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ハンスの誕生について

 私の場合、キャラクターはすべて自然発生的に生まれる。デビルズラインでは例外が一人おり、それがハンスである。


 ハンスの初登場は1巻(1~6話)終盤、デビルズラインが1~4話までアマチュアのWEB漫画として進行していたあとだったので、当時の編集者Mさんの助言で、5、6話を描く前に考案した。
 助言内容を簡単に言うと、「安斎と肩を並べられるような存在感のある男性キャラクターが欲しい」だった気がする(細かい言い回しは覚えていない)。

 自然発生的でないキャラクターだったので、ビジュアルを決め、性格を決めた後も、しばらくハンスが何者なのか私もよくわからなかった。ただ、かっこいい登場シーンがいいだろうと思い、なんでもない顔をしてつかさを危機から守る見開きを描いたことを覚えているが、そのネームは全ページが没になった。内容はよく覚えていないが、私も没だと思った。確か、ハンスに人間/キャラクターとしてのリアリティや特別感が足りなかった気がする。ただかっこいいだけでは人間にならないし、キャラクターとしても簡単に爪痕は残せない。ハンスは何者なのだろう。何を考えているのだろう。

 そして「何を考えているかわからない」顔のハンスが、最終的に1巻に収まることになった。それはただかっこいい登場シーンより、かえって不気味で面白かった。

 しかし、そこからハンスの立ち位置をしばらく探ることになった。安斎とつかさの間に入り、三角関係にすることも考えた。しかしあまりピンと来なかった。何より「恋愛の三角関係を描く」のが私はあまり好きではなかった(既視感から逃れるのが難しいし、何よりドロドロするのは厄介だから)。そうして定まりきらないままハンスの回想回を描いたとき、ようやくハンスを理解できた気がした。ハンスに必要なのはつかさのような「好きな女の子」ではなく、「帰るべき家」だった。

 ハンスにとって、恋人になりうる立ち位置にフェンがいる。フェンからセックスを誘うような言い回しも出る。ハンスもそれは拒んでいない。ただ、それはあまり重要度の高い要素ではないように見えた。フェンとくっついても別に構わないが、ハンスが大事にするのはフェンだけでなく、自分を受け入れてくれる大勢の家族だ。その人たちを等しく愛していると思う。その中には安斎とつかさも含まれている。そうしてハンスの帰る場所が決まった。ハンスが何を望んでいるのかも知ることができた。

 当時の編集者Mさんに感謝している。彼が言ってくれなければハンスは生まれなかった。硬いテーマを抱える物語の中で、空気を和らげる役割を担うキャラクターとしても、とても重要な人物になった。「帰る場所」という、安斎とつかさにも通じるテーマを印象付けることもできなかった。作品の中心人物が、安斎・つかさ・ハンスと、三人になったのもよかった。それぞれが背負っているものを考えると、代表人物としてはとてもいいバランスだ。
 そして、私自身も「外部からの助言でキャラクターが発生する」感覚を知ることができた。これは私にとってとても珍しい経験となったし、これから先の作品を描いていく上でもきっといい影響を与えてくれる。

(2019.01.17)


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