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【感想】ゴールデンスランバー/伊坂幸太郎

終末のフール』の感想文を書いたあとに、『ゴールデンスランバー』を読みました。今回はその感想NOTEです。まだ読んでいない方はご注意ください。

感じたというより印象に残った点を列挙すると以下の通りになります。

1.謎のビートルズ推し

私がビートルズに全く興味が無いのが本当に致命傷でした。正直なところ、読んでいる途中で曲名がタイトルになっていることを初めて知ったくらいです。タイトルにするほど作者には思い入れがあったはずですが、本文中に繰り返される謎の英語の歌詞の意味も全然分からなかったので、その度に頭が真っ白となり、読み飛ばすほかありませんでした。結果的には、内容とは余り関係ない感じだったので安心しましたけれど、ビートルズファンと伊坂さんファンにとっては最高だったに違いありませんね。

2.作中のメディア・警察の日常

作中における権力の象徴はテレビメディアと警察でした。両者とも「こいつが犯罪者だ!」と決めつけたら真実などどうでもいいという感じに思えてしまうほどです。警察は、無実の人間であっても平然と武力行使しますし、テレビは面白ければ何でもよく、何ら権力も財力も持たない一般人など、視聴率のタネ程度にしか考えていません。だからこそ、迷惑であることを顧みず、家族の元へ、過去の交友関係者の元へ、会社の元へと突撃取材しにいきます。

一方、大物の政治家や財界人といった力を持った人物の場合は、いくら真実であり、社会正義のための行動や主張をしていたしても、テレビにとって都合が悪いと判断されれば、持っている弱みを全国の視聴者に発信して悪いイメージを植え付けることなど平然とやります。「世の中は黒と言ってても、俺たちテレビが白と言えば白なんだ」という感じで電波を私物化して喧伝する行為を既得権益と言わずして何というのでしょうか。そう考えると、テレビは最強権力者と言えますし、作中に登場する偏向報道は現実世界のそれとさほど変わらない気がしました。

3.物語の畳まなさ

本書の最後に作者へのインタビュアーの言葉が記載されているのですが、読了後に読んだそこが本の中で一番面白かった部分です。小説の話の膨らみを横軸、時間軸を縦軸にとると、ダイヤの形(♦)のように真ん中あたりは風呂敷が広がってとても楽しいです。しかし、物語が収束に向かうにつれて、その広がりが段々と萎んでいきます。致し方ないこととはいえ、物語の終わりが近づいてくる寂しさのようなものは確かにあります。

物語の畳まなさは、昨日の『星の王子さま』考察エッセイでも書いたように、肝心な部分はボカしたり、撒いた伏線を未回収にしたりして表現し、そこをどう解釈するかは読者にぶん投げ・・・ではなく委ねておくと、想像によってあらゆる展開を思い浮かべることができるので、そこを余白の美として味わえば楽しみが増えるので見方によっては良いことではないかと思うわけです。

4.めんつゆのような三浦

登場人物の1人、三浦については書かずにはいられません。物語は青春(正しくは青柳)さんを軸にして進行していくのですが、三浦は彼と関わってしまったことが運の尽きで、不幸(?)な結末を迎えてしまいました。キャラクター設定からすると、青春さんが始末されて話が進むのが自然な成り行きであるのにも関わらず、作者はとんでもない主人公補正をかけて全く別の展開へと向かわせました。

私としては、それで今まで積み上げてきたリアリティが少し薄くなってしまったと感じたのでもったいないなと思いましたし、三浦は陰に隠れた悲劇の主人公だという印象が強く残りました。物語を成立させるために投入され、無残にも処理されてしまった三浦は作者にとって本当に都合の良いキャラクターだったでしょう。その扱いたるや、万能調味料めんつゆのようです。別に形容の仕方はマヨネーズでも塩レモンでも何でも良かったんですけどね。

ひとたびキャラクターの謎が明らかにされると、読者の興味は別の物事や人へと向かいます。正体が明かされ、主人公に対する役目を終えた途端、舞台からフェードアウトさせるというのは創作する上ではよくある手法です。切り札として取っておいた必殺技を披露した敵が主人公にぶっ倒される少年漫画のように、余りにも忠実だったので思わず笑ってしまいました。

もっと悲惨だったのは理由もなくフェードアウトさせられた首相や青春さんの関係者でしょう。大役を果たした三浦には、私の五指に入るほど歌詞が好きな曲 Kotonoha/MintJam を贈りたいと思います。

5.おすすめです

本書は五部構成なのですが、第四部を読んでいる間は「この話どこまで続くの?この少ないページ数でどうやって〆るの?」と思っていましたが、案の定広げられた風呂敷が急に畳まれます。後書きを読めば、物語の畳まなさが伊坂さんの作品の特長であることが分かり、「なるほど、こういう作風もあるのか……」と思い知らされました。私は伊坂作品の読者としては初心者だったので、この後も続くはずの物語を途中でぶった切ったように見えてました。構想があるのならこれの続きも読みたいなと思ったので、おすすめです。映画化もされているようですし、エンタテインメントとしては良いと思いますね。

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