そのブラックコーヒーには優しい甘みがあった

11月14日
ロケハンの日の朝は早い。

ロケハンとは、「ロケーションハンティング」の略で、手っ取り早く言えばロケで回るところの確認とアポ取り作業である。
ADの頃はDと行くことも、1人で行くこともあったが、いかんせん仕事という意識が強く、ヘマをしないよう必死だった。

しかし、今は違う。
まず、PもDも一緒に行くので画が決まるのも、アポを取るのも驚くほどスピーディに終わる。私は資料用の写真を撮ったり、地図に印をつけたり、細々したフォローをする程度だ。
というか、今まで数時間のロケハンで絶対になかった茶休憩もしたし昼休憩もした。
なんならアポを取った店で普通に買い物もした。
これはもう絶対に『仕事』とは呼べない。
ほぼ『遠足』だ。

昼過ぎに現場からお世話になっているPの家に場所を変え、資料作成や事務作業をした。
Pはよく褒めてくれる人である。
資料ひとつとっても「もう作れたの?!すごい早い!」「丁寧で見やすい!」「もちづきさんに頼んでよかった!」と絶賛の嵐。
これまで幾度となく資料を作っては先輩に提出していたが、『できて当たり前』のクオリティな上に、それがADの本業でもあるため、あまり褒められるという経験してこなかった。
正社員とフリーランスの差でもあるのかもしれないが、彼女は私を『駒』ではなく、『人間』として丁寧に扱い、真摯に接してくれるのである。
その人権ある接し方にまだ慣れない私は、心がむず痒くなって「うへへへ……」と気持ちの悪い笑い方で答えてしまうのだった。

私が帰る時、Pは「夜ごはん食べさせられなかったね……」と呟いた。
この人はユニセフかなにかなのだろうか?
お茶に昼食に、お家ではコーヒーとバームクーヘンとメロンパンとチョコくださいましたやん……。
当方、もう今日晩飯なくていいと思ってますけど……?

この人に恩返しができるように働こうと強く思った。

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