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SS『informant girl』

「そう言えば御存じかしら?」
「ん? 何か面白いことでも?」
多くの人は気にもかけないだろうが、とあるホテルの、広い庭園が見えるロビーの待合スペースでは奇妙な光景があった。
ロリータ服に身を包んだ、西洋人形のような出で立ちの娘がスーツ姿の老紳士と茶を飲んでいる。
親子というにはどこかよそよそしく、陰のありそうな雰囲気があるような、ないような……
もう少しあの2人の関係を少し深く推察するならば、
『援助交際』『パパ活』といった、やっぱり不健全なものが想起されるが、しかしそれに相反してそう言ったものとは無縁そうな上品さがあった。
「一週間以内にお隣のお店、団体客が入るんですって」
「……ほぅ、その話どこで?」
「内緒です。私友達思いなので」
悪戯っぽく娘は笑ってミントティーに口をつける。
「まぁ確かに、あの店最近盛況だったからね。そりゃあ、団体客も入るだろう」
「業務提携を考えておられたようですが、それどころじゃなくなるでしょう。一度経営方針を改めた方が良いかと」
お見通しか、と老紳士が苦笑いする。
『その話は誰から聞いたんだ?』
と問おうとしたが、『友達思い』の彼女のこと、言うはずがないと口を噤み。席を立った。
「面白い話をありがとう、お嬢さん。『キャンディー』はいつもの場所に送っておこう」
「でしたらおじさま、もう2つ……いえ、3つほどおねだりしてもよろしくて?」
「おや、さっきの話のぶんかい?」
「えぇ、私友達思いですけど、欲張りでもありますから」
含みがありながら無邪気にも見える笑顔でそう言われて、老紳士は『No』と口に出来ない。
が、しかし、それでも何も素直にそれに応じる以外にもお返しの仕様があることを老紳士は知っていた。
老紳士は再度席につく。
「ではお返しに、私も1つお話をしてもいいかな?」
「あら、面白そう」

「一部の人しか知らないがね。今度私、2週間ほど出張で中国に行くんだ。都市部に新しくオフィスを構えるために、不動産会社を回る予定でね。とはいえ、仕事ばかりでは流石に遠出の甲斐がないから、万里の長城か始皇帝陵でも見ていこうかと思っているよ。戻ってきたら、お土産と共に向こうの写真も見せよう」
「そうでしたか……私は行ったことはありませんが、お友達が1人向こうにおります。折角ですから、案内役にいかがですか?」
「いや、それはこちらで用立てたよ。だがそうだね。お嬢さんのお友達なら私も会ってみたい。美味しい飲茶の店とかあったら教わりたいからね……今回は難しいだろうが、恐らく年内にもう2,3回行くことになるだろうから、その際にお友達の元に赴こう」
「そう……ならば次に行く際はお声がけください」
そう言うと彼女は、ホテルのフロントにかけられた時計を確認し、ティーカップに残ったミントティーを一口に飲み干した。
「この後遊ぶ約束がありますので、私はこの辺りで失礼いたします。おじさま、良い旅を」
「あぁ、ありがとう。楽しかったよ」
「あと、おねだりのことですが、今回は我慢しますわ」

娘がホテルのロビーから立ち去った後、老紳士は胸ポケットに入れていたスマートフォンを取り出して、どこかへと連絡を入れた。
「若様、緊急で申し訳ありませんが、八代組との盃の申し入れ、中止にしてください。一週間以内に警察のガサが入ります」









※最近気が付いたら「悪の組織の情報屋ごっこ」という遊びの祖になっていました。なので、それにちなんで短いながらSSをしたためてみましたが如何だったでしょうか?
余裕とアイデアがあればいろいろと展開を考えてみようと思います。


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