ワルツとパンプス

4月11日
若干寝坊したが30分で身支度を済ませ、バイトの始業時間に滑り込んだ。

今日は大きな会議があるらしく、クロークが忙しくなりそうだという。個人的にはクローク業務の方が深いことを考えずに済むので、喜んで現場へ向かった。
「ねえ、〇〇さん大丈夫?」
奥様たちが誰かを囲んでそう声をかけている。中心には私より少し年下と見受けられる女の子が右足を抑えていた。奥様たちの壁の隙間から覗くと、彼女はかかとから流血をしていた。ああ、靴擦れか。
女の子は奥様の一人から絆創膏を受け取り幹部に貼ったが、結局は気休め程度だろう。彼女は今でも不便そうに固そうなパンプスをパカパカ鳴らしながら歩いている。

「そのパンプス、最近買ったんすか?」
たまらず声をかけた。テレのせいで少しぶっきらぼうになってしまったが。彼女は私の問いかけに頷き、
「今日初出勤日なんです。それで今日初めて履いたんですけど……」
とはにかむ。全てを聞かずとも言わんとしていることがわかった。『パンプスが馴染んでない』んだと。
「あの、よかったら使います?私のお下がりになるし、汚いと思うかもしれないけど……」
私は自分のパンプスにつけていたゴムバンドを渡した。私自身、パンプスが若干大きいので、このバンドを装着して日頃仕事していたのである。彼女も、足に馴染むまではこれで固定した方が歩きやすいはずだと思った。初対面の彼女にここまでする理由は全くないはずなのに、我ながら突拍子も無い提案をしたものだ。

でも、
「ありがとうございます!」
と笑顔を向ける彼女や
「よかったわね、優しいお姉さんがいて!」
と間接的に私を褒めてくれる奥様方を見たら、どうでもよくなった。

そのあと、私がパンプスをパカパカと鳴らしながら歩き回った。
その音は、どこか軽やかな音だったとか。

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