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41話 ならば、みんなで②

とにかく話は決まったので、僕は代表者として、各楽器のパート別に打ち合わせを始める。まずギター、ベース、キーボード、ドラムと曲の打ち合わせをし、メインボーカルを4人決めて歌の担当箇所を割り振った。そして念のため、スタジオに入る前に、学校の近くにあった代々木公園で、青空のもと一度練習をしてみる事になった。

ギターとハーモニカはアコースティック、ベースは電気無し、キーボードは電池式のオモチャのカシオトーンでの練習となった。
まだカラオケなども流行ってはいない頃だったので、ボーカルは全員、想像していたより驚くほど歌がヘタだったけれど、誰もが知っている曲だったので、演奏を合わせるくらいはすぐにできそうだった。
以前のスタジオでの失敗に比べれば雲泥の差ではないか。なんにしても事前に打ち合わせと練習ができたのは良かった。
サックスの参加者もいたので、キーボードやエレキギターも含め楽器のソロの順番を決めておく。当然ながら、僕のハーモニカが一番良い位置に来るように構成を組む。僕は譜面が読めないし書けなかったので、矢印のフローチャートで曲の構成表を作って行った。

スタジオは学校から徒歩10分ほどの場所で見つけ、直接訪ねて事前に予約を入れる。「25人で1時間だけ借りる」という予約に、スタジオ側にはかなり驚かれたけれど「学生達への宣伝にもなる」と説得し、なんとか了承を得る。
集合場所やスケジュールの管理等を24人分行う僕の奮闘ぶりは、演奏の準備というより、まるで旅行会社のツアーコンダクターのようだった。

さらにここで、僕はQ君とのスタジオでの苦い経験から一計を案じる。今回の参加者は全員バンドマンではないので、音響機器には詳しくはない。そうなれば、またスタジオで楽器の音調整の無駄な時間がいつまでも続く訳だ。そこで思い切って、音響の面倒をスタジオの方に見てもらう事にした。誰もそこにはプライドは無いので、この案は非常に効率の良い解決策となった。
さらにスタジオ内での混乱を避けるため、まずドラム、ベース、キーボード、ギターといった伴奏組だけが先に入り曲の下地を作る。他のメンバーがいないうちに、音響面の調整などをスタジオの方に掛かり切りで見てもらえる訳だ。
次にメインボーカルの4人を入れる。この時にはすでに伴奏が出来ているのでカラオケ同様に、すぐにリハーサルができる。
最後にその他大勢が入る。後はみんなで適当に合わせるだけでいいのだ。この「最後に残りの人達が」というのがポイントだった。大音量を中でただ待つのは、誰にとっても辛いはずなのだから。

「広瀬くん、大変そうだね」みんなにそう言われるものの、実はそうでもなかった。確かに当初考えていたよりも大ごとにはなってしまったけれど、内心では、参加する僕以外の24人に対して、自分のハーモニカを自慢するためのイベントとして考え始めていたからだ。
例えるなら「広瀬のハーモニカと愉快な仲間達」のような。しかもそれをプロモーションビデオにまでするのだから。

そしてスタジオ入り当日。団体での大移動は無事に成功し、時間通りにスタジオ入りを果たす。
スタッフさんのご厚意でマイク類などはすでにセット済み。ものの15分ほどで曲の伴奏のリハーサルが終わり、ボーカルとサックス、当日に決まった口笛の参加者などでさらに15分が経過。残り30分でたった1曲を撮影すれば良いという、ゆとりのある進行となった。
25人全員が入ると「すし詰め状態」となり、息苦しいほどだったけれど、すでに30分ほど待たされていた人達はようやくの出番に大興奮。案の定、外で待ってもらっていた分、苛立っていた人など誰もいなかった。大人数で割った参加料も結果として1人が数百円で済んだ為、ゲーセンに来たくらいの気楽さだった。

そしていよいよ本番。みんなはたった1曲のお遊びのため、そして僕は自分が大音量でハーモニカを吹き、みんなにその腕前を自慢するための、1曲だけの演奏が始まる。
けれど、それは新たなる「苦い失敗」の幕開けだった。

つづく


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