人へ自慢できることだとか

大学4年生の就活期間中、狂ったように履歴書を書いていた。
滑り止め的に受ける企業の志望動機ややりたいことと同じくらい、私を悩ませた質問があった。

『特技』

特技、とは。

・みずから得意とする特別の技能。
・他の者に比べ特に上手で自信のある技芸・技術・能力。

うんうん、なるほどね。

ねえよ、そんなの。

『自分に自信がない』でおなじみのネガティブ人間に、人より自信が持てることや、自慢できることなんてない。
そして、ないものを書くことほど難しいことはない。
志望動機や入社後やりたいことは、会社の色とかを分析すればそれに寄せたことが書ける。
しかし、『特技』の欄は手強い。うっかり嘘を書くと
「実際に披露してください」
「何かエピソードはありますか?」
などという無茶振りが飛んできた時に詰む。特技でホラ吹いたせいで入社試験に落ちるのは、あまりにも惨めだ。
こうなると、無理矢理にでも探すしかない。人より秀でていて、自信のあることを。

ここで『ダメ人間が本当に書いていた特技一覧』をご紹介しようと思う。
もし同じ境遇で困っている人がいたとしたら、先に断っておきたい。
この特技は一切参考にはならない、ただ『私が本当に書いた特技』の羅列だ。フリー素材なのでもちろん使っていただいて何ひとつ問題はないが、とても頭が悪いのでオススメしない。

①コンビニのレジの早打ち
大学2年生から卒業までの3年間、早朝のコンビニでバイトをしていたことを押し出した特技だ。
早朝のコンビニには出勤前・登校前の人々がどっと押し寄せ、皆一様にして目的の電車に乗るために急いでいる。そう、ここでは、愛想よりもスピードと正確さが必要とされるのだ。
あの頃の私は、お客さんにキレられないために、とにかくトップスピードで必死にレジを打ち続けていた。正確性もぐんぐん上がり、勤務半月後にはレジ打ちに多少の自信があったため、履歴書に書いてみた次第だ。
嘘でもなければ、なんなら本当の特技じゃん?とも思えるこの特技(?)だが、一番の難点はその場で証明の仕様がないことである。
特技について触れられた時には、エピソードトークとして「10分間に20人レジを打った」と面接官にアピールしたが、「はは、すごいですね」と乾いた笑いだけくれた。内定はくれなかった。

②50m以内の全力疾走
ちょっと個性を出した特技。
私は長距離走は苦手だが、短距離は得意だった。フィジカル全盛期だった高校時代は50m7秒台で走れた。
事実だし、面白がってもらえたらなあと思いながら、1回だけ書いてみたのだが、見事に書類審査で落ちた。打率10割、百発百中落ちる特技。何がいけなかったのだろう?持久力がなかったからかしら?

③人を不快にさせない愛想笑い
仕事を辞め、単発のバイトに登録する際に履歴書に書いた、一番最近の特技。登録系バイトなんだから絶対受かるだろwという完全に舐め腐った考えの元、100%ウケ狙いで書いた。
実際、愛想よく笑うことはできると思う。臆病者ゆえに、人に嫌われることに対して敏感だし、極力避けたいことだし。その一心で私はその笑顔を会得していた。
この特技、嘘ではないが、果たして面接官にどう思われるのか?初対面の大人に「真面目に書け」と怒られる場合もあるんだろうか?でも、思いついてしまったからには書きたい。不採用だったらそれはそれで凹むけど、まあネタとして昇華すればいいか……と記入した。
翌日の面接で、どんな反応が来るのかドキドキしながら提出した。
初老の男性面接官は、
「(履歴書を受けとって)はい、ありがとうございます。
(後ろのデスクに履歴書を置いて)では、シフトについての相談なのですが……」
おい嘘だろ、目も通さず話進めるのかよ。
ウケるのが一番、次に愛想笑いと反応コメント、一番最悪なのは『ボケを無視する』という対応だ。
勇気を出して披露したボケへの冒涜、何よりスベった感じになるだろうがよぉぉぉ。勘弁してくれぇぇぇ。

日常生活で特技を尋ねられることがないので、今はまた『無特技』ということになっている。
次聞かれた時、どう答えよう?
『貧困生活を平気で続けられている』とかにしようかしら?またスベらされそうだけど。

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