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胃腸が弱いという方に人参湯

 薬用として用いられる人参は、かつてはとても高価な生薬として取引をされていたようです。体全体の活力を高め、精神を安定させ、目を良くし、胃腸をととのえ、疲れを取るなど幅広い効能が期待できるものだからです。

 このオタネニンジンを主役とする漢方薬の一つに、人参湯があります。人参、蒼朮(そうじゅつ)、甘草、乾姜(かんきょう)の四つの生薬から構成された処方です。別名を理中湯(りちゅうとう)と言われ、中、つまりお腹の機能、消化機能をととのえる処方との意味があります。

 保険適応病名は、「体質虚弱の人、或いは虚弱により体力低下した人の次の諸症:急性・慢性胃腸カタル、胃アトニー症、胃拡張、悪阻(つわり)、萎縮腎。」とされています。胃腸カタルというのは胃腸炎と思えばよいと思います。アトニー(atony)というのは筋肉の緊張が低下ないし消失した状態ですから、胃の動きが悪くなって胃もたれなどの症状があることを指します。

 人参湯を服用していただく方には、新陳代謝が低下し、やせ傾向で冷え性があり、顔色が悪いひとが多いです。食欲がおち、胃のあたりが痛んだり、胃に何か停滞しているような感じがあり、下痢傾向です。お腹を触ると軟弱なことが多いのですが、薄い腹壁が突っ張ったようになっていることもあります。体が冷える傾向のことを寒証と言いますが、特に裏が冷えている、つまりお腹の中が冷えている裏寒の状態の人に使うわけです。

 構成生薬には、乾姜が含まれています。しょうがを生薬として使用する際に、そのまま乾燥させた生姜(しょうきょう)として用いることと、加熱後に乾燥させた乾姜(かんきょう)として利用することがあります。生姜は体の表面を温めて発汗作用を示すので、摂取した後ポカポカするのですが、発汗によって体温を放出するので結果的には体を冷やすとされています。一方乾姜はお腹を温めて体全体も温めるようにしてくれます。つまり裏を温めてくれるわけですから、裏寒の人に適しているわけですね。もっと温めたいというときには、人参湯に附子(ぶし)を追加することもあります。この場合は、附子理中湯という名前も付きます。

 似たような症状で、下腿の浮腫や脱力感、めまい感などがあるときには真武湯(しんぶとう)を使ったほうが良い場合もあります。症状や体質の違いで、漢方薬はその都度使い分けていくことになります。

 なお、生薬の人参が入っている漢方処方は、医療用エキス剤でも35処方以上あり、それらはどちらかと言えば元気が足りないなぁ、というかたに使うような処方である場合が多いです。




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