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【感想】終末のフール/伊坂幸太郎

小惑星が地球に衝突して人類、文明が終わりを迎える――はじめはありふれた設定だな、という印象だった。そう感じたのは2016年公開の「君の名は。」を見たせいでもあるし、他のSF映画でエイリアンが地球を滅亡させにやってくるという類の作品を目にした影響があるからだろう。でも、その内容は地球や町のピンチを救うというものとは少し違っていた。

ざっくりと内容を一言でまとめると「残された時間(余命)をどう使うか?」という感じだろうか。それぞれの登場人物が、それぞれの時間をどう過ごしていくかをオムニバス形式で淡々と綴っている。中には、違う話同士に接点がある描写もいくつかある。読み進めていくうちに「あなたが彼らと同じような状況になったら、どのように過ごしますか?」と作者に問いかけられているように感じられた。私の感覚では、小惑星の衝突というスケールの大きさのせいなのか、リアリティーはとても希薄だった。また、何年も前から終末が訪れると分かるや否や、世界は暴動や略奪、殺人が続き、次第に人は狂気疲れを起こしてまた平静に戻るという描写に対してもピンとはこなかった。

ところが先週、その考えを改めなくてはいけないニュースが飛び込んできた。小惑星「2019 OK」が地球の目と鼻の先のところまで接近していたことが報道されたのだ。最接近したその距離は、地球と月の間のおよそ五分の一。2019 OK の直径は約130メートルだから、建物で言うと京都タワーと同じくらいの大きさと言ったところだろうか。もし、2019 OK が地球に衝突していたら、ツングースカ大爆発以上の惨劇に見舞われるのは確実で、これは実際に起こり得る現実なのだと思うようになった。

ここで一つ思ったことがある。仮に、2019 OK の超接近が数年前から分かっていて、それがその時点で報道されていたらどうなっていただろうか?おそらく、世界の大半の人々がやってくるかも分からないXデーまで不安に襲われ続けるに違いない。真実を報道するのは良いことかもしれないけれど、世界全体をいたずらに混乱させ、不安を助長させる事柄に関しては別物として扱い、周知は控えるべきだろう。その方が人類にとっては快適に過ごせる時間が長くなって良いと考えられるからだ。

巻末の解説で触れられているように、人は自分が死ぬのだと分かると、まずはその事実を否定し、怒りを周囲にぶつけるという。それら個人個人の不安や怒りがトータルされていけば、いずれは社会混乱へと発展するのは想像に難くない。そして、そのうち助かる道が無くなってどうしようもなくなると、最終的には人は自分の死を受け入れるようになるらしい。諦めと、それに付随する達観が入り混じった結果、そういう感情が引き起こされるのかもしれない。

実のところ、私も過去のエッセイで似たようなことを書いている。死を自身の消滅や恐怖、絶望といったイメージを持って忌み嫌うから、人は死という現実を前に否定したり、怒りをぶち撒けるのだと思う。でも、自分から死を遠ざけようとすればするほど、人は余計に死からの呪縛を心に受けることになる。それに気づいた私は、5歳の頃から続けてきた死に対して恐怖心を持つという死生観を捨てることにした。

「終末のフール」とは違うけれど、「葉っぱのフレディ」はどんな形であれ自分が生きた証を残せたという満足感や実感があれば死は安心をもって迎えられる、と暗に教えてくれた。このような死の捉え方は誰もが「そうだ」と言う答えではないかもしれない。でも、私は心の持ち様としてはとても良い答えだと思っている。

だから、「終末のフール」の「これから余命をどう過ごすか?」というような問いに対して、自分なりの決まった答えは持っていない。他人から見てみっともないと思われる生き方をしていても、今を自分なりに考えて生きているだけで充分立派だ。自分の幸せは自分の価値観から生じるものなのだから、今はそれを自分のペースで追求すれば良い。死の間際に安心するということは、自分がこの世に生まれてきたことやその日まで生きてきた自分自身を認めるという心の働きによるものなのだろう。私は、人生最期の瞬間にこの予想の答え合わせをしてみようと思っている。

( 'ω' ).。oO( 読書感想文の宿題等で拙文をパクらんようにしてね。まぁパクったところで低評価は避けられないでしょう。ところで「終末のフール」は「重力ピエロ」に引き続き読んだ伊坂作品でした。こういう日常ものは自分の守備範囲ではなかったので(本当は冒険活劇が好き)可もなく不可もなくという感じでしたけれど、伊坂作品を好きな人はどこをどう好きなのか興味があります。文脈の相性は良くてサクサク読めましたし。次は「ゴールデンスランバー」でも読んでみようかなと思ってます。

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