桃色というより赤黒い感情

8月25日
高校時代、同じ部活だった友人と遊びに出かけた。

サシで遊ぶのは久しぶりだが、お互いおしゃべりが好きなので今日も会話が止まらない。
会ってすぐカフェに入り、最近どうよと近況報告をし合う。
彼女は可愛くて綺麗で、それでいて愛嬌とコミュ力も満点の素敵な女の子なので色恋沙汰も多い。今日も今までのいろいろを聞いて、『本当に同い年なのだろうか』と疑いたくなるほど自分との人生経験の差にビビり倒した。
「もっちーのそういう話も聴きたいよ」
と彼女は言ってくれたが、まじで何もなさすぎる。仕事や報酬ばかり追う毎日で恋愛ごとはおざなりになっている。
そもそも最近、人を好いているのか?仕事を通じて尊敬すべき相手や居心地良く感じる相手は増えたが、誰かを心から好いた記憶も自分のものにしたいと強く焦がれた記憶も皆無だ。信頼を絶対的に置ける相手……も、なるほど、片手で数えられるくらいしかいない。それもそうか、自分のことも愛せない人間が、一丁前に人を愛することなどできるはずがない。
「でもね、恋人がいれば自分の聞いて欲しい話は受け止めてもらえるし、頭を撫でてもらったり『頑張ったね』の一言で癒されるんだよ」
彼女は私にそう勧めた。なるほど、確かに何でも褒めてくれたり愚痴を聞いて労ってくれる恋人の存在は自己肯定感を高める効果がありそうだ。

……でも別にいらないなぁ……。
恋人はきっと、私の生活に否が応でも干渉してくる存在だ。人と深く関わるというのは、彼女が勧めるようなメリットもあるが、その分煩わしさや疎ましさも生まれてくるだろう。
そんな相手に四六時中脳内を占拠されるのも嫌だし、それによって嫌いになった場合、『他人をエゴで嫌ってしまった自分』がもれなく嫌になるだろう。

人を好きになる努力は今までしてきた。片思いもしてきた。でもそれも本当に恋だったのか、最近自信が持てなくなってきた。
歳を重ねるごとに『恋愛感情』というものがいまいちわからなくなってきている。

小中学生の頃は「異性をかっこいいと思うこと」が恋だと思い込んできた。誰かが「あの人かっこいい」と言えば「その人のこと好きなんじゃん!」と周りが囃し立てているのを見ていたから、恋愛感情とはそういうものなのだと理解した。
だから私は見た目が良いと感じた人を『好き』だと認識する訓練をした。中学生にもなって人を好きにならないのはおかしいことらしく、恋バナの一つや二つできないと、周りから「つまらない」と言われるから。

そのうち、恋愛とはそんな簡単なものではないと学んだ。「顔はかっこよくないけど性格に惹かれたの」と付き合う同級生がいて、彼女はものすごく幸せそうな顔をしていたから。
なるほど、見た目だけでなく中身も惹かれたら『好き』なのか。
ますますわからなくなった。でも、自分を異常者だと思いたくなかった。だから必死で『良い人だ』と思える相手を探し続けた。何とか見つけると、次は『私はこの人のことが好きである』と思い込むようにした。自分は相手に恋をしている。『好き』とはこういうものだ。
そして、周りの友人との恋愛トークで恥ずかしそうにその作り上げた思いを披露するのだ。これで私は普通の人になれた。
しかし、それは一時的なものでしかなかった。
「好きならアピールしなきゃ」
「告白しちゃいなよ」
そう、恋は実らせなければならないらしい。その感情が自分の中で存在するだけではいけないらしいのだ。私は焦りながらも、見よう見まねで周りの友人の真似事をした。相手の誕生日にプレゼントやメールを贈ったり、日常的に話しかける努力をしたり、他の友人と仲良さげにしているのを見て泣いてみたりした。
それでも、告白という行為は絶対にしなかった。自分の異常性を打ち消すためだけに、第三者の人生を巻き込むわけにはいかないからだ。周りには、私が恐ろしいほどのシャイガールに見えていたことだろう。それでいい。感情があやふやであるどころか、人に触れることも触れられることも苦手な私が、億万が一この人と形式上結ばれても、誰も幸せになんかならないからだ。

たぶん、私は感情のどこかしらが欠落している。そうとしか思えない。そうでなければ、こんなに凪のように何も感じない感情は『可哀想』でしかないんだ。
彼女の話を相槌打って聞いたが、やはり自分のダメなところばかり思い浮かんでうまく笑えていたか不安になった。
それでも、人が幸せになることは良いことだと思う。彼女が幸せであれば、私のことは気にしなくていい。これは紛れもない本心だ。

自分の心の薄暗い部屋にマイナス感情を全部突っ込んで、気分を切り替えてウィンドウショッピングに出かけた。
服屋はすでに秋色一色で、どれも可愛らしい。が、オシャレに疎い私は『仕事で汎用性が高そうな服』ばかり探して、結局いつもと同じような黒のワイドパンツを手に取っていた。
底のラバーが剥がれかけたボロボロのスニーカーも、安く買い換えることができたのでハッピー。明日からたんと履こう。

マイナス感情も湧いたけど、その分自分を見つめ直すことができた!

だから皆さんごめんなさいね。昨日の日記で書いた恋愛なんて、きっと本当の恋愛じゃなかったんです。私が『恋愛』だと信じようとした何かなんです。理想だと思おうとした他人との距離感なんです。
こんなダメ人間をどうか嫌わないでください。

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