あなたの指輪を見せて
あなたの顔が見えない文章は、誰の心にも引っかからずに滑り落ちていく。
本心を隠した言葉は、あなたが一番届けたい人に届かない。
「あなたの感性をフルに使って書くこと」
それが昨年12月に参加した「文章てらこや」で教わったことの一つ。
下町情緒が残る千住の町の一角にひっそりと佇む木造アパート。その二階の六畳スペースに響く、ペンの走る音と丸テーブルの軋む音。
私はその日、もう1人の参加女性と共に、
「来年挑戦したいこと、もしくは現在挑戦中のこと」
というテーマで200マスを埋めていた。
『昨今、日本文化に対する外国人からの関心が高まっている。』
そこまで書き、消しゴムを取る。
インターネットを覗けば、誰でも目にできる情報。それをあなたが書く必要はあるのか。
講師の吉満さんの言葉を思い出す。
あなたが「その思い」を抱くに至ったエピソードを教えて欲しい。
人工知能の時代、『上手い』文章はAIが書いてくれる。人間ならではの感性を使った文章がひとの心に響く。
新たに書き上げだ文章を見直す。
『3年前、オリーブをつまみながらベルギー人の友人が口にした言葉に、私は外国からの日本文化への関心の高まりを感じた。…』
あの時の友人の低い笑い声、柔らかいソファの感触、口に広がるオリーブの塩味とワインの芳醇な香り。それらを思い浮かべながら一文字一文字、紙に表した。
私は「独りよがりな奴」とか「頑固なやつ」だと思われたくなくて、自分を表現することを遠慮していたのだと、2日間に渡る講座を通し気づいていった。
人とは異なる感覚を持つ自分や、
絶対に譲れないものがある自分。
とても強いこだわりがある自分。
それらを「書く」と言う行為で、恐る恐る表に出す。
綺麗にまとまらない思いも、吉満さんの仕切る場では、裁かれることなく受け止められていく。
「あなたの、奥にしまわれた宝物を見せて欲しい」
まるで、そう優しく言われているかのよう。
例えるなら、
小さな体に大きな世界が、キラキラ輝いて見えたていた頃。
ルビーを模した赤いガラスの指輪を買ってくれた優しい父と、それを「お姫様みたいね」と褒めてくれた大好きな母。友達も綺麗な指輪だと言ってくれた。
でも、いつしかそれは箱の奥底へ。小学生になった時、「いい加減、あの子の指輪ダサいよね」と影で言われてるのを聞いたのかも知れない。
「そうだよね、ダサいよね!」大きく動揺したことを悟られたくなくて、さも自分もそう思っていたかのように、一緒に馬鹿にした。
でも、本当はとても悲しかった。
それ程大切な物だったから、もう二度と人目に触れないように何重にも梱包し、箱の奥底へとしまい込んだ。
そしていつしか自分でも忘れてしまった。
そんなものを、「てらこや」では、見せて欲しいと言う。
私は戸惑う。
最近買ったアイフォーンなら見せても良いけど、この価値のない玩具を見せて、また馬鹿にされたらどうしようと。
吉満さんは問う。
あなたは、あなたの大切な宝物を嘲笑う人と一緒に居たい?
飾らぬ思いを表現することで、あなたから離れる人もいれば、新たに寄ってくる人もいる。
「言葉にしてくれてありがとう。私も同じ思いを抱いていたの。」と言いながら。
あなたの真から出た言葉に、勇気付けられる人達が絶対にいる。私は編集者として何度もその場面に立ち会ってきた。
彼女の言葉がズンと肚に響くのは、そこに偽りがないから。
私の紡ぐ言葉は、どうだろう?
ドリップコーヒーの香りの中、口に運んだチーズケーキが溶けていく。心の中、「見つけてくれてありがとう」と、奥底にしまわれていた宝物が色と温度を取り戻す。
自分で隠して、
それを忘れて、
ずっと探してて、
やっと見つけた。
見つけたそれを、今度は本当に大切にしよう。
その美しさを表現していこう。
私の感性と共に生きよう。
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センジュ出版さん
文章てらこや
http://senju-pub.com/文章てらこや%E3%80%82/
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