マクドナルドで相席

11月30日
午前11時、私は銀行に向かって全力疾走をしていた。

8時に目が覚めた後、もうちょっと、もうちょっととダラダラしていたのが痛かった。
なぜ銀行に行かねばならぬのかというと、昨日登録した単発バイトの給与振込口座が指定されており、口座開設の手続きをしないといけないためである。しかし、13時に渋谷に別用で行かねばならなかったので、最寄りを12時過ぎには出たい。そう考えると、とにかく時間がない。
ああくそ!今日しか行く日ないのに!私はひと時の安らぎにうつつを抜かして!もう!
自分で自分に腹が立った。

銀行員がベテランだったため、手続きはすぐ終わり、待ち合わせにも間に合い一安心。
その用が終わり、次の待ち合わせは同じく渋谷で18時。一度家に戻るのも面倒なので、どこか店に入って時間を潰すことにした。

本当は喫茶店が好きだ。コーヒーの香りと穏やかな時の流れを感じることのできる、あの癒しの空間が大好きである。
しかし、今の私には喫茶店で500円以上平気でするような美味しいコーヒーに払う金はない。万年金欠なのもあるが、今はリアルに財布の中身が500円を切っているのだ。最近の小学生だって、もう少し持っているだろうに……。
どれだけ嘆いても、無いものは無い。少々騒がしくはなるが、マクドナルドに行くことにしよう。
そう思いセンター街をしばらく歩いていたが、目的地に着いた際におや?と違和感を覚えた。
渋谷センター街のマクドナルドに地下階なんてあったっけ?
久しぶりすぎて記憶は曖昧だが、以前はなかったような気がする。
何となく地下に行くと、人はまだ疎らで比較的静かだった。私はそこの2人用テーブル席でSサイズのQooを飲みながら、文庫本を読むことにした。

しばらくして、周りの話し声が大きくなってきた。席が埋まり始めたようである。
私の隣の2人用テーブル席にも、同い年くらいの女の子がガタっと座った。彼女はティータイムで訪れたのだろう、ドリンクとシナモンメルツをトレーに乗せていた。
彼女は席に着くと、すぐに食事に口を付けず、自身のiPhoneの画面に夢中になっていた。

それから10分ほど経った頃だろう、私は目を疑うような光景を目の当たりにした。
「すみません、ここ空いてます?」
見知らぬおばあさんが隣の彼女にそう尋ねた。
「え、あ、はい……」
つい先ほどまで自分の世界に浸っていたのを、いきなり現実に引き戻された彼女は、曖昧な返答。
「そう、じゃあ失礼するわね」
ストン。
おばあさんは彼女の対面の席に座った。

マクドナルドで、相席……?
生まれて初めて見る光景に、私は動揺が隠せない。ものすごい形相でみつめてしまう。
しかし、誰よりも驚いているのは相席された女の子だ。もしコンタクトレンズしてたら取れるのでは?と思うほど目を見開き、目の前の老婆をガン見している。もう彼女は手元のiPhoneで流れる動画を見てはいない。
一方おばあさんはというと、何食わぬ顔で持ち込んだと思われる350mlペットボトルのポンジュースを飲んでいた。

当事者、被害(?)者、見物者。三者が誰も何も言わない、無秩序な時間がしばらく流れた。
この三すくみは、先に居心地の悪くなった女の子がシナモンメルツを瞬時に食べ切り、席を立ったことで崩壊した。
おばあさんはまだポンジュースを飲んでいた。いや、おばあさんなんか買おうよ……。
ずっと言いたくてたまらなかったセリフは、マッククルーでもなければ、店の売り上げに100円しか貢献していない私に言う資格がないと自粛した。

モヤモヤした気持ちを残しつつ、約束の時間が近づいたので店を出た。
本は読み切ったが、残念ながら内容はよく覚えていない。

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