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父の腕時計

『お父さん、時計してくれてるね!』

私と兄で企画した両親の金婚式祝いの旅行に、父は私がプレゼントした腕時計をしてくれていました。
その時計は、私が社会人になった年、感謝の気持ちを込めて父にプレゼントしたものでした。父が欲しがっていたメーカーの腕時計で、プレゼントした時は喜んでくれましたが、その後はあまり付けているのを見たことがありませんでした。

『やっぱりもっとゴツいタイプの時計がよかったかな…。』

私がプレゼントした腕時計は、小ぶりなタイプのもので、筋肉質でしっかりした父の腕にはやや不釣り合いな感じでした。

『勝彦にもらって大事に使ってたんやけどな…この時計、ものすごく狂いよるんや。』

そう言って見せてくれた父の腕時計の長針は、20分近い未来を指していました。

『こんなに狂ってたら、時計の意味ないやんかー(笑)…これ、直してもらうから預かって帰ってもいいか?』

『…それじゃお願いしようかな。』

そのやりとりを聞いていた母が言いました。

『お父さんは、ホンマ物持ちええなぁー。この前も、ボロボロの(ズボンの)ベルトしてるから、新しいの買うたらいいやんて言ったんや。そしたら、"これはおまえに買うてもろたベルトやから大事に使ってるやんけー!" やって。…ホンマ、お父さんは物持ちいいわ…でも、それ聞いて、これからの私の人生はお父さんのために生きようと思ったわ。』

(よう言うわ!)といつもなら誰かが突っ込むところですが、この時はみんな静かに微笑んだだけでした。目には見えないけれど、家族4人の絆がしっかりとつながったような気がしました。
 〜2018年4月 Facebookより