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浅野邦子が第1回「いしかわ男女共同参画特別功労賞」を受賞しました

石川県は、2022年度に女性活躍の模範となる個人を表彰する「いしかわ男女共同参画特別功労賞」を創設しました。その第1号として弊社創業者の故浅野邦子※1が選ばれました。2023年3月30日に石川県知事室にて表彰式があり、馳浩石川県知事と懇談させていただきました。その内容を要約してお伝えします。

石川県知事室で行われた授賞式の様子

馳浩石川県知事(以下:馳知事)
浅野(邦子)さんに最後にお会いしたのは、今年の1月18日でした。あれが最後の外出だったかと思います。偶然に同じホテルで会合があって、あいさつをさせていただきました。

浅野達也(以下:浅野)
ありがとうございます。あの頃にはすでに、体調はかなり悪かったのですが、自分が作った金澤レディース経政会※2が気にかかっていたのでしょう。じっとしていられなかったようです。

馳知事
ややしんどそうには見えましたが、非常にしっかりしておられました。きちんとみんなにも挨拶をされていて、立派だと思いました。

浅野
点滴を打ちながらの出席でした。執念に近いようなものがあったかもしれません。

馳知事
浅野さんは、なにかと心配性でしたね。
いろんなことを気にかけては、心配ばかりしている方でした。

知事室にて

浅野
あの頃にはもう、人生の終わりが近いことを悟っていましたから。残された時間で、想いを託していきたかったのだと思います。

馳知事
浅野さんが作った金澤レディース経政会は、女性が勉強をする、自己研鑽をするというところに特徴があった。社交や社会貢献というよりも、より実践的でした。女性が自分のネットワークを持ち、またスキルを磨き、社会に対して具体的に貢献していくことを一生懸命に考えておられた。

浅野
勉強熱心でした。
女性の社会進出のためには、社会を変えていく必要もありますが、同時に女性たち自身も変わらないといけない。そう考えていたようです。(浅野)会長の考えには、二面性がありました。社会で自立する女性と、子を産み愛情をもって育てる女性です。その両面を併せ持つことで、女性の価値がより上がっていくと考えていたようです。彼女自身が、母親であり、起業家でしたから。

馳知事
社会での役割と家庭での役割、そのどちらもしっかりする。なに事にも妥協しない厳しさを持っていたのも浅野さんらしさです。人を叱る時にも、本当にその人に変わってもらおうと、真剣でしたね。

浅野
真摯で一途な人でした。

馳知事
知事選※3の前に、会合で浅野さんにお会いすることがありました。「男女共同参画と言いながら、あまり進んでいないのではないか。もっとやるべきだ」とご指摘をいただきました。「議論ばかりしていてもだめで、まず行政が率先して実践しなければいけない。政策の意思決定の場に、もっと女性を参加させるべきだ」とも。ご意見はとても刺激となりました。知事選での公約で、副知事を女性にすることを掲げましたが、これは浅野さんの影響が大きかった。

浅野
選挙となると、我々が力になれることはあまりありませんが、それでも会長は馳さんの事を気にしていました。あの時は大変な接戦で、開票結果が出るのに深夜までかかりましたが、ずっと起きて待っていました。

馳知事
社会を変えるためには、政治がしっかりするべきだといつもおっしゃられていました。選挙に勝つことが目的ではいけない、勝って社会をどう変えたいかが大事なのだと。その言葉は、いまも肝に銘じていますよ。

浅野
会長は実践にこだわる方でした。とりわけ女性の活躍については、会長は自ら実行してきました。私が子供の頃には、まだ自分で商品を作っていました。食事をしている横で箔を貼っている姿を覚えています。その頃から、仕事と家庭の両立に取り組んでいました。

馳知事
そんな時代もありましたか。
自分が苦労してきたからこそ、周囲にもよく叱咤激励をしていましたね。女性だから認められるとか、女性だから許されるという考えはなかった。チャレンジするからこそ、チャンスがある。挑戦する女性を後押しし、それが認められる社会をつくることを真剣に考えていた。

浅野
私たちの会社では、創業当時から女性がたくさん活躍しています。いまも、当社のものづくりの主力は女性です。女性の社会進出が課題となるずっと前から、女性が働くということを個人としても経営者としても実践してきました。社会貢献だけではありません。女性だからこそわかることがあるし、女性ならではの感性やこまやかな気配りというものもある。それは、きちんと業績にも結び付いています。

馳知事
そうした経験を社会に伝えていくのも、浅野さんは自分の責任だと感じていたようです。彼女は、自らの考えをきちんと言葉にしてすることができた。その言葉は常に的確だったし、言うべきことをはっきりと口にしていた。摩擦をいとわず、耳が痛いことも遠慮なく言える人だった。

浅野
正義感が強かったですし、曲がらない人でした。

馳知事
浅野さんが経団連※4で活躍されていたころ、私もちょうど国会にいました。経団連の役員の方々にお会いすると「金沢の浅野さんを知っているか。彼女は素晴らしい人だ」とうわさになっていました。誰に対してもはっきりとものを言うから、ものすごく好かれた。日本経済界の重鎮たちが、浅野さんのファンになっていた。

浅野
会長を抜擢していただいた榊原経団連会長※5の慧眼だと思います。本当に感謝しています。

馳知事
浅野さんは地域再生、女性活躍、中小企業経営、そして起業家という面を持っています。当時の日本の課題を一人で解決していくような女性でした。この賞は「いしかわ男女共同参画特別功労賞」です。5年に1回くらいそれを引き継ぐ人、表彰する人が出てきてほしい。次回からはもっとわかりやすく「浅野邦子賞」と名前を変えてもいいかもしれません。

浅野
それは、大変に光栄なことです。
私の目からみた会長は、純粋にものづくりが好きな人だったようにも思います。ひたむきに妥協なくものづくりに取り組んできたことが、結果としてこのような賞をいただくことにつながりました。

馳知事
そうした意味でも、浅野さんの志を継いでいくなら、新しいものづくりに取り組むことが大事ですね。同じ商品を作り続けることではなく、新しいものをつくり、過去の実績を乗り越えていく。それが浅野イズムを継ぐことではないかと思います。

浅野
新しいことにチャレンジすることは、伝統文化を残していくことにもつながります。補助金などに守られて残っていくのではなく、産業として独り立ちすることで残していくという考えも、会長がいつも話されていたことです。

馳知事
残すという意味では、金沢箔の業界には、伝統的製法である縁付と現代的な断切の二つの技法※6がありますね。

浅野
現在では、ほとんどが断切となりました。縁付が少なくなってきたのは、生産効率のことだけではなく、断切の技術革新が進み品質面でも遜色ないものができるようになったからです。

馳知事
ただし文化として保護しているのは縁付のほうですよね。その意味付けも考えなければならない。

浅野
私は全体のバランスだと思っています。縁付は、金沢箔の象徴として大切なものですが、産業として広がりがあるのは断切です。効率的な生産方法である断切を伸ばすことで利益が上がれば、縁付を守ることもできます。伝統的な製法を守ることは金沢箔のブランド価値を高め、市場拡大にもつながるでしょう。戦略を持つことが大切だと思います。

馳知事
金沢箔の業界も、浅野さんの意思を継いで、どんどん変わっていってほしいと思います。達也さんの時代になって、さらに発展するよう頑張ってください。

浅野
会長の想いをしっかり引き継いで、頑張りたいと思います。
本日は本当に、ありがとうございました。

注釈
※1
浅野邦子(あさのくにこ)
1946年10月28日京都市生まれ。1967年に金沢で製箔業を営む家に嫁ぎ、オイルショックで不況の中、実家を助けたいと金沢箔工芸品を製造販売する「箔一」を創業。業界初の金箔打紙製法のあぶらとり紙や料理用金箔を開発するなど、金沢箔の用途を大きく広げ、地域文化の発展にも貢献した。2009年からは箔一会長、2016年からは経団連審議員会の副議長に就任。2018年には旭日単光章を受章。2023年2月永眠。

※2
金澤レディース経政会
一般社団法人 金澤レディース経政会。北陸三県の女性指導者・有識者・女性指導者を志す者の集まりで、政治、経済、経営、社会、文化などに関する諸問題を研究し会員相互の資質の向上を図り、事業と活動を通じて社会に貢献することを柱に女性起業家の相談、支援、育成することを大きな目的としております(引用:金澤レディース経政会ホームページより)。

※3
石川県知事選(2022年3月)
7期28年在任した谷本正憲前石川県知事の後継を争う選挙。馳氏を含む有力候補が立ち並び三つ巴の激戦となった。深夜に及ぶ開票の結果7982票差の接戦で馳氏が当選した。

※4
経団連
一般社団法人 日本経済団体連合会。浅野邦子は2016年に経団連会長の諮問機関である審議員会の副議長に就任。経団連役員に女性が就くのは歴代で二人目、地方に本社を置く中小企業経営者では初めて。

※5
榊原経団連会長
榊原定征氏。2014年から2017年まで経団連の会長を務める。現在は、日本野球機構の会長及びコミッショナー。
参考記事(2016年12月21日:日経新聞、交遊抄)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO10884920Q6A221C1BC8000/

※6
縁付と断切
製箔に箔打ち紙を用いる打ち方を「縁付(えんつけ)」、グラシン紙を用いる打ち方を「断切(たちきり)」と呼ぶ。打ちあがった箔を一枚ずつ切り揃える縁付に対し、断切は1000枚単位で裁断できるため生産効率が高い。また、和紙から作る箔打ち紙は生産に半年かかり数が少なく高価であるが、断切に用いるグラシン紙は量産でき供給も安定する。
参考記事(箔一オフィシャルサイト:金箔の製造工程)
https://www.hakuichi.co.jp/goldleaf/flow.php


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