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【詰将棋】無駄合について

詰将棋19.03.17.

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答え
▲5三飛  ▽4一玉A ▲4二歩  ▽3一玉
▲3四香B ▽3二歩  ▲同香成  ▽同 玉
▲4三飛成 ▽2一玉  ▲2二歩  ▽1一玉
▲1二歩  ▽同 玉  ▲1四香C ▽2二玉
▲1三香成 ▽1一玉  ▲1二歩  ▽2一玉
▲2三龍  ▽3一玉  ▲2二龍  まで23手詰

A:対称形のため▽6一玉なら以降の手順も左右反転
B:▲3五香~▲3九香の以遠打も可
C:▲1五香~▲1九香の以遠打も可

詰将棋界では集団美感に合わせないとハブられる

長い時間をかけ、詰将棋界の著名な作者と解く人達によって、より多くの人が「こういうのが美しい詰将棋だよね」と感じる集団的な美感(集団美感)が築き上げられてきた。その代表ともいえる事項の一つが手順中に必ず好手を含めることだろう。好手が入れば、手順全体に抑揚が入り、作品として引き締まるからだ。これについては作品を評価する一種の基準としてとても有用だと思う。しかしながら、それを絶対的な基準であるかのように捉える傾向が個人的には面白くない、と不満に感じていた。

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私のイメージでは、全詰将棋を好手の有無で分類するとしたら、図のように圧倒的に無好手作品が多いと感じている。そして、詰将棋を作っている人々のほとんどは赤いエリアの中、好手を含む作品群でその腕を競い合っている。何となくマーケットのレッドオーシャンを想起させる。

自分がこの図を見て興味を持ったのは、世間的に上手い詰将棋を作ることではなく、詰将棋界が見向きもしない無好手作品群を探せば、良い作品(好作)や面白い趣向の作品が見つかるのではないか?ということだった。はじめてみると、競争相手がほとんどいないうえに、手つかずのブルーオーシャンを一人で遊びまわることができた。そして、たまに下図のような個人的に好作と感じる無好手作品を見つけ出しては発表していた。

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実のところ、私は無好手作品を軽く見られたくない。が、集団美感に反するこの思想を詰将棋界が許すはずがなかった。案の定、そんな作品を発表し続けた結果、プロ棋士窪田七段のツイッターアカウントから「解図意欲が湧く者は限られている」という指摘と「レベル設定が詐術的である」というこちらとしては対応のしようがない中傷に近い難癖を受けるまでに至った。

スマホアプリ(スマホ詰パラ)のコメント欄にではなく、全く無関係なツイッターまで追跡して言ってくるということは、余程気に食わなかったのだろう。私なら読んで気に食わなかった本の著者や、見て気分を害した絵の作者のツイッターに直接文句を言いに行くようなことはしない(素晴らしいという感想を伝えるというなら別だ)が、世の中には色々な人がいる、ということだ。

このことをきっかけとして、自分はスマホ詰パラから身を引くことにした。今では、詰将棋投稿サイトではないNOTEで細々と無好手作品の創作・探索を続けている(冒頭の詰将棋はそのうちの1つ、最初の図で王と玉しか配置されていない双裸玉と呼ばれるもの)。

無駄合について(素人の解釈)

無好手作品、有好手作品に関わらず、詰将棋を作るうえで避けて通れないのが無駄合についての規則だ。無駄合とは、王手をかけられた側(玉方)が合駒を使ってそれを防いだ時に、それが詰みを逃れることに寄与したのかどうかを判断する概念だ。下図に我流の無駄合分類法を示す(間違いがあるかもしれないが、ざっくりとしたものなので許してほしい)。合駒は、まず図の上段に示すように有効合と無効合とに分かれる。

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①無効合――無効合(別名:狭義無駄合)とは、感覚的に言うと無駄合の中で無駄の度合い(無駄度)が100%のものであり、図の赤文字で書いたように最善手順と変化手順が変わらず、詰み手順(分岐)が増えない合駒を言う。これを認めてしまうと手順が一つに定まらないため、無効合は玉方の応手から除外するのが創作する上での基本ルールとなっている。

②有効合――次に有効合だが、有効合は図の中下段に示すように非無駄合広義無駄合とに分類される。非無駄合とは、玉方が詰みを回避できる合駒のことであり、無駄合としての無駄度は0%となる。

問題になっているのは、この無効合と非無駄合との間に挟まれた広義無駄合(0%<無駄度<100%)のエリアについての解釈の仕方だ。このエリアでは、個々の創作者が独自の線引きを持っていて「この考え方が正しい」という統一案は今のところない。自分の線引きは言うと、図中の下段青線で示したように広義無駄合も無駄合の一種として取り扱っている。

③広義無駄合――有効合なのに無駄合(?)と分類するのは文言上矛盾しているようだが、それには理由がある。最初に合駒を有効合か無効合かで分けたことによって引き起こされる混乱のためだ。分類の仕方をもう一度下に記そう。

第一のふるい:【有効合or無効合】→有効合の場合、第二のふるいにかける
第二のふるい:【非無駄合or広義無駄合

特殊な場合を除き、無効合でも非無駄合でもない合駒は広義無駄合に分類してしまう。広義無駄合は別に、有効合かつ無駄合という言い方もある。個人的な広義無駄合の定義は次のようなものだ。合駒をして取られるという2手だけが入り、その後、その合駒を使わずに作為(最善手順)通りに詰ませられるなら合駒は広義無駄合となり、玉方の応手から除外するというものだ。それくらいの認識でも充分通じる。

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例えば①図を結論から言えば
   無効合のみ   を無駄合とみなす場合 : 作品として不成立
 無効合+広義無駄合 を無駄合とみなす場合 : 作品として成立
こうなる理由を下に記していく。

①の状態からは▲3三角(▲4四角~▲9九角の以遠打も可)までの1手詰だ。厳密には、最終手余詰のある1手詰は作品としては認められないし、例がイマイチ良くないのだが、このことはこの際置いておこう。

2二に合駒を打って受ければ詰みは▲同桂成までだが、▽2二金と移動すると▲同桂成に加えて▲同角成とする詰み(分岐)が1つ増えているため、この場合は有効合と判断する(移動合や捨合で玉の逃れるスペースが増える時、有効合となるケースが多い)。このような一見抵抗しているようには見えない合駒でも、それが有効合になることはままある。創作初心者としては、未だにこの感覚に違和感を覚えることが多い。そして、勘違いすることが多い。

とはいえ、▽2二金は単に取られるだけの駒だ。受けになっていないのは明らかであり、無駄合だと容易に判断できる。これらをトータルして、▽2二金は広義無駄合(有効合かつ無駄合)となり、玉方の応手から除外しようと考えているわけだ。もし、広義無駄合を無駄合として扱わなければ、こういった収束を持つ詰将棋群はすべて作品として成立しなくなってしまうことになる。

ちなみに、詰将棋を作る人の中には(無駄合として)無効合しか認めない人もいるらしく、そうするとこれまで世に発表されてきた作品が作品として認められなくなるという事態が発生する。その条件に見合う作品数はとても少ない。そのため、現在では「たとえ広義無駄合があっても妥協して作品として認めましょう」と考える人が多く、暗黙の了解になっているようだ。

合駒の特殊例

合駒の中には「これはどう分類すればいいんだ?」という判別しにくいものがたくさん存在しており、それらは個々の判断に委ねられている状況だ。例えば、下の飛車のエレベーターがそうだ。

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まず、①図から▲2五歩と突く。その後、【②図▽2六合、③図▲同飛、④図▽2八合、そして同飛】のループが延々と繰り返され、合駒を全部吐き出した状態が⑤図、そして最後に▽2八銀成▲同角(⑥図)までで61手詰となる。詰み手順は合駒の打つ順番に関係せず、最初から最後まで玉方の応手は無駄合のように思えるが、その場合「初手の▲2五歩で詰み上がりと言えるか?」と問われると、返答に詰まってしまう。

この例は特殊だが、創作者はこういう感じに無闇に回答者の混乱を招くような合駒の図にならないように配慮している状況が続いている。そのため、今は合駒をより明確に細分化できる第三や第四のふるい、あるいは全く新しい分類方法が求められていると言えるだろう。

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