に制作した詩をここに移しています。全て移動が済みましたら、その後はゆっくり綴っていこうと思っています。 いいね、共感、シェア、好きになって頂けるだけで私は嬉しいです。