道券はな

未来短歌会/短歌同人誌「toolate」/ごきげん創作ユニット「あっぱれ!」/Twit…

道券はな

未来短歌会/短歌同人誌「toolate」/ごきげん創作ユニット「あっぱれ!」/Twitter @peter_pan_co きあい

最近の記事

未来2019年7月詠草

牛乳は気絶してゆく ゆっくりと紅茶のなかで渦を巻きつつ くちもとをもの言いたげにひきむすぶ米津祐介のブルドッグ しとやかにサニーレタスを食むがごと機密文書を吸うシュレッダー ストローのなかを上がっていく泡のその安らかな孤独を思う 罵りに耐えているときやわらかな飛沫のあがる谷を思えり もの欲しげに伸ばした指のような枝 蕾をびっしりとつけながら 欲望はしなやかな脚 自転車の浸かった川を飛び越えていく

    • 未来2019年6月詠草

      柔らかく拒んだような しら梅がふいに細かくかぶりを振って 真夜中に副葬品のやさしさで並ぶ箱入りハーゲンダッツ

      • 未来2019年5月詠草

        ざらついた夢を見ていた 友だちを枯野のなかに置き去りにした 照明が灯れば影はやわらかく身ぶるいをしてどこかへ消える 石鹸を泡立てている 朝日からこのてのひらを匿うように ストーブのなかは廃墟のような闇 介入されることを嫌って 空洞を思う 吐息が去ったあと私のなかにうまれるはずの 逆剥けをめくったときに見る肉はいつもみずみずしく濡れている 剥がされた付箋の糊に付着する諦めのような細かいなにか たのしいとあなたは言えり横顔の影さすほうをこちらにむけて 夕暮れのペットボトルを開ける

        • 未来2019年4月詠草

          早朝にU字の管の濃い闇を落ちてゆく水 あらがいもせず うす紙のようにすずしく幾筋もひっかき傷のついた喋々 襟巻きを外せば触れてくる真冬 縊られる日も近いだろうか ワイパーが雨を拭えば拭われたかたちに街はひととき歪む

        未来2019年7月詠草

          未来2019年2月詠草

          もういないひとの机にさす影がわたしの形をしてやわらかい 抽斗に残った菓子を棄てるときどこかで割れている霜柱 コピー機に誰かが置いたクリップを持って帰ったさびしかったから 獰猛なシュレッダーでも餌付けして馴らせばこちらの顔を窺う つま先とゆびの間に寒ざむと風が 靴とは脆い建築 疼の字の冬を思えり 薄氷のひびが朝日に濡れているような 石けんも網で蛇口に吊るされてしずかに狂いはじめている 取り返しのつかないことをしたような まわり続けている室外機 岩波文庫のざらつく天を撫でている

          未来2019年2月詠草

          未来2019年1月詠草

          早朝の路上駐車の助手席で弁当殻が陽を浴びている 海だった地層のように鶏肉の繊維はすうと通っておりぬ 処女峰の川を思えりひとの手をくぐったことのない水たちを トルソーの胸を滑ってゆく指がこれは違うとつぶやいている 中表に縫った袋を返すとき霧がさやかに晴れていくような 木漏れ日をしろいテントの下で浴び遠ざけてきたものを思った ひとの名を呼び間違える 薄氷にふと踏み入れてしまったように うつくしい装画の本を抜き取った枯らした花に触れる手つきで 死ぬならばいまなのだろう大風に銀杏の樹

          未来2019年1月詠草

          未来2018年12月詠草

          もう長く親しいような 透明なひかりがコップをつらぬいて射す 後ろから来た自転車を避けている木漏れ陽のなかからうながされ ひからない川でひらめく鯉だろうか飛沫をあびたような気がした ゆきすぎた景色に体をよじるとき背中を滑る汗のひと粒 教養を畏れていたい肌ざむい参道で端を歩いたように ひんやりとレジの向こうに手をやれば第二関節から昏くなる 傍らの森から吹いてくる風のあなたが受けそこなったひとすじ ひとの目をひさびさにみた軒先に出来かけた巣を見上げるように われものをつつむ柔さで手

          未来2018年12月詠草

          未来2018年11月詠草

          日々はひかって 品書きをこちらに向けるひとの手は爪がすずしく揃えてあった 焼き鳥は串を離れてその串がかつて刺さっていた小さき穴 さびしいと言えば波立つ川がありあなたはそれを岸で見ている 中座したひとを待つ間に硝子戸を小雨がつたいきってしまった 島と島のような遠さだ頬骨に落ちた睫毛を教えずにいる 半熟の黄身は触れれば決壊し今日の総てがそういうふうな 伝票を手にしたひとについて行く泥濘をゆくように無言で 走り出すような気がした 前のひとが小銭を拾うためにかがめば くっついたDA

          未来2018年11月詠草

          未来2018年10月詠草

          わたしではなくなりたいな足指にタオルケットが湿って絡む液状の肉と思えりひややかな乳房を指でまるく掬えば前傾で胸を下着に収めれば縁やわらかなひかりがさしてさわられているかのような シャツの中をこぼした水がゆっくり伝うジュニア版カラー図説を開きおり木漏れ日を受けるようなかたちで始祖鳥は霧雨に身を低くしてその空想の雨はやわらか油染みが点々と残る白亜紀の口絵をすべて染める夕焼け蜂が来てのけぞった後何事もなかったようにまた歩きだす死んだ蛾は小川に浮かびその水を鱗粉であおくひからせている

          未来2018年10月詠草

          未来2018年9月詠草

          カーテンを開ける前から雨だった追突事故の夢ばかり見て 受話器から呼出音が鳴る前のしじまのなかで安らいでいる 電灯がちらついているそのなかに満ちるひかりの粘度を弱め 肌寒いエレベーターで夕焼けにまみを濡らしたひととゆきかう コンビニでお金をおろすひとを待つ電柱の影にぶった切られて 巻き添えになる結露たちひと粒がグラスを滑り落ちてゆく間に 飲み物に刺さった花が恥ずかしく置けばそこだけ墓前のような 絞られた檸檬から種は身をよじり昏い皿へと落下してゆく 貝殻は芯まで乾

          未来2018年9月詠草

          未来2018年8月詠草

          燃料も心もとない県道が逃げ水でひたひたになっている うす桃の薔薇は道路に咲きこぼれそういうものが今でも怖い コピー機の中で非業の死を遂げた紙をしずかに取り上げている 夕暮れの扇風機らは隣人に呼びとめられたように振り向く 不審者の出る竹薮にさした陽は吸われて二度と戻ってこない むら雲を染めて夕陽は降り注ぎすべてがほろぶ日もこうだろう セブンティーンアイスクリームの自販機と並べば夜を染めて電車が 店先で端切れを選ぶ 曇り日の浅瀬で貝を拾う手つきで チャコペンは布地の上でくだけ散り

          未来2018年8月詠草

          未来2018年7月詠草

          号令を待つ子どもらの足もとへ風に吹かれて押し寄せる花 転職をしてきたひとと行きかえば波の砕けるような匂いが 銀河にはなり損ねたというふうにプロジェクターの前を舞う塵 消灯後つづく少女のささやきを聞けば私はずっとある森 岩陰で眠る獣のものと思うくらい廊下に盛れる寝息は 鍋底に残るきゃべつは透き通り今日はさげすまれる夢を見た 置き去りの鉈を拾えば杉話 濡れた場所だけひかりを浴びて 吸い込まれそうな明るさ 火のついた薪は悶えてしずかに縮む 見落としたことを思えば曇天

          未来2018年7月詠草

          未来2018年6月詠草

          つり銭が取出口に出るときの篠突く雨を思わせる音 言い過ぎた自虐を思う 階段で折れる手摺の影を見ながら 私を見限るひとのまなざしは森にさす陽のようにちらつく 胸中に粒の重たい雨が降り言わずにおいた言葉を濡らす 読み終えた本をやさしくしならせる 豪雨の音ですすぐみたいに 大雨の夜中に気づく寝台と壁の間に落ちた靴下 道端で苔むしている自動車は虚空を見つめ 見つめておりぬ 他人の目に映る私は不確かで窓越しに見る小雨のような 期待したほどではないが雲間からうすく波状の陽

          未来2018年6月詠草

          未来2018年5月詠草

          雪風に頬を晒せばひろびろとひらく私という展開図 錠剤のシートの穴は受けとめた朝のひかりを皺にしている 蜘蛛の巣のうえでばらけた水滴は暴れる蝶の脚を濡らした 私だけわかっておらずひそやかに修正液の匂いは迫る 小走りで駆け寄るひとを待つあいだ陽射しがふうと匂っていた なにもかも忘れてしまう藻の浮いた池に硬貨が沈むはやさで 下敷きを床に落とせばそこだけが氷のようにひかっておりぬ 鍵穴のなかで起こっていることを思えばふいに伸びてくる影 電灯が消えれば夜は音もなくながい

          未来2018年5月詠草

          未来2018年4月号詠草

          お互いの影を浴びあう綿棒に冬の陽ざしはさしこむほそく さざんかがかたく握ったうす闇に指をさしいれようとして 雪 粉雪は降るというよりなんだろう風に揉まれてひかっている 道端の繭をあばけば事切れた蛾はまさ夢を見た顔をして 手についた手摺の錆を嗅ぐときの内に収斂していく感じ 水溜(みずため)の淵の小石はあおく濡れもう諦めたような清しさ 足長蜂(あしなが)の口は精緻に噛み合ってわたしのことも殺してほしい 雨粒にみぞれの混ざる夜なので読まない本を手にしてしまう あち

          未来2018年4月号詠草

          未來2018年3月号

          硝子戸を椅子でぶち破る空想にもうはつ雪はかろく降り積む ちりとりに入り損ねた線状の埃をおいて眺めた夕陽 標本の烏賊の濁った両目から見える廊下は暗いだろうか 夕焼けは窓のかたちにきりとられ火の用心のポスターに差す 同僚がさざなみだてたぬるま湯の飛沫を浴びて それだけだった どのひとも好きにはなれず宵ぞらの底はしずかに燃えているような バス停の屋根はたわんで羽虫らの浮かんだ水をにわかにこぼす 遠藤はうつくしい名で聞くたびに霧のむこうでゆれる藤棚 階段をあがって駅を出るときの冬晴

          未來2018年3月号