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ジャミロクワイ54歳

ちょっと忙しいのでジャミロクワイについていささか早口気味に語ることにする。

わたしがジャミロクワイと出会ったのは25歳のときだ。わたしの25歳といえば人生でゴホンといえば龍角散、と言われるほどの暗黒期。月曜から翌々週の木曜まで六本木の事務所に泊まり込み、月給は11万円。ボスはずっぽりハマったフィリピーナと連日連夜のご乱行。全ての仕事をひとりで回す涙涙の物語であった。

そんなある日。

彼女と暮らすアパートに10日ぶりに帰ったら、コタツの上に一枚のCDが置かれていた。白地になんだか不気味な人形のシルエット。ユニークな書体で描かれたロゴ。

それがジャミロクワイの1stアルバムだった。

音楽神、降臨

一聴して、宇宙を感じた。1968年生まれの男子はみなそうだと思うが、とにかく宇宙や未来に弱い。YMOのピコピコサウンドなんて聴いてるだけで涎が出てくる。人力では演奏不可能なフレーズにたまらなく惹かれていた。

そんなわたしがYMO以来、実に10年ぶりに宇宙を感じたのがジャミロクワイの1stである。

リリースから30年が経ったがこのアルバムからはいまだ捨て曲がひとつもない。全曲名曲。先行シングルの『When You Gonna Learn』のスリーブには「音楽神。」というキャッチコピーが付けられているのだがまさしくであった。

特に『Hooked Up』の緊張感あふれるアウトロから一転する『If I Like It, I Do It』の爽快なイントロ。次作『The Return of the Space Cowboy』の世界観を先取りするかのような『Blow Your Mind』の浮遊感。10分にも及ぶ大作『Revolution 1993』から連なるディジュリドゥサウンド『Didgin' Out』は太古の香りが逆に未来との円環、つまり遠く時の輪の繋がるところを連想させる。ここ特に早口。

ちょっと忙しいのでこれぐらいにしておくが、とにかくまあ、語りはじめると個人的なサイドストーリーまで発展してしまい、いま抱えているすべての原稿の締め切り日を超えてしまうのでこれぐらいにしておこう。


ちょっと忙しいので早速、次の作品に言及しようかと思う。早口で。

ジャミロクワイ全キャリアの中で間違いなく最高傑作と太鼓判を押せるのが2ndアルバムの『The Return of the Space Cowboy』だ。よくあるアンケートの「無人島に一枚だけレコードを持っていけるとしたら?」という質問に答えるとしたらこれ一択である。

アレをキメて聴くと最高(って友達が

ある意味、ジャミロクワイがのびのびと、本当に自分の作りたいアルバムを作ったのはこの2ndと次の3枚目までじゃないだろうか。あるいはジェイ・ケイが好きな世界とわたしが好きな世界がシンクロしたのが3rdまでだった、というほうが正しいかもしれない。

それはそれとして、この『The Return of the Space Cowboy』。アルバムタイトルからして奮っている。スペースカウボーイの逆襲、とはなんとも1968年男子心に刺さる。

何がそんなに刺さるのか。

わたしたちにとって「The Return of the」とはウィークエンダーの再現フィルムよりも熱心に見入ったあの『スターウォーズ』シリーズ第3作「ジェダイの復讐(のちに「帰還」に改題)」で目にした英語なのだ。

幼なSF心にコッテリ刷り込まれたフレーズは復讐だろうが帰還だろうが逆襲だろうがどうでもいい。もうそれだけで宇宙へ連れていってくれる夢が見られるのである。

しかもスペースカウボーイときた。タイトルだけでも満点なのに、全11曲を貫くスペイシーな世界観。もちろん捨て曲なんてない。

1曲ずつ語りはじめると全ての締め切り日を超えるのは間違いないので非常に残念ではあるがここではアルバムタイトル曲『Space Cowboy』についてだけ語らせてほしい。

この『Space Cowboy』を語る時、最高としか言葉を持っていないことをわたしは心から悔やむ。しかし仕方がない。最高は所詮どのように言葉をいじったところで最高なのだ。

特に全人類に聴いていただきたいのがベースとドラム(特にハイハット)のコンビネーションの妙である。

必聴ポイントはジャスト3:00〜3:05だ。ベースのシンコペーションを16→32で追いかけるハイハット。アクセントの移動が正確無比。滑らかすぎるチェンジアップ。これはヤバい。何万回聴いてもチキンスキンである。いま聴きながらちょっと泣けた。

もちろんトビー・スミスのフェンダーローズもたまらなく宇宙を感じさせる。消え入りそうなリフレインから一転、アウトロに向かって高揚感を駆り立ててくれるのはアープだろうか。いずれにしても70年代のシンセサウンドを90年代に持ってくるところがセンスの塊だ。

ちなみにここで絶賛している『Space Cowboy』はアルバムバージョンである。シングルカットやその他のミックスはまるで別ものであり、何の輝きも放っていない。

何が違うのか。

わたしはずっとこのアルバムのベースはオリジナルメンバーのスチュアート・ゼンダーが全曲担当しているものとばかり思っていた。しかしそれはどうやら事実ではない。

アルバム版の『Space Cowboy』はゼンダーのベースに満足できなかったジェイがゼンダー不在時(彼女と旅行に行ってしまった)に別のベーシストを起用して録音しなおしたのである。

だからあの奇跡のコンビネーションはドラマーのデリック・マッケンジーとMr.X(アルバムクレジット)の一回限りのセッションなのだ。

そしてこの頃からゼンダーとジェイの間にはすき間風が吹きはじめていたのである。

この事実を知るまで君こそ世界一のファンキーベーシストだと思っていたさ

そしてこのアルバムから参加したデリック・マッケンジーは現時点で残っている唯一のメンバーでもある。彼はドラマーとしてのみならず優しく素晴らしい人格者であり、ジェイからの厚い信頼を獲得している。もちろんわたしも尊敬し、日に3度の礼拝を欠かしていない。

ちょっと忙しいのでこれぐらいにしなければ。


いい加減忙しいので最後に3rdアルバムを紹介してこのnoteを終わりたい。早口で。

2ndアルバムから2年後の1993年に発売された『Travelling Without Moving』は全世界で820万枚売れた最大のヒットアルバムである。最も売れたファンクアルバムとしてギネスブックにも登録されている。

フェラーリのロゴを使うのに多額の使用料を払った

この頃わたしはコピーライターの職を離れ、西池袋の居酒屋の店長をやっていた。しかし職業がどれだけドラスティックに変わろうとも、ジャミロクワイの輝きは不変であった。

『Travelling Without Moving』といえば大ヒットシングル「Virtual Insanity」を思い浮かべるファンは少なくないだろう。ファンでなくとも床が動く印象的なプロモーションビデオを見たことがある、という人は国内に多数存在するはずだ。

しかしわたしが強力に推すナンバーはそれではない。わたしはこのアルバムの中では「Travelling Without Moving」そしてそれに続く「You Are My Love」を猛プッシュ、超レコメンドするものである。

さらにもう一曲、ドラムンベースに意欲的に取り組んだボーナストラック「Do You Know Where You're Coming From」も忘れてはいけない。

「Travelling Without Moving」はジェイ・ケイの愛車であるランボルギーニ ディアブロのエンジン音から始まるファンキーナンバー。問題児スチュアート・ゼンダーのベースが光る名曲である。このベースラインは一度でもベースを弾いたことがある方なら必ずコピーしたくなるはず。しかも根性でなんとかなるので、まだの方はぜひ。

「You Are My Love」と「Do You Know Where You're Coming From」は秋の夜、城ヶ島あたりにドライブに行く時カーステから流れてると最高にテンションが上がるだろう。事実、当時のわたしがそうであった。いま調べたらリリースが1996年8月26日とある。当時は今と違い9月も半ばになれば涼しく立派な秋だったはずだ。

当然のことながらこのアルバムにも捨て曲は存在しない。

しかし、悲しいかな、3年後にリリースされる次のアルバムから、少しずつ捨て曲が顔を出すようになる。ベースがスチュアート・ゼンダーからニック・ファイフに代わり(ニック・ファイフは悪くない。むしろグッドガイである)さらに2002年にはキーボードのトビー・スミスが脱退。

わたしの好きなジャミロクワイサウンドは、5作目を最後に雲散霧消したのである。もうどこを探しても「宇宙」も「未来」もない。6年前にリリースされた「Automaton」には少し期待したが、残念ながらおっさんの描く未来だった。

それもそのはず、ジャミロクワイことジェイ・ケイも今年で54歳。わたしの一個下という立派なおっさんである。少し前は腰をいわして来日を断念したこともあるぐらいだ。

仕方がないのである。寄る年波には勝てないのである。わたしだって老眼で、スマホを見るのも億劫なぐらいだ。

「ミュージシャン、その輝きは3枚目まで」というわたしの打ち立てた独自の法則は、ここでまたも証明されることになるのである。

いい加減忙しいので、ジャミロクワイとの旅をこの辺りで終えようと思う。

Virtual Insanity is what we're living in
Yeah, it is alright


と、いうことでちょっとばかり忙しいのでいろいろ調べたり仕込んだりする必要のない、自分の持ってる知識だけで一丁上がりにできそうなコタツ記事を書いてみました。早口で。

とはいえいくらなんでもリリース年数とかは記憶が曖昧なので、少しだけwikipedia先生のお力を借りたんですけど、すごい偶然を発見しました。

ジャミロクワイのデビュー、つまりファーストシングルがリリースされたのは1992年の10月19日なんですが、この10月19日は不肖わたくしハヤカワヒロミチの生まれた日なのです。

なんというSynkronized!

そしてジャミロクワイの4枚目のアルバム『Synkronized』を取り上げなかったことにもなんらかの偶然性を感じずにはいられません。
ということで『Synkronized』について語りたいのですが、しかし、ちょっと忙しいので今回はこの辺で。

さいなら、さいなら、さいなら

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