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あれ?これドッジボール?

「今日は神社やお寺で豆まきやってるから、見に行ったら楽しいよ」
午前中、新居の契約書類を持ってきてくれたライターの舟橋さんにそう言われて、ああ、今日は節分だったと思い出した。

テレビで相撲取りや芸能人が豆まきしている映像は見たことあるが、一部の大きな神社仏閣で開催されるものかと思っていた。それが、ごく近所で行われるという。

でも一人で行くのもなぁ。
そう思ってたが、その後なんとなく立ち寄った和菓子屋でも「豆まき」の単語が耳に入った。粟餅を手にレジへ向かうと、「豆まきの人集りを見たよ」と話す客のおばあちゃんに、店員さんが、「でもおばあちゃんは潰されちゃうから、行かない方が良いわよ」と言っていた。

おばあちゃんが潰される豆まきって、一体どんなだ?

2人にそれとなく聞くと、すぐそこの神社だから行ってみたら良いよ、と勧められた。おばあちゃんのニコニコ顔が可愛かった。

歩いて1分も掛からない距離にある千住本氷川神社には、すでに人が溢れていた。

取り敢えず人集りから少し離れた辺りで、世話好きそうなおばさんに話しかけてみる。

彼女曰く、豆まきでは子供も盛り上がるが、大人の盛り上がりも尋常ではなく、取り合いが起こる程らしい。
また、三ヶ所の神社仏閣で行われるのだが、会場によっては、自転車など大物が当たるらしい。(もちろん、飛んでくる自転車をキャッチする訳ではなく、「自転車」と書かれた紙が入った封筒が撒かれるらしいが。)

景品は魅力的だが、初心者は見学しておこうかなと言ったら、「面白いから、中に行きなよ!」と再三勧められる。
そこまで言われて断るのも野暮かと思い、取り敢えず、人が集まっている辺りに行ってみた。

隣を見ると、空のエコバックを手にした小柄な年配女性が立っていた。目が合うと微笑んでくれたので、「準備万端ですね。慣れていらっしゃるんですか?」と聞くと、「たまたまで、買い物に来たら豆まきがあると聞いたの」とのこと。少し心強くなり、スタート時間を待つ。
子供が近くに来る度、「手前の方に子ども専用のスペースがありますよ」と教えてあげる彼女に、親切ですね、と言ったら、小さな子はぶつかったら危ないから、と言っていた。

どれだけ危険な催しなのだろう。

「人が多いので三回撒きまーす!一回目は、お子さんにのみ撒きますので、大人は前に出てこないで下さいね!」
とのアナウンスが入り、思わず笑ってしまった。

そしていよいよ、太鼓のドン、ドン、という音と共に紙袋や豆、みかんや封筒などが子どもたちに撒かれ始める。

成る程、こんな要領か、とイメージ出来た。

そして次は、大人の番。
太鼓の響きと共に、品々が撒かれ…いや、投げられ始める。

みかんや、お菓子の入った比較的大きな袋がビュン、ビュンと音を立てながら勢いよく飛んでくる。

想像以上に怖い。

迫り来るそれらを、みんな歓声を上げながら勇敢にキャッチし、更に手を上げ、こっち!こっち!と呼び寄せる。
私はキャッチするどころか、目をつむって思わず頭をガードしてしまう。

なにこれドッジボール?

一回目が終わると、よろめきながら離脱していく年配の男性もいた。警備員さん二人に支えられていく男性を見て、こりゃあ、あの和菓子屋さんの言っていたことは正解だったなと思った。

結局私はひとつもとれなかったが、先程の年配女性が、みかん一つと、袋に入っていた駄菓子を半分くれた。コーンポタージュのスナック菓子と、キャベツ太郎だった。
彼女もキャッチ出来なかったらしいが、隣の男性が取ったものをくれたらしい。
親切な人達もいたものだ。

その後、その女性と共に、四丁目の氷川神社へも豆まきハシゴ。
こちらでは神事の様子も見れ興味深かった。巫女さんの袴が緑だったのは何故だろう。お祓いを受けていたのは、年男・年女の方達だろうか。

豆まき前の神事が終わり、ぞろぞろと本殿の廊下に現れる男女。みかんやお菓子、ラーメン、食パンにポチ袋。色んな品を手に、ずらりと並ぶ。

軽快なお囃子が始まると共に踵を返し、先ずは内に向かい豆を投げ、次は外の私たちに向かい豆が撒かれる。
こちらを振り返ったときの、彼らの飛び切りの笑顔が印象的だった。お囃子のリズムと共に、様々な品が撒かれ出す。「鬼はー外ー、福はー内!」子ども、大人、入り混じり歓声が響く。

明日は立春。旧暦では、一年の始まりだ。

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