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イチロー選手のコトノハ

イチロー選手が現役引退会見を行った。彼の言葉には、深い考慮の上澄みだけを切り取ったような不思議な魅力がある。その中でも私が面白いと思っているものを2つ紹介したい(ちなみに写真は、去年に京セラドームで行われたオールスターのファーストベース)。

そのまま解釈してもいいけど、それがそうだとは限らないよ?

野球って面白いな・・・と思ったのは「偶然に見えるヒットがある」という趣旨の言葉だった。野球の打球の中には、内野手の頭をギリギリ超える小フライや小ライナーによるヒットや、内外野手のちょうど真ん中辺りにポトリと落ちるポテンヒットがある。

見ている側からすると「ラッキーだ」とか「飛んだコースが良かった」と思えるし、実況するアナウンサーや解説者もほぼほぼ似たようなことを言う。確かに、そういうのもあることは認めるけれども、中にはそのような打球を狙って打っている場合もあると彼は語っている。だから、偶然のヒットではなく、必然のヒットであると形容している。

そうなると、意図的に打ったのかどうかは本人にしか分からない。野球に限らず、見たものをそのまま解釈するのは構わないけど、必ずしもそれが正しいとは限らないよ?と気づかされた言葉は私にとってかなりの衝撃であった。

本当に大事なことは言わない、という魅力

会見では「本当のことを答えたら野暮/無粋になる」という言葉をよく耳にした。野球についてどれくらい知識があるのかも分からないような記者が、データや試合で見える部分だけを己の主観に基づいて、その場で思いついたような質問や意図の良く分からない漠然とした質問に終始したことは個人的にとても残念だった。

彼の魅力は、本当に大事なことを言わないことがその根源になっていると私は勝手に思っている。少年漫画で例えるとするなら、その魅力というのはキャラクターの能力や必殺技、奥の手といった秘密に相当する。人は未知なもの・不思議なものに興味を惹かれる。分からないからこそ知りたがるし、あれこれ想像を働かせる。

でも、ひとたびキャラクターに関するすべての秘密が明らかにされてしまえば、見ている側はそのミステリアスに対する答えが定まったことに納得・満足して興味の対象からは段々とフェードアウトしていってしまう。だから、主人公と相対する強敵が全力を出しきる時というのは、負けていなくなることを暗示していることが多い。つまり、ミステリアスな部分が残っている限り、人物やキャラクターへの興味は尽きないということだ。それと似たことが彼の言葉にも言える。

それに、彼には本当のことをそのまま伝えることも、聴いているこちら側が「そうだろうな」と納得するような答えや分かりやすい言葉で本当のことを包み隠すこともできる。だから、聴く側にはそれ相応の知識や理解力が求められるし、実際に彼がプロの記者にそれを求めていると語っていた動画を見たことがある。低レベルな記者が質問をすれば、本当のことの断片すらも語ってはくれないだろう。私が会見での質疑応答で残念に感じた理由はそこにある。

対照的にMLB側の質疑応答の方が受け答えがスムーズで和やかムードだったことを見ると、「なんだかなぁ...」と別の虚しさがわき起こってくる今日この頃なのであった。

「ためになるわ」と感じて頂ければサポートを頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。