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x話「ベッド」(12巻収録話) 字ネーム

※完成版とは一部内容が異なります。


<一緒にいると少しわかる 彼の思念が流れ込んでくるようだ>
<でもまさか そんなことを言われるとは思っていなかった>
「……したくなったら 外で してきていいからね」

line.x ベッド

<神埼昭仁 数年前から付き合っている恋人で 身体は男性だがXジェンダー 男性でも女性でもないという立場をとる性自認><そして非性愛者 恋愛はするが性的接触を望まない できるのはハグと 軽いキスまで>
<その昭仁と同棲するのは よくよく考えるとそれは試練でもあったが 俺は何より昭仁が俺を好きでいてくれることが嬉しくて 彼を失うのは怖かった 一緒にいられるなら何でもやれると思った><性行為を考えないようにすることも そこまで大きな苦痛ではなかった>
「……エカ 本当にベッドこれでいいの ソファだよ」
「ベッドソファだろう これ 背もたれが動かせる」「そりゃそうだけど」取説見ながら
<昭仁の家には ベッドが一つ><間取り上ベッドを置く場所がないので 俺はベッドソファで寝ることを望んだ><ただ――>
「……」昭仁が遠い目をしている。
<昭仁は多分 ベッドで俺と一緒に寝たいと思っている>
<俺は ベッドで何もせず一緒に眠れる自信は なかった>
<昭仁も俺がそう思っていることを多分感じている だから何も言わない おやすみを言い ハグとキスをして 昭仁は自分の寝室へ行く>
<それでもある日>「僕はさ 性欲自体はあるんだよ」
「……え?」「非性愛者にも色んなタイプの人がいるらしいんだけど」
こちらを見て「僕は性欲がある それが他人に向かないだけで ――自慰もする」
<不意を突かれた気がした>
エカ「……何を考えながら するんだ」<つい聞いた>
昭仁、切実な目が少し潤む「エカのことを 考えながらするよ」「当然だろ」
<心が揺らぎそうになった 離れた場所に座っていて よかった>
「おやすみ」「ああ」
その夜。ソファベッドで息を切らしているエカ。<凪のような気持ちを取り繕っていた 嫌われたくなかった><――見透かされた気分だった 俺が彼の思念を見透かすのと同じように>
<でも 翌日の彼は 俺の想像を大きく超えた>
「……したくなったら 外で してきていいからね」
エカ「……なぜ そんなことを言う?」
昭仁「――できないのは つらいと思うから」
エカ「できないこと自体はつらくない」
昭仁「僕はつらい」「なぜ君に応えられる性質に生まれなかったのか……」涙が流れる。
「……やってみる?」「……何をだ」「いっそ一度してみようか」「無理させたくない」「でもこのまま一生 君に我慢を」「お前はしたいのか?」「できない」
昭仁「できない……」
「ただ一緒に 同じベッドで眠りたいだけなんだ……」
<あまりに素直だったから 俺は拒むことができなかった><拒みたくなかった が正解か――>
ソファベッドに横になる二人、離れている。
「エカ」「もう少し 寄りたい」
エカ「……少し なら」
昭仁「ごめん」
エカ「……なぜ 自慰の話をした?」
昭仁「……わからない ただ 一人で寝ていると君を思ってできるのに 二人でいるとできないのが 我ながら納得いかなくて」
エカ「……」目が合う。
昭仁「……眠れる?」
エカ「さぁ」「明日は予定もないから 別に眠れなくてもいい」
昭仁「――やっぱり 近づいていい?」手を伸ばす。「すきだ」
エカ、反射的に昭仁を引き寄せて覆いかぶさる。
息が切れている。一拍置いて我に返り、ため息をついて昭仁の首元に顔を埋める。
昭仁、エカを抱きしめる。「心臓が」「走ってるね」
エカ「……脚 よけてくれ 当たってる」昭仁「それぐらいはいい」「君が平気なら だけど」「あたたかいよ」
エカ「――夜明けまでこのままでもいい」昭仁「ストイックだな」
エカ「だから 俺から 離れていくな」
「外でしてきていいなんて 言うな」「俺は お前じゃないと意味がない だから 誰ともしたくない」「怖い」
エカ「お前を失うのが怖い」
昭仁「……それさ 僕のセリフじゃない?」泣き笑いながら
エカ「――俺を 手放すようなことは言うな」「一緒に眠りたいなら 毎日でも付き合うから……」
昭仁「……これじゃ 毎日寝不足だな」
<それから 毎日とは言わないが 時々一緒に眠るようになった>
<慣れてきて 俺も昭仁も随分眠れるようになった><それでも昭仁はまだ時々 申し訳なさそうな顔をする>
<それを見るたびに不安になる>
<俺を 手放そうとするな 俺に自由を 与えようとするな>
<俺は夜明けまでこのままでいい>
<お前もそう思ってくれ><いっそ 夜が明けなくてもいいくらいに>


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