第四話 翼の勇者vs悪の華

「次、syouta様だよね!?あーヤバい、興奮してきたよ…。」

「大変長らくお待たせ致しました。ただ今より本日のメインイベント、6人タッグマッチ60分1本勝負を行います!」

「まずは、青コーナーより…邪炎、TETSUYA、RYO、syouta選手の入場です!」

リングアナウンサーのコールと共に
不気味な旋律が流れ会場が暗転する。
先頭に邪炎の総帥TETSUYAが登場すると、少し間を置き、RYO…そして詩織の推しsyoutaが黒い薔薇を加え登場する。

「キャーッ!syouta様ァァァ!こっち向いてー!」

詩織はもう夢中でスマホを構える。よく見るとかなりの女性ファンに取り囲まれているようだ。

syoutaは何やら生中継のカメラに向かって語りかけるような仕草を取ると、突然詩織の元へやって来る。

「え…?」

次の瞬間、咥えていた黒い薔薇を差し出す。
そして女子が弱い頭ポンポンをする。

詩織は突然の事に呆然としていた。

「邪炎、175cm90kg、TETSUYA〜!!」
「180cm95kg、RYO〜!!」
「PFW認定無差別級チャンピオン、178cm、85kg…syouta〜!!」

黒いガウンを脱ぎ捨て腰に輝くチャンピオンベルトを見せつけるsyouta。

詩織は魂が抜けた人形のようになっている。

「おいおい…まだ始まってもないぞ?」
「もう…満足だよ…ヤバいって…。」


「対しまして、赤コーナーより…フェニックスフォース…ブラディ・ヘイト、エル・ヒロアラード、神里尚輝選手の入場です!」

邪炎の不気味な入場シーンとは打って変わり、派手なテーマ曲が会場を包む。こちらも女性ファンが多いチーム。先陣を切って神里尚輝が走ってリングイン、続いて現PFW認定Jr.ヘビー級チャンピオンのヒロアラードと、Jr.タッグチャンピオンのブラディ・ヘイトが颯爽と登場すると黄色い歓声がこだまする。

ヒロアラードとブラディは場外を回りながらファンとの交流を楽しんでいるようだ。プロレス団体は数多くあるが、ここまでファンとの距離が近い団体は貴重な存在だと思う。これが俺が目指している理想像だ。

しかし次の瞬間、場内から悲鳴が響く。
なんと不意をつき邪炎メンバーが奇襲をかけたのだ。
そのまま試合開始のゴングが鳴る。

「相変わらず卑怯な奴らだわ…。」

「だけど尚人…syouta様だけ攻撃しないわよ?」

「あの人はいつもあんな感じ。ヒールユニットに在籍しているけど、我流だよ。何するかわかんない不気味さがあるよ。」

syoutaは、コーナーに座り込み場外乱闘の様子を観察しているようだ。

そしてついに動く。
リングに戻って来た神里とsyoutaが激突。
ロックアップからのヘッドロック、ロープワークを利用してのタックル合戦。バチバチと鈍い音が響く。

「来いよオラ!」

神里が吠える。syoutaはニヤリと笑うとロープへ走る。戻って来たところをカウンター攻撃する予定だった神里だが、syoutaはロープを掴み急停止。神里のドロップキックは空を切る。syoutaは腹を抱えて笑うと、神里の髪を掴み顔面に強烈な張り手を見舞う。
しかし神里も歴戦の猛者、最後の張り手を躱し頭突きをsyoutaのアゴに見舞う。不意を突かれたsyoutaは堪らず場外へ逃げる。

入れ替わりにヒロアラードとTETSUYAがリングイン
互いに胸元にキックの応酬。バチンバチンと鈍い音が響く。徐々に互いの胸が赤く腫れ上がる。

「うわぁ…みてられないよ…痛々しい。」

キックの応酬がどれほど続いただろうか、双方の胸が赤紫色に腫れ上がる。

TETSUYAがロープに走りラリアットを狙いに来るが、ヒロアラードは紙一重に躱し振り向きざまにトラースキックをTETSUYAの側頭部に突き刺す。

…ッパァァァン!!

鈍い破裂音が場内を包む。

「キャッ!痛い痛い…!」

詩織が思わず目を逸らす。

完全にヒロアラードにチャンスが舞い込む。

「行くぞぉ!後楽園!!」

…ワァァァッ!!(大歓声)

雄叫びと共に、トップロープに上がるヒロアラード、しかし…

…ガッシャアアアン!!

金属音と共にリング下に崩れ落ちるヒロアラード。

場外から観客用パイプ椅子を振りかざしていたのはsyoutaだった。

「最低だ…!」

場内から大ブーイング&帰れコールの大合唱。
しかし、syoutaにとって…いやヒールレスラーにとってはこれは栄養分にしかならない。

うすら笑いを浮かべながらリングに入り、息を吹き返したTETSUYAと連携のブレーンバスターを見舞うと、必殺技のヴァーティカル・スパイクの体制に。

しかし、今度は逆にリングに戻って来たブラディが間一髪それを防ぐ。

大の字となっているヒロアラードに喝を入れると
syoutaに延髄斬り、TETSUYAにも追撃を喰らわす。

リング下ではRYOと神里がエルボーの打ち合いを敢行。

流れはフェニックスフォースに傾いた。

「25分経過、25分経過!」

「ウォーッ!!」

ヒロアラードが吠える。

ブラディがボディ・スラムでTETSUYAを叩きつけ、さらにsyoutaを道連れにリング下に降りる。

ヒロアラードがトップロープから華麗に舞い落ちる。必殺技、インペリアル・フライ!

カウントが入る。

「ワン!ツー!スリー!!」

カンカンカンカンッ!!

見事に3カウントを奪取したのは、翼の勇者こと
エル・ヒロアラード。

場外では納得がいかないsyoutaとブラディが激しくやり合う。神里とRYOも加勢し収拾がつかなくなっている。

しかし、最後は観念したのか自力で歩行不可のTETSUYAに肩を貸し退場していく。、

そして、メインイベントを勝利で飾った主役がマイクを握る。


「ハァハァハァ…後楽園!メインは俺たちフェニックスフォースが勝ったぞー!!」

ワァァァッ!!(大歓声)

「今回も奴らのね、汚い手に苦戦したけど、最後は実力で…いや、チーム全員の力で跳ね返すことができました。ブラディさん、神里、ありがとう!そして、ファンの皆さん、最後まで熱いご声援ありがとうございました!来月、俺はこのベルトを賭けて、syoutaとやります。厄介な相手だけども、必ず防衛してまた後楽園に帰って来ますんで、応援よろしくお願いします!今日はありがとうございました!!」


ヒロアラードのマイク締めで幕を閉じる。

「残念だったな、推しが負けて。」

「んー…なんと言うか…負けたけど悔しくはないかな。どっちもカッコよかった。確かに汚い反則技ばかり使うけど、実力はあるし、次タイトルマッチだったら正々堂々やると信じたいな。」

「そうだね。タイトルマッチはお互いの全力をぶつけてほしいな。」

「思ったより長引いたね、お腹すいちゃった。」

「なんか食べて帰ろっか。」

試合の余韻に浸りながら会場を後にする2人。

「あっ、いたいた。」

誰かが声をかけてくる。振り返ると

「今日は応援ありがとうございました。これ良かったら。」

なんと、激戦直後のヒロアラードが立っていた。
差し出したのは直筆サイン入りのタオル2枚だった。なんで、星の数ほどいるファンの中で俺たちだけに声をかけてきたのか…その謎は後ほど明らかになるのだが…。


「カッコよ〜…。」

俺と詩織が互いに顔を合わして呟く。
最高の土曜日になった。


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