イタリア料理店風・レンズ豆と小麦(ブルグル)のミネストローネ
先日、近所のイタリア料理店に行った。そこでたいそうおいしいスープを食べた。
これは、Twitter上にアップロードされた写真だ。たった300円なのにすごく美味しかった。しかし、残念ながらこのメニューは期間限定なのだった。夏なのにこんなアツアツのスープ、しかしそれでもスプーンが止まらない。冬に欲しい、せめて自分で作りたい!
そして、英語のサイトでレシピを見つけた。
以下はこれをもとにして作ったレポートだ。レシピは6人前という。その半分量を目処に作ってみたが、1.4 Lぐらいできた。
買い物
にんじん…1本
たまねぎ…0.5個
食塩…小さじ1/2(最初) + 小さじ3/4(2回目)
胡椒…小さじ1/4
にんにく…チューブ数センチ(だいたい2.5個分を目安に)
オリーブオイル…大さじ4(60 mL)。元レシピではエクストラヴァージンを使用しているが今回はただのピュアオイルを使った。
小麦(ブルグル)…カップ90 mL
ターメリック…小さじ1/2
コリアンダー…小さじ1/2
ローレル(ベイリーフ/ローリエ)…1枚
じゃがいも…1個
レンズ豆…カップ90 mL(60 g)
ケール…1株
コンソメ…必要であれば適量
まず、あまり見慣れない食材が必要になる。
レンズ豆。
粉じゃない、粒小麦。
ケール。
コリアンダーだ。
レンズ豆と小麦は、輸入食材店カルディで見つけた。店頭でコーヒーを配っている店である。
カルディではレンズ豆が二種類売られている。乾燥した袋詰と、茹で戻してあるらしい缶詰だ。なんとなく長く煮るので、レンズ豆は乾燥袋詰を買った。
小麦は「ブルグル」という品名がついている。イタリアではなくトルコの食材だ。イタリア料理屋のスープに入っていたのは「スペルト小麦」というもので、ブルグルとは異なる。
突然だが植物学の時間が来たようだ。スペルト小麦は、現在小麦粉に使われているデュラム小麦の原種に近く、繊維や鉄分が多いが、脱穀しにくいという難がある。デュラム小麦はスペルト小麦をベースに改良された品種で、脱穀しやすい。そして、デュラム小麦を脱穀した食材が、ブルグルだ。
実は別の食料品店では、スペルト小麦を見つけることができた。だが、同じ量で値段が3倍以上した。ブルグルは500 gで300円だった。スペルト小麦は500 gで1,000円だった。安かったからブルグルを使った。
ケールは青汁でおなじみだが、なかなか日常目にすることは少ない。近所のスーパーにはなかったが、すこしアバンギャルドなスーパーに行くとケールがあった。2株で213円だった。
同じアバンギャルドなスーパーに、コリアンダーの粉もあった。スパイスカレーを作る人は、コリアンダーに馴染みがあるかもしれない。
ともかく、これらの食材さえ揃っていればあとは、にんじん、たまねぎ、にんにく、オリーブオイル等のおなじみの食材ばかりである。
調理
にんじんとたまねぎをみじん切りにする。
注意してほしい。正直、フードプロセッサーを使ったのだが、これはやりすぎたと思う。もとの切り具合ぐらいか、そこから半分に切るぐらいで、ちょうどよかったはずだ。0.5-1 cm角で良かっただろう。
まずオリーブオイルを鍋で熱した(中火)。そして、みじん切りにした、にんじんとたまねぎを、食塩小さじ1/2・胡椒1/4・にんにく適量と共に絡めて炒めた(弱中火)。オリーブオイルでみじんぎりをコーティングする、カレーの要領だ。
野菜に透明感がでてくるまで炒めた。3分ぐらい経っていた。
その後、蓋を半開きにして弱火で10分。ときどきかき混ぜた。焦げる前に止めろとレシピには書いてある。
ここに、ブルグル、コリアンダー、ターメリック、ローレル(ベイリーフ)を入れて混ぜて熱した。
中火で加熱した。鍋の底にぎりぎり焦げ付かない程度のところで水を1.2 L入れて強火で沸かした。
突然だが、また植物学の時間が来たようだ。いや、世界史かもしれない。
あなたは気がついただろうか?
ここまでの工程が全部、大航海時代以前の食材でできていることを。
大航海時代以前の食材とナス科の世界征服
「ミネストローネ」といえば、トマトが入っているものと思うだろう。でも、イタリア語の原義は、単なる「スープ」、もっといえば「皿に盛ったもの」というものだ。同じ料理ではないが、京都の料理で「たいたん」というのがある……これなどは「煮たもの」という意味である。そんなシンプルな、基本的な料理だということだ。トマトはミネストローネの条件では一切ない。したがって、今作っている料理も、間違いなくミネストローネなのである。
ではなぜ、いまのイタリア料理にトマトが欠かせないかといえば、まずはその「うま味」の含有がものすごかったからだ。新大陸原産のトマトは最初観賞用として旧大陸にもたらされながら、食材として使われるようになるやいなや、すみやかに全世界の食事を変えた。
トマトだけではない。
もしあなたが世界を旅して、各地の料理と呼ばれるものを食べるとする。中華料理でもよい。韓国料理でもよい。火鍋に唐辛子、欠かせないですね。これもそう、新大陸原産である。
ドイツといえばジャガイモというかもしれないがこれもそう、新大陸原産である。
だからイタリア料理だけではない。ヨーロッパ料理であれ、中華料理であれ、インド料理であれ、いまの世界中の料理に必要な、トマト、ジャガイモや唐辛子、とうもろこしという食材は、いまから500年よりも前には旧大陸には一切存在しなかった。
もう一度言いたい。
何もなかったのである。
想像してほしい。トマトのないイタリア料理を(いや、もちろんあるのだが)。唐辛子のない中華料理を。韓国料理を。とにかく今あなたが知っているものとは明らかに違うものだ。
とうもろこしは炭水化物なので、いわば類似品が旧大陸にもあったと思う。稲しかり、麦類しかりだ。でも、ナス科のトマト・じゃがいも・唐辛子は食の次元を変えたと言っていい。活躍の領域も、うま味、色、炭水化物、辛味というように多岐にわたる。
かつて古代中国の趙には、国を守る3人の強力な武将がいたという。彼らは「三大天」と呼ばれた。
私は、トマト・じゃがいも・唐辛子を、世界を征服した新大陸ナス科の三大天だと思いながら世界の食をいただいている。
イタリア料理屋のスープを再現することが一つの目標なので、ジャガイモを加えた。
続きをつくりましょう
沸騰したら食塩小さじ3/4を加えて火を弱くし、ブルグルがプルプルになるまで、15分ことこと煮た。
ここに洗ったレンズ豆と、葉柄や太い葉脈を除いてちぎったケールを加えた。
レンズ豆です。
強く洗いすぎて皮が取れてしまいました。皮はついていてもいいらしい。
ケールを加えました。
ことこと煮ていきます。英語のお時間です。ことこと煮ることを、simmerといいます。
半ぶたにして45分ことこと煮ました。
非常に良いテクスチャーになっていました。
完成
オリーブオイル・塩・胡椒・ターメリック・コリアンダー・ローリエ以外のスパイスや味付けはほとんどありません。シンプルですが、味が出ています。
ここで味を塩胡椒で整える。
反省点としては、いま若干もとのイタリア料理店のスープの味を忘れつつあることで、ほんとうはいますぐにでも食べに行きたいのだけれど、鍋いっぱいにできてしまっている。8/18 追記:イタリア料理店サイ◯リヤのレンズ豆とスペルト小麦のミネストローネを実食しなおしてみると、かなりコンソメが効いていることがわかった。コンソメを適量加えることでイタリア料理店の味に近づけることができるはずだ。
それから、写真を見比べる限りだと、にんじんと玉ねぎを細かくしすぎた。0.5-1 cm角ぐらいの方が、いいのだろう。そういう意味ではフードプロセッサをしすぎた。反省することしきりである。
これをイタリア人学生に味見してもらったところ、「ローレルがもっと入っていると良い。ベーコンが入っていると完璧だ」という講評をもらった。
参考になれば幸いである。
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