見出し画像

未来のスキルを養うための日本文学#3「紫式部とSpark joy主義な生き方」

日本文学から学ぶ「未来のスキル」。川端康成松尾芭蕉に引き続き、今回は「紫式部」から未来のスキルを養いましょう。

「紫式部とspark joy主義な生き方」というタイトルで書かせてもらいますが、「spark joy主義とはいったい…」と思った方がほとんどかと思いますので、説明を軽く行います。

spark joyとは日本語に変換すると「ときめき」と翻訳することができます。実は、spark joy=「ときめき」という言葉は、とある日本人ベストセラー作家の本を、日本語から英語に翻訳したときに生まれたものなんです。

そのベストセラー作家の名前や本のタイトルはご存知の方も多いかと思います。

その人物とは、こんまりさんこと、近藤麻理恵さんです。(以下"こんまりさん"と敬称略)『人生がときめく片付けの魔法』は全米でベストセラーチャート1位になり、こんまりさん自身は、2014年の米国「TIME(タイム)」誌”世界で最も影響力のある100人”に選ばれた、2人の日本人の内の一人です。(もう一人は作家の村上春樹さんです。)

前置きが少し長くなりましたが、そのspark joy (ときめき)主義と、紫式部がどう未来のスキルに結びつくのか。今回は「心理学」の観点を絡めながら綴っていきたいと思います。


なぜ今、心理学がホットなのか

昨今、心理学の学問が非常に人気を集めています。中でも、ポジティブ心理学の人気は非常に大きいです。ポジティブ心理学とは簡単に言うと、マイナス状態の心の状態をプラスにしようとする従来の臨床心理学とは違い、ゼロからプラスにしようという発想で生まれたものです。

辛い状態(-1)から、普通の状態(0)へ→臨床心理学
普通の状態(0)から、幸せな状態(+1)へ→ポジティブ心理学

このようなイメージです。

ポジティブ心理学は、20世紀の終わりに心理学者のマーティン・セリグマンが学問を展開したと言われています。アメリカではこのポジティブ心理学の講義が一番人気になっていたりするそうです。

では、なぜ今ポジティブ心理学が流行しているのか。それはやはりロボット・AI時代による影響が大きいと考えられます。

「自分は何が好きなのか」という誰しもが直面する課題感情に、ロボット・AI時代は焦りをもたらします。たいていのことは、ロボットやAIが台頭してくれるとなると、「自分ができること・やりたいことは何なのか?」と、問いを立てる若者が多くなってきています。

人の感情や心理状態を理解することは、ロボットやAIでは難しいことも大きな理由でしょう。

そうなってくると、自分が何をしているときに「ときめく」のか。これをしたら「ときめく」のではないか、という考え方が非常に重要になってきます。

その「ときめく」という文脈で海外でウケたのがこんまりさんです。こんまりさんは片付けというものにときめき、それを追求することで、様々な人の人生に影響を与えています。

海外では「ときめく」を「Spark Joy」といいますが、「ときめく」「ときめかない」で線引きをするのは、まさに心理学的な基準でのモノの見方だと思います。

AIのようなテクノロジーがどんどん出てきてくる時代、「できる」「できない」の基準で考えるだけでなく、何をしているときに「ときめく」のか、そしてそれは熱中して打ち込めるものなのか。そういった力も必要とされてきます。それが、未来のスキルとして「心理学」がフィーチャーされていることの証になっているのではないでしょうか。


「あはれ」が未来のスキルに必要

「ときめく」ということには、「今の自分がより幸せになるには。楽しむには。」というポジティブ心理学的な見方が重要と述べました。

では、それと紫式部にどのような関係があるのでしょうか。実は、紫式部とこんまりさんは大きな共通点があります。

紫式部といえば、『源氏物語』。源氏物語は「あはれ」の文学と言われていますよね。この「あはれ」と「ときめき」は一緒なんじゃないかと思っています。どう一緒なのか。源氏物語の最初の一節に「桐壺(きりつぼ)」のくだりがありますよね。ここから紐解いていきます。

どんな内容か。ザックリというと、

天皇がときめくほど愛した1人の女性が、周りの嫉妬している女性から嫌がらせを受けます。それで、嫌がらせを受けた女性は引きこもっちゃいます。でも、そのことが裏目にでて、天皇のときめきは半端なく強くなります。何だかんだあって、ときめいた女性との子どもを産んじゃいます。でも、ときめいた女性は嫌がらせからくるストレスの影響で死んでしまいます。天皇はめっちゃ落ち込みます。でも、知り合いから、かつて天皇がときめいた女性と瓜二つの女性の紹介を受けます。もちろん、天皇はまたときめいちゃいます。しかも、結婚しちゃいます。でもでも、不幸なことに、自分が最初にときめいた女性との間に生まれた子供が、今の奥さんにときめいちゃうというお話。

思いっきり、ときめき=spark joyしちゃってますよね。こんまりさんと似ていて、自分のときめいたものに邁進しちゃう天皇の生き方が非常に胸打たれますね。「あはれ」=「ときめき」なのが大体つかめてきましたでしょうか。

よく、紫式部の「あはれ」の文学と対比されるのが、清少納言の『枕草子』の「をかし」の文学です。

『枕草子』の有名な一文に「春はあけぼの。 やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」というものがありますよね。懐かしいですね。

この「春はあけぼの」というのは、いわゆるセットで使われる表現です。「春」の時は、「あけぼの」になるんですね。つまり、IF-THENの関係です。つまり、「をかし」の文学はルールベースなんです。

一方で、『源氏物語』の「あはれ」の文学はルールブレイクベースなんです。

だって、自分のときめいた女性がお父さんの新しい奥さんだけど、ゲットしたいというお話なんですよ。ルール上そんなのダメじゃないですか。でも、「ときめいたからOK」という話なんですよ。

これがspark joy至上主義なんですよね。ときめいたら、やる。これが「あはれ」の世界。

東洋の文学は全般的に、抽象化したモデルによってルールを語るという構造になっています。あくまでも「をかし」の価値観に従って、物事はルールの中で動いていきます。

そこに、ルールを無視して、ルールの外側にある「あはれ」の正解間を作った紫式部というのはすごい人であり、日本文学の一つの特徴といえます。


今この瞬間を生きる力

ときめいたら、やる。そしてそれに没頭するというのは、ポジティブ心理学が推奨する「フロー」のような状態です。

プログラムをしている時に時間を忘れて集中していたり、トレーニングをしている時に時間を忘れていたりすることはよくある話です。

この夢中になる状態の時に、人は幸せを感じるという考え方があります。それがフロー。昨今、世界的に流行しているマインドフルネスも、基本的にはフロー状態に入りやすくするための手段です。(他にもメリットはもちろんあります。)

もちろん「をかし」の考えではフロー状態に入れないと言っているわけではありません。決められたルールの中でもフロー状態に入ることはもちろんできます。

ただ、それだけではなく、『源氏物語』風に、ときめき至上主義でマインドフルに生きる。これが日常生活の中にあることで、より生活が豊かになり、心の滋養となるのではないかと思います。


まとめ

いかがでしたでしょうか。

源氏物語の読み方としてこんな再解釈をしてしまい、ファンからは非難されるかもしれませんが、かつて私自身、国を挙げて恋愛に邁進する退廃的な物語としか思ってませんでした。

なので、今回は『源氏物語』をこういう見方をすると、今の時代に必要なマインドが養われますよ~というメッセージを伝えたかったです。

「あはれ」「ときめき」「Spark Joy」があれば、やりたいこと、夢中になれることを見つけられる。それはAI・ロボット時代に、より個人に必要となるスキルといえると思います。

ついついルールベースで考えてしまう人は、子どもに戻った気持ちでこういった考え方をしてみると、変わった世界観が得られるのではないでしょうか。


次回以降

大伴旅人の「おい、一緒にやろうぜ力」
世阿弥の「人生開花思考」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?