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煙草


ねえ、煙草吸いに行こうよ

これは私がよく言う言葉No. 1だ


それくらい一人で行きなよ、なんて言いながら
一緒にベランダに出て煙草に火をつける

プランターの土に灰を捨てる彼に
かわいそうだからやめなよっていうと
これは土にとって栄養なんだよ、なんて笑った

嘘か本当か分からないけど

そうなんだって私も笑う


彼の吸う煙草は私のよりずっと長くて
それに合わせてゆっくり煙を吐く


首都高から聞こえる車の音
涼しくなった夏の夜、煙の匂い
心地よくて、このまま時間が止まればいいのに
なんてくさいことを考える


「これ買ったんだ」

なんて嬉しそうに流行りの電子タバコを見せてきた

まだ吸う時にむせる彼を見て一緒に笑った


多忙な彼はいつも家にいない
私は心の底から彼の夢を、仕事を応援している

「煙草吸いに行かない?」は
私にとって
「もっと一緒にいたい」だった

ああ、もう誘えないな

「それ貸してよ」

一口吸って、咳き込んでしまった


一人ベランダで煙草に火をつける
外はあまりにも静かで暗くてジメジメする、
不快だ


煙が目に染みて、少し泣いた







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