繊維製造工業マーケティングのすすめ。1

繊維製造工業のほとんどは地方に拠点があります。ファッションの発信拠点が東京や大阪の都市部に集中しているのに対して、製造現場の多くは遠方地方にあるのです。
彼らは遠方が故にファッション消費者心理を離れてしまうためか、またはそもそもファッション自体に興味がないためか、しばしば「顧客目線」を忘れ「工業都合」で商売を仕掛けがちです。しかしこれでは業績が上がっていく良いスパイラルは生れにくいものです。

僕自身、前職が地方工業の営業だったので、工場キャパ売りの「工業都合」を顧客に押し付ける様な営業方法で売り上げを上げるための工夫を強いられる毎日が続いていました。
ところがその様な商売で受注出来るほどアパレル業界は甘くありません。
いつしか工場があるからこそ出来るはずの「機転の効いた小回り」や「技術的開発利点」を無視した傲慢な営業になってしまっていたのでした。

今の繊維製造工業の中小企業は、現行のトップが現一代で工業を立ち上げ運営されているケースはほとんど見受けられず、社長が2-3代目の世襲企業が多いです。
ガチャ万時代に勃興し、工場があるだけで儲かった時代を経た上で、脈々と惰性で受け継がれた「工業はこういうもの」という諦観が根付いてしまっている会社も少なくないです。

しかし、中には地元拠点のままでしっかりと基盤をつくって生産受注している企業もあります。彼らと衰退企業は何が違うのでしょうか?

実例を元に工業のマーケティングについて考えてみたいと思います。

北関東の某染色工場は元々工業資材の加工を中心とする工場でした。こちらも世襲の3代目社長。
10年前は衣料用途の染色も受託していたがファッションに向く様な風合いはおろか、色合わせもままならないほどのいわゆる「ヘタクソ」な染工場でした。周囲に何軒かある染工場の中でも同社はファッション衣料向け生地染色で選ばれる順位は下位だったのです。

時代の流れで工業資材やアパレル製造が海外生産へ移行しだした煽りを受けて、同社も減収減益が続いていました。
そんな中、耐えられなくなった近所の同業者が廃業し、一挙にファッション衣料用生地の染色依頼が増えたのです。それはもう激増でした。
特需の様な状態で一時的に収益は回復したものの、顧客から技術不足による不満などが向けられるようになりました。せっかく掴んだ顧客を離すまいと同社は技術向上のために努力を始める様になります。

最初にどの様な努力をしたかと言うと、一般的に染色技術が良いとされるのはどういう工場なのかを考えてみたのです。
そこで導き出した答えは、当然といえば当然ですが、「色合わせ」や「物性安定」などのベーシックな技術要素を向上させる努力でした。

染色工場の基本設備はどの会社も違いはあまりないので、ベーシックな技術向上自体はさほど難しいことではなく、同業他社の再現性をヒアリングすることなどで比較的早く改善することができます。

ところが、顧客は安定せず、営業をかけても「またこんど出せる仕事があれば・・」とはぐらかされることも多かったようです。
具体的な要望が明らかにならないまま、何も言わずに離れていってしまう顧客も出てくるようになりました。

実は染色技術不足と思われている「色合わせ」や「物性安定」などの基本的な部分は先ほども書いたように設備がほとんど一緒のため、どの染色工場もさほど差はありません。検査する人間のレベルが上がればクリアできます。
また、「独自の風合い作り」や「特殊加工」もノウハウの程度差はあれど、基本的には薬剤メーカーからの提案がある部材を使用したものしかないため、他社と絶対的に差別化出来るというものでもありません。
では、なぜ顧客が安定しなかったのでしょうか?

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アパレル業界のしくみ

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