5月19日
ホテルのバイトで、新人教育を任された。

副業でしかないこのバイトで責任を持たされるなど、めんどくさいことこの上ない。私はクズだからそう思う。
どうしたものか、と任された新人を見る。モンゴルからの留学生で、なんと18歳。日本に来てまだ6ヶ月で、バイトもまだ数回しか入れていないらしい。それでも日本語が流暢なので助かった。昼休憩の時、一緒に食事を摂りながら仕事の説明や世間話で意思疎通を図る。
「日本語は、どうやって勉強しましたか？」などといった、Google翻訳のような丁寧かつ聞き取りやすいような喋り方を心がけた。最初こそそんな基本的なやりとりだったが、しばらくすると彼女はこんな質問を投げかけてきた。
「恋人は、いますか？」
「いませんよ」
「なんで？」
なんでってそんなん私が聞きたいわ……。出会って10数分でプライベートな質問された時点で驚きなのに、恋人がいない理由問われることある？え？いなきゃダメ？あと多分いないのは私の人間性の問題だと思う……。
色々複雑なことを考えたが、来日6ヶ月の外国人に突きつける回答ではないと思ったので、『キャリアウーマン』に擬態して、伏し目がちに微笑みながら
「今は仕事が楽しいんですよ。恋人と行くランチより楽しい」
と適当を抜かした。一応補足だが、キャリアウーマンは生活費のためにバイトをしないし、バイト先に着いた瞬間に「帰りたい」など言わない。

仕事自体は苦ではなかった。新人の彼女も覚えはいいし、難しいことはなかったし。ただ一点だけ。
「○○さん、今日はよろしくお願いします」
チーフスタッフが敬語を使っているバイトの存在である。どういうことなんだろうか？
そこそこ年齢を召している彼は、おそらく、いつもは他のホテルの常勤スタッフでそこそこの地位にいるのだろう。今日はこのホテルにヘルプで来たから、若いチーフスタッフは敬語でおべんちゃら交じりに喋っていると見受けられる。それにしたって、
「もちづきさん、一回で覚えてね」
などといった物言いや、相槌でハミングのような「うん」を入れただけで
「返事は『はい』ね？」
と威圧してくるのはどうかと思う。後者に関してみみっちいことこの上ない。思わずチーフスタッフに
「あの人、偉そうですけど偉いんですか？」
とトリッキーかつ不適切な質問をぶつけるところだった。