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キャラクターとライセンス <11>スヌーピー

前回の続きです。

デザイナーとしてスヌーピーのライセンスと商品デザインについて。

私は1984年にスヌーピー(PEANUTS)専門のデザイン事務所をはじめました。
クライアントは鉛筆メーカーのT社さん。初めて版権を取るということで、SNOOPYを選んだ。ライバルのM社さんはディズニーをすでにやっていました。

鉛筆メーカーではあるけれど、せっかく大きなスヌーピーというキャラを契約するなら、幅を広げてステーショナリーも契約しました。これは非常に良い選択だったと思います。そんなチャンスはその後なかったでしょうからね。

それで、デザイナーを探していたところ、人づてで私達(私と前職で一緒だったプランナー)がそのためにつくったデザインスタジオに合流しました。
SNOOPY専門にデザインするスタジオです。

私達は、ステーショナリー業界の商習慣に従って、2月、9月の新商品に加え、年に2回の新デザインを毎年行ってきました。

当時、SNOOPYのライセンスエージェントはカテゴリー別に数社ありました。ユナイテッドメディア、ディターミンド、バタフライ・・ああ懐かしい!!
まだ、海外からの版権管理が整備されてなく、本国の作者シュルツ氏の事務所とエージェント契約している各社の日本支社たちです。
エージェントの他に、もっと早く契約して日本で商品化の許諾受けていた、ファミリア(子供服)、サンリオ(カード、ノート等)がありました。

T社としては、契約したアイテムの契約を複数社としなくてはならなかったわけですが、他社がやっていないスヌーピーの商品はたくさん売れたので、そんな苦労は大したことではなかったですね。

それで、鉛筆や、色鉛筆や、ノートや、メモ帳や、ハサミや、ステープラー(ホチキスは登録商標)や、ブックカバーや、ファイルや、シャーペンや、ボールペンや、シャーペンの芯や、レターセット(当時レターパッドと封筒のセットがよく売れたのです)や、消しゴムなどをデザインしてたのですが、まだ最初はコンピュータなどなくて、全てアナログなのですよ。

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↑当時のデザイン

版下ってわかります?
厚紙にトンボと呼ばれる「ここで紙を切断するよ」というマークを、0.3mmの細い線で定規とロットリングという専用のペンを使って書くのです。手で。
そして、その紙の限界線の中に白黒写真を貼っていくのです。
イラストも文字もマークもすべて写真にして貼っていくのです。手で。

スヌーピーのイラストはライセンサーからエージェント経由で新しいものが届きます。コミック・ストリップといって、スヌーピーの新聞に載せる漫画の原稿を印刷したもので、当時はまだ作者のシュルツ氏が健在だったので、新聞に載った数週間遅れで届きます。

そのコミック・ストリップをトレスコープという、原稿を拡大縮小して印画紙に焼き付けるカメラの付いた機械で撮影し、印画紙を暗室で焼くという作業をするんだ。そして白黒のラインぎりぎりにカッターナイフで切って、先程の版下に特殊な糊で貼り付けるんすよ。

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↑トレスコープ

ここまでの作業、今なら10分だけど、当時は早くて30分かかってた。
そのうえ、文字は写植といって、手書きの原稿を写植屋さんという専門業者に外注して、翌日以降に文字が印刷された紙が届く。それをまた版下に特殊な糊で貼り付けるのです。

そうやって、完成した版下にトレーシングペーパーを掛けて、イラストの線の色、イラストの中の色、文字の色、背景の色等を手書きで指定します。
ノートのデザインだと、表紙、本文をそれぞれ4デザインくらいあったから、版下の完成まで3〜4日かかったかな?

デザインができたら、監修をエージェント経由で本国アメリカに送るのだけど、それだけ時間かけたあとにNG(リジェクトといって承認できない)など来たときにゃ、徹夜が続くわけです。

SNOOPYをデザインするというのは、その前職でトムとジェリーをデザインしてたときからの夢でした。
でもね、夢であったことが実現して毎日同じキャラと向き合ってると、ほんとイヤになることがあるんですよ。特に監修が下りないときね。
でも、自分がデザインしたスヌーピーの商品が店頭に並んで、よく売れたという報告があると嬉しいんですよ!!

ちょうど、バブル期に差し掛かったときに、仕事も順調で、年に4回新作をデザインしてたときには、毎日17〜18時間位仕事してました。当然帰宅は毎日タクシー、家には風呂と2時間寝るだけのために帰っていたなあ(遠い眼)。

1980年代後半から日本に入ってきたMac、ちょうどバブル弾ける頃私達も導入して、働き方がまったく変わりました。
Macintosh Quadra800という機種で、動かすためのインターフェイスとプリンタ(今でいう複合機)合わせて300万円ほどしました。
大きく仕事が変わったのは写植屋さんに頼んでいた写植の代わりに、PC内で文字をデザインすることでしたね。
外注の手間はなくなった分、自分でやらなきゃならなくなった。

でも、色も自分でつけて、思い通りのデザインができたら、すぐに監修へ出せるのは、時間的には1/3ほどになった。
それでも1枚出力するのに30分くらいかかったけど。(懐)

Snoopy(PEANUTS)の理念を理解するのは難しいよ。デザインしてたから知ってるけど、普通の人は「子供のコミックじゃん」って軽く言うかもしれないけど、知れば知るほど、深いのですよ・・シュルツさんの言いたかったこと。

現在では、ライセンス窓口はソニー・クリエイティブプロダクツさんに一本化されて、商品化も統一されて、ものすごく健全です。(個人的にはもうちょっと遊びましょって思う)

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↑T社ではないけれど、こんなのもデザインしたよ。

思い出話しになっちゃったけど、良いキャラクターですSNOOPY。

つづく


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