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サイの角

 日本平動物園で展示されていた、サイの頭骨標本から、角部分が盗られたとのニュースを見ました。角だけを持ち去ったところから闇売買目的の窃盗であろうとのことです。

 犀の角は、おもに犀角(サイカク)という生薬として取引されるということらしい。特にベトナムや中国での需要があるようで、角の粉末は、がん、二日酔い、毒ヘビのかみ傷など万病に効くと信じられているとともに、精力増強の薬としても使われているようです。

 実際の生薬としての効果は大いに疑問であり、犀角に含まれる成分はケラチンがほとんどとされます。つまり皮膚や爪と同じということ。実際サイの角は、角というよりも皮膚が変化したものだそうですから当然そうなりますね。爪の垢、じゃなくて爪を煎じて飲むのと同じことだということ。人間の勝手な思い違いから、絶滅危惧種に追いやられている犀の悲劇を、止めてほしいものです。

 角を取るための密漁者とそれを阻止する側との知恵比べの様相を呈しているようですが、いまだに密漁による被害は続いているとのこと。生薬としての効能などないということを、しっかり周知させてもらいたいものですが、そんな情報を打ち消す力も働くのでしょうね。

 ちなみに現代日本では、犀角は生薬として認定されておらず、日本薬局方にも犀角は掲載されていませんし、医療用漢方薬で犀角などが入っているものはありません。生薬としての効果が疑わしいわけですから当然ですね。

 そうはいっても、日本国内でも犀角としてこっそり売りつける業者がいないとも限りません。もしも「サイの角、効くよ!」などと声をかけられても、その誘いにうかうかと乗らないようにしてくださいね。犀角を購入するということは、密漁者や密輸者の側の人間になることであり、角を取るためだけにサイの命を奪い取る手助けをしていることになりますからね。

 ところで、仏教のお経のなかに、「サイの角のようにただ一人歩め(犀角独歩)」という一文があるそうですね。これはただ孤独に人生を歩めと言っているわけではないでしょう。もちろん、他者とのかかわりの中で様々な煩悩が生れることを考えて、一人進むことを勧めている面もあるでしょう。しかし、多くを学び、自分を見つめ、他者との交わりの中で、自分を高め、真理をわきまえたうえで、一人歩めと言っているのだと思います。

 犀角に効能ありとの虚言に惑わされることなく、しっかりと歩みたいものだと思います。今回は、漢方もどきとして惑わされる可能性のある、犀角のニュースから思いついたことを書いてみました。


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