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がん悪液質と六君子湯

 がんが進行して、体中にがんが飛び火してしまったような状態になると、がんのためにすっかり体力が落ちてしまいます。そんな時には体がだるく、食欲もなく食べることもできず、何かをやろうと言う気にもならないし、体を少し動かすのもきついと言うような状態になります。そのような状態をがん悪液質と呼ぶことがあります。がん自体の影響に治療の影響、薬の副作用、精神力の低下などが加わり、さらに全身機能の悪化に拍車がかかります。

 この状態の中で食欲を出すことで少しでも状態を良くしようと言うことでグレリンと言う物質が精製され、さらに製品化されました。このグレリンは胃から分泌されるホルモンの一種で成長ホルモンの仲間に入ります。この物質に食欲を出す働きがあることから研究が進んで製品化されたわけです。

 このグレリンが製品化される前から、漢方薬の六君子湯は胃からグレリンの分泌を促進すると言うことで有名でした。漢方の胃腸薬の一つである六君子湯が、食欲の改善に結びつく証左の一つとされています。六君子湯は食欲の改善とともに、全身状態の改善効果も期待できるので、これまでもがん治療の支持療法として利用されてきました。

 六君子湯は、蒼朮、人参、半夏、茯苓、大棗、陳皮、甘草、生姜から構成されています。全体として、温める力のある生薬が多く、水バランスを整え、体に元気をつけ、胃腸機能を高めてくれます。

 保険適応病名は、「胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振 、胃痛、嘔吐。」とされています。

 どのような人に使うかと言えば、元気がない、疲れやすい、食欲がない、食べると腹が脹るなどといった胃腸機能の低下があり、吐き気、嘔吐、酸っぱいものがあがる、みずおちがつかえ、軟便から下痢傾向、咳嗽、痰が多い、あるいは浮腫などの水分代謝が悪いこと症候を伴うような人です。このような症状は、がん悪液質の方にもよく見られるものですから、六君子湯の出番もあるということです。

 がん自体やがんの治療によって弱ってしまった体に対して、六君子湯以外にも漢方薬が利用されることがよくあります。よく利用されるのは、十全大補湯、人参養栄湯、牛車腎気丸、半夏瀉心湯などです。これらは、がんの治療ではなく、がんによって生じるさまざまな症状に対応するように使用するわけです。しかし漢方薬は消化管に投与されて効果を発揮しますから、消化管が使えるうちでなければ当然使えません。進行がんの8割に認められるとされる悪液質です。できればその状態になる前から、うまく漢方薬を利用し始めておく方が良いと思います。

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